October 20 2009, No.396
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NLW ■
         *** http://scousehouse.net/ ***        


□■ INDEX ■□

 ▽フロム・エディター
 ▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」 <No.165>
 ▽「利物浦日記2008」10
 ▼スカウスハウス・ニュース
 ▽今週のフォト


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▽フロム・エディター
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今週のNLWは寄稿がありません。
ミナコさんの「ゴールドフィッシュだより」と僕の「利物浦日記2008」の2本立
てでお届けします。

「利物浦日記」は、夏にリヴァプールで行われる<International Beatle Week>
のレポートなのですが、タイトルのとおり、今年のではなく、去年のフェスティ
ヴァルのレポートです。
1年以上もかかってまだ書き終わってないんですよね。ほんとすみません。
できるだけ早く書き上げて、今年の「利物浦日記」をスタートさせたいと思っ
てます。

というわけでこの原稿、「よおし、ちゃちゃっと書ききってしまおう!」と張り
切って昨日から書き始めたのですが、書きながら困ったことになってしまいまし
た。
僕にしては珍しいことに、書くことが多すぎて困ってしまったのです。
書けば書くほど、すっかり忘れていた細か〜い記憶が、ずるずるずるずると蘇っ
てきて、自分でもびっくりでした。
記憶力のなさには自信があります。1年以上も前のことだし、メモの類もまった
く手元にないというのに…なんだかわけがわかりません。不思議なものです。

「何でもかんでも書けばいいというわけじゃない」ということはわかっているつ
もりで、いくらかは削除したのですが、それでもわりとどうでもいいようなエピ
ソードも残っています。冗長でつまらないレポートになっているかもしれません。
話もちょびっとしか進んでないです。

…えーとなんだか言い訳のようになってますけど、とにかく、利物浦日記の2008
年版の完成には、もう2〜3回はかかりそうな感じです。
もしも2009年版を楽しみにしている方がいらっしゃったら申し訳ないのですが、
気長にお付き合いいただけるとうれしいです。

● ● ●

ミナコさんの「ゴールドフィッシュだより」に登場するPaul Du Noyerさんの
"Liverpool: Wondrous Place"という本、偶然ながら、我が家にも1冊あります。
去年(2008年)トミーさん(LFCのマッチ・レポートでおなじみですね)に会っ
たときに、「カズ、この本は面白いぞ。読んどいたほうがいいぞ」とすすめら
れて購入したものです。でも、1ページも読まずにずっと本棚に仕舞いっぱな
しでした。
ミナコさんのレポートを読んで、俄然興味が湧いてきました。僕もがんばって
読んでみようと思っています。

● ● ●

久しぶりに通販のお知らせです。
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今回は初めて「EP & シングル」コーナーを作ってみました。ビートルズ&ソロ
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                          ― Kaz(20/10/2009)


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▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
          〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

 ― 第165号 / 読書の秋なリヴァプール ―

 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish165_photo.html ≫

こんにちは。
10月25日(日)の早朝に夏時間から冬時間に切り替わります。秋が深まり(また
は通り越し?)、最高気温15度を割る寒い日が続いています。

秋といえば、食、芸術といろいろありますが、読書の秋でもあります。今回号で
は、「本」にちなんだイベント2つについてお伝えします。
ともに金曜日の晩で、秋の夜長を楽しみました。

ひとつめは、前回号でカバーしきれなかったホープ・ストリートで行われたイベ
ントです。

9月18日(金)、Hope Street Hotelに最近できた増築部分の最上階のスペース
で、Club Geekchic主催の《In Conversation With...》イベントに行ってきまし
た。
Club Geekchicは、Gemma AldcroftとKaren Podestaの2人が企画運営する、ち
ょっと大人のクラッシーなカルチャー・イベント。

会場はプライベートパーティーのようなこじんまりとした設定で、マージー川か
らぐるっとメトロポリタン大聖堂まで見渡せる、バルコニーからのパノラミック
な眺めも最高です。


《In Conversation With...》は、タイトルのとおり対談シリーズのイヴェント
です。第一弾となる今回は、ゲストに音楽ジャーナリストでライターのPaul Du
Noyer氏を迎え、聞き手は地元の俳優・ミュージシャンのMike Neary氏が担当し
ました。

