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Vol.32 Premiership; Wigan VS Liverpool, DW Stadium 02.03.2013

from NLW No.549 - April 09 2013  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 Introduction:はじめに 】
リバプールではあちらこちらでクロッカスの花がカラフルな顔を見せだして、セフトンパークにある数万本の水仙の蕾も膨らみ始めています。
未だ朝霜が降りる日もあり、気温的には2桁に到達出来ない毎日ですが、どこかに春を感じる今日この頃です。
本日は降格ポジションを行ったり来たりのウィガンアスレチック、DWスタジアムを訪れました。リバプールとの一戦お楽しみ下さい。

【 Wigan Athletic FC:ウィガン・アスレチックと本日の見所 】
Wigan Athleticのホーム、DWスタジアムを訪れるのは私にとってこれで2回目だが、『Footballの旅』でご紹介するのはこれが始めて!
リバプール市内より北東に電車で40〜50分ほどでWiganの中心部に至る。DWスタジアムはそこから徒歩10分というところだろうか。群集に続いていけばいとも簡単に到着する。イングランドのフットボールスタジアムの典型とも言える立地条件である。

賑やかな繁華街を離れると簡素な住宅がぽつりぽつりと見えてくる。そこを通り抜けて進むと工場と空き地が目立つ殺風景なエリアが広がり、その一角にDWスタジアムは堂々と聳えている。スタジアムの手前に小さな川があり、陸橋を渡るのだが、そこで私はいつもManchesterの画家、L. S. Lowryの描いた『Going to the Match』の絵を思い出す。フットボールファンが連なってスタジアムに向かう、昔も今も変わらないおなじみの風景である。とてもワクワクしてしまう。
Wigan Athleticは1932年設立で、他のクラブに比べると比較的新しいチームである。この地域はラグビーの盛んな地域でもあるので、その影響もあるのかもしれない。
クラブ誕生のきっかけは、3部リーグ所属のウィガン・ボロが経営破綻に陥ってしまったことで、それを受けて設立されたのがWigan Athleticだった。ウィガンは2005-2006シーズンにプレミアリーグに昇格するまでは、ほとんどを下位のリーグに所属、その中でも貧乏なクラブだったようだ。しかしラッキーなことに大型スポーツチェーンJJB SportsのオーナーDavid Whelanが1995年にWiganを
買収して資金を投入、1999年にはスタジアムを新装した。当初はJJBスタジアムとしていたが、現在はオーナーの頭文字をとって「DWスタジアム」となっている(ラグビーのWigan Warriorsと共同使用)。

ウィガンで育ったオーナー自身も元フットボール選手で、Blackburn Roversのディフェンダーとして活躍した。しかし1960年のWolverhampton WanderersとのFAカップ決勝戦で足を骨折するアクシデントに見舞われた(試合にも3−0で敗戦)。怪我によりトップリーグでのプレイに終止符を打つことになったウィーランだが、1年のブランクを経て下部リーグ(4部あるいは3部)のCrewe Alexandraでプレイを続け、4シーズンで115試合に出場している。

今日の試合に話を戻そう。
まずWiganは、MF Ben Watsonがトレーニングに復帰できたとのこと。チームにとってうれしいニュースだ。
彼は昨年11月のLiverpool戦(3−0で黒星)でFW Reheem Sterlingと交錯して足を骨折。手術を要したが、順調な回復とリハビリの甲斐あって、リーグ戦に戻るのも時間の問題だそうだ。
Wiganは現在17位。今日負ければ降格ゾーン18位のAston Villaと同ポイントになる。今年に入ってずっと白星がなかったが、先週の対Readingアウェイ戦では0−3で快勝。この勝利は彼らに自信と希望をもたらしたに違いない。

ヴィジターのLiverpoolにとっても、ヨーロッパへの望みを繋げるために取りこぼしは許されない一戦(リーグ5位でUEFA Europa League出場権獲得)。現在のポジションは7位。順位を一つでも上げて行きたいところだ。

【 Kick Off:試合開始 】
定刻にキックオフのホイッスルが鳴り響いた。
午後5時30分。ウルトラ超あいまいな時間帯である。こんな時間に始まるゲームなんてめったに無い。
これも経済事情によるもの。すべてがマネーで動いて行く今の世の中、お金を持った者が何もかもコントロール出来るということか。庶民のスポーツであるはずのサッカーもまったく例外ではない。悲しい事実である。…と説明は長いが、言いたかったのはスカイスポーツのサテライト放送の都合でこんな辺鄙な時間帯に始まりっ! ということ(笑)。


<前半>
開始30秒過ぎ、いきなりWiganが突破を試みた。FW Franco Di Santoがねばってボールをキープし、右サイドのMF Shaun Maloneyにパス。Maloneyはダイレクトでクロスをペナルティーボックスの外で待ち受けるFW Arouna Koneに送る。
しかしKoneのシュートは迫力不足。ゴール前に詰めたDi Santoも間に合わず、GK Jose Reinaにあっさりセーブされてしまった。

DWに大きな溜息が…と思う間もなく今度はLiverpoolの反撃。バックパスを受けたReinaが、ダイナミックなロングボールを1月に新加入のブラジリアンMF Phillippe Coutinhoにフィード。Coutinhoがディフェンダーを1人かわして中央へ送ったクロスボールは、ピンポイントでゴール正面のMF Stewart Downingの頭へ。フリーのDowningは難なく合わせて、見事にゴール。0−1。

