April 03 2007, No.292
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     リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▽特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
          〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

  ― 第85号 / 「アジアン・アート・リヴァプール」 ―
 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish85_photo.htm ≫

気がついたらイースターはもう今週末。特に予定らしい予定もなく、お
そらくリヴァプールでおとなしくしていると思います。天気予報によると
向こう1週間は天気がよさそうなので、思いつきでどこかへ行くかもし
れませんが。。。

今週はまたアートの話題をいくつか。
水曜日に、また一足先に Tate Liverpool の新しい特別展を見に行き
ました。
"The Real Thing: Contemporary Art from China" 展。
今世紀に入って、いろんな意味で世界から注目を浴びている中国です
が、ビジネスの世界だけではなくアートにも高い関心が寄せられていま
す。
俄かチャイニーズ・ブームに乗っかっている地域とは異なり、ヨーロッ
パ最古のチャイニーズ・コミュニティーが生まれ、上海とのツイン・シ
ティーという歴史的にも深い関連があるリヴァプールは、まさに英国初
の大規模な中国のコンテンポラリーアートをショーケースするのに相応
しい場所と言えます。
18人のアーティストによる26作品。すべてが2000年以降に作られ、そ
のうち12作品は今回コミッションされた新作です。

まずはアルバート・ドックに浮かべられた、巨大なシャンデリア。これは
アーティスト Ai Weiwei と Fake Studio による "Working Progress
(Fountain of Lights) "。
これは100,000ポンドを投入し、中国で制作された部品をリヴァプール
で組み立てたとのことです。前日に別件でアルバート・ドックに来たとき
に浮かべる前の状態を見たのですが、高さ8m 、重さ2トン以上と巨
大! 水に浮かぶシャンデリアは、日没後に思わず長いこと眺めてし
まうほど素敵です。

展覧会を見る前に地下のトイレに行ったのですが、階段の脇にナゾの
標識が。
「START CLIMBING エベレストの頂上まであと118段 LEVEL 4」
…??? 結局 階段は使わず横着してエレベーターに乗って4階に
行ったのですが、なんと本当にガラスケースに入ったエベレストの頂上
が! 
上海出身の若手アーティスト、Xu Zhen による "8848-1.86" というイン
スタレーションで、「エベレストに登っててっぺんの1.86mの部分を切り
取って持ってきました」というクレージーなアイディア。ちなみに1.86m
は、アーティスト本人の身長だそうです。
ガラスケースの周りには、テントや飯盒などの登山道具、コート、中国
の旗などのキャンプサイト、壁には登山の様子をドキュメントした写真
や映像など抜かりがありません。
偶然か、狙ってか、この作品が作られた2005年に、これまで標高
8848m と信じられてきたエベレストが、中国国家測量局の調査で、
8844.43m と発表されたという話も興味深いです。

Zhou Xiaohu のアニメーションはよく出来ていました。上半身に直接描
いた絵をコマ撮りしたものでコミカルです。撮影に3ヶ月かかったとのこ
と!

Zhuang Hui によるインスタレーション "Factory Floor" (2003) と Cao
Fei のビデオ作品 "Who's Utopia? What Are You Doing Here?" (2007)
には、懐かしさを感じました。
私も5〜6年前は中国の華南地方の工業地帯で働いていて、オフィス
は工場の敷地内にあり、工場が周りに日常としてあったので、不思議
な感じです。

"Factory Floor" のインスタレーションはあまりにもリアルすぎて、一瞬
コンテンポラリーさはどこにあるんだろう? と疑問に思ってしまいまし
たが、その制作プロセスをきいて驚きました。
機械や鋼鉄のプレートはすべて発泡スチロールでできているとのこと。
これはアーティスト自身が16歳の頃に工員として働いていた、The
East is Red Tractor Factory という工場がモデルで、実際に起きたア
クシデントの様子を間接的に物語っています。
お昼の休憩時に、フォークリフトから落ちてきた鋼鉄に工員の一人が
下敷きになり、他の工員たちが食べかけのお弁当箱を残して現場に
駆けつけた後の静まり返ったシーンです。 

Cao Fei のビデオは、華南の珠江デルタ地域の電球工場を舞台に、
普段は工場でプロダクションラインの一部として働く工員のもつ個人の
素顔を撮ったものです。
倉庫の間でバレリーナになることを夢見てつま先立ちで踊る女の子、
バンドを組んでギターを掻き鳴らす若者、かつては格闘家をめざしたこ
ともある中年の男性のシャドーボクシングなど。