Paul Du Noyer(ポール・デュノイヤー)は、リヴァプールはアンフィールド生
まれ。現在はロンドンとリヴァプール両方をベースに活動しています。
彼の30年に及ぶキャリアは音楽紙<NME>のライターからスタート、音楽雑誌<Q>
マガジンのスターティング・チームに属し、1990年から1992年まで同雑誌の編
集長を務めた後、<Mojo>を創刊し初代編集長に就任。その後、ゴシップ雑誌
<heat>の立ち上げに携わり多少脱線しましたが、ふたたび音楽雑誌<The Word>
に戻り、その後も<Q4music><Mojo4Music><Kerrang!>といった音楽サイトを監修。
現在はフリーランス・ライター及びコンサルタントとして活躍しています。

また、雑誌の記事や編集のほかに単行本の執筆も行っています。
著書としては、リヴァプールの音楽について書いた"Liverpool: Wondrous
Place"、ロンドン版の“In The City: A Celebration of London Music”、そし
てJohn Lennonの曲をテーマにした、"We All Shine On"。こちらはシンコー
ミュージックから日本語版(邦題『ジョン・レノン・ソングス』
http://www.shinko-music.co.jp/main/ProductDetail.do?pid=0615964 )が出版
されています。

Du Noyer氏は、長いロンドン生活でリヴァプール訛りはほとんどなく、一見気難
しいイギリス紳士といった第一印象でしたが、実際は、物腰が柔らかく気さくな
人でした。
一旦トークで話に熱が入ると、ウィットに富んだコメントが炸裂して、リヴァ
プール人の血が見え隠れしているのが伺われます。

一癖、二癖あるミュージシャンや音楽業界の興味深い裏話を聞くことができまし
た。

Paul McCartneyとは、Wingsのコンサート・ツアーで観客に無料で配布するマガ
ジンの制作のために、3ヶ月間、週一ペースで本人と会ってインタビューを行っ
たそうですが、サー・ポールのビートルズ時代の記憶が思いのほか非常に曖昧。
細かい史実については、逆に質問されたりして、あまりの記憶のバラつきに驚い
たそうです。あたかもサー・ポールにとって、音楽ジャーナリスト達は外付け
ハードディスクなのかもしれない、と笑っていました。

イギリス人ミュージシャンに比べて、アメリカ人ミュージシャンは、ジャーナリ
ストに対して、ガードの固いところがあるようです。

Madonnaの場合、本人にたどりつくまでに、事前ミーティングで戦略PR担当者ら
しきスタッフからいろいろと指示説明を受け、最後には数枚の写真を見せられ、
「好きな写真を一枚差し上げるので、Madonnaにサインしてもらってもいいんで
すよ」と言われ、ジャーナリストに対する奇妙な扱いに唖然としたそうです。

そのときののインタビューは、彼にとってはあくまでも仕事の範疇という認識で
しかなかったそうです。
Madonnaよりも、むしろDusty Springfieldをインタビューしたときのほうが、心
が躍るものがあったようです。5歳のころに、リヴァプールのエンパイア・シア
ターでの彼女の舞台を見たときの記憶が蘇った、と語っていました。

Lou Reedとのインタビューでは、気がつくとギターのテクや、アンプについての
うんちくに話題が流れてしまうため、ミュージシャン自身のストーリーを聞き出す
のに一苦労したとのこと。

Dead Or AliveのPete Burnsは、一度目は自宅に招かれたのですが、薄気味悪い
奇行が垣間見られたとのこと。
NMEオフィスで行われた2度目のインタビューでは、Peteがに現れたとき、オ
フィスのスタッフが彼の風貌を目にした途端怖がって、視線を合わせまいと
Spandau Balletのレコードのジャケットで顔を覆って隠れてしまったという話な
ど、その光景が想像がつくので笑えます。

この日の対談の中で、ロンドンとリヴァプールの音楽性についても述べていまし
た。
「ロンドンとリヴァプールの音楽は共通して、ストーリー・テリング(物語)的
ですが、リヴァプールの音楽は、どちらかというとよりロマンティックで、
シュールで、サイケデリックともいえる。一方、ロンドンの音楽は、昔から街頭
でその日のニュースを歌う風習があったことが影響してか、歌詞の内容はよりダ
イレクトだと思う」

