February 22 2011, No.449
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NLW ■
         *** http://scousehouse.net/ ***        


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
▽特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
――――――――――――――――――――――――――――――――― NLW □

「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
          〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

 ― 第191号 / リヴァプール・ディスカヴァーズ ―

 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish191_photo.html ≫

こんにちは。
ここしばらくはどんよりとしたはっきりとしない気候が続いています。まるでリ
ヴァプールの現状を象徴しているようです。

英国政府から各自治体に割り当てられる予算の全容が明らかになり、リヴァプー
ルでは深刻な歳出削減を迫られています。

南部の都市ドーセットでは予算が3%増となるのに対し、リヴァプールでは22%
カット(今年だけで9100万ポンド、翌年にはさらに5000万ポンドの削減)とい
う不公平なプランを不服とし、2月20日(日)には市長が自らが呼びかけ、政府
に対して公正な取り決めを求めるデモが行われました。
保守党以外の各政党を代表する市議会議員をはじめ、5000人もの市民がリヴァ
プール大聖堂からセント・ジョージズ・ホールまでの距離を行進しました。

公共サービスとひとえにいっても市役所のみならず、医療、福祉、保険衛生、警
察、消防、教育、介護、文化など生活に関わるさまざまな分野に波紋が及びます。
そのほか、宗教団体、そしてボランティア団体やコミュニティ団体にいたっては
予算がほぼ半減となるとも言われています。

メインの横断幕には「ワン・シティー、ワン・ヴォイス」と掲げられていました
が、個々のプラカードからは、職を失う人、公共サービスが受けられなくなるこ
とで路頭に迷う人から、将来の教育について不安を抱く中高生まで、本当に数多
くの異なる声が発せられていました。

中央政府に対して牙を剥いた大規模な交通ストから100年経つ今年のシティー・
オブ・ラディカルズの年と重なり、リヴァプールが一つになって再び立ち上がら
ざるを得ない状況にあるのが非常に皮肉です。

デモ後の対応が何より重要になるとは思いますが、削減のメスが最小限に抑えら
れることを心から願っています。

♪ ♪ ♪ 

さて、気を取り直して、2月14日からスタートした新しいパブリックアート・
トレイル《リヴァプール・ディスカヴァーズ》についてお伝えします。

その名の通り、大型のオブジェや肖像画などからリヴァプールの隠れた歴史や人
物に関する事実が発見できる、面白くてためになるプロジェクトです。これは、
《ゴー・スーパーラムバナナ》や《ゴー・ペンギン》を展開した<ワイルド・イ
ン・アート>によるプロデュースです。

交通、社会正義とラディカリズム、オープンスペースと建築、科学技術、通商貿
易、音楽、スポーツ、海洋、芸術とエンターテインメント、健康のテーマとした
インタラクティブなオブジェと、街灯に飾られた22名のリヴァプール・グレイ
ツ(偉人)がフィーチャーされています。また郊外では川向こうのウィラルとバ
イキングの歴史、そしてセントへレンズとハリウッド映画とのつながりを探索す
るテーマになっています。

まずは交通から。
リヴァプールのライムストリート駅に降り立ち、コンコースには、『スティーブ
ンソンのディティネイター』があります。1830年に開業し、リヴァプールのエッ
ジヒル駅からマンチェスター間を走ったジョージ・スティーブンソン発明の蒸気
機関車ロケット号が世界で最初に実用化された旅客鉄道でした。
それまで馬車などで移動していたヴィクトリア時代の人々にとって、蒸気を噴き
ながら突進する大きな金属の塊に乗って移動するという概念自体、恐ろしく、理
解し難いものだったことでしょう。そんな人々の気持ちを和らげるために、ス
ティーブンソンは機関車だけでなく、このデスティネイターも発明したのです。

