メルマガ購読・解除
 
August 18 2020, No.755
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NLW ■
     *** http://scousehouse.net/ ***


□■ INDEX ■□

 ▽フロム・エディター
 ▼NLWアーカイヴ:「世界最大のストリート・フェスティヴァル」(2003年)
 ▽スカウスハウス・ニュース
 ▼今週のフォト


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
▽フロム・エディター
――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □

NLW No.753でお伝えした「インターナショナル・ビートルウィーク」のオンラ
イン開催が、正式にアナウンスされました。
期間は8月27日(木)から9月1日(火)の6日間。およそ5ヶ月間休業してい
たキャヴァーン・クラブも、それにあわせていよいよ再オープンとなります。

正式タイトルは「Virtually International Beatleweek Festival 2020」で、ライヴ・
パフォーマンスはなく、その代わりに事前収録のビデオがクラブ内のスクリーン
で上映、オンラインでも配信されます。
ビデオには世界20ヵ国以上ものビートルズ・バンドが参加。もちろん日本代表の
4バンド(Hips, #4 Dream, The Reunions, The Beaticks)も張り切って演奏しま
す(どのバンドの演奏も素晴らしいクォリティですよ!)。

日本代表バンドのビデオは10日ほど前に提出したのですが、その際に予期せぬア
クシデントに見舞われてしまいました。
スカウスハウスのサーバーに、4バンドのビデオ合計14本、およそ20GBの
データを数時間かけていささか強引にアップロードしたところ、契約していた
サーバーの容量をわずかにオーバーしてしまい、自動的に使用停止となってし
まったのです。サーバー管理会社からの自動配信メールを受け取ってそれがわ
かったのですが、使用停止のためこちらからはサーバーにアクセスができず、そ
れはつまりデータの容量を減らしたくても減らせないわけで、あわてて管理会社
に連絡をとろうとしたところ、にゃんと、まさかのお盆休み……。ビデオデータ
は別な方法でキャヴァーンに送りました。

というわけで、8月9日から15日までの6日間、ウェブサイトもメールアドレス
も抹消状態のスカウスハウスは、業務の停止を余儀なくされてしまったのでした。
4月からウィークリーでせっせとお届けしていたこのNLWも、ついに連続記録が
ストップに……。楽しみにしていてくださったみなさんごめんなさい。

とまあ、いろいろありましたが、キャヴァーン・クラブの再開、ヴァーチャル・
ビートルウィークの開催はとっても喜ばしいニュースです。考えてみれば、「自宅
に居ながらにしてビートルウィークが体験できる」というのは前代未聞の快挙、
と言えるかもしれませんね。みなさん、ぜひアクセスしてみてください(日本代
表バンドのパフォーマンスもぜひ!)。Facebookで配信とのことです。

キャヴァーンでの「リアル」ライヴ・ステージは、9月10日からスタート。9月
20日にはにゃんと、オリジナルの「ザ・マージービーツ」がライヴ・ラウンジの
ステージに戻って来ます!

● ● ●

「今週のフォト・アルバム」では、2003年の「マシュー・ストリート・フェス
ティヴァル」の写真を紹介します。マージービーツも登場!
 http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo755.html 

                         ― Kaz(18/08/2020)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
▼NLWアーカイヴ:#03「世界最大のストリート・フェスティヴァル」
――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □

過去のNLWからピックアップしてお届けするアーカイヴ・コーナーです。
第3回は、17年前となる2003年8月25日に開催された「マシュー・ストリート・
フェスティヴァル」の体験記。同年10月28日発行のNLW No.121、No.122(11
月4日発行)、No.123(11月11日発行)、No.126(12月2日発行)の4回に分
けて掲載したものです。
巨大化しすぎたために今はなくなってしまったリヴァプールの伝説的フェスティ
ヴァルへのトリビュートとして、今回は一挙掲載です(ちょっと長いです)。


「世界最大のストリート・フェスティヴァル」/ Kaz (2003年)----------------

≪≪≪ NLW No.121 - October 28, 2003 ≫≫≫

マシュー・ストリート・フェスティヴァル」は、間違いなく、「ビートル・ウィー
ク」の中でいちばん盛り上がるイヴェントだ。
今年のレポートに行く前にまず、「マシュー・ストリート・フェスティヴァル」と
はどんなフェスティヴァルなのかを説明しておこう。

