May 12 2015, No.613
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リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World  
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□■ INDEX ■□

 ▽フロム・エディター 「マーガレットさんのこと」
 ▼スカウスハウス・ニュース
 ▽今週のフォト


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▽フロム・エディター
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「マーガレットさんのこと」

土曜日の夜、リヴァプールのビートルズガイドのジャッキーさんからメールが来
ました。タイトルは「Margaret」。ジャッキーがマーガレットと言えば、それは
アドミラル・グローヴ10番地に住むマーガレットおばあちゃんのことです。血
はつながっていないけれど、マーガレットさんとジャッキーは、まるで母と娘の
ような間柄です。マーガレットさんに会えばジャッキーの話になるし、ジャッ
キーに会えばマーガレットさんの話になります。

スカウス・ハウスでアレンジしている個人旅行者ためのビートルズ・ツアーや、
夏のビートルウィークで僕がガイドをするバスツアーでは、マーガレットさんの
お家は必ず案内コースに含まれています。なぜならここは、リンゴが6歳から
ビートルズで有名になるまで住んでいた家だからです。ドアのブザーを鳴らして、
あるいはコンコンと窓をたたいたりして、マーガレットさんにお家の中に入れて
もらうこともあります。

リンゴより年上で、少年リッチーのことをよく知っているマーガレットさんは
(当時は2軒となりに住んでいたそうです)、体調が許す限り、訪れるファンの
ためにドアを開けます。それが自分の使命だと考えているからです。遠い遠い国
から何時間も飛行機に乗ってわざわざ訪ねてくる人たちに、少しでも幸せな気持
ちになってほしいという思いからです(リンゴが住んでいた家の中に入れてもら
えるのですから、そりゃもちろんみんな大感激ですよね)。

リビングに置いてあるものを盗まれたり、強盗に遭ってひどい怪我をしたことも
ありましたが、マーガレットさんはドアを開けて訪問客を迎えます。いつも部屋
をきれいに掃除して、ほとんど毎日、たいていは何組も。世界中から送られてく
るお礼の手紙には、ひとつひとつせっせと丁寧に返事を書くのです。いよいよ目
が悪くなって、4~5年ほど前に手紙は書けなくなったそうですが。そういえば
クリスマスカードは10月ごろから書きはじめると言ってました。たぶん何百枚
も書いていたのではないでしょうか。まあるい字でびっしり埋められたカードが
届くたびに、頭が下がりました。

そういったサービスは、もちろんすべてボランティアです。無償です。どこかか
ら援助があるわけでもありません。マーガレットさんは誰からもぜったいにお金
を受け取らないのです。いつだったか僕が、「まるでナショナル・トラストだね」
と言うと(ほめたつもりです)、間髪入れずにこう返って来ました。

「ナショナル・トラスト? 私は一銭のお金ももらってないよ!」

はいすみませんそのとおりです、と謝るしかありません。考えてみれば、マーガ
レットさんにはずっと叱られてばかりです。これまで何度「ノーティ・ボーイ」
と言われたことでしょう。最初に会ったのは15年くらい前ですが、以来ずっと、
リヴァプールに行くたびにマーガレットさんを訪ねるのが僕のルーティンになっ
ています。最近はさすがに短くなりましたが、7~8年くらい前はいつも平気で
30分、1時間と話し込んだものです。それを2日連続でやったこともあります。

普段一緒に暮らしているわけではなく、国も世代も違っていて、趣味もまったく
合わず(マーガレットさんはビートルズじゃなくてエルヴィスのファンだし、
フットボールは大嫌いだし、ビール飲みも嫌いです)、おまけに言葉もろくすっ
ぽ通じない我々のあいだでいったいどんな会話が交わされたんだろう? 今考え
ると不思議な気がしますが、何やら通じるものがあったのかもしれません。それ
にまあ、しゃべっているのはいつもほとんどマーガレットさんで、僕はてきとう
に相槌をうつばかり。ときどき「あんた私の言ってること理解してる?」と訊か
れて「いいや、ぜんぜん」と返すと、マーガレットさんはまた怒るのです。「ほ
んとあんたはノーティ・ボーイだよ!」と。