私のいた会社の工場でも、中秋節や旧正月の休みに入る前になると、
野外にステージが組まれて、ワーカーによる大カラオケ大会やダンス
のパフォーマンスなどがあり、ユーモアにあふれ気合が入っていまし
た。
中国各地から電車で数日間かかる故郷を後にして出稼ぎにきている
人たちがほとんどで、過酷な労働条件と生活環境に置かれても、不思
議と悲愴感がないんです。むしろポジティブでたくましさを感じたのを覚
えています。前述の工場のインスタレーションを手掛けた、働きながら
アーティストになりたいと希望を秘めていた Zhuang Hui もその一人
だったんでしょうね。

中国で起こっている社会的なリアリティーと、文化革命を知らない新し
い世代の中国人アーティストのダイナミックなクリエイティビティーを通
じて今後中国はどこへ行くのか考えさせられました。

"The Real Thing: Contemporary Art from China" 展は、6月10日まで。

 < Tate Liverpool >
  住所: Albert Dock, Liverpool L3 4BB
  電話: 0151 702 7400
  Email: visiting.liverpool@tate.org.uk
  オープン: 火〜日曜日 10:00〜17:50 
  入場料: この特別展のみ一般£5、学生&シニア割引£4、ファミ
        リーチケット£10。  ※メンバーは無料です。
 ホームページ:
   http://www.tate.org.uk/liverpool/exhibitions/contemporaryartfromchina/default.shtm

この Tate Liverpool の主催で、29日に花火がマージー川に打ち上げ
られました。こちらもチャイニーズアートの一環です。
タイトルは "If I Knew the Danger Ahead, I'd Have Stayed Well Clear"。
2艘のボートから火花を散らす戦闘ものです。クライマックスは、手が
届くんじゃないかというくらいの至近距離で圧倒されました。
ショートビデオはこちらから。↓
http://www.artinliverpool.com/blog/blogarch/2007/03/fireworks_at_tate_liverpool.php

♪ ♪ ♪

今週の土曜日は、またまた天気が素晴らしく、お出かけ日和。数日前
にリヴァプール在住の方から、Speke Hall で日本人アーティストの展覧
会と墨絵のワークショップがあるときいて、行ってきました。オフシーズ
ンや休館日に立ち寄ったことはあったのですが、今回が実質初めての
Speke Hall の訪問で、とてもいい機会となりました。

ザ・ナショナル・トラストは、ヴィクトリア朝末期の1895年に、歴史的名
勝と自然的景勝地の保全を目的に設立されました。リヴァプールでは、
Speke Hall のほかにも、ジョン・レノンの住んでいた Mendips やポー
ル・マッカートニーの住んでいた 20 Fothlin Road 、Rodney Street に
ある Mr Hardman's Photographic Studio などの建造物や、Formby
ビーチが指定されています。
秘境と呼ばれるような、ひっそりと奥まった地域にたたずむ保全地が
多い中、街からそれほど遠くないところにこのような名所があることは
ラッキーなことのようです。

Speke Hall は1530年に建てられたテューダー朝の邸宅。黒の木造軸
材と白の漆喰の色のコントラストと幾何学的模様が特徴です。この土
地は、この建物を建てた Norris 家と、18世紀に入って Watt 家により
所有され、1944年にザ・ナショナル・トラストに渡りました。
500年にわたって増築、改装されたため、それぞれの時代を反映した
デザインが混在しています。

一番最初に建てられた The Great Hall は天井が高く、奥にはおおき
な暖炉があり、入り口付近には鎧が、壁には剣が飾られ、物々しさが
あります。
2階には、当時イギリスがローマン・カトリック教徒迫害をしていた時代
に、カトリックの聖職者をかくまったという「司祭の隠れ家」や、侵入者
を見張る priest hall というスパイ用の覗き穴があります。
それ以外の部屋の多くは、ヴィクトリア朝時代に入ってから改装された
ものが多く、部屋、廊下など細部に至るまで、21世紀にもてはやされて
いるシンプル&ミニマルなスタイルと比べるとそこは180度逆の豪華絢
爛、デコラティブの極みです。書斎にはウィリアム・モリスのオリジナル
の壁紙も残っています! 撮影が禁止だったので写真をお見せできな
いのが残念ですが。。。

ホールの裏手には、手入れの行き届いたガーデンが広がっています。
建物の周りはかつてはお堀に囲まれていたようですが、干上がって現
在は芝生となっています。

今回訪ねた日本人アーティストは、小野琢正さん。
日本ナショナル・トラスト協会公認の画家として99年にイギリスへ渡り、
3ヶ月間ザ・ナショナル・トラストのプロパティー(保全地)57箇所を訪問
しスケッチ取材を行った後、2001年に初めての「遍路」展を開催。2002
年には活動拠点をイギリスに移し、引き続きザ・ナショナル・トラストの
プロパティーを巡り、残していきたい美しい自然や歴史的建造物を描
き続け、定期的に「遍路」展を行っています。400近いプロパティーのう
ち、すでに100ヶ所を制覇したそうです。