「ビートル・ウィーク」のプログラムの一部ではあるものの、これは別扱いで、
リヴァプール市主催の音楽フェスティヴァルだ。元々はバンク・ホリディ(祝日)
となる8月最後の月曜日だけで開催されていたが、2年前からは土・日・月の3
日間に延長されている。もちろん、メインは最終日だ。

「マシュー・ストリート・フェスティバル」は、マシュー・ストリートだけで開
催されるわけではない。リヴァプールをあげてのフリー・イヴェントだ。
最初の2日間は、チヴァッセ・パークの野外ステージでコンサートが行われるだ
けだが、最終日は、リヴァプールの中心エリアは車両禁止となり、街全体が巨大
なコンサート会場に変身する。
5つある野外ステージと、そこらじゅうのパブやクラブ(なんと80ヶ所以上)
で、昼の12時から夜の8時まで、延々と絶え間なくアツい演奏が繰り広げられ
る。どこもかしこもぎっしり超満員で、特にインドアの会場ではぎゅうぎゅう詰
めの酸欠状態となる。

この最終日は、ただ街を歩いているだけでワクワクしてしまう。
信じられないくらいたくさんの音楽ファンが街じゅうを埋め尽くし、歴史と伝統
を感じさせるスカイラインと、大音量のポップ・ミュージックとともに見事な
ハーモニーを奏でるのだ。その様子はまさに圧巻で、感動的だ。僕は勝手に「世
界最大のストリート・ミュージック・フェスティヴァル」と名付けているのだけ
ど、実際に見てもらえば誰もが納得するはずだ。
参加者は毎年増加の一途で、今年はついに、3日間で50万人を越えたというこ
とだ。ご、50万人!?
世界中から観光客がやって来るのはもちろんだが、地元の人もずいぶん多い。
老若男女、いろんな人種や国籍の人々が、一緒になって音楽を楽しむのだ。その
一体感というか連帯感は、一度体験すると病みつきになる。これほどハッピーで
ピースフルでインターナショナルな音楽フェスティヴァルというのは、どこにも
ないのではないだろうか。

演奏される音楽について書こう。
「ビートル・ウィーク」に開催されるからといって、演奏される音楽はビートル
ズばかりというわけではない。むしろ、ビートルズ色は年々薄まって来ている。
それが、より大きなポピュラリティの獲得に繋がっているのは間違いない。
「リヴァプール=ビートルズの街」ではなく、「リヴァプール=音楽の街」なのだ
ということが実感できる。
古くはシナトラやエルヴィスにはじまり、最新のヒット・チューンまで、この
50年間のポピュラー・ミュージックの「つぼ」を押さえたプログラムになって
いるのだが、もちろん、本物のスーパースターたちがフェスティヴァルに勢揃い
するわけではない。中には例外はあるが、ほとんどの場合コピー・バンドによる
演奏だ。

「しょせんコピーじゃないか、なぜそんなものにみんな夢中になったりするわ
け?」とあなたは言うかもしれない。
なぜなのだろう? 

コピーだからこそ、パフォーマーもオーディエンスもリラックスして楽しめると
いう部分は、確かにあると思う。アーティストに対する思い入れが必要ないぶん、
歌そのものに集中できるのだ。現役のアーティストにベスト・ヒットだけを演っ
てもらうのはなかなか難しいが、その点コピーなら理屈ぬきでお馴染みのナン
バーを並べられる。さらに、今は亡きアーティストや解散してしまったバンドな
どの場合は、コピー・バンドの存在は貴重だし、良い音楽を後の世代に伝えて行
くという点でも、意義がある。CDよりもやはりライヴの方がダイレクトに五感
を刺激するからだ。

…なんだかむずかしい話になって来た。つまり、良い音楽は、誰が演奏しても良
いものなのだ。
もちろん、コピー・バンドに、エンターテイメントとして成立するだけの実力が
なければ話にならないわけだが、このフェスティヴァルに登場するパフォーマー
に限っては、その点は問題ない。コスチュームにしろ演奏にしろ、おそろしく
クォリティが高いのだ。単独でコンサート・ツアーをしているバンドも多い。い
わゆる「ものまね」とは次元が違う。「さすがロックの国だなあ」と、何度感心
したことか。