ジャッキーからのメールには、マーガレットさんが亡くなったと書いてありまし
た。
冗談でも書けることではないので、ほんとうのことなのでしょう。でも、信じら
れませんでした。あれから3日が経ちますが、まだ信じられないです(正確には
「信じたくない」んですね)。今日はNLWの発行日で、どうしようかなあと考え
ていたのですが、やはりこんな大事なことをスルーするわけにはいかないですよ
ね。知らん顔でいつもの内容で発行するなんてできません。
なにか気の利いた追悼文でも書けたらよかったのですが、今のところは、上に書
いた文章が精いっぱいです。

● ● ●

いや、もう少し書いてみます。かなり個人的なことです。自慢話みたいにはした
くないのですが、うまく書けるかどうか…。

「ビートルズ・アンバサダー」と呼ばれ、「リンゴの家のラヴリーなおばあちゃ
ん」として世界中のビートルズ・ファンに知られているマーガレットさんですが、
僕の印象は少し違うかもしれません。
優しいというよりは、厳しい人でした。いつも心配してくれる反面、けっこう短
気で、曲がったことや礼を欠いた言動には容赦がありませんでした(それでよく
叱られていたわけですが)。
澄んだ青い目がほんとうにきれいで、よく話を聴きながら吸い込まれそうな気に
なりました(怒られているときはとくに)。まるで魂の底まで見透かされている
ような目でした。「この人には嘘はつけないな」と思わせるような迫力があり、
同時に僕のことを心配してくれている気持ちも伝わって来ました。マーガレット
さんにさよならを言った帰り道は、いつもちょっとだけ背筋が伸びたような感じ
がしたものです。「ちゃんと生きなきゃ」な気持ちにさせてくれました。まるで
お母さんですね。もちろん僕は出来の悪いバカ息子。

僕に子供が生まれたときは、ほんとうに喜んでくれました。まるで自分のことの
ように。
毎年8月と正月に写真をプリントした葉書を送っていたのですが、気がつけば僕
にないしょで、それらはマーガレットさんの家のリビングに貼られていました。
中に入ったことのあるかたはよくご存じでしょうが、リビングの壁には、マーガ
レットさんのファミリー写真とともに、ビートルズ関連の貴重な写真がたくさん
飾ってあります。その一角が、おそれ多くもうちのチビのミニ・ギャラリーのよ
うな状態になっているのです。

訪れたビートルズ・ファンに「この坊やは誰?」と訊かれるとマーガレットさん
は、「日本にいるわたしの孫なのよ」と答えていたそうです。ジャッキーによる
と「とっても誇らしげに」。
僕としてはもうほんとにすごく恥かしいんだけれども、マーガレットさんがそれ
ほど大事に思っていてくれていたということには、ただただ感謝です。ほんとう
にありがたく、幸せなことだと思います。

そのマーガレットさんがもういなくなってしまいました。自分の中の大切な一部
分が無くなってしまったような感じです。恩を返すことができなかった悔恨の思
いで押しつぶされそうです。
家族のような存在を失って、僕なんかよりももっとショックを受けているはずの
ジャッキーは、こう言って僕を慰めてくれました。
「わたしたち3人にはきっと、おたがいの人生の一時期を共にする理由があった
のよ」
今はただ、この言葉を信じたいと思います。

個人では見学料や寄付金を一切とらなかったマーガレットさんですが、唯一、
「リンダ・マッカートニー・センター」の募金箱をリビングにおいていました。
リンダ・マッカートニー・センターとは、がんの研究・治療を専門とする施設で、
ロイヤル・リヴァプール・ホスピタルの付属機関です。オープンの際にはポール
の2人の娘、メアリーとステラが立ち会っています。

ジャッキーさんが、マーガレットさんの遺志を汲んで、リンダ・マッカートニー・
センターへのチャリティ「In Memory of Margaret」をスタートさせました。
実は僕はまだなんですが、近いうちに寄付をするつもりです。
もしよろしければ、あなたもぜひ。
https://www.justgiving.com/MargaretGrose/