Speke Hall での展示は今回が3回目で、ナショナル・トラストの所有す
る各地の水彩によるスケッチやシルクスクリーンの作品のほか、新作
として墨絵で描いたリヴァプールの建築物の数々も展示されています。

私はシルクスクリーンの作品に興味を持ったのですが、これは小野さ
んが環境を配慮して試行錯誤の末にあみ出したという、水性シルクス
クリーンだそうです。カラフルでありながら柔らかで透明感があります。
ホームページにも画像は載っていますが、これはオリジナルを見ない
とその質感は伝わらないかもしれません。

小野さん曰く、シルクスクリーンのルーツは実は日本の友禅にあって、
それがアメリカに渡り進化して還ってきたものだそうです。展覧会は本
館ではなく Educational Room で行われているのですが、Speke Hall
の本館の一番最後の部屋にも小野さんの作品と、小野さんによるデ
ザインの着物が飾られています。

墨絵のワークショップを通してこちらの現地の人々に日本のトラディッ
ショナルな技法を広める傍らで、日本人である小野さんが英国におけ
る重要な景勝地や建築物をモチーフにして描いてこちらで展示をする
ことで、新鮮な目でその場所場所の素晴らしさを再確認させられる
人々は多いのではないかと思います。まさに日本とイギリスの架け橋
的な活動といえます。

小野琢正さんの展覧会は以下のようなスケジュールで英国各地を巡
回します。

「英国ナショナル・トラストHENRO 2007」開催スケジュール
 3月31日〜4月15日 スピーク・ホール(リヴァプール)
               ※4月7日に墨絵ワークショップ開催
 5月12日〜6月4日 ライム・パーク(チェシャー)
 6月9日〜6月24日 カーク・アビー(ダービシャー)
 7月4日〜7月29日 ベルトン・ハウス(リンカシャー)
 8月4日〜8月21日 ハンブリー・ホール(ウースターシャー)
 8月24日〜9月12日 モティスフォント・アビー(ハンプシャー)
 10月20日〜11月3日 ナショナル・トラスト本部(ウィルシャー)

詳しくは、遍路展ホームページ:
http://www.asahi-net.or.jp/%7EHH5Y-SZK/ono/ono0.htm

 < Speke Hall(スピーク・ホール)>
  住所: Speke Hall, The Walk, Liverpool, L24 1XD
  電話番号: 0151 427 7231
  オープン:【Hall & Grounds】水〜日祝 13:00〜17:00
        入場料/大人£6.70 子供£3.70 ファミリー£20.50
 【Grounds & Home farm のみ】毎日 11:00〜17:30
        入場料/大人£4.00 子供£1.90 ファミリー£11.00
※ザ・ナショナル・トラストのメンバーは入場無料です。
  ホームページ:
   http://www.nationaltrust.org.uk/main/w-vh/w-visits/w-findaplace/w-spekehall/

♪ ♪ ♪

【今週の告知】
今年の秋、 Tate Liverpool に『ターナー賞』がやってきます。これは英
国のアート界でとっても重要かつ物議をかもす大イベントです。ロンド
ン以外での初めての開催先がリヴァプールだというから、これは地元
の人間は黙ってはいられない! ということで、 Artinliverpool.com で
は “地元のアーティストをノミネーションしよう!” キャンペーンを行うと
ともに、裏ターナー賞ともいうべき "The Liverpool Turner 2007" を急
遽開催することにしました。もしよかったらご参加ください。

参加方法としては、、、
リヴァプールの出身またはリヴァプールを拠点に活動している50歳以
下、過去12ヶ月間に展覧会を行ったアーティストを選んで、Tate の
ホームページのターナー賞ノミネーション・フォーム
( http://www.tate.org.uk/liverpool/exhibitions/turnerprize2007/)から
推薦してもらいます(締切り4月14日)。送信し終わったら、誰に投票を
したかを Artinliverpool のフォーラムにて報告してもらい、こちらで独自
に集計して裏ターナー賞を認定し、賞を授与する、というものです。
http://www.artinliverpool.com/blog/blogarch/2007/04/the_liverpool_turner_2007.php

私は去年のバイエニアル中に行われた John Moores 展でも入賞した
ペインター、Gary "Dollman" Sollars を推そうと思っています。
Gary Sollars ホームページ: http://www.garysollars.co.uk/keep4.htm

それではまた来週!

ミナコ・ジャクソン♪

≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish85_photo.htm ≫


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