「マシュー・ストリート・フェスティヴァル」の最終日は、安心して自分の好き
な音楽に思う存分どっぷり浸かっていられる1日なのだ。ビートルズもストーン
ズもフーもツェッペリンもアバもクイーンもその他もろもろみ~んなまとめて楽
しめてしまうのだ。
周りの人たちと一緒になって騒ぐのもよし、1人でしみじみするのもよし。楽し
み方はいろいろだが、「音楽って素晴らしいなあ」とか、「人間って素晴らしいな
あ」と、素直に感動できる日でもあるのだ。


≪≪≪ NLW No.122 - November 04, 2003 ≫≫≫

今年の「マシュー・ストリート・フェスティバル」の、野外ステージのライン
ナップをざっと挙げてみよう。
ザ・マージービーツ以外はコピー・バンドで、もちろんそれぞれにちゃんとバン
ド名があるのだが、ややこしくなるので省略して、コピー元の名前だけにしてお
く。

― “キャピタル・オブ・カルチャー” ステージ (チヴァッセ・パーク)―
ジョージ・ハリスン、フリートウッド・マック、ザ・コアーズ、U2、エルヴィ
ス・プレスリー、ビートルズ、レッド・ツェッペリン

― “マーキー” ステージ (デール・ストリート)―
クラウデッド・ハウス、ローリング・ストーンズ、ピンク・フロイド、ジミ・ヘ
ンドリックス、ジャム、ブライアン・アダムス、ポリス、Tレックス

― “トップ・オブ・ザ・ポップス” ステージ (キャッスル・ストリート)―
クリフ・リチャード、ステレオフォニックス、ポール・ウェラー、REM、アバ、
ロビー・ウィリアムス、マドンナ、デイヴィッド・ボウイ

― “ザ・キャヴァーン” ステージ (ウォーター・ストリート)―
ロッド・スチュアート、ザ・フー、オアシス、エリック・クラプトン、ザ・マー
ジービーツ、クイーン、ローリング・ストーンズ

― “ザ・ビートルズ” ステージ (ヴィクトリア・ストリート)―
ビートルズ、ウィングス、ジョン・レノン

…こんな具合だ。
恐るべしヴァリエーション。これだけ幅広ければ、子供でも大人でも老人でも、
あるいはひょっとして犬でも猫でも、みんなが楽しむことが出来るというものだ。
1時間交替で次々とバンドが登場するので、1つのステージでじっとしているの
もいいし(チヴァッセ・パークでは、芝生の上にシートを広げて、安楽椅子と
ビールでのんびり楽しむ家族が多い。まさにピクニック状態だ)、スケジュール
をチェックして自分のお目当てのバンドを目指してあちこちハシゴするのもいい。

さて、当日1時。
僕がまず向かったのは、デール・ストリートだった。ローリング・ストーンズだ。
バンドは、スウェーデンから来た「ロックス・オフ」。ヴォーカルがとにかくミッ
クそっくりだった。ハイ・テンションのアクションで観客を煽る煽る。「ホンキー・
トンク・ウィメン」、「ミス・ユー」、「ブラウン・シュガー」、「ジャンピン・
ジャック・フラッシュ」…。最前列で観ると、かなりの迫力だった。
この日僕は、なぜかストーンズのTシャツを着ていたのだけど、きっと目立って
いたのだろう、後でマシュー・ストリートを歩いている時に、このロックス・オ
フのメンバー3人から声を掛けられた。嬉しかった。

次は、チヴァッセ・パークのフリートウッド・マックだ。このバンドの名前はな
かなか洒落ていて、「ルーモアズ・オブ・フリートウッド・マック」という。
メンバーのルックスは、本物に良く似てはいるのだが、微妙にズレていて、ミッ
ク・フリートウッドにそっくりな人がキーボードを弾いていたり、スティー
ヴィー・ニックスとクリスティン・マクヴィーのルックスが入れ替わっていたり
するのがなんだか面白かった。
ステージの近くに陣取って後ろを振り返ってみると、パークの広い丘がびっしり
と観衆で埋まっていた。ちょっとジーンとした。実は、僕はマックの大ファンな
のだ。

