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Vol.17 Premiership; Everton VS Arsenal, Goodison Park 15.08.2009

from NLW No.395 - October 13 2009  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 Introduction:はじめに 】
日本では終戦記念日に当たるこの日、イギリスでは3ヶ月の沈黙を破って、2009〜2010年のプレミアリーグの開幕です。
今シーズンもイギリスで行われる熱いフットボールの一戦一戦を、皆様にそのままお届けできるよう頑張ります。

【 Premier League 09-10 】
前シーズンは、マンチェスター・ユナイテッドが2位のリバプールに4ポイントの差をつけて逃げ切り、優勝杯をものにした。しかし今シーズンはその原動力となったキープレイヤー、ロナルドがプレミアリーグから姿を消してしまった。その他の上位チームも有名選手の入れ替えがあった。

今年もマンUが覇権を維持することが出来るのか、ロナルド抜きでどれ程の攻撃力を見せてくれるのか、今年もまた、ファーガソンの指揮官としての手腕、マジックが楽しみである。

その一方で注目されるのは、もう一つのマンチェスターのチームであるマンチェスター・シティー。アラブの大富豪をオーナーに迎え、プレミアリーグトップのファイナンシャルサポートが付いたわけだが、すぐに結果を残さない限り、2年目のマーク・ヒューズ監督の先行きは暗そうだ。
アストン・ビラよりイングランド代表MF Garth Barry、アーセナルからはエースのAdebayorと守りの要だったフランス代表Toureを獲得、ブラックバーンのFW Santa Cruz、更にマンチェスターUTDからはアルゼンチン代表FW Tevezが移籍となった。
昨シーズンとは全く違ったチームになってしまったことには異論もあるだろうが、それはそれで面白いと思うし、どんなフットボールをするのか楽しみでもある。

【 Today's View:今回の見所 】
さて、本題に戻って、今日の2チームを簡単に追ってみよう。
まず、アウェイのアーセナル。
先ほどマンシティーの件でも触れたが、2008年アフリカのベストプレイヤーに選ばれたAdebayorを25万ポンドで、守備で主将でもあったToureを14万ポンドで手放した。
いずれもアーセナルファンにとってはショッキングな出来事だった。攻撃の起点となるミッドフィールドの顔ぶれには変わりはないものの、アーセナルの華麗な攻撃サッカーに異変がないのだろうか。振り返ってみると、アーセナルは先シーズンを含めてこの4年間、何のタイトルも取れてない。今年もタフなシーズンになりそうだ。

一方のホーム、エバートンだが、昨シーズンは惜しくもFAカップの座はチェルシーに奪われてしまったものの、並みいるビックネームを押しのけ決勝までたどり着いたのは快挙だった。
リーグでも堂々5位の成績を残すなど、ファンにとって納得の行くシーズンだったに違いない。
しかし、これもまたマンチェスター・シティーがらみなのだが、ここ数シーズンの快進撃の立役者とも言えるディフェンスの中心選手Lescottが“マンシティーでプレイがしたい”と発言したことから、エバートンの内部が大きく揺れた。
もちろん、モイーズ監督は全否定、“今あるこのチームから一切、選手は出さない”と頑なに守りに入った。

エバートンの場合、金銭的にも恵まれた環境にいるとは言えず、スタープレーヤーやビックネームも存在しないクラブチームである。そのチームをいかにして一つにまとめあげ、チームとして完成させるか。スタープレーヤーを揃えた上位チームを叩くために、モイーズ監督はこの数年、情熱的とも言える闘志をグディソンのプレイに掛けてきたのだ。それを思うと彼の気持ちも判らないではない。
Lescottの去就は今日の開幕戦に影響があるのか、今シーズンのエバートンはどのようなフットボールを見せてくれるのか、じっくりと観戦したい。

【 Goodison Park:グディソンパーク 】
サンドヒルでサッカーバスに乗った時は最高のお天気だったのに、5分後にグディソンに着いたときには、空は見事にグレー色に変わっていた。
しかし、グディソンは何時もわたしを気持ちよく迎えてくれる。スタディアムの周りの装飾も少し変わり、新たな気持ちで今シーズンに望むエバートンの意気込みが伝わってくるようだった。
スタジアム中に入るなり、横殴りの雨がピッチに襲う。まだ選手達の姿は見られず、しばらく構内のキヨスク辺りをうろついていると、TVで昔のエバートンのビデオを放映していた。
それは2002年のアーセナルとの試合だったが、若き日のルーニーやアンリの姿が目に入り、月日の流れの速さに改めて驚かされた。

