December 21 2010, No.442
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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         *** http://scousehouse.net/ ***        


□■ INDEX ■□

 ▽フロム・エディター
 ▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」 <Christmas Extra>
 ▽「利物浦日記2009」16
 ▼スカウスハウス・ニュース
 ▽今週のフォト


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▽フロム・エディター
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早いものですね、気がつけばもう、2010年のクリスマス・タイムです。
今週は「ゴールドフィッシュだより」はお休みなのですが、ミナコさんからクリ
スマスらしい写真(トナカイがかわいいです)とメッセージが届きましたので、
<クリスマス番外編>としてお届けします。

それから、今週も「利物浦日記2009」の続きを書きました。今週はフェスティ
ヴァルのハイライトとなるアスプレイズの野外ビッグ・ステージの模様をレポー
トしています。
ハイライトだけあって、かなりのロング・ヴァージョンになってしまいました。
「2回に分けちゃおうかな。いや3回にしてもいいかな…」などと、何度も途中
で挫折しかかったのですが、なんとかがんばってステージの終わりまで書ききり
ました。
うまく伝えられているかどかわかりませんが、ご感想などをいただけるとうれし
いです。

ではみなさん、ハッピーで平和で素敵なクリスマスを。
Tonight's gonna be alright!

                          ― Kaz(21/12/2010)


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▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
          〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

 ― <Christmas Extra> クリスマスに寄せて ―

寒波が猛威を振るっていて、週末には雪が積もり、リヴァプール市内の気温は日
中でマイナス6−7度、夜にはマイナス10度、吹きさらしの海岸沿いではマイナ
ス17度を記録する寒さです。
路面もガチガチに凍結し、交通機関も麻痺していたりで混乱していますが、
ちょっと頑張って外に出てみると、きれいな雪景色が楽しめ、ラッキーならトナ
カイにも会えたりもします。
ようやく冬至が訪れ、あとは日が長くなるのを待つだけです。

温かくして、楽しいクリスマスをお過ごしください!

ミナコ・ジャクソン♪

 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish_ex_photo.html ≫


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▽「利物浦日記2009」16
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「利物浦日記2009」16 / Kaz

≪ http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo442.html ≫

【8月31日(月)】

<マシュー・ストリート・フェスティヴァル>は、世界最大のストリート・ミュー
ジック・フェスティヴァルである。
リヴァプールの街の中心部の、およそ300m四方を囲んで、6つの野外ステージ
を設置、さらにライヴハウスやパブなど80ヶ所のインドア会場でもホットなラ
イヴ演奏が繰り広げられる。

6つのアウトドア・ステージのうち、ヴィクトリア女王像のあるダービー・スク
エアに設けられているのが<ビートルズ・ステージ>だ。ビートルズ・バンドが演
奏するのはこのステージのみ。ほかのステージはそれぞれ別のテーマを冠したプ
ログラムとなっている。

我らがアスプレイズは、これから、その<ビートルズ・ステージ>で数万人のオー
ディエンスに向けて演奏する。
この<ビートル・ウィーク>最高のステージで演奏できるのは、たったの7バンド。
ラインナップに名を連ねることができたのは、まさに快挙というしかない。しか
も彼らは、フェスティヴァル自体も2度目のエントリーなのだ。
聖地・リヴァプールでの超ビッグ・ステージ。ビートルズ・バンドにとっては究
極の晴れ舞台だ。
しかしアスプレイズも僕も、リヴァプールのスカイラインを背景に数万人の群衆
に向けて演奏するということが、果たしてどういうことなのか、実感はなかなか
湧いてこないのだった。

ブルーマーガレッツのキャヴァーン・パブでのギグが終了したのが正午すぎ。
片づけを終えて外に出ると、すでにギグ中に合流していたアスプレイズとマ
シュー・ストリートを出発した。
目指すはタウン・ホール。
アスプレイズのギグは午後2時スタートなのだが、12時半までに、受付手続き
を済ませておかなければならない。そして、受付手続きを済ませたあとは、ギグ
の開始までバックステージに隔離されることになる。<マシュー・ストリート・
フェスティヴァル>は、リヴァプール市の主催であり、野外ステージで演奏する
アーティストには特別な管理体制が敷かれているのだ。

「アーティスト・レジストレーションは、必ずパフォーマンスの1時間半前に済
ませてください。そこでイヴェント・リストバンドをお渡しします。もし時間を
守れなければ、あなたのパフォーマンスはキャンセルとなる可能性があります」

