January 30 2007, No.283
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     リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
          〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

  ― 第76号 / 「作品から歴史が見える?! リヴァプール」 ―
 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish76_photo.htm

こんにちは。
1月も終わりに近づいてきました。1月という月は不思議な月で、ひた
すらダラダラと長かったような気がします。ただ単に私のエンジンがか
かってないからでしょうか?

今週ですが、まずは水曜日の新 Liverpool Academy of Arts (LAA)。
今回、36 Seel Street のお隣の元ペンキ屋サンだったところをギャラ
リーにしてオープンしました。
だだっ広いスペースに、これまで LAA に深いかかわりのあった作家
から現役の若いアーティストまで、絵画からスカルプチャーまでさまざ
まです。
先週登場した Tom Murphy の彫刻と絵画、マシューストリートの元エ
リックスの建物の壁のマリア像で有名な Arthur Dooley 、画家、詩人
であった Adrian Henri 、そして画家で、かつてキャヴァーン・クラブで
ビートルズをバックバンドにアカペラのユニットを組んでいた Joe
Ankrah(先週号でちらーっとお話しましたね。そうです、この人なんで
す! いずれ日を改めて本人からじっくりお話を聞きます)、若手では
個人的にお気に入りの女性アーティスト Donna Berry のトースト作品
の 'Send Bread Not Bombs' などなど。

18年間 LAA が拠点を置いている 36 Seel Street とこのペイントウェ
アハウスは、再開発のあおりで取り壊しが決まり、現在新しい会場を
探しています。今回の展覧会は、これまで LAA が成した功績と、これ
からできることをより多くの人たちに知ってもらい、存続のサポートを
得ようという狙いもあります。

The Liverpool Academy of Arts の歴史は意外に長く、さかのぼること
1810年、銀行家・歴史家であり奴隷廃止運動家で国会議員でもあった
William Roscoe と地元のアーティストグループにより設立。
その後何度も閉鎖、復活を繰り返し、現在の LAA は、1988年に
Arthur Dooley が先代の Adrian Henri から引継いだことから始まりま
す。
Dooley 氏は94年に他界してしまいましたが、BBC Radio Merseyside
の Roger Phillips や Angela Heslop がディレクターを務め、実務&運営
は、LAA でいつも感じよく迎えてくれる June Lornie が取りしきってい
ます。
(ホームページには年代がズレていますが、上記は当日配られたリー
フレットをもとにした年代です)

名の知れたアーティストから初めて展覧会を開く人たちまであらゆる
層のアートを支援し、そして毎年夏の恒例のビートルズ展もすっかり名
物イベントになっていますね。なんとか存続してほしいものです。行き
場所が決定したらお知らせします。とにかくいい展覧会なので一度足
を運んでいただきたいです。3月25日まで。

 < The Liverpool Academy of Arts >
  特別展の住所:The Paint Warehouse (28-32 Seel St.)
  LAA住所:36 Seel Street, Liverpool L1 4BE
  電話:0151 709 0735
  ホームページ: www.la-art.co.uk

♪ ♪ ♪

同じ日にもうひとつ大きな展覧会がありました。ゴールドフィッシュだよ
り49号でお伝えした、Anthony Brown の "100 Heads Thinking As One"
の巡回展がスタートしました。
これはリヴァプールの800年バースデーを祝った企画展で、生粋のリ
ヴァプール人だけでなく、よその土地からリヴァプールにやってきてこ
の街に影響を及ぼした人たちも含めた100名の肖像画のコレクション
です。
キックオフは、Daily Post & Echo Buildings の愛称で知られる The
Capital Buildings にて、100名のうちの65のポートレートが展示されまし
た。

「単なるリヴァプールのセレブのリストアップに終わらせたくなかった。
なかには有名な人もいればそれほど知られてない人もいますが、モ
チーフとなった人物は、各分野で顕著な功績をもたらした人たち。彼ら
一人一人のストーリーを描きたかった」
と Anthony が言うとおり、単なるペインティングではなく、背景にはモ
チーフになった人にまつわる Echo や Daily Post の新聞記事、本人
や家族から寄せられた写真や書類などがコラージュされています。
おなじみの俳優、ミュージシャンや文化人、サッカーのマネージャー、
政治家のほか、弁護士、ディヴェロッパー、カメラマン、そして作家本
人と双子の子供達も含まれています。
このオープニングには、モデルとなった人々もちらほら見られ、誇らし
げに自分の肖像画を眺めていました。

モデルの一人である Echo と Daily Post の専属カメラマン、Eddie
Barford さんが作品の前にいたので話かけたら、パラダイスストリート
の屋上駐車場ピクニックで私が逆パパラッチしたことを覚えていてくれ
て、嬉しかったです!
http://scousehouse.net/magazine/goldfish14_photo.htm

Eddie さんが「今でもリヴァプールのことは好きかい?」と聞いてきたの
で(注:これは Echo に載ったピクニックの記事の中の私のコメントを
受けてですね)、もちろん「もちろん!」と答えましたよ。

Eddie Barford さんは、過去40年間 Echo と Daily Post のカメラのレン
ズを通じてこの街のそのときそのときの出来事、人々を捉え、記録して
きました。Anthony の描いたポートレートには、仕事の顔だけでなく新
聞では見られないEddie さんの素顔も見られます。
プレスパス、プレスフォトグラファーの証明書のコピー、子供時代、結
婚式、家族の写真など。Echo を広げて居眠りするEddie さんと赤ちゃ
んと抱っこしてカメラを構える姿の写真(肖像画の右下にあります)が
微笑ましくてイイ!!

