July 03 2007, No.304
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World 
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▽特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
       〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

  ― 第95号 / 「 Turning the Place Over & Peter Blake 」 ―
 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish95_photo.html ≫

こんにちは!
先週は、ヴェネチアに行っていてお休みを頂きました。
1ヶ月ほど前に、結婚1周年記念日はどうしようか、と旦那と話をして
いて、当初私は「その日はやっぱりKnowsley Hall Music FestivalでThe
ZutonsとMadnessでしょ?」と提案していたのですが、泥だらけのフェス
ティバルはいやだ、と即却下されて、凹んでいるところに、じゃあその
代わりにヴェネチア・ビエンナーレに行こう! ということになり、私も
ニッコリ。

Liverpool John Lennon空港からイタリアのトレヴィソ空港までRyanair
の直行便で2時間弱、そこからバスで1時間弱でヴェネチアに到着で
す。しかもKnowsley Hallのフェスティバルの入場券とほぼ変わらない
航空運賃(税込み!)、合計3時間足らずで、こんなにも雰囲気の違う
世界が味わえてしまうのは、ヨーロッパのいいところです。

私たちの滞在中は、雨一つ降らず、連日晴天。傘、靴下いらず、肌で
熱をジリジリ感じて、「夏だあ〜!」と実感できました。
観光地なんですけど、ヴェネチア内は車がなくてどこにいくにも徒歩か
ボートしか交通手段がないので、時間の流れも当然ゆったりしていま
す。
はじめは私が歩くのが速すぎるのか、人にぶつかりそうになったりもし
ましたが、次第に現地の空気とペースに慣れて、心地よかったです。
特に博物館などに行かなくても、古いデコラティブな建物やインテリア
しかないので、街自体がミュージアム。細い曲がりくねった路地を抜け
て歩いているだけでも十分楽しかったです。
観光地ならではのべらぼうに高いカフェなんかにもやられましたが、後
にリーズナブルで、しかも地元の純粋にいい人たちが経営していると
ころに辿りつけたので、逆にこの街が好きになりました。

ヴェネチアのビエンナーレですが、今年が52回目、100年以上の歴史
があります。
他の都市がたやすく追随してビエンナーレの名を使うのはおこがまし
い! まさにヴェネチアこそ「ザ・ビエンナーレ」でした(ちなみにリヴァ
プールは 「バイエニアル」と呼んでいて、そこのところ心得てますね)。
主な会場は、GiardiniとArsenaleの2ヶ所のメイン会場のほか、街中に
も国ごとのパヴィリオンが点在しています。
アートのオリンピックなどと形容されていますが、同時に私はふと子供
の頃に行ったユネスコ村を思い出しました。。。(ユネスコ村、閉館し
ちゃったんですね、残念)

テーマは、"Think with the Senses Feel with the Mind. Art in the
Present Tense(感覚で考え、心で感じる。現在進行形のアート展)" 、
アート・ディレクターはアメリカ人のRobert Storr、メイン会場での参加
国は過去最多の76カ国、メイン会場外を含めると106カ国。とにかく見
所が多くて、見切れなかった上に未だに消化しきれてません。

Gardini会場の日本パヴィリオンには岡部昌生で、タイトルは "Is There
a Future for Our Past? The Dark Face of the Light"。
広島にある被爆した旧国鉄宇品駅のプラットホームの遺構の表面を
フロッタージュという手法で紙に転写したものやネガが壁面を埋めつく
し、スペースの中心には被爆石が置かれていました。

イギリス代表はTracey Eminで、テーマは "Borrowed Life"。キュートな
ものから、キワドイものまで彼女のプライベートな感情を表現していま
す。

Arsenaleの会場では、この地域自体がMilitary Zoneであることにも反
映してか、特に総じて死、生命のはかなさ、戦争、政治的メッセージが
色濃く見られました。
今年のターナー賞のノミネーションも似通っているので、これは今年の
トレンドでしょうか。会場外では、シンガポールや、タイなどが面白かっ
たです。

普段、旅行に行ってどんなに楽しくても、リバプールに帰ってくるとホッ
として「帰ってきてよかった〜」と思うのですが、ベネチアに関しては、
初めてリヴァプールに来たときのような感覚がありました。ハートの一
部を置いてきてしまったような、また行きたい場所のひとつです。イタリ
ア語も学んでみようと思います!