ショウは、「ジプシー」で軽快にスタートした。
「エヴリホエア」、「ドリームス」、「ザ・チェイン」、「リトル・ライズ」、「セヴン・
ワンダーズ」、「ユー・メイク・ミー・ラヴィング・ファン」…。2大マスター
ピース・アルバム、『ルーモアズ』と『タンゴ・イン・ザ・ナイト』からの曲が
中心だ。
中盤では、マックのルーツであるブルーズ・ナンバーが披露された。「オー・ウェ
ル」と「グリーン・マナリシ」。渋い。
あっという間に最後の曲となり、みんなで「ドント・ストップ」を大合唱。チ
ヴァッセ・パークに歌声が響く。
まさかフリートウッド・マックを大勢で歌う日が来ようとは、夢にも思わなかっ
た…もう感涙ものである。
おそらく、本物のマックをライヴで観ることはかなわないだろうから(なんと現
在復活ツアーを敢行中だが、クリスティン・マクヴィーは参加していない)、こ
のライヴは本当に本当に嬉しかった。

チヴァッセ・パークを後にして、ビールを左手、ホット・ドッグを右手に、群集
の中をぶらぶら歩く。すれ違うどの顔も笑顔だ。もちろん僕も。
さて次は、と…。
3時からの予定は、ポール・ウェラーかジミ・ヘンドリックスかエリック・クラ
プトンか…。
よっしゃ、エリック・クラプトンにしとこう!


≪≪≪ NLW No.123 - November 11, 2003 ≫≫≫

ヴィクトリア・ストリートやキャッスル・ストリートのステージをちょっとだけ
観て(アバのバンドのおねえちゃんたちがセクシーで可愛かった)、ウォーター・
ストリートに向かった。
エリック・クラプトンのトリビュート・バンド「クラプトナイト」のステージは、
もう終盤に入っていた。「プリテンディング」、「レイラ」、そして「ワンダフル・
トゥナイト」でしっとりと幕となった。
このバンドも感心するくらいに上手い。エリック役の人は、本物よりもすいぶん
がっしりしていて、「健康優良児のエリック・クラプトン」という感じだ。遠目か
らだったので顔の造作はよくわからないけれど、髭もじゃで、雰囲気がよく出て
いる。

クラプトナイトが終わると、次はいよいよ我らがザ・マージービーツだ。
パフォーマーが代わると、ステージ・チェンジの15分の間に観客も入れ替わる。
やっぱりできるだけ近くで観たいので、前に移動する。運良く前から3列目まで
たどり着くことができた。
しばらくして後ろを振り返ると、広いウォーター・ストリートは、いつの間にか
見るからに年齢層の高い群衆でぎっしり埋まっていた。これまでとは全く違う、
異様な空気に包まれている。

このマージービーツは、本物のマージービーツなのだ。ビートルズと同時代のス
ターたちなのだ。40年前にキャヴァーンに通い詰めていた「昔の少年&少女」
たちが、ホームに帰って来たスターたちに会うために大集結しているのだろう。
どの顔も、本当に嬉しそうだ。長いこと会っていなかった恋人に会いに来ている
ような、ワクワク、ソワソワした気持ちが伝わってくる。
「あらあんた、○○じゃない? キャー、あたしよ、あたし、××!」
「××!? キャー、ひさしぶりねえ!!」
という会話も聞こえてくる。

マージービーツが颯爽ステージに登場すると、会場は大騒ぎになった。
「ビリィー!」とか「トニィー!」とか、あちこちから大きな歓声が上がる。

「ハロー、リヴァプーーーーール!」
ビリーが叫んで、マージービーツの演奏が始まった。「プア・ボーイ・フロム・リ
ヴァプール」だった。オープニングにぴったりのロックン・ロール・ナンバーだ。
ビリーは全身に気合いがみなぎっていて、バンドを、そしてオーディエンスを、
ぐいぐいとドライヴして行く。昨日コンヴェンションの会場で話した時のビリー
とはまるで別人だ。いや、これが本当のビリーなんだろうな。鬼気迫るような、
すごい迫力。そしてスターの貫禄。

続いて、「ヘイ・ベイビー」。
去年リヴァイヴァルで大ヒットした曲だ。マージービーツの持ち歌ではなかった
はずだけど、この選曲は大正解だ。ビリーがガンガン煽ったこともあって、数万
人規模の大合唱となった。
「♪ヘエ~~~~~、ヘエエベイベッ! (ウッ! アッ!) アウァナノッ
オッオ~ウオッ! イフュビマッガ~♪」

