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September 15 2020, No.759
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リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World
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     *** http://scousehouse.net/ ***


□■ INDEX ■□

 ▽フロム・エディター
 ▼リヴァプール・ニュース <2020年9月15日>
 ▽NLWアーカイヴ:「120年目のグッディソン・パークで」(2012年)
 ▼スカウスハウス・ニュース
 ▽今週のフォト


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▽フロム・エディター
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プレミアリーグが開幕しました。
「チャンピオンvs昇格チーム(でも2部のチャンピオン)」となった注目の「リ
ヴァプールvsリーズ」は、獲ったら獲られ、獲られては獲るという目まぐるし
さで、あっという間の90分、いや、アディショナル・タイムを含めて95分でし
た。いやあほんとうに面白かった…と言えるのもなんとか白星で飾れたから。知
将・ビエルサ率いるリーズは、リヴァプールに劣らないエンタメ系のフットボー
ルを体現しているということが(身に染みて)わかりました。気の早い予想です
が、リーズ、トップグループに食い込んでくる可能性大だと思います。

そして開幕直前に大物選手を補強したエヴァトンは、強豪スパーズを敵地で撃破。
0-1というスコア以上の快勝でした。新加入3選手はスムーズにフィットして
いて、短期間でのチームの完成度は驚くばかり。特にハメス・ロドリゲス選手の
あのビームのようなロング・ラストパス連発。ぜんぶフォワードのリシャルリソ
ン選手狙いで、それをひとつ残らず外しちゃうリシャルリソンもリシャルリソン
だけど、外されても外されても必殺パスを供給しつづけるハメスってすごいなー
と感心してしましました。アンチェロッティ監督によるとハメスのフィットネス
はまだまだ100%には遠いそうですが、だとすると100%のハメスっていったい
どうなるんだ??

● ● ●

僕は、エヴァトンのリーグ開幕戦をいちど観に行ったことがあります。2012年
のことです。
当時の日本代表のエース、香川真司選手のプレミアリーグ・デビュー戦(マン
チェスター・ユナイテッドの選手として)でもあるこの試合の観戦記を、「NLW
アーカイヴ」第5弾として再録します。8年前のNLW No.522(2012年9月25
日発行)が初出です。自分で言うのもなんですけど、けっこう面白いですよ。

● ● ●

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                         ― Kaz(15/09/2020)


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▼リヴァプール・ニュース <2020年9月15日>
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*** 9月15日(火) *******************************

【イングランド・プレミアリーグ 2020/2021】

先週末に行われたリーグ開幕戦の結果です。
昨シーズンのプレミアリーグ・チャンピオンのリヴァプールFCは、同じく昨
シーズンのチャンピオンシップ(2部リーグ)のチャンピオンで今季プレミアに
昇格したリーズ・ユナイテッドとホーム・アンフィールドで対戦しました。
結果は、4-3での勝利。開始4分のモハメド・サラーによるPK弾を皮切りに
壮絶な点の取り合いとなったこの試合は、88分に再びサラーがPKを決めて決着
をつけました。
リヴァプールのゴール・スコアラーは、モハメド・サラー(4分・PK、33分、
88分・PK)、ファン・ダイク(20分)でした。リーズのゴール・スコアラーは、
ジャック・ハリスン(12分)、パトリック・バンフォード(30分)、マテウシュ・
クリヒ(66分)です。

試合後のリヴァプール、ユルゲン・クロップ監督のコメントです。
「なんというゲーム。なんという相手。なんというパフォーマンス。私の大好き
な、正真正銘のスペクタクルがあった」
「ひと試合でこんなにたくさんのゴールが観られるのはちょっと珍しいよね」
「ただこの結果では、『さっさと家に帰ってビールを』ってわけにはいかないな。
アナライズの必要がある」
「リーズはスペシャルなチームだ。とにかく素晴らしいパフォーマンスで、我々
にとっては非常に難しい試合だった。95分間ずっと」 

リーズのマルセロ・ビエルサ監督はこう振り返っています。
「3つのゴールを記録できたのはポジティヴなことだ」
「しかし4つのゴールを奪われたことに目をつぶるわけにはいかない。あれらの
ほとんどは防ぐことができたと思う」
「フットボールを予測することはできない。しかし何が起きるのかがわかるシ
チュエーションというものは存在する。しかしそれがわかったというだけではス
トップすることはできないということだ」