「レジストレーションのあとは、そのままアーティスト専用のミニバスでバック
ステージへ移動します。時間までドレッシング・ルームで待機してください」

その他、楽屋ではアルコールもドラッグも禁止とか、さまざまな注意事項が、A4
用紙4枚にわたって記されていた。これを読む限りでは、かなりお堅い、厳しい
システムのように見受けられる…が、しかしここはリヴァプールである。我々は
レジストレーションに10分くらい遅刻してしまったが、まったく何のお咎めも
なく、ニコニコ顔で受け付けてくれた。

リヴァプールのタウン・ホールは、「市庁舎」と訳されることが多いが、納税課
とか健康保険課があってたくさんの市の職員が机を並べている…わけではない。
レセプション・ホールや会議室やボールルームを備えた、お客さんを迎えるため
のホールで、通常は一般市民が出入りするところではないのだ。

現在の建物が建造されたのは、およそ250年前の1748年。日本で言うと江戸幕
府、8代将軍・徳川吉宗の時代である。外観はおそろしく重厚、内装はため息が
でてしまうほど豪華でエレガントである。2階への階段をのぼりながら、「おれ、
ここにいていいのかな?」という場違い感が頭をよぎった。
アスプレイズはステージ衣装のスーツを着ているからまだサマになっているが、
僕はアロハみたいなシャツにチノパンという能天気な格好なのだ。やれやれ。
まあ、半ズボンにビーチサンダルでなかっただけマシか。そう思うことにしよ
う。

もう少しタウン・ホールについて書いてみよう。
エントランスには、ビートルズの4人の名前を刻んだプレートがある。ここは
ビートルズが世界的なアイドルとなった1964年、リヴァプールに凱旋した際に、
公式のレセプションが開かれた場所なのだ。
ビートルズはリヴァプール空港からこのホールまで車で移動したのだが、およそ
15kmの沿道には、まるでマラソンや駅伝を見守るように、ローカル・ヒーロー
をひと目見ようと、市民が途切れることなく並んだそうである。そして、タウ
ン・ホールの前のキャッスル・ストリートは数万の群衆でびっしりと埋まり、
ビートルたちはレセプションを主催した市長らとともに2階のバルコニーに出て、
彼らの声援に応えたのだ。
ワーキング・クラスの悪がきどもが、リヴァプール市きっての名士となった瞬間
といえるかもしれない。

さて、タウンホールの2階にあるフェスティヴァル主催本部でにこやかにレジス
トレーションを済ませた我々は、もちろんバルコニーに出てみた。そしてアスプ
レイズに、45年前にビートルズが観たであろう光景を想像しながら、手を振っ
てもらった。
フェスティヴァルの最中なので人通りは多く、こちらに気がついた人が、あちこ
ちから手を振り返してくれる。
バルコニーの真正面、遥か向こうには、ダービー・スクエアのビートルズ・ス
テージが見える。今はブラジルのバンドが演奏中のはずだが、小さすぎてモニ
ター・スクリーンでさえ確認することができない。あと1時間あまりで、アスプ
レイズはあそこに立つことになる。

アーティスト用の受付カウンターの横にはグッズ売り場があって、フェスティ
ヴァルの記念オフィシャル・グッズがすべてそろっていた。あんちゃんが、記念
Tシャツにアスプレイズの名前がプリントされているのを発見。もちろん全員が
購入した。

奥のレセプション・ルームではコーヒーやお茶や軽食のサーヴィスがあった。
「どうぞゆっくりして行って」とスタッフの人にすすめられたが、アスプレイズ
は断った。こんなところでゆっくりしている場合ではないのだ。早く会場に入っ
て、楽屋で静かに、これからのステージに集中したいのだ。

専用のミニバスに乗り込み、マージー河沿いのストランドを通って、ダービー・
スクエアの裏手に到着。一般の人は入れないエリアだ。そこからスロープをの
ぼって行くと、そのままステージの真裏に出た。大きな音でビートルズが鳴り響
いている。空が広い。午前中はくっきりした晴天だったが、徐々に雲がかかって
来ている。それでもまだじゅうぶんに明るい。そしてダービー・スクエアは、こ
こからでは一部しか確認できないが、鈴なりの群衆で埋まっているようだった。

楽屋の前で、公式カメラマンがアスプレイズを撮影。そして中に入って準備に取
り掛かったと思ったら、<アクト・ナチュラリー・プロダクション>のジョンとス
ティーヴが顔を見せた。もちろんジョンは撮影カメラを回している。