実際に特許登録もされたこの機械を、現代のアーティストであるアラゴーン・
ホーナーが再現しました。目的地を近距離、長距離、その中間から選択し、今の
気分をセレクトしてボタンを押すと、その人にぴったりな目的地を告げてくれる
という機械です。

駅から道を渡ってセント・ジョージズ・ホールの広場には、革命的な女性として
知られる活動家メアリー・バンバーを象ったモザイク像があります。
これは、キャリー・ライカード&ニック・レイノルドによる作品です。20世紀初
期に代正義と公正のためなら歯に衣着せずに演説を行った、強い女性を讃えたオ
ブジェです。

セント・ニコラス教会、リヴァプール大聖堂のふもとのセント・ジェームス・
ガーデン、爆弾で空洞となったセント・ルークス教会、ブルーコート、ジョン・
ムーア大学アート&デザインアカデミーそれぞれの庭に置かれたスピーカー『ミ
ソフォーンズ』は、デイヴ・ヤングとダン・フォックスによる作品で、ボタンを
押すとスピーカーからそれぞれの庭が秘める秘密が明かされます。

ピアヘッドへ移動すると、運河とマージー川の間に置かれたアンディー・プラン
トによる作品『へヴン&アース』があります。これは、1617年にリヴァプールの
トクステス地区で生まれの天文物理学者ジェレマイア・ホロックスに捧げられた
ものです。まだ地球は平らだと信じられていた1639年、弱冠22歳にして世界で
初めて金星の通過を記録するという偉業を成し遂げました。備え付けの天体望遠
鏡からは、短いアニメーションも鑑賞できます。

ピアヘッドから市の中心街へ戻る途中のマン・アイランドには、『シュガー&
チェイン』と題したアンディ・ヘゼルによる作品が置かれています。
砂糖と鎖は、奴隷貿易というリヴァプールの苦い歴史を象徴しています。

ピアヘッドからショッピングエリアのLiverpool ONEに向って歩く途中のヒルト
ンホテル前に建ち並ぶ街灯が、世界で最大のジュークボックスに変身しました。
これは、アンディー・マキーオウンによる『エコー&ウィスパーズ』という名の
作品です。世界で最も多くのナンバーワン・ソングを生み出した都市としてギネ
スブックの記録にもなっているリヴァプールを讃えるこのインスタレーションで
は、複数の街灯から音楽やストーリー、歴史的な豆知識が流れています。
タイトルの通り、ささやき声程度のボリュームなので、街灯に耳を近づけないと
聞こえません。なかなか一本一本の街灯を渡り歩くこともないと思いますが、非
常に面白いアイディアです。

Liverpool ONEからさらにワッピングという大通り沿いをひたすら歩いていくと、
キング・パークという駐車場があります。ここには、フェイス・べビントン作の
『ザ・ランナー』と名づけられた彫刻が高架に設置されています。
フットボールや競馬のグランド・ナショナルで知られるリヴァプールですが、こ
の作品は、近代オリンピックがアテネで誕生する前の1862年から1867年にかけ
て、リヴァプールにて毎年開催されていた《グランド・オリンピック・フェス
ティヴァル》についてのトリビュートです。

道を渡ってマージー川沿いをさらに南方向に歩いていくと、コーバーグ・ワーフ
という、観光地から少し離れた静かな川沿いの静かなスポットには、デヴィッ
ド・ケンプによる『フィッシュ&シップス』という彫刻が川を望むように置かれ
ています。
小さな漁港から始まり、世界の海と繋がり交易の拠点となった歴史的なリヴァ
プールや周辺に棲む多様な海洋生物を象徴しています。観光地から少し離れてい
るため静かな場所なので、潮風を受けて上部のプロペラや魚、ざるでできた風見
がカタカタと動く音でなごめます。

内陸に戻り、パーラメント・ストリートを登ってリヴァプール大聖堂の入口前で
は、カラフルな半球が埋め込まれた四角いオブジェが目を引きます。
これはマシュー・サンサムによる『サウンディング・アウト・リヴァプール』と
いうサウンドミラーです。周囲の音がこの円に集められて聞こえます。
地面には、リヴァプール産の映画、本、エンターテイナーから引用句が書かれて
います。

