October 30 2007, No.318
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▽特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
       〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

  ― 第106号 / 「アートな秋到来
        〜 Turner Prize 2007 ・ A Foundation ・ MercyxTAO 」―
 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish106_photo.html ≫

こんにちは。
気がついたら10月ももう終わりです。夏時間が終わり、時計を1時間
戻しました。
今年は夏らしい夏がなかった割には秋は温暖で、街なかのハロウィー
ンとクリスマスの入り混じったデコレーションが奇妙な季節感です。

今週は、お休みをいただいていた先週分からキャッチアップしていきた
いと思います。

19日(金)から、Tate Liverpoolにて待望の "Turner Prize 2007" 展が
始まり、その前日のスニーク・ヴューを一足先に見に行ってきました。
1984年から毎年優れた現代美術作家に授与されるこのターナー賞で
すが、通常はロンドンのTate Britainで行われるところ、来年のリヴァ
プールEuropean Capital of Cultureを祝って、史上初、ロンドンを飛び
出してTate Liverpoolでの開催となりました。

今回始まったこの展覧会は、4名のターナー賞候補者Zarina Bhimji,  
Nathan Coley, Mike Nelson, Mark Wallingerによるグループ・ショーです。

敷居(←ちなみにこれも展示物リストに登録されている立派な作品で
す)をまたいでNathan Coleyのセクションに入ると、表にHope、裏に
Gloryと彫られたシンプルな木製の家のオブジェ "Hope & Glory" が。
その奥の壁には、黒スプレーで塗りつぶされた写真入りの額が3枚、
Annihilated Confessions #1, #2, #3がありました。スプレーの下に隠さ
れた 写真が気になったので、脇から覗いてみましたが何かは分かり
ませんでした。

突き当たりを左に曲がると、巨大な電光サイン "There Will Be No  
Miracles Here" 。これはColeyが今回ノミネートされるきっかけとなった
2006年の作品です。かつて17世紀のフランスの小さな村で、奇跡が起
こると噂がたち人々が詰めかけたことで、神や宗教へ権力が移行する
ことを恐れた王様がでこのような標識を立てて命令した、という話にイ
ンスパイアされた作品だそうです。現代社会においては何に警告を発
しているのでしょうか?

Mike Nelsonは2001年に続いて2度目のノミネーション。ここでは新作を
制作し発表していますが、作品のタイトルが非常に長い。
"The Misplacement (A Futurological Fable): Mirrored Cubes -  
Inverted - With The Reflection Of An Inner Psyche As Represented  
by a Metaphorical Landscape" 、またの名を "AMNESIAC SHRINE"
と呼ぶそうです。

まず小部屋の奥に、プラスティックを切り取った炎らしきものがくっつい
たこじんまりとした薪がぽつんとあります。ターナー賞にノミネートされ
た作家がコレ?! そして一体何? と思ったのは私だけではないと思い
ますが、気を取り直して次の部屋に移ると、4つの白い立方体が田ん
ぼの「田」状に設置され、それぞれの壁に荒っぽくブチ空けられた穴が
あけられています。中を覗くと、ミラーボックスになっていて、どの穴か
らも、夜の砂丘とも空港の滑走路ともいえるようなランドスケープが広
がっています。

4つのキューブの間をすり抜けて、穴から似たような光景を眺めたあと
に、隣の部屋に進んでいくと、なんとまたあの「薪」が! よくよく見ると
さっきのとは多少異なる別物です。
繰り返す風景、シンメトリーな配置は、シンプルなのに迷路のように巧
みで、すっかりそのトリックに はまってしまいます。これもすべてMike  
Nelsonの頭の中に棲むナゾの暴走族がフラッシュバックのように現れ
て、彼に授けたインスピレーションの産物なんだそうです。。。???

Zarina Bhimjiはウガンダ生まれ、今回のノミネーションでは紅一点の
アーティストです。人々の哀しみ、喜び、愛、裏切り中で紅一点のアー
ティストで、彼女も新作を発表しています。
作品は、フォトグラフィー5点とビデオ作品1点。インド、ザンジバル、東
アフリカを訪れ、多くの人々にインタビューし、その土地の過去、現在
などの膨大なリサーチをして知識を蓄え、同時に場所に対する人間関
係にも似た感情がピークに高まったところで、撮影に取り掛かったそう
です。

出来上がった画像は、今にも崩れそうな廃墟、壁の落書き、静まり
返った回廊、壁に立て掛けられた何本もの銃、映像はサイザル麻の
ロープ工場というように、一見無機質ですが、どこも人間の痕跡が残さ
れているとのこと。しかし私にはこの抽象化されたドキュメンタリーは
ちょっと難しすぎました。下調べをしてもう一度出直したいと思います。