「やあカズ、待ってたよ」
「なんだ、スティーヴ。ここにいたのか。アスプレイズ撮ってくれるの?」
「ああもちろん。これからインタヴューしてもいいか?」
「いいよ、テキトーな通訳でよければ」
「構わんよ。フィルムにするときはアメリカでちゃんとした通訳に頼んで字幕つ
くるから」
「そうだったね。でもスティーヴ、今ステージで<リヴォルヴァー>が演奏中だよ。
あっちはいいのか?」
「いい、いい。だって俺たちはアスプレイズを撮りに来たんだから」
「そうか、ありがとう。でもほんと好きだねえ。アメリカに連れて帰ったら?」
「ははは」

というわけでアスプレイズのインタヴューを収録。ジョンとスティーヴは<ビー
トル・ウィーク>のオフィシャル・ドキュメンタリー・フィルムを製作中だ。去
年も来ていたので、2年分のストックの中から編集するのだろう。そしておそら
く、アスプレイズはそのフィルムの中で、かなりフィーチャーされるはずだ。

インタヴューのあと、アスプレイズには楽屋でゆっくりしてもらうことにした。
といっても、プレハブの楽屋には質素なイスと机があるだけだ。とても落ち着
いていられる環境ではない…。
ステージからのサウンドや群衆の喧騒が響いてくる。本番まで20分と少し。さ
すがにみんなナーヴァスになっている。こんなビッグ・ステージで緊張しないほ
うがおかしいわけだけど。

昼ごはんとして僕が調達していた<サブウェイ>のサンドウィッチは、ユウキだけ
は普通に平らげたけれど、久保さんとレニーさんは半ば強引にお腹に入れていた。
あんちゃんは袋から出すこともしなかった。緊張のせいかもしれないし、集中の
妨げになると考えたからかもしれない。あるいはその両方か…。

MCのニールがやって来た。キャヴァーンの名物DJの彼は、今日1日、この<ビー
トルズ・ステージ>の司会担当なのだ。

「イエーイ、カズ、元気か?」
「うん。君ほどじゃないけどね」
「はは。アスプレイズはオーケーか? ステージは時間通りだ。1時45分に終
わる」
「うん、オーケーだよ。問題ない。ところでニール、君んちのニシキゴイは元
気?」

何年か前に、ニールは家の庭に池を作って錦鯉を育てていると言っていたのだ。

「ニシキゴイか。いや、もういないんだよ」
「ありゃ、もういないの?」
「ああ。池もつぶしちゃったんだ。庭にどーんと芝生を引いて、パーティーがで
きるようにしたんだよ。しょちゅうやってる」
「パーティー? 好きだねえ。ほんでニールはそこでもDJをやるのか?」
「ん、まあね」
「仕事でDJやって家でもDJやるのか?」
「うん、まあね」
「ほかにすることないのか?」
「るせえ、大きなお世話だよ!」

などとくだらない話をしている間に<リヴォルヴァー>の終演が近づき、ニールは
あわててステージに戻って行った。

1時45分。予定通りに<リヴォルヴァー>のステージが終了。大舞台を無事に終
えた彼らへのねぎらいもそこそこに、アスプレイズが<ビートルズ・ステージ>に
上がった。もちろん僕も一緒だ。
ステージの背景には、3つの巨大なバナー広告が貼りつけられていた。真ん中に
主催者であるシティ・オブ・リヴァプールのバナー、そしてその両脇に、発売間
近のゲームソフト<ビートルズ・ロックバンド>のバナーだ。今年はEMIとアップ
ルが、<ビートル・ウィーク>および<マシュー・ストリート・フェスティヴァル>
のスポンサーに名を連ねているのだ。これは特別なことと言っていいだろう。

しかし、ステージの背景に感心している場合ではない。反対に向き直ってみて、
僕はちょっとビビってしまった。ステージの上からの眺めは、まったく信じられ
ないほどの絶景だったのだ。
広いダービー・スクエアは隅の隅まで人、人、人で埋まっている。昼間の野外コ
ンサートなので、人々の顔や表情がくっきりと目に飛び込んでくる。誰もが、こ
れから始まるアスプレイズのステージを、今や遅しと待ってくれている。正面の
ずっと向こうに、先ほどバルコニーで手を振ったタウン・ホールが見える。ここ
とタウン・ホールを結ぶキャッスル・ストリートにも人間の海が広がっている。
いったい何万人の人間がこっちを向いているんだろう…。