Liverpoolが先制。まだ2分しか経っていない。
「こんなにいともアッサリと…」
まわりのWiganサポーターからそんな声が聞こえてきそうな、不安げなムードである。

そんな予感が当ったのか、17分にまたもやLiverpool。
中央でMF Steven Gerrardからパスを受けたCoutinhoが、最終ラインを抜け出したFW Luis Suarezに絶妙なスルーパス。GK Ali Al Habsiと1対1となったSuarezが冷静にゴール左隅に流し込み、鮮やかに追加点が決まった。0−2。

Wiganはこの2分後に反撃。フリーキックのチャンスから最後はDF Emmerson Boyceが鋭いシュート。しかしGK Reinaがワンハンドで見事なクリアを見せた。
スタジアムからはまたもや重苦しい溜息が漏れた。

Liverpoolのスムーズなボール回し、特にCoutinhoやSuarezのアップテンポで巧みなボールさばきに、Wiganのディフェンス陣は全くついて行けていない。それどころか、バックパスを奪われてMF James McArthurとBoyceが仲間割れの喧嘩。チームメイトに止められ、さらにレフリーからも注意を受けてしまう。

33分。フリーキックを得たLiverpoolに追加点のチャンス。準備をするのはもちろんSuarez君。勢いよく蹴ったボールは壁に当たって角度が変わり、GK Al Habsiの手をかすめてゴール右隅に吸い込まれた。0−3!
せめて1点でもハーフタイム前に返さなければとWiganも諦めない。パスを受けたMF Jean Beausejourが左サイドを猛スピードで駆け上がってペナルティーボックスに侵入。DF Glen Johnsonを振り切って中央で待つDi Santoにクロス。
高い打点の鋭いヘダーが見事に決まったかに見えた瞬間、今日絶好調のReinaがストップをかけた。またもやワンハンドでのクリア。Wiganはついてない。

Wiganにとっては、オフェンスでのツキがなく、噛み合わないディフェンスで3失点という散々な内容の前半だった。後半は1点でも返して意地を見せてもらいたい。

<後半>
しかし、後半に入ってもLiverpoolは攻撃の手を(足を?)緩めない。どころか、後半3分(48分)にはやばやと追加点を奪ってしまった。
右サイドセンター付近でGerrardからボールを受けたJohnsonが、ドリブルで4人を抜き去ってSuarezへスルーパス。Suarezはトップスピードでペナルティーボックスにボールを持ち込んでシュート。GK Al Habsiの股間を抜いた。0−4。
Suarezハットリック達成!

なんと、まだ後半が始まったばかりだというのに、すでに勝負がついてしまった。
SuarezのPremier Leagueでの得点数はこれで21になり、Man UのVan Persieの19を抜いて、トップに躍り出た(ちぇっ!)。

66分にWiganにも絶好のチャンス。左サイドでディフェンダーに囲まれたMaloneyが後方のDF Maynor Figueroaにボールを預けてゴール前へ。FigueroaのフィードはMF Paul Scharnerの頭を経由してピンポイントでMaloneyへ。
Maloneyのクリーンヘダーがゴール左上に突きささる…と思われたが、またしてもGK Reinaの右手に阻止されてしまった。
このころには客席のWiganファンもあきらめムード。席を立って早々と家路に着く姿もちらほら見られた。

Liverpoolはその後もテンポのよい攻撃を繰り返す。
87分、Suarezの粘りで得たコーナーキック。Downingが蹴ったキックをDF Daniel Aggerが頭で折り返し、70分にCoutinhoに代わって入ってきたMF Jordan Hendersonへ。至近距離からのHendersonのヘダーにGK Al Habsiは反応できず。しかしゴール右隅にポジションをとっていたMF James McCarthyがゴールライン上で見事にクリアした。危うくダメ押しの5点目…。すでに凍えきったWiganファンからは、安堵というよりはあきらめのため息が漏れた。

【 Ending:試合終了 】
結果、開始直後から主導権を握ったLiverpoolが最後まで優勢、圧倒したワンサイドゲームだった。Wiganは全く力及ばず。3−4−3のフォーメーションも考え直した方が良くないだろうか、と心配になった。ディフェンス陣はSuarezに何度も何度もラインを破られ、振り回されっぱなしだった。

勝ち点を42としたLiverpoolは7位をキープ。Wiganは降格ゾーン18位のAston Villaとポイントで並んだものの、得失点差でわずか2つ上回って17位にとどまった。

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 12-13
 Wigan VS Liverpool
 DW Stadium
 02 March, 2013  17:30 Kick Off
 Attendance: 20,804
  ウィガン リバプール
スコア
(Downing02,
Suarez18,34,49)
ターゲットショット 11
コーナーキック
ファール 11 15
オフサイド
イエローカード
(Caldwell35, McArthur59)

(Allen44, Lucas45)
レッドカード
ポゼッション 52% 48%

 Wigan
  Al Habsi, Caldwell(Espinoza51), Boyce, Figueroa, McCarthy,
  Maloney, McArthur, Beausejour(McManaman61), Scharner,
  Kone, Di Santo(Alcaraz52).
  Subs Not Used: Blazquez, Stam, Gomez, Henriquez.
  Booked: Caldwell35, McArthur59.

 Liverpool
  Reina, Johnson, Jose Enrique, Agger, Carragher, Gerrard,
  Coutinho(Henderson70), Downing, Lucas, Allen, Suarez.
  Subs Not Used: Gulacsi, Coates, Wisdom, Shelvey, Assaidi,
  Suso.
  Goals: Downing02, Suarez18,34,49.
  Booked: Allen44, Lucas45.

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