March 18 2008, No.336
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▽特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
       〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜
 
 ― 第122号 / at the Bluecoat. & Liverpool Art Prize 2008授賞式 ―
 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish122_photo.html
 
こんにちは。
今年のイースターが通常よりも早く、通常3月17日にお祝いされるセン
ト・パトリック・デイの日付がイースターのホーリーウィークにぶつかるこ
とから、カトリック教会の決断でイングランドとウェールズではセント・パ
トリック・デーは無し、そしてアイルランドでは15日に変更になったとい
う話だったのですが…17日は夕方の早い時間から緑色のカツラや帽
子を被った人々がわんさか街に繰り出して、アイリッシュ・パブは長蛇
の列をなしていました。
どうやら飲んだくれ組にはカトリックもイースターも関係ないようです
ね。。。(笑)
 
♪ ♪ ♪
 
今週は、3年ぶりに再オープンしたThe Bluecoatの話題で持ちきりでし
た。
3月15日(土)午前10時、市民誰もが参加できる「人々によるオープニ
ング」でスタート。
建物にはぐるっと囲うように赤いリボンが飾られ、来客者にはハサミが
配布され、一斉にテープカットをして再オープンを祝いました。
私はリボンを切るか、この瞬間を写真に収めるかジレンマにかられま
したが、テープカットを選びました。
この週末だけで10,000人もの人々が訪れたとのことです。
 
1725年に建てられたThe Bluecoatは、リヴァプールのシティーセンター
で現存する最古の建築物で、第一級歴史的建造物として指定され、
世界遺産にも登録されています。
元々は貧しい子供達のための学校としてスタートし、20世紀に入って
から文化センターとしての使用されて以来現在に至ることから、イギリ
ス全国的にも最も古い文化施設としても知られています。
 
2004年の終わりから大掛かりな修復および増築工事のために閉鎖し
ていましたが、待った甲斐がありました。
Bluecoat Arts Centreという名称から『アーツセンター』を落として、
<The Bluecoat>という新しいブランディングでの再スタートです。
建物のあちこちに、'at the Bluecoat.' のコピーが見られますが、この
コピーの最後にピリオドを打っているのがこだわりのようで、英語でピ
リオドのことを 'full stop' と呼ぶことがありますが、来客者にアートやパ
フォーマンスを鑑賞するだけでなく、創造し、参加し、飲みにいき、食事
をし、ショッピングし、憩える場所としての最終目的地となってほしいと
いうメッセージがこめられているそうです。
増築された棟には、200人収容可能なパフォーマンススペースと、4つ
のギャラリースペースが造られ、<Now Then>という5名のアーティスト
がThe Bluecoatという場所に呼応した作品を展示しています。
 
Alec Finlay の 'Specimen Colony' は、切手に描かれた鳥の絵をもと
にデザインしたバードボックスがギャラリーの廊下や中庭に飾られてい
ます(ちなみに、Alecさんはイギリスで連歌を広める活動もしているそう
です! Renga Platform: http://www.renga-platform.co.uk/ ) 。
 
Janet Hodgsonは、The Bluecoatのスタッフやボランティアを俳優に起
用して、まだ工事中のBluecoatでショート・フィルム 'Re-run' を撮影。
過去の映画の名作からのネタがいくつか潜んでいるそうで、映画好き
の人には見ごたえあるかもしれません。
主役を演じるアーティスティック・ダイレクターのBryan Biggsが渋くてい
い味を出してます。
 
リヴァプール生まれの作家Paul Morrisonは、100フィートの長さにわた
る白黒の壁画 'Synsepalum' を制作。木版画のようなスタイルで大きな
ひまわりや中世の街並みの風景が描かれてます。
 
Hew Lockeは高い天井の部屋の壁に黒の紐とビーズを使って、文化、
歴史、世界貿易をテーマにした21世紀のリヴァプール市の紋章という
べき 'Sin Easter'を描きました。
水曜日の一般公開前のスニークヴューを見に行ったときには、まだ作
業が進行中でしたので、制作のプロセスが見られて興味深かったで
す。
 
Yoko Onoの作品はというと、1967年のThe Bluecoatで行われたパ
フォーマンスの写真が飾られた廊下を伝って歩くと、突き当たりの部屋
に、'Blobs'と呼ばれるヴェールが壁に掛けられていて、その脇には、
「ブロブを被って鏡の中へと入って行ってください」
と書かれたメッセージが。
 