ステージのいちばん前に出て、写真を撮ってみた。僕がカメラを構えているのに
気がついた人々が、こちらに向かって手を振ってくれる。そしてそれは徐々に、
波のように広がって行く。みんなの笑顔が素敵だ。

アスプレイズがサウンドチェックをしている間にニールと打ち合わせ。
何の打ち合わせかというと、ニールはこの大観衆に日本語でコールさせたいらし
い。
「カズ、なんかシンプルな文句ないか?」
「う〜ん、ありがとうじゃ言いにくいよね。がんばれーはもっと難しいし…」
「サンキューとかハローみたいなのでなんかないのか?」

一瞬「まいど」とか「おおきに」にしようかと思ったが、もう少し無難なものに
することにした。

「ならニール、どーも、で行こう。サンキューの意味もあるしハローの意味もあ
る。憶えやすい」
「いいね。よっしゃ。ドーモ、ドーモ、ドーモ、だな」
「そうそう」

アスプレイズのサウンドチェックが終わった。予定の2時にはまだ時間があるが、
ニールに合図する。
フェスティヴァルのナンバーワンDJが、数万のオーディエンスにアスプレイズ
を紹介する。まずは「ドーモ、ドーモ、ドーモ」の掛け声を群衆に強要。数万人
による「ドーモ」コールが湧きおこった。調子に乗ったニールは、今度は恒例の
「リヴァプールへ、ヨウコソ」をみんなに言わせる。それにつなげて、まずスポ
ンサーへ、そしてPAなどの裏方スタッフやステージ・マネージャー(…って僕
のことだ!)、公式フォトグラファーへの「ビッグ・ノイズ」をオーディエンス
に要求。全体がわーっと盛り上がったところで、こう叫んだ。

Please! Give'em a big Liverpool welcome, all the way from Tokyo Japan...
The Aspreys!!

アスプレイズが1曲目に選んだのは<All My Loving>だった。2曲目は<From Me
To You>、さらに<Dizzy Miss Lizzy><Hippy Hippy Shake><Sweet Little
Sixteen><Can't Buy Me Love>と続く。

このコンサートについて、なんと書いたらいいのだろう…。
月並みな表現になるが、夢のような45分だった。それはきっと、アスプレイズ
の4人にとっても同じだろう。
ステージに上がる前は緊張していた彼らだったが、いざスタートしてしまえば、
普段どおり、いや、普段よりも堂々と演奏していた。オーディエンスの様子を
じっくりうかがう余裕もあったし、何よりもこのアトマスフィアを存分に味わお
う、楽しもう、という気持ちが表れていた。「一生に一度あるかないかの経験な
んだから、まず自分たちが楽しもう」と思ったのかもしれない。
この究極の場面でそう思えること自体がすごいことだし、そう思ってもやっぱり
アガってしまうのが普通のバンドだ。アスプレイズはなんでこんなにのびのびリ
ラックスできるんだろう…。

単純に、気持ちよかったのかもしれない。
思い切りパフォーマンスすることが。
アンプリファイアで増幅されて大音響となった自分たちのサウンドが、リヴァ
プールの空にすい込まれて行くのが。
自分たちのリズムが、数万のオーディエンスのハートをビートするのが。
自分たちのシャウトが、リヴァプールの街をシェイクするのが。

とびきりの笑顔でドラムを叩くあんちゃんの横で僕は、アスプレイズとオーディ
エンスとリヴァプールの空を順番に眺めながら、「気持ちいいなあ、よかったな
あ」と、なんだかなごんでしまった。左手に見えるヴィクトリア女王もきっと喜
んでいることだろう。

ステージは快調に進む。
<Chains><I Feel Fine><You Can't Do That><Eight Days A Week><I Wanna Be
Your Man><She's A Woman><Slow Down><I Saw Her Standing There>、そしてラ
ストに<Long Tall Sally>。

しかし快調に進みすぎたようだ。ユウキが<Long Tall Sally>を歌い始める前、
ニールに、「これで最後だけどアンコールの時間どう?」と訊いてみたところ、
「カズ、ちょっと進行早いし次のバンドもまだ来てない。20分くらいやってい
いぞ」との答え。つまりアンコールとしては5曲できるわけだ。彼らが事前に用
意しているのは、<Please Please Me>1曲のみだが、あと2〜3曲は増やしてい
いかもしれない。

