November 28 2006, No.275
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     リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
          〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

  ― 第71号 / 「さよならバイエニアル2006」(パート1) ―

こんにちは!
10週間にわたって行われた「リヴァプール・バイエニアル」が26日に幕
を閉じました。
今回は総じて、バイエニアル本体の展覧会が割と地味だったのと、6
週間ほどたったところでちょっと中抜けしたところはありましたが、後半
戦は「インディペンデンツ」(ローカルのアーティストが中心となったバイ
エニアルの周辺イベント)が巻き返してくれました。

まさに今年は、「インディペンデンツ」あっての「リヴァプール・バイエニ
アル」だったと思います。
外国人アーティストがリヴァプールという場所をテーマに創った作品も
確かにいろんな解釈の仕方があって興味深いのですが、自由な発想
で好き放題に草の根から生えてきたインディペンデンツのパワーが
光っていた気がします。

中でも、'The Arts Organisation(TAO)' の活躍は目を見張るものがあ
りました。ゴールドフィッシュだより62号でもお伝えしましたが、その後
も精力的でした。
めまぐるしいスケジュール繰りで多種多様なスタイルの作家をフィー
チャーしていたのですが、それぞれのショーにきらっと光るものがあり、
これは、キューレーター Gregory Scott-Gurner の発想のセンスと、や
るならとことん追求する実現力によるものです。

The International Gallery で Steve Gent というイギリス人アーティスト
が2度ショーを開きました。一回目の10月の "The Space in Between"
展は、ムロヤ・アヤネさんと書家である彼女のご両親とのコラボレー
ションでした。
ジャパニーズ・エキシビジョンと聞いて、正直あんまり期待しないで行っ
たのですが、驚きでした!
Steve は2005年に日本にいるアヤネさんのご両親のもとで書道の修
行をしたのですが、5ヶ月間という短期間の中で彼は、日本の書のテ
クニックだけでなく、言葉、文化、ココロにまでどっぷり浸かってきたよ
うです。習得したというよりもむしろ、あたかも前世が日本人で、日本
滞在を通して別の自分を再発見しちゃったんじゃないかと思うほどの
ナチュラルさ。
それとキューレーターの Gregory の粋な演出で、寿司バーをオープ
ン。カウンターはすべて廃材を使い、わずか1日で組み立てたそうで
す。お寿司の盛り付けもお味も美しく、さすがアーティスト、素晴らし
かったです!

2度目の展覧会は "Static" 。
25日まで行われていたこの展覧会では、ゆるーい電流の流れている
ビニールまたはパースペクスに、ビチューム(石油やタールからできた
乳剤)をたらすというもの。静電気でビチュームが四方八方にビュン
ビュン飛び散り、アーティスト本人も予測のつかない形の柄ができあが
る、という仕掛けの作品。筆と墨と紙とはまた違った手法ですが、出来
上がった作品は、ミニマルで、どこか和の要素が見え隠れしていまし
た。

あと印象的だったのは、新卒のアーティストをフィーチャーした The
RE-Evolutionary Gallery にあった、Kirsty Gosling による羊のインスタ
レーション。
フカフカなウールに見えますが、実はそうではないんです。素材は、
ビールのマルチパックをつなぐ乳白色の柔らかいプラスティックの輪
(名称不明)で、とにかくこれを1年かけて1500本集めたそうです。
そして顔は車のサイドミラー、足は古いベッドの足で、すべて廃材から
作ったものです。
使い捨て社会、環境問題へのアンチテーゼともいえます。

リサイクル素材を使った展覧会は、TAO のオーガナイズするもうひと
つのギャラリー The Community Gallery で行われた "Art and Design
is Rubbish" 。
「アートとデザインはクズだ」と謳ったこのショーの出展物では、ごみが
デザイン性&実用性のあるものに生まれ変わっています。
ショッピングカートやスキップ(廃棄物入れのコンテナ)が椅子に変身!
特にスキップの椅子は、見た目もミッドセンチュリーモダンぽくって、実
際座るとこれがとっても心地いいんです。その椅子の隣には、先ほど
登場した Steve Gent の作品、これは冷蔵庫の扉にステンシルを施し
たもの。

