October 12 2010, No.433
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
          〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

 ― 第183号 / Liverpool Biennial 'Touched' ―

 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish183_photo.html ≫
 
こんにちは。
10月に入りました。日照時間もグッと短くなり、落ち葉も見られる季節となりま
した。比較的過ごしやすい天候で、しかも8月や9月よりも温かく感じるのが不
思議です。

今号では9月の後半に行われたイベントをお知らせします。
まずは、9月18日に一般公開となった《リヴァプール・バイエニアル(Liverpool
Biennial)》。
この英国最大のコンテンポラリーアートの祭典は、今年で第6回を迎えます。

「触れる、感動する」といった複数の意味をもつ言葉<Touched>が今年のテーマ
です。
またもう一つのモチーフとしては、オオカミ。街じゅうに赤と黒のオオカミが出
没しているのが見られます。

前回・2008年のバイエニアルは、リヴァプールの欧州文化首都を祝う特別版で、
大掛かりなパブリックアートが数多く見られました。
しかし不幸にも、開始して間もなく世界同時不況に見舞われ、運営に少なからず
影を落とすことになりました。
今年は前回ほどの派手さはありませんが、より内面的な、心に残る作品が数多く
見られたような印象があります。

今年のバイエニアルは、メインの<International 10>と恒例の<John Moores
Painting Prize>、<New Contemporaries>に加え、新たに世界6都市が参加する
<City States>、廃墟を占拠したプロジェクト<S.Q.U.A.T.>、そして地元の若い
アーティスト集団やアトリエグループが一同に集まってプロジェクトを展開する
<The Cooperative>の6部門で構成されています。

このほか、フリンジ的存在の<Independents Liverpool Biennial>がリヴァプー
ルだけでなく、川向こうのバーケンヘッドやウィラル各地で、アーティストが自
主的に展覧会を企画し開催しています。

今号では、<International10>に焦点を絞ってお伝えします。

リヴァプール・バイエニアルの<International10>は、Tate Liverpool、
Bluecoat、A Foundation、FACT、Open Eye Galleryの会場でそれぞれのキュー
レーターが選りすぐりのアーティストの作品を発表しています。
加えて、メインのキューレーターLorenzo Fusiが、パブリックスペースや、ホー
ムセンターのRapidがかつて軒を連ねていて今は空き店舗となっているRenshaw
Streetの巨大なスペースをアートギャラリーに変身させました。

今年は、パフォーマンス性の強い作品が多く発表されています。
しかも、耐久性を要するものが不思議と多く、作家によっては会期中を通じてパ
フォーマンスが見られるものもあります。

【Tate Liverpool】
Tate Liverpoolではなんと、ニューヨークを拠点とするJamie Isensteinという
アーティスト自身の「手」がオブジェの一部となって壁に展示されています。
作り物の手かと見流してしまう人もいたようですが、よく見ていると、時々指が
ピキピキっと動き、見ているほうがドッキリさせられます。彼女のパフォーマン
スは会期中通じて行われています。

ベルギー出身のWannes Goetschalckxは、一つのアクションをひたすら繰り返し、
体力と精神力の限界にチャレンジするアーティスト。
過去のパフォーマンスのビデオ作品が映されている傍らで、木箱に囲まれてアー
ティスト本人が延々と箱を移動し続けるパフォーマンスが繰り広げられています。

【FACT】
FACTでは、台湾出身のTehching Hsieh(謝コ慶)が5年間にわたって敢行したプ
ロジェクトのひとつ、<One Year Performance 1980?1981>のドキュメンテーショ
ンが展示されています。
彼は24時間、1時間ごとにタイムカードを押し、タイムレコーダーの隣に立ち、
自分の顔を撮影することを1年間毎日続けました。
展示会場には、タイムレコーダーと顔を映したビデオを中央に、顔写真が壁じゅ
うを埋め尽くしています。1時間ごとにタイムカードを押すということは、1時
間以上眠ることもできませんし、出かけることもできない、ということですよね。
まさに究極の域といえます。

【A Foundation】
A Foundationでは、2人のパフォーマンスアーティストをフィーチャーしていま
す。
フィンランド出身のAntti Laitinenが新作<The Bark>を発表。
フィンランドの森からかき集めた松の樹皮を使って、リヴァプール滞在中にギャ
ラリーで船を作り、対岸のニューブライトンからリヴァプールのピアヘッドまで
のマージー川横断するという野心的なプロジェクトを行い、無事果たし、生還し
ました。
この様子を収録したビデオ作品はこちらです!
http://www.youtube.com/watch?v=Tf_nOz-6lGA

もう1人は日本人アーティスト、Sachiko Abe(阿部幸子)。
<Cut Papers>と題した作品で、会場に入ると、厳ついインダストリアルな巨大ス
ペースの中には、はっとするように真っ白なオブジェが床からすーっと円錐状に
上方に延びています。
ハサミの音に誘われて会場の奥へと歩いていくと、2階の屋根に座って白いドレ
ス姿で紙を切り続ける幸子さんの姿が見えます。

表情ひとつ変えず紙を続ける彼女は、パフォーマンスのために切るだけでなく、
日常的に毎日10時間切っています。瞑想的だと思われがちですが、無心になるの
ではなく、むしろ日ごろの出来事を回想しながら切っているうちに気持ちが整理
されていくのだそうです。
展示されているオブジェも、過去7年間切り溜めた紙でできています。驚くほど
繊細に切られた紙の一片一片には、目には見えないアーティストの日々の想いが
刻まれているのですね。