● ● ●

<LFC・ホーム最終戦チケットあります>
スカウス・ハウスでは、5月16日にアンフィールド・スタジアムで行われる
<Liverpool vs Crystal Palace>のチケットを、1枚確保しています(なんとKOP
スタンド!)。また、当日のホテルも1室手配済みですので、必要であればお使
いいただけます。
(出場すれば)キャプテン最後の雄姿となるこの試合、チケットをご希望のかた
は、info@scousehouse.net まで、お早めにお問い合わせください。件名は「LFC
ホーム最終戦チケット希望」とし、本文にお名前とメールアドレスをお書きくだ
さい。折り返し詳細をご案内いたします。

                         ― Kaz(12/05/2015)


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***  Beatleweek 2015 スカウスハウス・ツアー:参加者募集中! ******

毎年恒例、インターナショナル・ビートルウィーク鑑賞パッケージ「スカウスハ
ウス・ツアー2015」の参加者を募集中です。聖地リヴァプールで開催される世界
最大のビートルズ・フェスティヴァル。今年も盛りだくさんのイヴェントが企画
されています。中でも注目はピーター・アッシャーのライヴとセント・ルークス
教会でのイヴェント。さらにパティ・ボイドやボブ・グルーエンもコンヴェン
ションのゲストとして初登場です。毎年好評のオプショナル・ツアーももちろん
開催。この夏、ぜひリヴァプールでお会いしましょう!!
 http://scousehouse.net/beatleweek/scousetour2015.html 


*** リヴァプール現地ガイドツアー ******

ウェブサイトの「リヴァプール・ビートルズ・ツアー」ページをプチ・リニュー
アルしました。15年目となった「リヴァプール・ビートルズ・ツアー」、名所観
光とランチがプラスされたお得な「ビートルズツアー+ランチ&名所観光」、
「伝説のカスバクラブ・ツアー」、そして2つの「現地英語ツアー(Magical
Mystery Tour, Mendips & 20 Forthlin Road Tour)」の、それぞれに案内ページ
をつくりました。リヴァプール旅行の際にはぜひご利用ください。
 http://scousehouse.net/beatles/beatlestour_liverpool01.html


*** スカウスハウス通販 ******

ビートルズをはじめとする「英国盤レコード」の通販です。
今夏、リヴァプールで仕入れた新入荷アイテムを追加掲載しています。在庫品は
すべてプライスダウン。オーダーをいただけるとうれしいです!
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*** フットボール・チケット&ツアー ******

スカウスハウスでは、2014-2015シーズンも、リヴァプールFCおよびエヴァト
ンFCのホームゲーム観戦チケットの手配を承ります。
また、スタジアムツアーや練習場見学をアレンジする「フットボール・ツアー」
もご用意。マニアックなフットボール・ファンはもちろん、初心者の方も大歓迎
です。ぜひご利用ください!
 http://scousehouse.net/football/stadium2014-15.html 


***  PLAY AT THE CAVERN! ******

ウェブサイトに新ページ「for ビートルズ・バンド - PLAY AT THE CAVERN!」を
アップしました。
「リヴァプールのキャヴァーン・クラブで演奏する」というビートルズ・コピー
バンドの夢を、スカウス・ハウスがサポートします!
 http://scousehouse.net/beatles/playatthecavern.html


*** ビートルズ・ガイドツアー ******

リヴァプール&ロンドンのビートルズゆかりの地を訪ねるガイドツアーをアレン
ジしています。ロンドンには「ポールゆかりのレストランでランチ」という新企
画も登場。ツアーの詳細は、ウェブサイトの「ガイドツアー」ページをご覧くだ
さい。
 http://scousehouse.net/beatles/beatlestour_liverpool01.html
 http://scousehouse.net/beatles/guide_london.htm


*** 原稿募集中 ******

NLWでは、読者のみなさんからの投稿を募集しています。
旅行記、レポート、研究、エッセイ、写真などなど、リヴァプール、あるいは英
国に関するものなら何でも歓迎です。
お気軽にお寄せください。楽しい作品をお待ちしています。


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▽今週のフォト
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*** 今週のフォト・アルバム ******

「今週のフォト・アルバム」には、アドミラル・グローヴ10番地の写真を掲載しています。
 http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo613.html 


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