3曲目は僕の大好きな「ドント・ターン・アラウンド」。マージービーツの大ヒッ
ト曲だ。
次のスロウ・ナンバー「レット・イット・ビー・ミー」の時に、後ろからひとり
のおばちゃんがずいずいと割り込んで僕の前に立ち、懸命に手をふりながら叫び
だした。

「ビリーーーーッ!! あたしよーーーー!! ビリーーーーーッッ!!!」

気がついているのかいないのか、ビリーはそ知らぬふりで演奏を続けている。
おばちゃんはそれでもしばらく絶叫を続けていたが、やがてあきらめて元の場所
へ帰って行った。

「ジョニー・B・グッド」、「リヴ・アンド・レット・ダイ」、「アイ・シンク・オ
ブ・ユー」、そして再び大合唱となった「ソロウ」と来て、最後に「ヘイ・ホー・
シルヴァー・ライニング」でマージービーツのステージが終わった。あっという
間の45分だった。

還暦前後だとは到底信じられないマージービーツのタイトでアグレッシヴなパ
フォーマンスにも、それに夢中になって叫んだり踊ったりする5~60代のおじ
ちゃんおばちゃんたちの姿にも、じ~んと来るものがあった。

ふと、「色褪せない青春」という言葉が浮かんだ。
色褪せないのは、過去のものになっていないからだと思う。この40年の間には、
きっといろいろなことがあっただろう。リヴァプールにとってハードな時代も長
く続いた。歳を重ねるにつれて失くしてしまったものも少なくないはずだ。それ
でも、今日ここ来ている人たちはみんな、きっと一所懸命に生き抜いて来たのだ。
いちばん大切なイノセンスだけは、色褪せさせないように大事にして…。

なかなか熱気の冷めない会場で、僕はぼんやりとそんなことを考えていた。
周りの「昔の少年&少女」たちの顔が、生き生きと輝いて見えた。


≪≪≪ NLW No.126 - December 02, 2003 ≫≫≫

マージービーツの後は、同じウォーター・ストリートのステージに「クイーンB」
が登場する。名前から分かると思うけど、クイーンの取りトリビュート・バンド
だ。ここ2~3年くらい、我が家ではなぜかクイーン・ブームが続いているので、
これはぜひ観ておきたかった。
マージービーツがお目当てのおじさんおばさんたちはみんな満足そうに帰って
行った。入れ替わりに、明らかにジェネレーションの違う群集が集まって来る。
そのままそこに居れば最前列でだって観られそうだったが、しかしビールが飲み
たくなってしまった。一旦離れるということは、せっかくの良いポジションをあ
きらめるということになるが、仕方がない、ちょっとパブへ行って来よう。美味
いビールに勝てるものってなかなかないのだ。

すぐ近くにあるお気に入りのパブ、「ピッグ&ホイッスル」に入った。
ここは歴史のあるパブで、いつもは静かで落ち着いていて「隠れ家」のような雰
囲気なのだけど、さすがにこの日は違った。
狭い店内は満員で、外で呑んでいる人もたくさんいる。カウンターには後から後
から注文をする人が取り囲み、中にいるスタッフ3人はほとんどパニック状態
だった。
どうにかこうにか、やっとビールを買って、運よく空いた席に座る。居合わせた
老人と何となく会話を交わしながら、ケインズを味わう。グッド・ミュージック
とグッド・エール。幸せだ。

ひとごこちついて少し元気になって、ウォーター・ストリートに戻る。
クイーンBは、「アイ・ウォント・トゥ・ブレイク・フリー」を歌っているとこ
ろだった。
フレディ役はもちろん女装していて、つくりもののおっぱいを振り回しながら
歌っている。みんな大爆笑。
着替えを終えたフレディが次に歌い始めたのは、「ボヘミアン・ラプソディ」だっ
た。ひとり残らず大合唱だ。オーディエンスは、3~40代の男が圧倒的に多く、
パワフルで野太い歌声が左右の重厚なビルディングにこだましている。メロ
ディーに合わせて人波が揺れている。肩車された少女が、「いったい何なのこ
れ?」という顔で周りを見渡している。