この日の対談は、20分ほどのおしゃべりの合間に、Ragz、Carrie Hayden&Dave
O'Gradyといった地元で活躍する若手のミュージシャンによるアコースティック・
ライブが一曲ずつ挿入されていて、飽きがこないバランスのいい構成でした。
またニクイことに、ここで演奏された曲はすべて、著書"Liverpool: Wondrous
Place" の最後のチャプターに記載されている、Du Noyer氏による独断と偏見の
リヴァプール・ソング、トップ100選の中からセレクトされた楽曲のカバー・
ヴァージョン。
こうした形で、若いミュージシャンに歌い継がれて曲に新しい息が吹き込まれる
のは新鮮でいいものです。

演奏された曲は以下のとおり。
Dead Or Alive <You Spin Me Round>, Echo & The Bunnymen <Killing Moon>,
Billy Furry <Wondrous Place>, Suzanne Vega <In Liverpool>,
Black <Wonderful Life>。
そしてイベントの最後に、元Icicle WorksのIan McNabbが<Working Class Hero>
を歌い上げ、締めくくられました。

Carrie Hayden: http://www.myspace.com/carriehaydenmusic
Ragz: http://www.myspace.com/ragzmusic
Ian McNabb: http://www.myspace.com/ianmcnabbtheicicleworks

このイベントには、ビートルズ世代から20代までの若い音楽ファン、音楽業界関
係者やミュージシャンが集まり、幕間やイベントが終わった後も、ドリンクを片
手に参加者や観客が立ち話をするチャンスがありました。
Dead Or Aliveの<You Spin Me Round>を歌い終えたCarrie Haydenに、たまたま
隣に座っていた写真家のFrancesco Mellina(ゴールドフィッシュ155号参照)を
紹介して、「この人むかしPete Burnsのマネージャーだったのよ」と伝えると、
その世間の狭さに驚いたようで、そこからジェネレーションを超えた会話が弾ん
でいました。

イベントが終わった後、私と旦那がPaul Du Noyer氏に話しかけ、自己紹介をし
ようとすると、どうやら私達のことを知っていたのでびっくりしました。
しかも、スカウスハウスのことも知ってたんです! キンチョーしてしまいまし
た。
写真を撮らせてもらおうと思ったら、あいにく電池が切れてしまいましたので、
近くにいたFrancescoに代わりに撮ってもらいました。素晴らしい記念写真とな
りました。
Many thanks to Francesco Mellina for the wonderful photos!
Francesco's myspace: http://www.myspace.com/francescomellina

こうして、またもう1人素晴らしいスカウサーと出会うことができ、本当にエキ
サイティングな金曜の晩となりました。

Paul Du Noyer: http://www.pauldunoyer.com/

Club Geekchic: http://www.clubgeekchic.co.uk/

♪ ♪ ♪

Paul Du Noyer氏の著書、"Liverpool: Wondrous Place"を購入して読み始めたと
ころですが、ものすごく面白くて、本が手放せません。

それぞれのバンドの紹介というよりはむしろ、リヴァプールという場所とその歴
史がどのようにリヴァプールの人々やバンドを特徴づけたか、そしてリヴァプー
ルのバンドが、どのようにリヴァプールの音楽の歴史を形成してきたかに着目し
ています。

リヴァプールという街の歴史、地理、人々の特性やメンタリティー、スカウス訛
りの音声学、そして音楽史をカバーした、まさに「リバプール文化人類学」とい
った濃いい内容です。というと、アカデミックで頭デッカチな本かと思われるか
もしれませんが、とんでもない。難しいナンセンス抜きに読者をこの本の世界に
引き込み、辞書を引きながらも次々と読み進めさせるのは、リズム感とウィット
に富んだDu Noyer氏の文章が織り成すマジックです。
著書のなかで「スカウス訛りそのものに、すでにメロディーとリズムが潜んでい
る。あとは、ギター2〜3本とドラムキットの登場を待って、解き放つのみなの
だ」と説明していますが、まさにそのような感じです。

