December 24 2013, No.571
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リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World  
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     *** http://scousehouse.net/ ***


□■ INDEX ■□

 ▽フロム・エディター
 ▼寄稿:「まさかのナショナルダービーへ!」(5)
 ▽ウエルカム・バック The Fab Faux!!
 ▼スカウスハウス・ニュース
 ▽今週のフォト


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▽フロム・エディター
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NLW No.571です。
2014年の《International Beatleweek》の詳細が決まり、主催するキャヴァー
ン・クラブの公式サイトでリリースされました。
 http://www.cavernclub.org/ 

来年の目玉は、リヴァプール・タウン・ホールでのレセプションです。
1964年7月、世界的な大スターとなったビートルズが故郷に凱旋した際に数万の
群衆に向かって手を振ってからちょうど50年。この歴史と伝統のある場所で
ビートルウィークのイヴェントが開催されるのは今回が2回目なのですが(たぶ
ん)、豪華なボールルームで行われるセレモニーやライヴ演奏が今から楽しみで
す。

あ、そういえば前回の2001年はワインのフリードリンク・サーヴィスがあって、
ビートルズ初代マネージャーのアラン・ウィリアムズさんが腰を据えて呑み続け
ていたことを今、思い出しました。去年も今年もビートルウィークではアランの
姿を見てなくてちょっと心配…元気だといいなあ。

しばらく外されていたロイヤル・コート・シアターでのライヴが復活したのも嬉
しいニュースです。そして、それにあわせるようにニューヨークのトップ・
ミュージシャンによるビートルズ・バンドThe Fab Fauxのカムバックがアナウ
ンスされています。日本にもファンの多いウィル・リー率いるファブ・フォーは、
僕の個人的な「世界ナンバー1ビートルズ・バンド」で、ビートルウィーク登場
はなんと9年ぶり! これは何があっても観に行かなければなりません。日本の
バンドのギグを放り出してでもロイヤル・コートに駆けつけ……というわけにも
いかないので、その時間は日本のバンドのギグを入れないようにしようと思って
ます。

このフェスティヴァルの日本版観賞パッケージ「スカウスハウス・ツアー」は、
現在企画準備中です。
年明けに参加者の募集をスタートしますね。どうぞお楽しみに。
ぜひぜひ、リヴァプールでお会いしましょう!

● ● ●

今週号では、「ウエルカム・バック The Fab Faux!!」として、2003年にロイヤ
ル・コートで行われたファブ・フォーのコンサート(ホワイト・アルバム全曲演
奏!)のレポートをお届けします。NLW No.115とNo.116に掲載したものの再録
です。
2003年といえばちょうど10年前…早いものですね。この夜のことはよく覚えて
います。今思い起こしてみても、信じられないくらいに素晴らしいコンサートで
した。今年の夏も期待したいです。

● ● ●

さて、2013年ももうすぐ終わりです。
NLWも今号が今年最後となります。1年間ありがとうございました。
この1年での発行号数は36。途中から隔週刊に変更したので、やはり少ないです
ね。毎号の中身もずいぶんとスリムになってしまっています。楽しみにしてくだ
さっているみなさん、ごめんなさい。
個人的に今年はほんとうに苦しい1年でした。年が変わったからといって状況が
良くなるというものではないですが、来年は復活できるようがんばりたいです。

よいクリスマスと新年を。

                         ― Kaz(24/12/2013)


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▼寄稿:「まさかのナショナルダービーへ!」(5)
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「まさかのナショナルダービーへ!」 / Anne

≪ http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo571.html ≫

■第11話《初めてのマンチェスター》■

チェックインの時間を目指してマンチェスターに向かうことにします。
ナホさんはお子さんがいらっしゃるお母さんです。
「そんなに引き止めちゃダメですよね (⌒o⌒)b」
「それにイングランドの冬は暗くなるのが早い!」
私もチェックイン後にはホテルの近所をウロウロして夕食の買い出しがあります。
「初めてのマンチェスターだもん!」
「明るいうちじゃないと初日は不安 (^^;)」
「地図上ではホテルの前にはスーパーがあるはずなんだけど!」
そんな事情であまり暗くならないうちに移動をすることにします!