阿部幸子さんのパフォーマンスも、バイエニアル会期中行われています。
<Cut Papers>のほかにも、今回のロンドンおよびリヴァプールでのレジデンシー
の間に描かれた、緻密で美しいドローイングが展示されています。

【Bluecoat】
Bluecoatでのハイライトは、ブルガリア出身でニューヨークを拠点とするDaniel
Bozhkovの<Music Not Good for Pigeons>。
ギャラリースペースにリヴァプールFCの更衣室を再現し、ベンチの隅には入れ歯
付きのパンダのぬいぐるみが置かれ、小さなテレビモニターからはパンダの赤
ちゃんがクシャミする映像がループ状で繰り返されている中、ビデオ作品が大き
なスクリーンに映し出されるというシュールなセッティング。

ビデオの内容もランダムで、80年代に過酷なサッチャー政権と戦ったリヴァプー
ルの労働党内のミリタント・グループの元メンバーとのインタビューを交え、
アーティスト本人がボイストレーニングを受けてジョン・レノンの「イマジン」
をはじめとし、地元のバンドやラッパーとコラボで数曲を披露しています。

【パブリックスペース】
パブリックスペースでの展示としては、Renshaw Streetの空き店舗にバイエニア
ルのヴィジターセンターが置かれました。
地上2階&地下1階で、何軒分にもわたってぶち抜きで続く巨大な元DIYショッ
プのスペースには、合計23名のアーティストの作品が展示されています。

経済学者カール・マルクスに関する書籍がずらっと展示されたAlfredo Jaarの
<The Marx Lounge>。

Rosa Barbaによる<Free Post Mersey Tunnels>では、地下から延びるパイプで大
型のオブジェが作られ、そ
こからはリヴァプールの街の地下の音がパイプを伝って聞こえてきます。

NS Harshaの<Sky Gazers>では、床に描かれた数多の顔が天井に張られた鏡に映
し出されていて、天井を見上げると自分もまるで大勢の一人のように見えます。

他のパブリックスペースの会場としては、リヴァプール大聖堂のお隣のThe
Oratoryにて、Laura Belemによる<The Temple of a Thousand Bells>という隣に
ある1000個のガラス製のベルとサウンドアートのインスタレーションで心が洗わ
れます。

大聖堂にも作品が見られます。螺旋階段を上がったところにある隠れ部屋では、
Danica Dakicの<Grand Organ>というセント・ジョージズ・ホールのパイプオル
ガンにまつわるビデオ作品があります。

Duke Streetを下ると、チャイナタウンの門付近にも複数の作品が見られます。
Black-Eの入口には、Kris Martinによる<Mandi XV>という長さ7mの剣が天井か
ら吊るされています。

門をはさんですぐ隣の白い廃墟のビルScandinavian Hotel正面の外壁には、Will
Kwanによる<Flame Test>という燃える万国旗が。

そしてDuke Street側のEuropleasureには、ガラスが部分的に割られていて、目
を凝らして見てみると、“TOUCH AND GO”という文字が綴られているのが見えま
す。これはCristina Lucasの<Touch and Go>という作品で、建物の中では、地元
の50歳以上のおじさま、おばさま達が目を輝かせながら建物のガラスに石を投げ
込む姿を撮影したビデオ作品が見られます。

さらにDuke Streetを下っていくと左手には、建物と建物の間に斜めにねじ込ま
れたような東洋的な建物が出現しました。これは韓国人アーティスト、Do Ho
Suhの手掛けた<Bridging Home>という作品で、通行人を驚かせています。

ピアヘッドへ向う途中に建設中のMann Island Plazaという建物のアトリウムに
あるガラスの天井には、Hector Zamoraの<Synclastic-Anticlastic>という、200
個ものコンクリート製のオニイトマキエイをイメージしたオブジェが設置されて
います。

もう一つ、Lime Street沿いの今は使われなくなった映画館の外壁には、Emese
Benczurによるこの作品のタイトルでもある<Think About Your Future>という
メッセージがスローガンのように掲げられています。

<International10>のメインの展覧会のハイライトだけでもこれだけ見どころが
ある上に、他の6部門+インディペンツを合わせたら気が遠くなるほどの作品数
になります。

ここ数週間、バイエニアルの地図を手に街を散策している人が見られます。
市外もしくは海外からやってきた人々はもちろん、地元の人たちにとっても、
アートをきっかけに今まで特に気に留めなかった場所や普段立ち入ることのでき
ない場所に足を運んで新たな発見のできる絶好のチャンスです。
リヴァプールへお越しの際は、是非歩きやすい運動靴を履いてアートスポッティ
ングをしてみてください!

リヴァプール・バイエニアルはすべての会場で入場無料です。11月28日まで続き
ます。

Liverpool Biennial: http://www.biennial.com

バイエニアルおよびその他の展覧会情報はこちらから。
Artinliverpool: http://www.artinliverpool.com/

【今週の告知】
リヴァプールでは10月から12月にかけて、ジョン・レノンの生誕70周年を祝い、
40回忌を悼む《John Lennon Tribute Season》と題した一連のイベントが市内各
地で開催されます。音楽、アート、文学など様々な角度からジョン・レノンをト
リビュートします。

Lennon Tribute Season:
http://www.visitliverpool.com/site/whats-on/john-lennon-tribute-season

それではまた!

ミナコ・ジャクソン♪

 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish183_photo.html ≫


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