また、躍動感と臨場感があり、読みながら情景が視覚的に思い描けるほど、映画
の一コマ一コマを見ているような錯覚にとらわれます。
こういうシチュエーションあるある! と納得してしまうものから、その鋭い洞
察力に目からウロコが落ちるものまで、ページをめくれば必ずリヴァプールの
人々やバンドを描写する名言、金言が散りばめられています。

訳本が出たら本当に最高です。ビートルズが何故ビートルズだったのか、そして
他のリヴァプールのバンドやこの街の人々の行動、言動、気質などに興味深々な
方には、真相をさぐる手がかりとなることと思います。リバプール学の一般教養
の教材としてマスト・アイテムです。

"Liverpool: Wondrous Place" - From the Cavern to the Capital of Culture -
http://www.pauldunoyer.com/pages/books/liverpool-wondrous-place/intro.asp

追記:また、Paul McCartneyによる、パーソナルなタッチで書かれた前書きも見
逃せません!

♪ ♪ ♪

ホープ・ストリートからゆるい坂を下って、こちらはこの週末にThe Bluecoatに
て行われたトークイベントの話題です。

今年で2回目を迎える文学イベント《Chapter and Verse Festival》の一環とし
て、10月16日、ゲストにコメディアンのVic Reevesを迎えて行われました。
トークの題名は"The World According to Vic" with Vic Reeves"。「ヴィック
の言うところによる世界観」といった感じでしょうか。聞き手、進行役は作家
Tim Clareが担当しました。

Vic Reevesは、相方のBob Mortimerとのコンビでイギリスが誇る大御所のコメ
ディアンとして活躍していますが、そのほかにもミュージシャン、アーティスト、
著者として幅広い活動を展開しています。
私がこの人物に注目するようになったきっかけは、1995年にEMF And Reeves &
Mortimer名義でリリースされた、モンキーズのカバー<I'm A Believer>のビデオ
クリップです。これですっかりノックアウトされ、旦那には趣味を疑われながら
も、この曲の7インチシングルを何よりも宝物にしています。
<I'm A Believer> Youtube: http://www.youtube.com/watch?v=oJs9M9eaqIk

そのVic Reevesがリヴァプールでトークをするというのでコレは外せないと、即
チケットを確保し、観にいきました。
今回のトークは、著書"Vast Book of World Knowledge"の発売と合わせたタイ
アップのイベントです。

『世界知識の膨大な本』とでも訳せるでしょうか。普通ならきっと、「膨大な世
界知識についての本」となるところを、タイトルからすでに言葉遊びをしてると
ころが、さすがです。この本では、世の中で起こっている全てを、著者自らのイ
ラストやコラージュを交えて解き明かしています。

デッキブラシとBluecoatの外で撮影されたCaptain Beefheartの写真を大事そう
に抱えて、ハリス・ツイードの3ピーススーツ姿で登場。

本の中からセレクトした数ページをスクリーンに映し出し、ポインターの代わり
にデッキブラシの柄で重要な点を指しながら解説してました。
Vic Reevesの色眼鏡をかけて見る世界は、とてつもなくシュールです。モチーフ
は、田舎の風景からポップ・スター、オーディション系番組Xファクターの司会
者、スーパーヒーローのX-men、キュービズム、ツェッペリン型飛行船、リ
チャード3世、デニム素材、キングコングにいたるまで、ランダムで漫才のネタ
をその本にしたような爆笑ワールドが繰り広げられていました。

本人いわく、描きながら独りでケタケタ笑いだすことも少なくないとのことです。
トークを聞きながら、Vic Reevesのコメディーは、広漠とした空想の世界とアー
ティスティックなセンスから生まれているんだな、という印象を受けました。
笑いすぎでお腹が痛く、あっという間の1時間でした。

トークの後には本のサイン会がありました。残念ながら本が売り切れてしまって
いましたが、予約をしたのでサインだけはOKとのこと。
せっかくなのでバッグに忍ばせていた<I'm A Believer>の7インチシングルに
しっかりサインを頂きました!
本が入荷し、Vicの世界に浸るのが楽しみです。

Atlantic Books "Vast book of World Knowledge" by Vic Reeves:
http://www.atlantic-books.co.uk/vic/default.asp

Chapter and Verse Festival at the Bluecoat: http://www.chapterverse.org.uk/

♪ ♪ ♪

【今週の告知】
1) 今年も《Liverpool Music Week》がやってきます。現時点で発表されてい
るラインアップはこちらから( http://www.liverpoolmusicweek.com/ )。

2)11月26日までの毎週木曜日(11月5日を除く)、リヴァプール大聖堂の展望
台は午後8時までオープン。チケット販売とラスト入場時間は午後7時半まで。
夕暮れ時や夜景を楽しみたい方には絶好のチャンスです。
リヴァプール大聖堂: http://www.liverpoolcathedral.org.uk/

それではまた再来週!