ライムストリート駅に戻って電光掲示板を見ると15分後位にマンチェスターピ
カデリー駅に行けるのがありました。
「終点じゃない電車ってちょっと心配 (~_~;)」
「でも、マンチェスターピカデリー駅なら大きいからきっと分かるよね!」
不安だったけれど、15分後の列車にすることにして、スーツケースを預り所で
受け取ります。
「チケット売り場でマンチェスターへの乗車券を買うぞ( ̄^ ̄)」
実はまだ一度も自分で乗車券を購入したことが無かったんです。
『マンチェスターピカデリー』と『one way』が言えたら買えるんですけどね。
「挑戦って程じゃないか(´▽`;)」
「でも初めてだから緊張する ((+_+))」
ナホさんが見守っていてくれました(笑)

乗車券も無事に買うことが出来て、ナホさんともお別れの時です!
急にこの旅が決まった時には、ナホさんも泊めてくださるとの申し出があったん
です。
「試合観戦がオールドトラッフォードなのよね!」
「マンチェスターの街も初めてだから観光してみたい!」
そんな訳でご厚意をお断りして、マンチェスターに宿泊することに決めました。
「突然訪ねることにしたのにお付き合いして頂いてありがとう (^人^)」
こうして現地でお会い出来る友達がいるって、旅がとても楽しみになります。

「乗車はホームと時間が分かれば簡単!」
電光掲示板をもう一度チェックしてホームに向かいます。
スーツケースは車両の入口辺りに置き場があります。
「スーツケースの近くの席に座ろう!」
車両の出入り口近くの座席に座って外を眺めています。
「マンチェスターに行く列車ってローカル線だよね!」
「へえ! コーヒーなんかも売りにくるんだあ (゜o゜)」
特急でもない列車でコーヒーを売りに来るのって驚きです。
「終点じゃないから駅をチェックしなきゃ!」
「見逃すわけにはいかないよ!」
「車内放送は聞き取れないもんね (~_~;)」

駅に停車すると、ちょうど座っていた場所は駅名の書かれた看板の位置!
「やったね!」
「これなら心配ないよね (^。-)」
安心して眺めていると、外の景色が変わってきました。市街地に入って行ってい
るようです。
「そろそろのはずだよね?」
列車は最初の大きな駅のホームに入りました。
「駅名が書かれた看板が目の前じゃない (゜o゜;;!」
「ヤバい (゜□゜)!」
慌てて辺りを確認するけれど駅名が書かれているものが見えません。
「最初の大きな駅だからオックスフォードロードステーション?」
「それってピカデリー駅は次ってこと (°◇、°?」

「落ち着いているわけに行かないじゃない!」
上着を着て手荷物を持ってスーツケース置き場へ向かいます!
「確かオックスフォードロード駅はピカデリー駅までそんなに距離がないは
ず (゜〇゜;)」
列車は間もなく次の駅のホームに入って行きました!
「駅名が見えない〜 (゜□゜)」
「仕方ない! 周りの方に確認しなきゃ(×。×)」
「間違えると言葉が分からない分修正が難しい!」
現地の方に尋ねて確認するのが一番なんです!
「ふっー ('〜`;) 支度していて良かった!」
手荷物とスーツケースを重そうに抱えて降りようとしていると、初老の男性が手
を貸してくださいました!
「必至だったのが伝わっちゃったのねー (^。^;)」

無事にマンチェスターピカデリー駅に下車出来て良かった。
「さあどっち (°.°;)?」
とにかく広〜い広〜い駅です!
「タクシー乗り場を目指さなきゃ!」
ホテルはピカデリーガーデンの前にあります。
「そこはトラムで一駅なんだよね!」
一駅ってことはタクシーで行っちゃうことにしました。
マンチェスターはピカデリーガーデンズ駅にトラムの路線が集まっています。
市街地図を確認するとピカデリーガーデンズ駅の方が街の中心地って感じです!
「デパートやショッピングセンターもこちらに揃っているんですよ(^◇^)」

