March 09 2010, No.412
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▽特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
          〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

 ― 第174号 / The Old Dock Experience
                & In Conversation with... Janice Long ―

 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish174_photo.html ≫

こんにちは。
3月の前半はこれまでになく晴れの日が続き、後半は少しグズつきがちでしたが、
春も本格的になってきました。
3月28日にはブリティッシュ・サマータイムもスタート。時計の針も一時間早ま
り、ラッパ水仙が満開になるのを待ち遠しくしています。

今号では、5月にオープンする新しいアトラクションを先取りしてお知らせしま
す。

今やユネスコ世界遺産として登録されているリヴァプールですが、「海商都市と
しての繁栄はすべてはここから始まった」といっても過言ではない、歴史的に重
要な遺跡がなんと、ショッピングセンターのLiverpool ONEの地下隠されていました!

駐車場の入口を通って進んでいくと、その先には世界初の係船ドック、The Old
Dock遺跡があります。
1709年から1715年にかけてThomas Steersによって設計、建設されました。
これまでもLiverpool ONE内のデパートJohn Lewisの入口付近には、地下を覗き
込む穴があって、この遺跡の壁の煉瓦がかろうじて見えていましたが、いまひと
つ分かりにくいものがありました。

今回公開されたこの《The Old Dock Experience》は、21世紀の新しいショッピ
ングセンターの真下で300年前の本物の遺跡の中がそのまま博物館になるという、
ユニークなセッティングの新しいアトラクションです。

《The Old Dock Experience》は、9年間にわたる調査・研究の末に甦ったもの
です。
ドックが使われなくなり、埋め立てられてから200年。リヴァプールの街の中心
として開発を繰り返した結果、こうした歴史のかけらは跡形もなくなってしまっ
たのではないか、と考えられていました。
しかし2000年に調査が開始されると、想像以上のスケールで残っている事実が明
るみになり、このショッピングエリアの設計も、遺跡を保存する方向にプランを
変更されたそうです。

このドックの建設が開始された1709年当時でも、リヴァプールはすでに、西イン
ド諸島やアメリカ、アイルランドへの貿易港として成長の一途をたどっていまし
た。
高まる需要に応えるべく河口の入り江(Pool)に建設されたThe Old Dockは1715
年に完成。当時は最先端で世界初の係船ドック(wet dock)でした。

係船ドックとは、水門を閉じて水位を一定に保ったドックで、潮の満ち干きによ
る影響を受けず安定して船が停泊できるという利点があります。
The Old Dockが完成してから40年の間に貿易は倍増、リヴァプールの人口は3倍
にまで膨れ上がり、同時期には奴隷貿易も盛んとなります。
このドックは、リヴァプールの世界貿易におけるキープレイヤーとしてのステー
タスを確立した重要なカギとなった建造物なのです。
その後ドックは向こう150年にわたって拡大を続けます。

しかしThe Old Dockは、建設から111年後の1826年に幕を閉じます。
波止場が狭すぎて新しい大型船の対応が困難になってきたこと、また貿易港とし
て繁栄を極めていたリヴァプールに税関の建設計画があがった際に、そのロケー
ションとして最適と判断されます。
ドックは埋め立てられ、その上にはウォーターフロントの象徴的な存在となる立
派な税関が建てられたそうです。
ちなみにその税関の建物も第二次世界大戦の爆撃を受け、1948年には新しい都市
計画のために取り壊されました。

今回公開された遺跡では、ドックの構造をはっきりと見ることができるのですが、
中でも興味深いのは、ドックの底付近の砂岩でできた壁に見える、楕円形にくり
ぬかれた跡です。そこはその昔に存在したリヴァプール城に続くトンネルの入口
だったようです。
考古学者がここを発掘した際に思いがけなく発見したもので、トンネルは人が歩
けるほどの高さだったそうです!