ミナコ・ジャクソン♪

≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish165_photo.html ≫


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▽「利物浦日記2008」10
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「利物浦日記2008」10 / Kaz

≪ http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo396.html ≫

【8月24日(日)】

アスプレイズのギグが終わったあと、バンドのメンバー全員を連れてコンヴェン
ション会場へ。
毎年この日にはたくさんのビートルズ関係者がこの場所に招待されるのだが、そ
の誰もが快く記念撮影に応じてくれる。せっかくのこの機会を逃しちゃもったい
ない!

今年のメインゲストであるヴィクター・スピネッティやフィリップ・ノーマンの
姿は見つけられなかったが(もう帰ってしまったのだろう。さすがに時間的に遅
すぎた…)、毎年コンヴェンションに来てくれるロバート・ウィタカーさん
(ビートルズの公式フォトグラファー)、そしてアラン・ウィリアムズさん
(ビートルズの初代マネージャー)と一緒に写真を撮ることができた。よかった
よかった。

バンド&ツアーのお客さんたちと一緒に近くのパブで夕食をとったあと、ひとり
でアデルフィ・ホテルに戻った。
もう9時を過ぎているが、<コンヴェンション>はまだたくさんの人でにぎわって
いる。ホテル内の5ヶ所でライヴが続いているし、ディーラーズ・マーケットも
最近は夜まで楽しむことができるようになった。

会場をぶらぶらしていると、電話が鳴った。
フェスティヴァルのドキュメンタリーを撮影している米国のフィルム制作会社
<Act Naturally Productions>(以下ANP)のアシュレイさんだった。
「カズ、アスプレイズの撮影なんだけど…」
「うん、さっきのギグ撮ってたよ、ジョンとスティーヴが」
「そうなんだけど、ちょっと困ったことになったのよ…」

…なんてことを歩きながら話していると、目の前に携帯電話を耳にあてたアシュ
レイさん本人がいた。お互いびっくり!
と同時に、突然うしろからジョンさんに声を掛けられてまたびっくり。
「カズ、ちょうどよかった! えらいことになってしまった。さっきのギグ、サ
 ウンドがまったく録れてなかったんだよ。どうやらマイクのトラブルで…」
「録れてなかったの!? そりゃたいへんだ」
「何とかならないか。君らのグループで誰か録音してないかな?」
「あーそういえば…たしか録音してたと思うよ。聞いておこうか?」
「悪いけど頼むよ。よろしく」

…という会話をして、ジョンと別れて10歩ほど歩いたら、そこにアスプレイズ組
の1人、Sさんがいた。なんちゅうタイミング。早速事情を話すと…。
「あ、あたし! あたしが録音したんですよ。データも持ってますよ、今ここに
 …ほら!」

そのままSさんを捕まえて、ホテル内のANPの臨時ルームに直行した。
録音機をPCにつないで再生してみると、まずまずの状態で録音できていることが
確認できた。Sさんの許可を得て、その場ですぐにダウンロードさせてあげる。
ジョンもアシュレイさんも喜んでくれた。
「カズ。ほんっとうに助かったよ。ありがとう」
「いやいや、Sさんのおかげですよ。役に立ててよかった」
「それでだね、念のために次のギグも撮影しようと思ってるんだけど、いいか
 な?」
「まだ撮るの? そりゃもちろんいいけど、他にもいいバンドいっぱいいるよ。
 知ってるだろう?」
「もちろん知ってる。でもアスプレイズが気に入ったんだよ。彼らは実にユニー
 クだ。できるだけたくさん撮っておきたい」
「ふうん。まあたしかにちょっと変わったバンドかもね。でも次ミッドナイトだ
 けど、だいじょうぶ?」
「ああ、だいじょうぶだ。ちゃんと照明も立てるし、音声も今度はばっちりだよ」
「そうか、アスプレイズに伝えておくよ。グッドラック!」