席に着くと両選手達がウォーミングアップを始めていた。
エーバトンサイドは問題のLescottも元気な姿をみせてくれていた。怪我から復帰したJoや人気のFellainiやSahaも見える。
アースナロの方にはやはり数週間前に怪我と発表されたWalcottや足の骨を折ったNasriの姿はなかった。

【 Kick Off:試合開始 】
今日のプレミアリーグの開幕戦では、全てのピッチで、キックオフの前に先日惜しくも癌でこの世を去ったSir Bobby Rosonを追悼した。
ついこの前までニューカッスルの監督として元気でインタビューに答えていた彼の笑顔が思い出される。


<前半>
午後5時半、ゲームはエバートンのキックで始まった。いつもとは異なる開始時間なのは、衛星放送の都合によるもの。このマッチのスポンサーESPNが生中継するためだ。

最初は互いにフリーキック、オフサイドを繰り返し、安定しないまま20分が経過する。
25分、エバートンMF Tim Cahillが両足を使ってアーセナルDF Gael Clichyへスライディングアタック。レフリーのホイッスルが鳴った。
アーセナルGK Manuel Almuniaがフリーキックを蹴り、ボールは連携し、美しいアーセナルのパスワークが披露される…と思った瞬間だった、アウトサイドボックスからいきなりMF Neves Denilsonがシュート。左コーナーのネットに突き刺さった。
0−1。グディソンにため息が漏れる。

先制されたエバートンは目が覚めたのか、点を取り返そうと前に出る。しかしミッドフィールドでボールが流れ、ジレンマが続く。
29分から30分も安定したアースナロの攻撃は続き、再びCahillがファウルを犯す。今度はDenilsonへの醜いチャレンジで、MF Francesc Fabregasがフリーキックを蹴った。
MF Robin Van Persieがボールを走らせるが、エバートンDF Joseph Yoboがブロック。ルーズボールをアーセナルMF Andrey Arshavinが上手く拾って、コーナーからネット目掛けてシュート。しかし蹴ったコースも甘く、エバートンGK Tim Howardにセーブされた。

35分、エバートンはDF Leighton BainesがFW Nicklas Bendtnerにタックル。
またも不必要なフリーキックをアーセナルに与えてしまう。
Van Persieが蹴ったボールはインサイドボックスまで流れ、DF Thomas Vermaelenの素晴らしいへダーが決まる。
0−2。アウェーサポーターが座るLower Bullensスタンドの一角が縦に大きく揺れた。

アーセナルがリズムに乗り、好調な動きでピッチを支配する。
ホームのエバートンとしてはこれを打破し、彼らのリズムを崩さない限り、得点にも結びつかない。いずれのゴールも相手への不用意なファウルからの失点だ。

どうしても前半終了までに1点を取り返したい、ホームのファンの誰もがそう願った40分過ぎ、またもやアーセナルのゴールが決まった。
なんとこれも、DF Joseph YoboによるVan Persieに対する強引なファウルが原因だった。Van PersieのフリーキックがFabregasへ渡ると、美しいクロスがゴール前へ。それをDF William Gallasが上手く頭で合わせて、3点目。0−3。

一瞬、グディソンは希望を失ったかのような大きなため息に包まれた。
ホーム・サポーターにとっては残酷なことに、アーセナルの一方的な攻撃と美しいゴールで前半が幕を閉じた。

<後半>
3点のビハインドは大きいが、先シーズンのエバートンであれば取り戻せないこともないだろう。
モイーズ監督はこのブレイクになんと選手達を励ましたのか。果たして気持ちを
上手く切り替えて後半に臨ことができるのだろうか。
不安と期待が交差するファンの息遣いの中で後半が始まった。

しかし後半開始直後から観衆の期待は見事に裏切られることになった。
アーセナルのゴールがまたしても決まった。47分、今日もアシストに徹し美しいロングパスを連発していたFabregasが、Van Persieからのクロスをボックス内で上手く併せると、ボールは右下コーナーに納まった。0−4。