公開されているこの場所は発掘された遺跡のほんの一部で、ドック跡だけでなく、
ドックの周辺に建っていた倉庫や道路、家の跡なども発見され、中
世のリヴァプールの人々の生活の様子を知る手がかりとなりそうです。

《The Old Dock Experience》は、マージーサイド・マリタイム・ミュージアム
を管理する、国立博物館リヴァプールが運営しています。
正式オープンは5月4日で、一般客の入場は毎週水曜日のみ、ガイドツアーに参
加して見学することができます。
ツアーはマリタイム・ミュージアムで待ち合わせをしてスタートし、Liverpool
ONEへと移動、所要時間は50分程度とのこと。
参加は無料ですが要予約です(電話:0151 478 4296)。

The Old Dock Experience:
 http://www.liverpoolmuseums.org.uk/maritime/visit/old_dock_tours.aspx

♪ ♪ ♪

3月25日(木)の晩は、リヴァプール大聖堂へ。
Club Geek Chic主催の対談イベント《In Conversation with...》シリーズの第
2弾で、今回のゲストはリヴァプール出身の女性ラジオDJ、Janice Long。聞き
手は、BBC Radio Merseysideの若手プレゼンターDavid Monksが担当しました。

Janice Longはリヴァプールはブートル生れ。地元紙Echoの求人欄を見てBBC
Radio Merseysideのジュニア・レポーターに応募し、入社。そこから波乱に満ち
たラジオ業界でのキャリアがスタートします。
1982年にはBBC Radio 1のラジオ・プレゼンターとして抜擢され、マンチェス
ター勤務の後、ロンドンへベースを移します。
彼女の番組で紹介されて恩恵を受けたリヴァプールのバンドは数多く、また彼女
自身も地元のバンドを世に伝えることを何より誇りに感じてきたといいます。

パブリックスクール出身の男性優位だった放送業界においては、「女性」「ワー
キングクラス」という二つの要素が障壁となることもあったそうですが、着々と
人気プレゼンターとしてのポジションを確立していきます。
テレビ出演も増え始め、人気番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』のプレゼン
ターなども務めました。

同じくマージーサイド出身の名物DJであるJohn Peelとともに日本へも取材に行っ
たそうですが、「イギリスの美人ラジオパーソナリティー来日」と期待されてい
たところに、ダンガリーシャツとドクターマーチン姿で現れて周囲が愕然とした、
という自爆コメントも。

1985年の『ライヴ・エイド』ではパーソナリティーの一人として活躍。バックス
テージで様々なミュージシャンにインタビューを行いました。YoutubeにStatus
Quoとのインタビューがありました。
http://www.youtube.com/watch?v=Ocd7eGM6tAc

87年に危機が訪れます。
未婚の母となったことでBBC Radio 1から解雇通告を受けたのです。
今や結婚という法的な決め事に束縛されずに家庭をもつカップルが多いイギリス
ですが、当時はまだまだお堅い体質だったBBCでは風当たりが強かったようです。

そんな逆境にも負けずにラジオでのキャリアを続けます。
その後BBC Greater London Radioを経て、1995年にはリヴァプールに戻り、イン
ディーラジオ局Crash FMを創設します。
設立当初は純粋に優れたインディーミュージックを紹介するラジオ局としてス
タートしましたが、数年後に他のマネージメントチームに裏切られ、運営から外
されてしまいます。現在はJuice FMというありきたりの商業的なラジオ局となっ
ていまいました。

1999年からはBBC Radio 2でDJを担当し、現在に至り、DJのほかにも栄誉ある
「マーキュリー・プライズ」の審査員も務めています。

元同僚で、現在『Xファクター』のセレブ審査員Simon Cowellなどのマネージメ
ントやクリスタル・パレスFCのチェアマンを務め、何億ものお金を動かしてヨッ
トを乗り回しているDavid 'Kid' Jensenからは、「成功を手にするために、友達
を捨てるくらいしなきゃいけないんだよ」とアドバイスされたこともあるそうで
すが、Janice Longにとっては大きなお世話で、彼女は自分の信じる道を彼女な
りに進んでいます。

彼女の音楽業界への貢献度は高く、ミュージシャンたちからも厚い信頼を得てい
ます。
かのMorrisseyからはバイオグラフィーを書いて欲しいと依頼されるほど。放送
業界での仕事は彼女にとって天職で、ホリデーに出掛けても数日で仕事に戻りた
くなるほどクセになると言っていました。