● ● ●

Sさんと「よかったねー」と言い合いながら、後片付けの始まったコンヴェンショ
ン会場を歩いていると、今も現役のマージービート・バンド<The Undertakers>
のジェフ・ニュージェントさんにばったり会った。
「うわ、ジェフさんどうも。また会えて嬉しいです」
「おお、お前か。さっきライヴやって来たところなんだよ」
「あ、マシュー・ストリート・フェスティヴァルの野外ステージですよね」
「おおそうだ、観てくれたのか?」
「いや、行けなかったんですよ、すみません。でも明日は絶対行きますよ。いつ
 もの<The Liverpool>ですよね。何時でしたっけ?」
「3時と5時だ。絶対来いよ」
「行きます行きます。ところでせっかくですからこちらのレディと記念撮影でも
 いかがです?」
「おお、もちろんもちろん。さあ撮ってくれ」
「はい、行きますよ〜。あっ! こらっっ! ジェフさん抱きついちゃダメダ
 メ!!」
「はっはは、すまんすまん」
「まったく油断もスキもないんだから…」

泣く子も黙るばりっばりの硬派ロックバンド、アンダーテイカーズの動力源であ
るジェフさんは、ステージを降りてもエナジーとサーヴィス精神のカタマリなの
だ。ジェフさんのイキイキとした笑顔が、僕は大好きだ。

● ● ●

アスプレイズにとってこの日3本目のギグは、深夜0時から。場所は夕方と同じ、
アデルフィ・ホテルのクロスビー・ルームだ。
11時半に着いて、早速PAのじいちゃんに報告。じいちゃんは朝からずっと働きづ
めのようで、さすがに疲れた顔をしているだ。
「アスプレイズ到着です。まさかとは思うけど、オンタイムで進行してます?」
「うんにゃ、遅れとるよ。30分くらいかな」
「ああそう、30分か。まあそれくらい仕方ないよねー」

30分遅れなら、まあ想定内だ。MCがいないにしてはスムーズに流れていると言え
るんじゃないだろうか。
そういえば夕方の我々は、10分早くスタートしたにもかかわらず、結局5分くら
いオーバーして終わったし…。

じいちゃんはさらにこう付け加えた。
「あのな、夕方の君らの演奏、すっごく気に入ったよ。だからウチのバンドの連
 中を呼んでおいた。ほれ、あの辺に」

じいちゃんの指差す先には、フェスティヴァル常連バンド<Persuaders>のメン
バーたちの姿があった。
「うわ、ほんとだ。光栄です。どうもありがとう!」
「みんな楽しみにしとる。がんばってくれよな」

前のバンドが終わるまで、会場のすぐ外で待機することにした。
アスプレイズは例によってたくさんの人に声を掛けられ、写真やサインをねだら
れていた。
僕はといえば、特にすることもなかったので、会場から流れて来る演奏を聴くと
もなしに聴いていたのだが、すぐに引き込まれてしまった。サウンドがすぱっと
切れそうなきらいシャープで、ものすごい迫力なのだ。

プログラムを確認してみると、演奏中のバンドは<Mal Evans Memorial Band>。
オランダからここ数年、毎年エントリーしているバンドだ。名前だけは知ってい
たが、こんなにいいバンドだったなんて…。
ヴォーカルの人は歌専門で、キーボード・プレイヤーがついた6人組。ドラマー
が若くてきれいな女性というのがカッコいい。
しかも演奏する曲がちょっと普通ではないのだ。<Back In The USSR>をロシア語
で歌ったり、リミックス・アルバム《Love》の<Get Back〜Glass Onion><Drive
My Car〜The Word〜What Your Doing>をレパートリーにしているのにはびっくり
してしまった。

特に、女性ドラマーが歌う<Step Inside Love>には個人的にとても感銘を受けた。
ポールがシラ・ブラックに贈った曲で、《Beatles Anthology 3》にはポール本
人のヴァージョンが収められている。もちろんここではシラのヴァージョンで演
奏された。

(つづく)

≪ http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo396.html ≫


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