<Long Tall Sally>終了。
アスプレイズのお別れの挨拶は、聴衆からは当然ながら受け入れられず、アン
コールを求める盛大なコールが湧きおこった。
あんちゃんが僕を見る。すかさず指を4本出す。「4曲!」
あんちゃんは即座に「無理!」と叫んだ。「もう限界。1曲だけしか無理!」
「じゃあ3曲!」
僕もいじわるだなあ…いや、いじわるなんじゃなくて、せっかくのステージなん
だから1曲でも多くやってほしいのだ。
「ダメ!」とやっぱりあんちゃん。
「じゃあ2曲!」
「……」
ということで、2曲になった。
あんちゃんが前の3人にそれを伝え、何を演奏するかを相談。久保さんがマイク
で「ちょっと待ってね。ミーティング、ミーティング!」と言ったら大ウケにウ
ケていた。

アンコールは、1曲目に<Roll Over Beethoven>、2曲目に<Please Please Me>
となった。これでほんとうに終了。夢のステージが終わった。

ニールがステージの上でアスプレイズをねぎらい、観衆は惜しみない拍手と歓声
を彼らに送った。僕は彼らの後ろから、この感動的なシーンをカメラに収めてい
た。
そして、アスプレイズが聴衆に手を振って後ろを向いた途端、ニールは僕を手招
きする。

「カズ、こっちこっち!」
「え? おれ? だめだめ! だめだって!」
あわてて手を振る。まるでさっきのあんちゃん状態である。因果応報とはこのこ
とか…。
もちろんニールが許してくれるはずはなく、強引にステージの前に引っ張り出さ
れてしまった。聴衆もなんだかもりあがっている。
ニールはいつものように、「こいつがカズで、毎年、毎年、素晴らしいバンドを
遠い日本から連れて来る。拍手してやってくれ。それかもうひとつ。カズのカン
パニーの名前はサイコーなんだ。スカウス・ハウスっていうんだぜ!」などと自
慢げに僕を紹介する。
僕はだらしなく照れ笑いをして、ちょっと手を振るのがやっと。でも、リヴァ
プールの人々の拍手や歓声のあたたかさは、しっかりと心に刻んだ。

ステージを降りるとすぐに、ニールが僕のところにやってきた。
「ニィ〜ルゥ〜〜!」と恨めしそうに呼ぶと、彼は珍しく真顔で僕にこう言った。
「カズ、お前には悪いけど、あれでいいんだ。リヴァプールの人間はお前に感謝
しないといけない。お前のことを誇りに思わないといけないんだよ。俺はぜった
いそう思う」
「…そうか、うん、ありがとう、ニール」
ニールの気持ちがうれしかった。でも…。

楽屋に入ると、興奮冷めやらぬアスプレイズがいた。
みんな、でっかい仕事をやり遂げた充実感でいっぱいの輝いた顔をしていた。
ひとりひとりとがっちり握手。

あんちゃんの言葉が印象に残っている。
「カズさん、長いことやって、いろんな経験をしてきたつもりだけど、今日のこ
のステージは、間違いなく、生涯最高の体験だった」

レニーさんは少しひねって、こう表現した。
「冥土のみやげができましたよ」

ニールにもあんなこと言われたし、アスプレイズの4人にも口々に感謝された。
ありがとう、ありがとう、ありがとう…。
でも、僕が実際にやったことって、彼らに比べればぜんぜんたいしたことじゃな
いのだ。ブッキングをして、ただステージの横で観ていただけなんだから。
ニールもアスプレイズも、最高のエンターテイナーだ。彼らのおかげで僕もハッ
ピーになれるし、今日のような、夢みたいな体験もできる。だから感謝しないと
いけないのは、僕のほうなのだ。

どうもありがとう、チアーズ、メイツ!

(つづく)

≪ http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo442.html ≫


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▼スカウスハウス・ニュース
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フが、日本とリヴァプールの両方に常駐しています。入学前はもちろん、入学後
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http://scousehouse.net/beatles/guide_liverpool.htm
http://scousehouse.net/beatles/guide_london.htm 


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NLWでは、読者のみなさんからの投稿を募集しています。
旅行記、レポート、研究、エッセイ、写真などなど、リヴァプール、あるいは英
国に関するものなら何でも歓迎です。
お気軽にお寄せください。楽しい作品をお待ちしています。


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*** 今週の「ゴールドフィッシュ」フォト ******

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http://scousehouse.net/goldfish/goldfish_ex_photo.html


*** 今週のフォト・アルバム ******

「利物浦日記2009」に関連した写真を掲載しています。Zooさん、ミナコさん、
ご提供ありがとうございました!
http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo442.html 


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