一つの作品の中に本当に沢山の要素が凝縮されています。作品を通
じてそれぞれの人々の世界を垣間見ながらリヴァプールという街の全
体像が見えてくるかもしれませんね。

ひとつだけ辛いのが、Anthony は糖尿病を患って視力が低下し、左目
が見えません。
右目は治療の末、現在は持ちこたえているそうです(ちなみにその眼
科の先生も100枚のポートレートのうちの一人です)が、目は画家生命
に関わる最も重要なものです。こんなにも素晴らしいアーティストの才
能が奪われることなく末永く創作活動が続けられることを心から願って
います。

Daily Post & Echo Buildings での展覧会は2月28日まで。

その後の巡回スケジュールが正式に発表されました。8月のセント・
ジョージズ・ホールで100枚すべてが発表され、ハイライトを迎えます。
 3月3日〜3月30日 メトロポリタン大聖堂
 5月6日〜6月10日 The Williamson Art Gallery
                     (川向こうのバーケンヘッドです)
 8月9日〜8月30日 セント・ジョージズ・ホール 

Anthony Brown ホームページ: www.emso.co.uk
100 Head 公式ホームページ:
                 www.100heads.co.uk (Under construction)

♪ ♪ ♪

ウォーカー美術館で新しい展示が2つスタートしました。
ひとつは "The Cathedral That Never Was - Lutyens' Design for
Liverpool" 。
これはメトロポリタン大聖堂の当初のデザインの模型の展示です。現
在の造りとは全く異なります。予定では、ドーム部分は バチカンのサン
ピエトロ大聖堂よりも大きく、ロンドンのセント・ポールの2倍以上の高
さというグランドデザイン(!)でしたが、1933年に建設が始まり、地下
の Crypt 部分まで完成したところで第二次世界大戦が勃発し建設が
ストップ。1953年には建設予算が9倍に跳ね上がり、現在の小ぶりな
モダンな大聖堂に落ち着いたそうです。

その壮大なプランもすごいのですが、この模型がまたすごい。
この木製の模型は、当初2年かかって作られましたが傷みが進み、そ
れを修復するのに13年かかったそうです!
昔ながらの職人技巧が失われ、適切な人材を養成するのにも時間が
かかったようです。たしかに柱や天井のディテールや彫刻を見ると、単
なる模型以上、芸術作品といえます!

その隣の部屋では、"Doves and Dreams: The Art of Frances
MacDonald and J. Herbert McNair" 展が行われています。
日本でも Charles Rennie Mackingtosh とその妻 Margaret はインテリ
ア、建築や絵画、デザインの分野で脚光を浴び続けていると思います。
彼らは Glasgow Four というアーティスト集団を結成しました。
今回の展覧会は、フォーの4人の中の残りの2人のメンバー、
Margaret の妹である Frances MacDonald とその夫となる J. Herbert
McNair に焦点を当てた初めてのものです。
アールヌーボーの影響を受けた、水彩画が、ポスターが、家具が、ガ
ラス、テキスタイルデザインなど80点以上! 
Charles Rennie Mackingtosh 夫妻の作品ももちろん見られます!

この展覧会は、グラスゴー大学のキューレーションですが、ウォーカー
美術館の協力も大きいそうです。
というのも、J. Herbert McNair はリヴァプールに住んでいた時期があ
り、この頃の作品の多くはウォーカーの所蔵品なのです。
リヴァプールのアートシーンにも深く関わっていたようです。なんと1901
年作の Liverpool Academy of Arts のポスターもありました!
また、The School of Architecture and Applied Art のポスター、リヴァ
プール大学の熱帯獣医学の修了証書などがあったり。
インテリアデザインプロジェクトの復元もされています。1つは 54
Oxford Street (リヴァプール大学のキャンパス内)の彼らの住まいの
インテリアの一部、残念ながら既に取り壊されてしまったそうです。
そして1902年にトリノで展示されたプロジェクト、"A Lady's Writing
Room" 。デリケートな細身な家具のデザインと柔らかな色合いのガラ
スパネルがとってもとっても素敵です。

残念ながら、McNair 夫妻のリヴァプールでの生活は、J. Herbert がデ
ザインの教師をしていた University College Liverpool の The School
of Architecture and Applied Art の閉鎖、グラスゴーに住む両親の破
産などがきっかけで McNair は経済的に先行き不安定となり、酒にお
ぼれ、結果的にグラスゴーに引き返す形で幕を閉じたそうです。

とにかく見ごたえありです。既に2度見に行きましたが、心地よく疲れま
した。
ウォーカー美術館での2つの展覧会はともに4月22日まで。

 < The Walker Art Gallery(ウォーカー美術館)>
  住所:The Walker, William Brown Street, Liverpool L3 8EL
  電話:0151 478 4199
  ホームページ: http://www.liverpoolmuseums.org.uk/walker/
  オープン:毎日10:00〜17:00
             (クリスマス、ボクシングデー、元旦のみお休み)

♪ ♪ ♪

今週の告知です。
2月2日からボールドストリートの Microzine の上の階にて、
"Liverpool: Blood, Sweat & Tears - A Unique Collection" が一般公開
されます。
これは、2001年から2006年までにリヴァプール・フットボール・クラブが
出場したカップファイナルで着用されたのと同じユニフォームのコレク
ションです。これからもLFCの歴史がたどれるかも?!

 < Microzine(マイクロジン)>
  住所:65-67 Bold Street, Liverpool L1 4EZ
  電話:0151 707 6561
  ショップ営業時間:月〜土/10:00〜18:00 
           日曜/12:00〜17:00


それではまた来週♪

ミナコ・ジャクソン♪

http://scousehouse.net/goldfish/goldfish76_photo.htm


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