タクシー乗り場を探すだけでかなりの時間のロスをしてしまいました。
「出口はこっちね! スーツケースを引いているからリフトを探さなきゃ!」
「リフトに回らなきゃならないのは面倒よね!」
「一旦上ったら出口はまたあっち ('o')?」
「上がって来たのに今度はスロープで下がるの?」
「これって別のホームに来たんじゃん (°_°?」
「出口はまだ?」
「またリフトで下がるんだあ (*_*)」
「大きなアーケード街に出ちゃった!」
「さすが! 大きな駅ね!」
「アーケード街でたくさんショッピングも出来るんだあ!」
「出口に到着 ( ^^)/!」

「あれ! 外に出たのにタクシー乗り場がない (/_;)/」
「タクシー乗り場ってどこようー (?。?")」
「仕方ない! 戻ろう (>_<、)」
「頭の上の表示をもう一度しっかり見直さなきゃ!」
アーケード街をリフトまで戻ってやり直しです!
やっとのことでタクシー乗り場の表示を見つけてたどりつきました。

ピカデリー駅構内も広いし、ショッピングが出来るアーケード街も大きな駅です。
何と言ってもホームから別のホームに移動があることに驚き。
そのホームを渡った先が出口だったりで訳がわかりません。
「ライムストリート駅とは複雑さが全然違います(´`d)!」


■第12話《チェックインして界隈をウロウロ》■

ホテルはピカデリーガーデンズの前を選びました。
とても賑やかな通りに面している大きなホテルです。
「街をウロウロしても迷わず帰れそうだもんね(⌒^⌒)b」
「迷子になっても場所を尋ねやすいし!」
通り沿いにはパブがあって、シングルの予約で1階の部屋になると夜中にうるさ
いのは納得。
「シングルの予約は気を付けてくださいね (^_^)」
私はいつものように早めにダブルのお部屋を予約なので5階でした。

「チェックインも何回も経験しているから大丈夫だよね!」
「えっ! チェックインなのに、『Window』って単語が聞こえてきたよ (゜-゜)」
「気のせいじゃないよねえ!」
「何を聞かれたの?」
「想定外だよー (→o←)」
私がきょとんとしているからフロントの方は諦めたようです!
「答えを諦めたってことは別に大したことじゃなかったのね (^。^;)」
それ以外はいつも通りサインして、インターネットを使うためのIDやパスワー
ドも確認。
エレベーターに乗って5階に行きます。

「部屋はリーズナブルな割には広いね!」
クローゼットも広くて使いやすそうです!
「あれっ?」
「分かった! さっきの『window!』の意味!」
「壁に窓がない!」
「外はもう暗いから光の入る場所が分かりません ('〜`;)」
キョロキョロすると部屋の奥の方にカーテンを見つけました。
「この部屋は天窓なんだあ!」
「たしか、どちらがいいか聞かれたと思うんだけど・・・」
「窓のある部屋がいいかどうか聞かれたんだね (;^_^A」
「そんなの想定外だよ!」
「まあ昼間は部屋にいないからいいけど・・・」

「外は暗いけれど、まだ遅い時間じゃないからピカデリーガーデンズの駅の周り
を散策しよう!」
ホテルの前の通りはバスやタクシー、そしてトラムが行き交っていてかなり賑や
かです。
「交通量が凄い!」
「まさにマンチェスターの中心ね ヽ(^。^)/」
ピカデリーガーデンズはトラムの駅側に広い公園があります。
休日にはここでフリーマーケットもあるとの情報を見つけていました。
「このホテルを選んだ理由にそれもあるんだよね!」
「ショップのことも忘れていませんよ (^。^)!」

公園の反対側はスーパーマーケットやカフェが並んでいます。
「スターバックスだあ!」
「マークスアンドスペンサーやテスコも!」
「コンビニのようなスーパーAも並んでいる!」
「調べた通り24時間営業!!!」
「やったー d=(^o^)=b!」
「やっぱりヨーロッパと言っても今はそういう時代だよねー!」
「これでビールも毎日心配いらない ヾ(´▽`;)」
早速テスコでビールとワインとサラダを買って帰ることにしました。
「朝はフルーツを一杯頂けるぞ!」