オーガナイザーの Beccy Williams の出展作品は、コーヒー豆を入れる
袋を素材にしたバッグやお財布、そして会場のあちこちに見られるラ
ンプシェード。
"Packolocker" ( Beccy の考えた造語で、リヴァプール訛りで発音す
ると「パッハロッハ」。なんだかスカウスらしい音の響き!)なるこの手
法は、ポテトチップスのパッケージ、産業用の糸くずとカセットテープを
重ねてプレスしたもの。Beccy はこの夏じゅうポテトチップスの袋や
チョコレートのビニール包装の回収箱を用意して提供を呼びかけてい
ました。土曜日には、ワークショップを開いて作り方を披露しました。

シュレッダーにかけたポテチの袋に糸くずとカセットテープをはさんで、
上からベーキングペーパーで当て紙をして、ヘアアイロンでプレスする
と、ポテチの袋のビニール部分が微妙に溶けて、冷めるとシート状に
固まります。
シュレッダーにかけた後にポテチの袋を色分けしておくと、好きな色だ
けセレクトして作るのにも便利。ちなみに今回のワークショップでは、ピ
ンクのプローンカクテル味のポテチの袋と紫のカドバリーのチョコレー
トのビニール包装を中心に使ったそうです。
フレキシブルな素材なので、小物入れをつくるもよし、アクセサリーを
作るもよし。しかもヘアアイロンがなくても普通のアイロンでできるので、
家庭でも手軽に作れます。

その他、リサイクルガラス、ダンボールで作ったベンチ、パルプ製のラ
ンプスタンド、CDケースの小物入れなど、広いスペースにディスプレイ
されていました。

環境にやさしいグッズという名目で新商品が続々と発売されているの
を近年よく目にします。
それも結構なことですが、むしろ物で溢れたこの世の中、新しいものを
製造することなく、今あるものを上手にセンスよく快適に使える方法を
考えることの大事さを実感させられます。

この "Art and Design is Rubbish" 展は、TAO のフィロソフィーを再確
認させるものだったような気がします。彼らは、何年も放置されていた
廃墟を、リサイクル素材で内装してギャラリースペースを作ったことか
ら始まり、その中にリヴァプールの地元のアーティスト、コミュニティ、イ
ギリス国内アーティスト、海外のアーティストを巻きこんで、異なる展覧
会、アートマーケット、イベントなどアイディアとウィットたっぷりのコンテ
ンツを展開させました。

当初バイエニアルの期間限定で建物の使用許可を得ていたそうです
が、大家さんも今回の TAO のプロジェクトに感服し、なんとバイエニア
ル後も最低6ヶ月間は継続して使用できることになったそうです。パチ
パチ。今後の活動に期待しましょう!

 The Arts Organisation (TAO) ホームページ:
                    http://www.theartorganisation.co.uk 

来週は、『さよならバイエニアル2006』のパート2をお届けします。


【今週の告知】
去年お伝えした「サンタ・ダッシュ」が帰ってきます!
昨年は4505人のサンタの格好をしたランナーが5kmマラソンに参加し、
「一箇所に最も多くのサンタが集まった」世界記録を打ちたてたようで
す。
今年のスケジュールは以下のとおりです。
 日時:12月3日(日) 午前9:30スタート
 場所:Castle Street(タウンホール前)からスタート。ゴールも同じ。
 詳細はこちらから。
  http://www.runliverpool.org.uk/Running_news/Santa_Dash_2006/index.asp


それではまた来週!

ミナコ・ジャクソン♪


(この連載に関連する写真は、ウェブサイトの「 NLW ゴールドフィッシュ
だより」ページに掲載しています。
http://scousehouse.net/goldfish/goldfish71_photo.htm )


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