♪ ♪ ♪

さて、先週と今週のリヴァプールですが、これまた盛りだくさんで、ヴェ
ネチアの余韻にに浸っている場合ではありませんでした。

まずは、少しさかのぼりますが、6月20日にオープニングを飾った、
アーティストRichard Wilsonの "Turning the Place Over"。
これは、日本を含め世界でも話題に上った巨大パブリック アート。リ
ヴァプール・バイエニアルのLewis Biggsはメガフォンを持ってスイッチ・
オンの音頭をとり、中国の爆竹が鳴り響き、拍手の嵐とともに、建物の
表面の一部が回りはじめました。たまたま近くにRichard Wilson氏がい
て、ご自身の意欲作をエキサイトした様子で眺めているのが印象的で
した!

老朽化の進んだYatess Wine Lodge跡地に工事が入ったのが今年の
2月。 Biennial、Liverpool Culture Companyにより共同コミッションされ
たこの作品は、最終的には60万ポンドが投入され、"The most daring
piece of public art ever commissioned in the UK" という大きなふれこ
みで、オープン前からBBCのホームページやYoutubeなどでその映像
が話題になる傍らで、一部の地元の人間やアーティストの間で、取り
壊されるビルに多額の投資をするのはお金の無駄だ! という非難も
浴びたりしていました。

私の場合は、 Richard Wilsonの作品は、今までロンドンのサーチ・ギャ
ラリーや横浜トリエンナーレで見ていてすごいなあと思ってましたが、
正直なところこれに関しては、 Radio City Tower に昔あった回転展望
レストランと技術的にどう違うの〜? という素朴な疑問があって、作
家本人のトークも聞きに行きましたが、実物が回るまで納得できな
かったのですが、回っている様子を何度か
見て、やっぱり凄いかも! と徐々に思い始めました。
直径8mの円の部分を壊さずにきれいに切り取って、 メカニズムをつ
けて回わす、という発想と、洗練された回り方、しかも雨風が強いと自
動的に円が元の位置に戻った状態で停止するようにコンピューター制
御されてるそうです。

ショートビデオを、artinliverpool.comにアップしてありますので、ご覧下
さい。
http://www.artinliverpool.com/blog/blogarch/2007/06/turning_the_place_over_is_laun.php

このパブリックアートは、シティセンターのMerseyrailのMoorfield駅前向
かい側。今後1年半は回り続けるそうです。

詳細は、Liverpool Biennialホームページから。
http://www.biennial.com/content/NewsSection/News/article_4_17.aspx  

♪ ♪ ♪

そして、6月29 日からTate LiverpoolでスタートしたPeter Blake回顧展。
ヴェネチアから戻ってきて翌日の朝にオープニング前のスニーク・
ヴューをさせてもらいました。
この展覧会は、イギリスにおけるポップ・アートのゴッド・ファーザーであ
り、リヴァプールにもなじみの深い "Adopted Scouser" Peter Blake。
もちろんビートルズのSgt Pepper'sのアルバムカバーでも有名です。
1950年の初期の作品〜ポップ〜The Ruralists〜ヴェニス・ビーチ〜
The National Gallery〜The Marcel Duchamp World Tour〜現在のセク
ションに分かれていて、その時々の彼の生活スタイルや関心ごとが反
映されています。

初期の作品では、栄誉あるJohn Moores で入賞した1961年の
"Self-Portrait with Badges" のほか、日本の屏風にインスパイアされ
て描いた金箔を使ったようなスタイルのミニマルだけどデコラティブな
ペインティングなども見られました。