57分、エバートンは選手交代に出た。
MF Leon Osmanを下げてFW Louis Sahaを投入。鋭い動きが殆ど見れなかったFW Joao Alves Joをに代えてDF Jack Rodwellを、DF Tony Hibbertに代えてDF Dan Goslingをピッチに送り込んだ。

61分には入ったばかりのRodwellがアウトサイドボックスからシュートを打つが、惜しくも右に逸れる。
63分、初めてボールに触れたSahaがドリブルでゴール前に斬り込むが、アーセナルのGallasにボールを奪われる。

そして試合開始69分、信じられない5点目がアーセナルに入った。
GK Almuniaからのフリーキックから、Fabregasが素晴らしいドリブルでエバートンのディフェンス陣を潜り抜け、見事なゴールを決めた。0−5。
ゴール後自陣に戻った彼は、先日若くして亡くなったスペイン代表のチームメイトJarqueの名前が入ったシャツを掲げて、このゴールを彼に捧げた。
さすがに5点もアウェイチームの得点が重なると、グディソンの客席は静かになるだけでは済まない。ファンたちは次々と席を立ち、およそ3分の1の群衆がグディソンを去ってしまった。
試合は終盤を迎えるが、ゴールへの執念はまだまだ続く。
5点目が入るとさすがにアーセナルベンチもFabregas、Van Persieを下げ、若手FW EduardoとMF Aaron Ramseyを投入。

そして88分、投入されたばかりのEduardoのゴールが決まる。
チームメイトArshavinのシュートがポストに当たって大きく跳ね返り、そのこぼれ球を拾ったEduardoのサイドフットがジャストミート。0−6。ダメ押しの6点目。

アーセナルの得点劇は何時まで続くのかと思った矢先だった。91分、待ちに待ったエバートンのゴールが、Sahaによってついに導かれた。1−6。
グディソンに歓声が沸き起こるが、アウェーサイドからもなんとお情けの拍手が送られていた。

【 Ending:試合終了 】
結果、エバートンはホームでの6失点、辛いスタートで幕を閉じた。
一方のアーセナルはAdebayor、Toureの存在を忘れさせるかのような素晴らしいチームワークで得点を重ね、輝かしいスタートを切った。

以下、両監督のインタビューで締めくくらせてもらいたい。

David Moyes監督(Everton)
「今日はいいところが全く出せなかった。選手全員揃っての練習期間も短かった。また一からやり直し」

Arsene Wenger監督(Arsenal)
「まだ初戦。1ゲームではなんとも言えないが、今日のゲームから我々のフットボールへの情熱やプレイの質の高さはわかってもらえたと思う」
「どのポジションからも得点でき、チームが一つになってゴールを勝ち取った素晴らしいゲームだったと思う。チャンピオンズリーグも控えているが、とにかく前向きに1戦1戦頑張りたい」

【 おまけ 】
余談ではあるが、この試合の9日後である8月24日、エバートンDF Joleon Lescottのマンチェスター・シティーへの移籍が決まった。移籍金は24万ポンド。
エバートンは彼の大きな穴をどうやって埋めていくのだろうか。

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 09-10
 Everton VS Arsenal
 Goodison Park
 15 August, 2009  17:30 Kick Off
 Attendance: 39,309
  エバートン アーセナル
スコア
(Saha90+2)
6(Denilson26,
Vermaelen37, Gallas41,
Fabregas48, 69, Eduardo88)
ターゲットショット
コーナーキック
ファール 12 14
オフサイド
イエローカード
レッドカード
ポゼッション 47.4% 52.6%

 Everton
  Howard, Hibbert (Gosling 58), Lescott, Yobo, Baines, Pienaar,
   Fellaini, Neville, Osman (Saha 58), Cahill, Jo (Rodwell 58).
  Subs Not Used: Nash, Vaughan, Baxter, Duffy.
  Goal: Saha 90.

 Arsenal
  Almunia, Sagna, Vermaelen, Gallas, Gibbs,
  Fabregas (Ramsey 72), Denilson, Abou Diaby, Arshavin,
  Bendtner (Eboue 63), Van Persie (Eduardo 72).
  Subs Not Used: Silvestre, Mannone, Prez, Gibbs.
  Goals: Denilson26, Vermaelen37, Gallas41, Fabregas48 69,
  Eduardo88.

from NLW No.395 - October 13 2009     

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