ラストの候補者 Mark Wallingerは、2度目のノミネーション。1度目の95
年はDamien Hirstのホルマリン漬け衝撃作に惜しくも破れましたが、48
歳になっておそらく最後のチャンス?!(注:ターナー賞は、50歳以下の
作家を対象にしてます)
ノミネーションのきっかけになったのは、平和活動家Brian Haw氏の反
戦運動記録をもとにTate Britainにてアートで再現した "State Britain"  
という作品でしたが、この展覧会では、2004‐5年作 "Sleeper" をひっ
さげて登場。この作品は、2005年のヴェネチア・ビエンナーレで発表さ
れましたが、今回英国初の展示になります。

ベルリンのニュー・ナショナル・ギャラリーの路面に面したガラス張りの
スペースの中で、作家本人が熊の着ぐるみ姿で毎晩10日間に渡って
行ったパフォーマンス。踊るわけでも歌うわけでもなく、だだっぴろい部
屋のなかを、ひとり歩きまわったり、座り込んだり、寝そべったり、ガラ
ス窓にもたれかかったり、ちょっと走ってみたりという、だらだらとした
動きが2時間半に渡って続きます。

ガラスの外では通行人が熊の様子を眺めたり、写真を撮ったり。映像
のなかに映る通行人もそうですが、スクリーンを見ている観客も見もの
です。普通ビデオ作品のあるところには、必ずといっていいほど椅子
やベンチが 置かれているのですが、ここにはありません。次に何かが
起こるわけでもないのですが、長いことボーっと眺めているうちに、
立ってみたり、座ってみたり、伸びをしてみたり、壁によっかかってみた
り。

ちなみに、熊はベルリン市の紋章として描かれるほどのシンボルで、
いっぽう冷戦時代のベルリンには、一般市民を装ったスリーパー(スパ
イとしてスタンバイする工作員)が日常生活のなかに紛れ込んでいたそ
うです。英国人であるWallingerが、ベルリンの象徴である熊になりすま
してベルリンに潜入して歩き回るというのがアイディアとのことです。

ターナー賞というと、センセーショナルなイメージが先行していたから
か、期待していたよりも地味な印象を受けましたが、この週末にも再び
訪れてみると、するめイカのように味わいはじめてきた感じで、楽しめ
ました。

ギャラリー内のツアーをしているBobさん曰く、記録的な観客動員数で
多忙を極めていますが、スタッフはこの展覧会に対してとってもポジ
ティブに感じているそうです。お客さんの作品に対する反応は賛否に
分かれますが、それ以前に、普段ギャラリーに訪れることのない人々
が、リヴァプール内外から大勢やってきて現代美術に触れて、考えて
みるきっかけとなっていることを嬉しく思っているとのこと。

肝心のターナー賞ですが、新聞やまわりの人々の意見ではWallinger 
が有力と囁かれていますが、審査員の決断はいかに?
受賞者の発表と授与式は12月3日に行われます。

"Turner Prize 2007" 展は、1月13日まで。
ホームページ: http://www.tate.org.uk/liverpool/exhibitions/turnerprize2007/default.shtm

 <Tate Liverpool>
 住所:Albert Dock, Liverpool L3 4BB
 電話:0151 702 7400
 オープン:火〜日曜日 10:00〜17:50
      ※毎月最終木曜日のみ"Late at Tate"で、午後9時まで
       オープンしています。
 入場料:この展覧会は無料ですが、グランドフロアの受付でチケット
      をもらってから4階に上がってください。 

"Turner Prize 2007" に平行して、Tate Liverpoolでは<タクシー・プロ
ジェクト>を展開しています。
今年の6月からの10週間、週に一度マージーサイドのタクシーの運転
手さんを招いて、ターナー賞や来年のCapital of Cultureに向けて、
ターナー賞の歴史やインパクトについてや、所蔵品を見ながら現代美
術についてディベートを行うといったコースを開講。来年に向けて、タク
シーで移動するリヴァプールの市民や旅行者の人たちにも文化やアー
トについて考えてもらおうというのが狙い。
現在、ビデオカメラが搭載されたタクシーが2台、リヴァプールを走って
います。
この日ターナーと同時開催で、Greenland StreetのA Foundationでも
新しい展示がスタートしていたので、歩いていこうか迷っていたときに、
Tateのスタッフから「タクシー乗ってみない?」と声がかかったので、軽
い気持ちで乗ってしまったが最後、運転手のBrian Brethertonさんか
ら、ターナー賞やCapital of Cultureについてどう思うかなどバシバシ質
問を浴びせられ、即答に困りました!(ほとんど旦那にスポークスマン
になってもらいましたが。。。)
車内で撮影された乗客のコメントは、"Turner Prize 2007" の会場に
設置された黒キャブの中のテレビモニターにて映し出されます。
このタクシーは12月3日まで走り続けるそうですので、気をつけてくださ
いね。