これで終わりかなと思っていたら、フレディが金色のガウンを纏って再登場。頭
には王冠を被っている。「ウィー・ウィル・ロック・ユー」で再び盛り上がりが
頂点に達したところで、フレディがガウンを取った。上半身は裸、下半身は…ユ
ニオン・ジャックのトランクス! その姿で「ウィー・アー・ザ・チャンピオン
ズ」を熱唱するフレディ。最後はちゃんとブライアン役が「ゴッド・セイヴ・ザ・
クイーン」を弾いて、熱狂のステージを締めくくった。
それにしても、クイーンの曲ってとんでもないパワーがあるもんだとつくづく
思った。何というか、体の血液の濃度が上がってるんじゃないかという感じがし
た。
またビールが飲みたくなってきた。

7時からの最後のステージは、ロックス・オフ(ローリング・ストーンズ)か
レッド・ゼット(レッド・ツェッペリン)か迷った末、レッド・ゼットを観るこ
とにした。
会場のチヴァッセ・パークへ行き、ビールを飲みながら観る。暗くなってきたし、
さすがに少し寒い。
このバンドも感心するくらいに上手い。ジミー・ペイジ役がかなり大柄で目立つ。
「コミュニケイション・ブレイクダウン」、「デイズド・アンド・コンヒューズド」、
「イミグラント・ソング」、「ブラック・ドッグ」、「ロックン・ロール」、「ステア
ウェイ・トゥ・へヴン」…。
さすがに、ツェッペリンの曲はみんなで大合唱というわけにはいかない。前の方
は結構盛り上がっていたが、僕はかなり離れていたし、回りのお子様たちがは
しゃぎ回るのに気を取られたりして、あまり集中できなかった。それにこれで6
ステージ目だから、ちょっと疲れてきているみたいだ、たぶん。
中盤ではもちろん、ボンゾのドラム・ソロ・コーナーもあった。永遠に続くん
じゃないかと思った。

僕の今年の「マシュー・ストリート・フェスティヴァル体験」は、こんなところ
だ。
プログラム全体からすると、ほんの一部ということになるのだけど、実に実に充
実した1日だった。
それは、クォリティの高い音楽を堪能できたから、というだけではない。何万人
もの人々のハッピーな笑顔を見ることができたから、ということの方が大きいか
もしれない。誰かの笑顔は、別の誰かを笑顔にするものなのだ。

音楽って、ライヴって素晴らしい。

(おわり)

≪ http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo755.html ≫


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
▽スカウスハウス・ニュース
――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □

*** スカウスハウス通販 ******

英国盤レコードの通販です。「ビートルズ」「ビートルズ(ソロ)」「ビートルズ関
連」「ブリティッシュ・ロック」「シングル&EP」の5カテゴリー。リヴァプール
で仕入れたアイテムばかりです。オーダーいただけるとうれしいです!
 http://scousehouse.net/shop/records2019.html 

※4月1日より、「全アイテム30%オフ」のキャンペーンを開催中です。
(商品ページおよびオーダーフォームでは、割引前の価格が表示されていますが、
オーダーいただたあとの確認メールにて、セール適用価格をご案内いたします)


*** 原稿募集中 ******

NLWでは、読者のみなさんからの投稿を募集しています。
旅行記、レポート、研究、エッセイ、写真などなど、リヴァプール、あるいは英
国に関するものなら何でも歓迎です。
お気軽にお寄せください。楽しい作品をお待ちしています。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
▼今週のフォト
――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □

*** 今週のフォト・アルバム ******

「今週のフォト・アルバム」では、2003年の「マシュー・ストリート・フェス
ティヴァル」の写真を紹介します。
 http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo755.html 


■ NLW ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
       *** 隔週火曜日発行 ***


□■ 第755号 ■□

◆発行 SCOUSE HOUSE (スカウス・ハウス)
◇編集 山本 和雄
◆Eメール info@scousehouse.net
◇ウェブサイト http://scousehouse.net/
◆Facebook http://www.facebook.com/scousehouse.net
◇お問い合わせフォーム http://scousehouse.net/liverpool/form.html

ご意見・ご感想・ご質問など、お気軽にお聞かせください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

このメールマガジンは、以下の配信サーヴィスを利用して発行しています。配信
の解除やメールアドレスの変更は、それぞれのウェブサイトからどうぞ。

◆まぐまぐ
http://www.mag2.com/m/0000065878.htm
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
無断での転載を禁じます。 Copyright(C) 2001-2020 Scouse House