私も「ブロブ」を被って鏡の中をくぐってみました。ヴェールは半透明で
人から自分の顔が見られないため、不思議と安心感と開放感が生ま
れたのか少しおどけて舞ってみたり、木製のプラットフォーム 'My
Magic Carpet' に腰掛けてみたりしてみました。
'My Magic Carpet' は、観客に横たわって空想にふけってもらうための
スペース。ともに観客が参加してはじめて完成するインスタレーション
です。
その周りには、1971年制作のビデオ作品 'Fly' が映されています。
 
場所を移して、古い棟の小さなパフォーマンススペースSandon Room
は、改築後も同様にパフォーマンス用に使われています。
オープニングの日にはLiverpool Improvisation Centreのメンバーがコ
ンテンポラリーダンスを披露し、スペースに再び息を吹き込みました。
この上の階では、以前は大きなパフォーマンス・ルームだった場所が、
見事に素敵なレストラン・バー<Upstairs at the Bluecoat>に大変身。
このほかにも、エデュケーションルームのMakin Roomやアーティストの
アトリエ、ショップやオフィスなどが入っています。
 
コートヤード(中庭)も健在です!
シティーセンターの喧騒を感じさせない静かな庭でコーヒーを飲むもよ
し、読書をするもよし、うたた寝をするのもよしです。
以前よりもキレイに整備されて、少し人工的な感じもしましたが、きっと
草花や雑草が育ち、虫や微生物がもっと棲んで生態系が落ち着いた
ら、よりオアシス的な雰囲気が戻ってくるのかなと思います。
庭の中央には、Yoko Onoの 'Wish Tree' があります。
人々が、短冊に思い思いの願いをしたためて、木の枝に結ぶというも
ので、これらの短冊は展覧会終了後、アイスランドの『イマジン・ピー
ス・タワー』に移され、これまでに世界中から集った 'Wish Tree' への
メッセージに加えられます。初日にしてすでに沢山の願い事が木に結
ばれていました。
 
The Bluecoatは毎日休みなくオープンします。<Now Then>展は、5月4
日まで続きます。
 
 <The Bluecoat>
  住所:School Lane, Liverpool L1 3BX
  電話:0151 709 5297
  ホームページ: http://www.thebluecoat.org.uk
  展覧会、カフェEspresso at the Bluecoat:10.00am〜6.00pm(毎日)
  レストランUpstairs at the Bluecoat:12.00pm〜10.30pm(月曜定休)
 
♪ ♪ ♪
 
先週お伝えしきれなかった《Liverpool Art Prize 2008》についての続報
です。
3月9日日曜日の午後、《39 Art Day》(サンキューアートの日)に合わ
せて、第一回《Liverpool Art Prize》の授賞式を行いました。
式の1時間前から6名の審査員が熱いディスカッションを繰り広げて、
勝者の行方を決定しました。
 
まずは来場者からの一般投票で選ばれた "People's Choice Prize"
(£500)はインド伝統的な緻密画+コンテンポラリーなタッチの双子の
画家The Singh Twins、そして審査員が選んだ "Overall Prize"
(£2000)は、サウンド/映像アーティストImogen Stidworthyに決定しま
した!
 
授賞式は、私の旦那のイアンが司会を務めました。
"People's Choice Prize" はスポンサーArthur Diamond Designの
Arthur Diamondさんから、そして "Overall Prize" は、メインスポン
サーの会計事務所Duncan Sheard Glassに所属する公認会計士Paul
Hylandさんから、受賞者にそれぞれ受け渡されました。
 

第一回《Liverpool Art Prize》受賞者の紹介を。
 
Imogen Stidworthy
コミュニケーションをテーマにしたオーディオ/映像アーティスト。
2004年にはロンドンのBeck's Futureにノミネートされ、近年ではドキュ
メンタ、テサロニキ・ビエンナーレ、上海ビエンナーレなどにも出展、世
界舞台でも活躍していています。
今回の展示では、早朝の北京の天檀公園で太極拳をする人々を映し
た5.1サラウンドスピーカーで聞くサウンド+ビデオ作品 '7AM' と、5.1サ
ラウンド対応のヘッドフォンで聞くスカウス訛り特有の表現をモチーフ
にしたサウンドピース 'Get Here' 。臨場感満点です。
 
The Singh Twins
インド系イギリス人AmritとRabindra Singhの双子の姉妹。
近年の作品では去年St George's Hallに展示された 'Liverpool 800
Coat of Arms' で話題になりました。
最新のところでは、再オープンしたてのThe Bluecoatにも作品が見ら
れます。インドの伝統的な緻密画の技法を駆使し、さまざまなシンボル
やユーモア、風刺を散りばめた作品を描いています。
 
惜しくも賞を逃した候補者も紹介しておきます。
それぞれの分野で長けた素晴らしいアーティストで、選考も接戦でし
た。できれば全員に賞をあげたいところです!
 