♪ ♪ ♪

そうして、ケインズ醸造所近くにあるA Foundationのギャラリーに到着。
ここではターナー賞に対抗してか、よりフレッシュな若手作家4人によ
る展示が行われています。
まず目に入るのは、SIMPARCHによる "drum 'n' basin" 。巨大な木製
の円筒、その奥にはスイミングプールのような大きな凹みがあり、ス
ケートボーダーたちが順番に技を競っていました。一般の使用もOKだ
そうですので、スケーボー持参で行ってみては?

ギャラリー内にはいると、これまたバカでかいオブジェの数々。Brian  
Griffithsによる "The Only Living" というタイトルで、家並みの大きさの
家具、ふくろうの頭のような彫刻などが展示されていて見ているうちに
自分が小人になったような錯覚に陥ります。
別のスペースでは、今年のヴェネチア・ビエンナーレにも出ていたキプ
ロス出身のMustafa Hulusoによる桜や果実をモチーフにしたリアリス
ティックな大型絵画、そして上の階にはCatherine Sullivanのビデオ作
品 "Triangle of Need" が見られます。

このほか、中庭に、Lisa Cheungがサウスポート・フラワー・ショーのた
めに制作した "The Summer Palace" という木目とピンクのファンキー
な棚にオレンジ色のパンプキンが乗っかった、ジューシーな色のコント
ラストのインスタレーションも印象的です。

この展覧会は、12月1日までオープンし、一旦お休みをはさんで、2008 
年2月20日から再開し、4月20日まで続きます(Lisa Cheungのみ12月
1日で終了です)。

 <A Foundation>
 住所:67 Greenland Street, Liverpool L1 0BY
 電話:0151 706 0600
 オープン:水〜土曜日 12:00〜18:00(木曜のみ20時まで) 入場無料。
 ホームページ: http://www.afoundation.org.uk/greenlandstreet/programme.php

♪ ♪ ♪

土曜日はSlater StreetにあるMello Melloにて、一足早いハロウィーン
パーティーにちょろっと顔を出してきました。
ここは、The Art Organisationが運営するジャズ&カフェ・バー。普段は
時間が止まったようなモノクロームな空間なのですが、Mercyが主催の
このパーティーは、ハロウィーンというよりもマスカレードといった妖しい
雰囲気。
カウンターでは、来客者にケーキを振る舞っていて、Wave Machinesを
バックにMercyのポエットNathan Jonesが吼えるパフォーマンスの後、
Wave Machinesのミステリアスなひねくれポップなライブもとても盛り上
がりました!

Mercyホームページ: http://www.showmercy.co.uk
Wave Machinesマイスペース: http://www.myspace.com/mywavemachine
The Art Organisation: http://www.theartorganisation.co.uk/tao8%20liverpool.htm#mello

♪ ♪ ♪

【今週の告知】
その1;
Art in Liverpoolでは、アートな秋に合わせて、Art in Liverpoolマップを
作りました!
観光局、ギャラリー、ミュージアムなどに配布しています。ご希望の方
はスカウスハウスまでお問い合わせを。

その2;
10月31日は、毎年恒例となっている、Liverpool Lantern Company主
催のハロウィーン・ランタン・カーニバルが開催されます。
幻想的なパペットのような大型ランタンの数々がセフトン・パークを練り
歩きます。
午後6時半、公園内のボート池の南側からのスタートです。
Liverpool Lantern Companyホームページ: http://www.liverpoollanterncompany.co.uk

その3;
今年で第4回目となるゲイ・フェスティバル、"Homotopia" が11月1日
から19日まで行われます。
St George's HallのそばのSt John's Gardensでは、先行プロジェクトと
して、アーティストPaul Harfleetがマージーサイド警察の協力を得て
2000本のパンジーを植えるThe Pansy Projectが始まりました。
フェスティバル期間中は、舞台、トーク、ディベート、クラブイベントに加
え、ブライアン・エプスタインをテーマにしたウォーキング・ツアーなども
企画されています。詳しくはこちらから。
Homotopiaホームページ: http://www.homotopia.net/2007.html

それではまた来週。ハッピー・ハロウィーン!

ミナコ・ジャクソン♪

≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish106_photo.html ≫


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