ここにはハンバーガーショップもあります!
今回は必要ないけど郵便局も雑貨屋さんの奥に見つけました。
トラムが3路線止まって、これだけバスも走っていたらなんでもありますよね。
「タクシー乗り場もホテルの前! 帰りも安心だね!」
朝8時にマンチェスターに到着してリヴァプールでランチ!
「今日は充実していたから、何だか初日って感じがしないよ(^0^)」
「明日はオールドトラッフォードにも行く予定!」
「今夜はゆっくり旅の疲れをとることにしましょ (*^-^*)ゞ」

(つづく)

≪ http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo571.html ≫ 


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▽ウエルカム・バック The Fab Faux!!
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<ビートル・ウィーク 2003 レポート(その2&3)>

「快楽、興奮、緊張、そして安堵 〜 The Fab Faux at Royal Court Theatre 」
        (2003年8月25日・月曜日)  -------------------------

ビートル・ウィークには毎年、世界中から何十組ものビートルズ・バンドがやっ
て来る。
「最高のバンドはどれ?」と毎年いろんな人から訊かれるけれども、ここ数年間
僕の答えはいつも一緒だし、これからもたぶんそうだろう。

ファブ・フォー(The Fab Faux)だ。
とにかく上手い。信じられないくらいに、圧倒的に、上手い。
5人のメンバー全員がニューヨークで活躍するトップ・スタジオ・ミュージシャ
ンで、特にリーダーのウィルは、ジョン以外のビートルズ全員のレコーディング
に参加した経歴を持ち、ソロ・アーティストとしても知られている。だからまあ
上手いのは当り前といってしまえばそれまでなのだが、プロ中のプロである彼ら
が心から楽しみにしているギグが、このビートル・ウィークのステージなのだ。

2年ぶりの登場となる今年のビートル・ウィーク。待ち焦がれていたファンも多
いことだろう。
ファブ・フォーに用意されたステージは3つあったが、僕は最初の2つには行け
なかった。しかし最後の1つだけはしっかり観に行った。マシュー・ストリー
ト・フェスティヴァルの日の夜に、ロイヤル・コート・シアターで行われたコン
サートだ。毎年のことだけれど、この日のこの時間、この会場で行われるコン
サートが、ビートル・ウィークの全プログラムの中で最もメインのものとなる。

会場に入ると、すでにショウは始まっていた。
「ディア・プルーデンス」。続いて「グラス・オニオン」。
この時点で「ああ、ホワイト・アルバムを演るんだな」と分かったが、2枚全部
なのか、それとも1枚だけにして残り半分の時間は別の構成にするのか、という
ことが問題だった。できれば後者にしてほしかった。疲れた体でホワイトアルバ
ムを全部聴くのは、ちょっと重いような気がしたからだ。でもまあそれならそれ
で仕方ない。どのみちD面の「レヴォリューション9」はカットされるだろうか
ら、その分アンコールは長くなるはずだ。初期のナンバーをたくさん聴くことも
出来るかも知れない。

このバンドがユニークなのは、そのルックスからは、ビートルズのトリビュート・
バンドだということがまったく分からないところだ。誰もビートルズ・スーツな
んか着ていないし、5人のうち2人はカッコいいけれど、あとの3人はハゲかデ
ブかその両方か、というありさまだ。演奏のスタイルはもちろん素のままだし、
ドラム以外の楽器や、ヴォーカルの役割分担はイレギュラーで、まったく自由だ。
つまり、ジョン係もポール係もジョージ係もリンゴ係も存在しない。曲によって
リード・ヴォーカルや楽器が変化自在に入れ替わる。

そして、そういったスタイルで奏でられるサウンドは、まぎれもなく「あの音」
なのだ。ビートルズなのだ。「似ている」とか「そっくり」とか、そういうレ
ヴェルを超えている。分かっているつもりだったけれど、やっぱり思ってしまっ
た。「これは一体どういうことなんだろう??」と。