また、「ラジオの仕事の素晴らしいところは?」と訊かれて、
「レコードがただでもらえて、ただでライブに行けて、アイドルに会えること! 
そして、エキサイティングなニュースを人々に伝えること。サッチャー元首相の
辞任も誰よりも先に私がアナウンスしたのよ」
と言うと拍手喝采が沸きました。
(注:サッチャー政権当時、リヴァプールは英国でも最も社会的・経済的に打撃
を被った都市であったことから、市民のあいだではアンチ・サッチャーが多いの
です)

「次のエキサイティングなプロジェクトは?」という質問には、
「ある日家でジャガイモを?きながら、庭で息子がトランポリンで飛んでいるの
を眺めていると電話が入って、『フィラデルフィアまでRolling Stonesに同行し
ないか?』とお誘いがあって、その場でYESと返事したわ」とのこと。

対談の合間のライブパフォーマンスも一段と豪華になっていました。
イベントの合間のBGMもそうですけど、この大聖堂で賛美歌やクラッシックでは
なく、インディーの音楽がこんなにもプレイされているのを聞いたのは初めてか
もしれません。
ライブのラインアップは、ほぼ常連となっている暴れん坊シンガーIan McNabbと
若手ノルウェイ人女性シンガーRagzに加え、今回はなんとChina Crisiそしてバ
ンドAmsterdamのIan ProwseがJanice Longのフェイバリット・ソングを披露。最
後はAmsterdamの <Does This Train Stop on Merseyside?>で締めくくりました。

次回の《In Conversation with...》では、Mike McCartney氏が登場します。
こちらも楽しみです!

Janice Long: http://www.bbc.co.uk/radio2/presenters/janice-long/
Club Geek Chic: http://www.clubgeekchic.co.uk/

♪ ♪ ♪

【今週の告知】
ちょっと先になりますが、大型イベントが発表されています。
まずは、リヴァプール市の公式イベントとして、今年の10月9日から12月9日に
かけて『ジョン・レノン・トリビュート・シーズン』が市内各地で開催されます。
シーズン中は、コンサート、映画上映、詩のコンテスト、アートの展覧会、講演
などのイベントが企画されており、生きていれば70歳、また悲劇的な死から30回
忌を迎えるリヴァプールのヒーローの人生を、様々な角度から讃える構成となっ
ています。

ハイライト・イベントは以下の通りです。

- CAVERN CLUB - “Imagine” the tribute with Marcus Cahill(毎日開催)
- CAVERN CLUB -
   70th Birthday Celebration Gig including top tribute acts(10月9日)
- FILM FESTIVAL - Liverpool ONE Odeon Cinema (11月)
- LENNON POET 2010: Major International Poetry Competition (決勝:11月)
- "AN EVENING WITH":
   Weekly lecture programme with Lennon friends and family(日程未定)
- LENNON ART: Exhibitions at Liverpool John Moores University(日程未定)
- LENNON STREET ENTERTAINERS FESTIVAL: Liverpool ONE (10月)
- WALKING TOURS: View Lennon sites with VIP Guides (毎週開催)
- WHITE FEATHER: The Spirit of Lennon:
  Exhibition by Julian & Cynthia Lennon, Beatles Story(12月末まで延長)
- JOHN LENNON REMEMBERED: Memorial Concert at The Echo Arena(12月9日)
       (チケットは4月9日より発売開始 http://www.echoarena.com )

ちょっと前に、オジー&シャロン・オズボーン夫妻がリヴァプール市長からの招
待状を受け、出席を表明したというニュースがありました。
ほかにどんな大物ミュージシャンやタレントがリヴァプール入りするのかが注目
されます。

また、映画《Nowhere Boy》のリリース後、ツアーの予約が前年度比で90%アッ
プしたという、ナショナルトラストの<Mendips &Forthlin Road>ツアーは、11月
28日まで開催されます。

今後まだまだアップデートがあるかと思います。詳しくは<Beatles Story>ホー
ムページをご覧ください。
http://www.beatlesstory.com/media-room/-liverpool-to-host-major-john-lennon-tribute-season.html

♪ ♪ ♪

それでは楽しいイースターを!

ミナコ・ジャクソン♪

≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish174_photo.html ≫


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