リーズの2点目を決めたストライカー、パトリック・バンフォードは、こう語っ
ています。
「ポジティヴな感触は得られたと思う。でもやはり残念だ。望んだ結果ではない
から」

リヴァプールのディフェンダー、フィルジル・ファン・ダイクは正直な感想を残
しています。
「とにかくキツかった。勝ててほんとによかった。タフなゲームになるのは覚悟
してたんだけど」

● ● ●

エヴァトンFCは、9月13日にトテナム・ホットスパーとアウェイで対戦し、
0-1での完封勝利を飾っています。
ゴール・スコアラーは、ドミニク・キャルヴァート=ルーイン(55分)です。ブ
ルーズは開幕直前に加入した3選手(アラン、ハメス・ロドリゲス、アブドゥラ
イェ・ドゥクレ)がそろって先発し、スパーズのホームでのおよそ7年ぶりとな
る勝利に貢献しました。

試合終了後のエヴァトン、カルロ・アンチェロッティ監督の話です。
「満足している。チームとしてのパフォーマンスもブリリアントだった」
「ファースト・ハーフでは2つか3つ、危機的なシチュエーションがあった。し
かしいずれもジョーダン・ピックフォード(GK)がファンタスティックな仕事を
してくれた。そのあとのセカンド・ハーフでは、我々がよりゲームをコントロー
ルできたと思う」
「ボールを持っているときも、持っていないときも、落ち着いてゲームを進める
ことができたね。最終的に、それにふさわしい結果になったと思う」
「難しい場所で難しい相手と戦うためには重要なパフォーマンスだった。これま
でここではなかなか点が取れなかったわけだけれど、新しいシーズンをいい形で
スタートできて非常にうれしい。まさに望んだとおりの結果だ」
「我々は戦えるチームなんだということを証明できたと思う。この試合で示すこ
とができた最も重要なメッセージがそれだ。正しいスピリットと正しい姿勢で臨
むことさえできれば、我々はどんな強豪ともわたり合える」
「そのことを今日、選手たちが見せてくれたね」

スパーズのジョゼ・モウリーニョ監督はチームに対して厳しいコメントを残して
います。
「もっとやってくれると期待していたんだがね、選手ひとりひとりも、チームと
しても。よいパフォーマンスではなかったし、一貫性もなかった。どの選手も全
力を出してるようには見えなかった。気分が悪いね」
「何人かの選手はもっとやれたはずだ。こんな気分で家に帰らなきゃならないと
はね」

第2節では、リヴァプールは20日にチェルシーとアウェイで、エヴァトンは19
日にホームでウェスト・ブロムと対戦します。


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▽NLWアーカイヴ:#05「120年目のグッディソン・パークで」(2012年)
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過去のNLWからピックアップしてお届けするアーカイヴ・コーナーです。
第5回は、8年前の8月20日に行われたプレミアリーグ開幕戦「エヴァトンvs
マンチェスター・ユナイテッド」の観戦記。2012年9月25日発行のNLW
No.522に掲載したものです。


「120年目のグッディソン・パークで」 / Kaz (2012年)

≪≪≪ NLW No.522 - September 25, 2012 ≫≫≫

<2012年8月20日、月曜日>

マンチェスター空港からコーチでリヴァプール入りした僕は、ホテルにチェック
インしたあと、ひと息つく間もなく部屋を出た。
タクシーに乗る。目指すはグッディソン・パーク・スタジアム。時間は午後7時
半になろうとしている。30分後に、エヴァトンFCの2012-2013シーズン開幕戦
のホイッスルが鳴る。

リヴァプールをホームとするプレミアリーグのクラブは、リヴァプールFCとエ
ヴァトンFCの2チームがある。
リヴァプールは世界的にも日本でも有名だけれど、エヴァトンはそうではない。
外国人投資家に買収されてぶくぶくと太っていくクラブが多い中、エヴァトンは
昔も今も個人オーナーのもとで身の丈経営を貫いていて、遠い日本から見るとと
ても地味な存在である。よほどのサッカーファン以外には名前すら知られていな
い…かもしれない。

しかし、である。
お金もなくて世界的なスターもいないエヴァトンだけれども、毎年ビッグクラブ
を脅かすような成績を残している。トップ・グループには入らないものの、監督
力と選手の団結力で、セカンド・グループにしっかりと喰い込んでいるのだ。世
界一タフなリーグと呼ばれるプレミア・リーグで。