その答えは1つしかない。上手いのだ。細部にわたるまで全てが、パーフェクト
な正確さでもって演奏されるからなのだ。ヴォーカルでさえ、音程と発音と発声
がおそろしく正確なために、どの曲も不思議なほどオリジナルと同じに聴こえて
しまう。

つまり、個人個人がスーパーな演奏技術と歌唱能力を持ち、バンドとしてのアン
サンブルが完璧であれば、「似せよう」と一生懸命努力する必要はないのだ。し
かし言うまでもないが、それが最も難しい。ここまで出来るのはファブ・フ
ォーだけだろう。逆に言うなら、演奏技術が完璧でない普通のバンドは、ルック
スやステージでの仕草などで擬態するしかないのだ。こういうことは、ファブ・
フォーが出現するまでわからなかった。しかも彼らが本当の意味でスーパーなの
は、「正確に演奏する」ということが到達点ではなく、出発点であるところだ。
リアルで自然なグルーヴと、パワフルで生き生きとしたパフォーマンスがそれを
証明している。そう、ファブ・フォーの5人は心底楽しそうに演奏するのだ。飛
び跳ねたり寝転がったり客席に飛び込んだりしながら。

誤解を恐れずに言ってしまえば、ファブ・フォーのステージは、レコードの中の
ビートルズを超えている。ビートルズよりも上手くてアンサンブルも完璧なバン
ドが作り上げる、究極のエンターテイメントなのだ。もちろんそれは、「ビート
ルズへのリスペクト」という隠し味が利いているからこそ、なのだが。

そういうことをつらつら考えているうちに、B面最後の曲である「ジュリア」が
終わり、休憩に入った。1曲ずつ紹介する暇がなかったが、全部がハイライトと
いってもいいくらいだった。「正確で完璧な演奏は快楽である」と思い知った40
分間だった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

休憩が終わり、後半が始まった。やはり、ホワイト・アルバムの続きだった。
ファブ・フォーは相変わらず絶好調だ。1曲目の「バースデイ」から全開で、
ウィルのジャンプと共に、我々の意識もぴょんぴょんと飛び跳ねる。次の「ヤー・
ブルーズ」も思いっ切りハードで、我々はみんな躁と鬱、あるいは、絶望と狂気
の渦の中に放り込まれて、ぐるぐると引きずり回されるような気分。3曲目の
「マザー・ネイチャーズ・サン」でやっとほっとひと息つくことができたが、し
かし次は「エヴリバディーズ・ガット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・
ミー・アンド・マイ・モンキー」だ。我々は再びグラグラ煮えたぎったロックの
鍋に放り込まれる。

そして「セクシー・セディー」でうっとりさせられたのも束の間、今度はとどめ
とばかりに「ヘルター・スケルター」だ。グループでいちばん小柄なジャックが、
余裕たっぷりにヴォーカルを取っている。信じられないことに、あのポールの
シャウトにまったく負けていない。他の4人が演奏とコーラスで嵐のようなサ
ポート。まるでジェットコースターに乗せられたような気分。会場は興奮の坩堝。
「うおーっ」とか「ギャーッ」とか叫んでいる人もいる。僕は叫ばなかったけど、
その気持ちはよくわかる。演奏中ジャンプしっぱなしだったウィルが、「つま先
にマメができちゃったぜ!!」と叫んで、エンディングを締めくくった。こんな
にスリリングでワイルドな「ヘルター・スケルター」は初めて聴いた。呆然とし
ながら、C面最後の曲「ロング・ロング・ロング」を聴く。

続けてD面のトップの「レヴォリューション1」。ジョンがそうしたように、
ウィルが寝転んで歌う。続いて「ハニー・パイ」、そして「サヴォイ・トラッフ
ル」ではブラス隊が登場。そして「クライ・ベイビー・クライ」が終わると、お
や? ステージに譜面台のようなものや椅子が並べられる。会場がざわめく。
僕も思わず、「まさか…。や、やるの???」と声に出す。