ポップアート時代には、 ビートルズ、ビーチボーイズ、マリリン・モン
ロー、サミー・デイヴィス JRなどのほか、グラビアの女の子、プロレス
ラーなどのポートレート、コラージュの数々。
Sgt Pepper'sのアルバムカバーで実際に使用されたポートレートとオブ
ジェ計3点が展示されています。

60年代後半にロンドンの生活にうんざりして田園生活をはじめたアー
ティストとともに The Ruralistsを結成し、自然、子供たち、妖精、ルイ
ス・キャロルの『不思議な国のアリス』などの童話の挿絵など描き、素
朴で、静かに内なる時期を過ごしていたようです。
その間にも遠方のロンドンに住む友人にプレゼントしたコラージュ
"Souvenirs" シリーズもパーソナルで微笑ましいです(The Ruralistsの
セクションを見ているときにちょうどSir Peter Blakeが展示の様子を確
認しに来たので、眺めている姿を撮らせてもらいました!)。

その後 79年にロンドンに戻って間もなく、アメリカで展覧会が開催され
ることになり、オープニングに出席のためにカリフォルニアに渡り、連
日のパーティー、David Hockneyとの出会いなどのソーシャルライフを
通じて、作風にも華やかさやヴェニス・ビーチのまばゆさが表れ、それ
までの作品と対照的です。

1993年にはロンドンの The National Galleryでのアーティストインレジデ
ンスを行ったときの作品のセクション。

そして 90年代半ばからMarcel Duchamp(マルセル・デュシャン。1968
年没。20世紀前半、ニューヨークのショーで展示台に既成の男子用の
小便器を置いて "R.Mutt" とサインをして「泉」と名づけて出展したこと
でセンセーションを巻き起こしたフランス人アーティスト。既成の手法か
ら飛び出して、アートは何でもあり! という概念のパイオニア)へのリ
スペクトを込めて、Peter Blakeは " The Marcel Duchamp World Tour"
というシリーズを立ち上げます。
Marcel Duchampをロックンロール・ツアー・バスに乗せて世界中を旅さ
せ、旅の途中でターザンの家族や、ElvisやSpice Girlsなどのセレブリ
ティーと遭遇させて記念スナップ、というようなユーモアたっぷりのペイ
ンティングの数々です。
私としては、チェスに没頭していたというMarcelがTracey Eminと対局し
ている "Playing Chess with Tracey Emin" が好きです。

この回顧展の締めくくりは最後のセクション 'From this moment on...'
では、Work in progress(制作途中)の作品が見られます。。。

"Peter Blake: A Retrospective" 展は、9月23日まで。

 < Tate Liverpool >
  住所: Albert Dock, Liverpool L3 4BB
  電話: 0151 702 7400
  オープン: 火〜日曜日 10:00〜17:50 
  入場料: この特別展のみ一般£5、学生&シニア割引£4、ファミ
        リーチケット£10。 ※メンバーは無料です。
ホームページ: http://www.tate.org.uk/liverpool/exhibitions/peterblake/

♪ ♪ ♪

【今週の告知】
愛煙家のみなさま、ごめんなさい…と私が謝ることでもないのですが、
とうとうイングランドも7月1日から『禁煙法』が施行され、オフィスやパ
ブ、レストラン、カフェなど閉鎖された公共の建物で完全に禁煙となりま
した。
タバコや葉巻の煙の漂う渋いパブの雰囲気は過去のものとなりまし
た。違反者には罰金50ポンド、違反者を黙認した店舗や企業にも、最
大2500ポンドの罰金だそうです。気をつけてください。早速昨日は、パ
ブの外で吸ってるスモーカーの背中がさみしそうでした。。。

それではまた来週!

ミナコ・ジャクソン♪

≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish95_photo.html ≫


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