Emma Rogers
ブロンズ又はセラミックを用いて、動物の微妙な表情からダイナミック
な動きなどを捉えた彫刻を制作しています。
ロンドンVictoria & Albert Museum、Royal Academy of Art、Cork
Street Galleryをはじめ、ニューヨーク、シカゴなどでも展示、National
Museums Liverpoolには彼女の作品が常設コレクションとして所蔵され
ています。Craft Potters Association、そしてつい最近にはChelsea
Arts Clubのメンバーとなりました。
 
Mary Fitzpatrick
フォトドキュメント・アーティスト。北アイルランド紛争、中東戦争の後に
放置された現場を訪れ、今でも生々しい戦争の足跡をアブストラクトに
捉えた写真を撮り続けています。
作品はイギリス国内、アイルランド、その他の欧州、アメリカなどでも
作品が展示されました。
今回展示された作品は、クウェートは湾岸戦争の傷跡が残っている
ファイラカ島で撮影された写真のシリーズです。
 
Gareth Kemp
アーティスト自身が育った雪の深いウェールズの田舎での子供時代の
写真を頭の中でカット&ペーストして構図を決め、絵画の中で再現した
という作品 'Fifteen Feet of Pure White Snow'、'The Fight' のシリーズ
を発表。一見、癒されるような真っ白な雪の風景の中に、潜在的に待
ち構えている危険や災難を示唆した作品です。ここでは、大小17点の
絵画が展示されています。
 
Jayne Lawless
6組の中で一番若手のアンフィールドの星(?!)、サイト・スペシフィック
なインスタレーションアーティスト。
現在イプスイッチ在住で、昨年New Wolsey Theatreでのアーティスト・
イン・レジデンスでは人が通れる大きさのトンネルを制作し話題になり
ました。
今回は 'The Things That Holds You Back I & II'(コンクリート塊につな
がった赤い風船&檻に閉じ込められたスーツケース)を展示、何かを
成そうとするときに邪魔をし足を引っ張る要因への
フラストレーションを表現しています。
 
翌10日(月)の地元紙Daily Post ではこのニュースがトップページに
フィーチャーされ、同じ日にはBBC Radio Merseysideにてインタビュー
も放送されました。
また、オフの日だったにもかかわらず駆けつけてくれたEcho紙のカル
チャーレポーターCatherine Jonesさんは、オンライン版の彼女の
<Culture Chat>ブログに、嬉しい文章を書いてくれました。
 http://culturechat.merseyblogs.co.uk/2008/03/liverpool_art_prize.html
 
Liverpool 08サイトにも結果が掲載されました。
 http://www.liverpool08.com/News/ArtWinnersNamed.asp
 
展覧会のオープニングと授賞式が終わって、ようやく一息ついていると
ころですが、ふと、2007年にBill Drummondが「イヤー・オブ・カルチャー
のリヴァプールに物申す」と挑戦した 'NOTICE' のポスター(ゴールド
フィッシュ80号 http://scousehouse.net/goldfish/goldfish80_photo.htm
を参照)を思い出し、少し近づけたかもしれないとちょっと自画自賛して
しまいました。
 
この展覧会は、5月7日まで続きます。
 <Liverpool Art Prize 2008>
  会場:Novas CUC (Contemporary Urban Centre) 
  住所:41-51 Greenland Street, Liverpool L1 0BS
  電話:0151 706 6900
  オープン:火〜日 11.00〜18.00
        (月曜閉館。バンクホリデーはオープン)
    会場ホームページ: http://www.novasscarman.org/arts/novas-galleries-cuc-north-west/
  Liverpool Art Prizeホームページ: http://www.liverpoolartprize.com
 
♪ ♪ ♪
 
それでは、楽しいイースターを!
 
ミナコ・ジャクソン♪
 


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