市の中心街まで降りていくと、ボールド・ストリートの終わりに『Xレイ・テッ
ド・ゴルフ・バグ』という、ジョー・ラッシュによるオブジェがあります。
薬学の分野でも活躍の場となっているリヴァプールですが、2つの偉業にちなん
で造られました。
ひとつは、特性X線の発見に成功し、ノーベル賞を受賞したチャールズバークラ
が1896年に英国で初めて外科的目的でレントゲン撮影が行われた場所がリヴァ
プールであったこと。最初に写されたものは、少年の手首に埋まった弾丸だった
とのことです。
もう一つの功績は、1902年にもう一人のノーベル賞受賞者で、リヴァプール大学
の熱帯医学学校に所属していた医学者ロナルド・ロスにより、マラリアが蚊を媒
体として人間に感染することを発見したこと。すべてリサイクル素材で作られた
このオブジェは、半透明な手の上に蚊がとまっている形をしており、日夜点滅し
ていて、夜になるとより輝いて見えます。

街灯を飾る22名の肖像画は、以下の通りの両側に見られます。

【ウィリアム・ブラウン・ストリート(ウォーカー美術館からワールドミュージ
アムまでの通り)】
ジーン・アレキサンダー/女優、ベシー・ブラドック/社会改革に尽くした国会
議員、キティ・ウィルキンソン/公衆衛生改革者、エレナ・ラスボーン/人権お
よび子供福祉の改善に貢献した国会議員、ジョージ・スタブズ/馬を画題にした
有名画家、フランク・ホーンビー/組み立て玩具メッカーノの発明者、ジョン・
アーチャー/1913年英国初の黒人市長、アーサー・ドゥーリー/元造船の溶接職
人の彫刻家、ウィリアム・ロスコー/国会議員・植物学者、詩人・奴隷制廃止運
動家、セス・デイヴィ&ダンシングドール/西インド諸島出身の船乗りから転じ
た大道芸人

【ホワイト・チャペル(観光案内所<08プレイス>のある道)】
ジョン・レノン/ミュージシャン、ケン・ドッド/コメディアン、ビル・シャン
クリー/フットボール監督、ディキシー・ディーン/フットボーラー、リジー・
クリスチャン/野菜商人、ジョン・コンテイ/ライト・ヘビーウェイト・ボクシ
ング世界王者、トム・ベイカー/俳優、べス・トゥウェドル/現役世界大会3連
覇体操選手

【パラダイス・ストリート(ホワイトチャペルからLiverpool ONEにつながる
道)】
メルC/元スパイスガールズ、シラ・ブラック/歌手、ウィリー・ラッセル/劇
作家、ジョージ・メリー/ジャズ&ブルースミュージシャン

リヴァプール・ディスカヴァーズは3月20日まで。詳細や保存版マップは、こ
ちらのホームページから。
http://www.liverpooldiscovers.co.uk/

またリヴァプール・ディスヴァーズのホームページにはこのほかにも、リヴァ
プールに関する豆知識がいっぱいです。史上最初の出来事や物についてのリスト
も見られます。フットボールのネットを発明した人もリヴァプールだったんです
よ。
http://www.liverpooldiscovers.co.uk/2011/02/liverpool-firsts/

♪ ♪ ♪

【今週の告知】
2月28日の晩は、(非公式)インターナショナル・スカウス・ナイト。リヴァ
プールにいる人も、そうでない人も、スカウスになろう、スカウスを食べよう、
という日で、じわじわと広がっています。皆さんも是非!

それではまた。

ミナコ・ジャクソン♪

 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish191_photo.html ≫


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
無断での転載を禁じます。  Copyright(C) 2001-2011 Scouse House