椅子に座りながらウィルが、「さあてと、恐怖の時間がやってきたぞ」と呟く。
やっぱり、やるのだ。「レヴォリューション9」を。しかしどうやって…?? 
我々の心配をよそに、ピアノの伴奏とウィルの「ナンバーナイン、ナンバーナイ
ン、ナンバーナイン…」の呟きで、「レヴォリューション9」が始まった。
ステージの上にいるのはたったの5人。その5人が、声、楽器、その他のものを
駆使して、ビートルズが36年前にコラージュしたサウンドをひとつひとつ丹念
に辿って行く。ビートルズの、いやジョン&ヨーコのインスピレーションへの挑
戦と言えるかもしれない。もちろんこの会場にいる人間は、「レヴォリューショ
ン9」を何十回も何百回も聴いてきている者ばかりだ。だからみな、この挑戦が
どれほど難しいものであるかをよく知っている。無謀と言ってもいい。誰も、
まさか生でこの曲が演奏されるのを聴く日が来るとは思わなかっただろう。ホー
ル全体が緊張に包まれる。客席の全員が固唾を呑んでステージの上の5人を見守
る。
さっきまでの興奮は完全に吹っ飛んでしまった。

ファブ・フォーの5人はもちろん、オーディエンスもおそろしいほど曲に集中し
ている。人間の呟きやうめき声や笑い声、オーケストラの演奏、オペラ、クラク
ション、燃える火、マシンガン、パレード、スイッチ、シンバル、歌、拍手や歓
声、テープの逆回転…それらの音やメロディーの断片が複雑に絡み合い、現れて
は消えて行く。無秩序な音の群れのはずなのに、耳に届く時には、不思議とそれ
はちゃんとした音楽として聴こえる。

曲が進むにつれ、ある種の高揚感のようなものが立ちのぼってくるのが見えるよ
うな気がした。おそらくこの場所にいる全員が、今まさに偉大な瞬間を共有して
いることを自覚している。

「ホールド、ザ、ライン!」、「ブロック、ザット、キック!」というフットボー
ル場のシュピレヒコールが繰り返され、無事「レヴォリューション9」が完成し
た。あっという間だった。もちろん全員がスタンディング・オベーションでファ
ブ・フォーをねぎらった。僕も、鳥肌を立てながら拍手をした。まだ信じられな
い気持ちだった。

そしてアルバム最後のナンバー、「グッド・ナイト」が歌われた。
ホーンとストリングスが3人ずつ加わった。ハープも登場。リッチでエレガント
な「グッド・ナイト」。このアメイジングなショウの締めくくりに相応しい。
ヴォーカルはやはりウィルだった。ベースを持たずに優しい声で歌うウィルは、
これ以上ない位すがすがしい表情をしていた。とてつもないことを成し遂げた達
成感や満足感でいっぱいだったのかもしれない。あるいは、大きな責任から解放
された安堵の表情だったのかもしれない。

ファブ・フォーの5人が、リヴァプールのオーディエンス、そしてジョン、ポー
ル、ジョージ、リンゴに礼を言って、ステージを降りた。すべてのプログラムが
終わった。客電が点いても、多くの人がその場で呆然としている。もちろん僕も
そのひとりだ。まったく、何というコンサートだったろう! 
20年におよぶ「ビートル・ウィーク」の歴史の中でも、間違いなくベストのコン
サートだろう。信じられないくらいにマジカルで、ラジカルで、ファンタス
ティックな体験だった。このコンサートを観られただけでも、リヴァプールに来
た甲斐があった。
そして、「ビートルズってすっげえなあ」と思った。これほどビートルズをリア
ルに感じたことはなかったかもしれない。

僕も、ビートルズとリヴァプールに感謝した。そしてもちろん、ファブ・フォー
の5人にも。

(おわり)

          <NLW No.115&116(2003年9月16&23日発行)に掲載>

 http://scousehouse.net/beatleweek/scousetour2003_report.htm 


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▽スカウスハウス・ニュース
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国に関するものなら何でも歓迎です。
お気軽にお寄せください。楽しい作品をお待ちしています。


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*** 今週のフォト・アルバム ******

寄稿「まさかのナショナルダービーへ!」の写真を掲載しています。Anneさん、
提供ありがとうございました!
http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo571.html 


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