僕はリヴァプールFCサポーターで、つまりはエヴァトンは本来ならにっくきラ
イヴァルであるべきチームなのだけれど、実はけっこう…いや、かなり好きであ
る、エヴァトンが。ほとんどファンといってもいいかもしれない。
決してエレガントではないけれど、ひたすら根性で相手に立ち向かっていくその
泥臭いフットボールには、抗いがたい魅力がある。そして、そのチームを支える
サポーターたちの姿にも、フットボール・ファンとして、そしてリヴァプールと
いう街のフォロワーとして、ひとかたならぬシンパシーを感じている。


<今日の試合は>

相手は強豪マンチェスター・ユナイテッド。この夏、日本代表のエース香川選手
が新しく加入して大きな話題になったばかりである。この開幕戦は、彼にとって
の記念すべきデビュー戦となるかもしれない。いや、おそらくそうなるだろう。
世界有数の人気と伝統を持ち、この6シーズンで4回もプレミアを制しているユ
ナイテッドの開幕戦に起用されるとなると、日本のサッカー史上においても特筆
されるべき快挙、のはずである。

しかしもちろん、僕はユナイテッドに勝ってほしいわけではない。エヴァトンに
勝ってほしいし、その可能性はじゅうぶんにあると思っている。
だって、エヴァトンはユナイテッドに強いのだ。ホームでもアウェイでも、いつ
も互角に戦うのだ。
選手層からすると圧倒的に不利なんだけど、しかも怪我で主力選手が欠場の場合
も少なくないけれど、それでも、ピッチに立つのは11人対11人であり、その1
人ひとりが「絶対に負けへんで」という気迫で立ち向かって行く姿に、感動させ
られるのだ。
昨シーズン終盤、エヴァトンはユナイテッドのホーム、オールド・トラフォード
で激しい打ち合いを演じ、4-4で引き分けた。このゲームこそがユナイテッド
の優勝を阻んだと言っても過言ではない、と僕は思っている。

というわけで、この試合はただのマッチではない。長旅の疲れだとか時差だとか
お腹がへったとかまずビールが飲みたいとか言っている場合ではないのである。
なんとしても現場に居合わせなければ。この目で見届けなくては!


<グッディソン・パーク到着>

スタジアムに着いたのは19時45分。
周辺は大勢のエヴァトン・サポーターでごった返している。どこを見てもブルー、
ブルー、ブルー。キックオフまであと15分というのに、誰にも慌てている素振
りは見られない。
「おいおいみんな、早く入らないとゲームが始まっちゃうぞ~!」
…と心の中で叫んだものの、僕にもちょっと余裕が生まれて、せっかくだからと
スタジアムをぐるっと一周してみることにした。だって、開幕戦を迎えるホーム
の雰囲気を味わうには、今しかチャンスはないのだから。

サポーターたちの表情は、これから大一番を迎えるという緊張感や高揚感は特に
感じられない。でももちろんみんな、どことなくうれしそう。「ああ、今年も始
まるなあ」といったところだろうか。
フットボールは彼ら、彼女らにとって特別なものではなく、生活の一部なのだろ
う。
空はさわやかに晴れている。酷暑まっただ中の日本から来たばかりの身にはうれ
しいくらいに涼しい気温である。でも夜は冷えそうだな…。

ターンスタイルを回してスタジアムに入り、自分の席についたのは、19時55分。
キックオフ5分前。まさにこれから選手たちが入場しようという場面だった。
僕の座席は、バックスタンドの最前列。センターラインの近くだった。
一段低くなっているため、座ると目線はピッチとほぼ同じくらいの高さ。全体を
俯瞰してゲームを観ることはできないけれど、なにしろ選手に近い。サイドライ
ンはすぐそこにある。まさに「かぶりつき」という表現がぴったり。選手を間近
で見ようと思えば、これ以上は望めないくらいに素晴らしいポジションである。

僕の横は60代くらいのご夫婦。反対側には10歳くらいの男の子とそのおじいさ
ん。ぐるりとまわりを見渡してみても、ローカルっぽくない顔を見つけるのは難
しい。きっとみんな筋金入りのファンである。ちょっと場違いな気もしないでは
ないけれど、もちろん誰も僕を変な目で見たりしない。「JAGIELKA 6」のレプリ
カ・ユニフォームを着てるし、エヴァトンを応援するために来てるんだから。

両軍の選手たちがピッチに姿を現した。おや、赤いユニフォームの中には26番
が! 香川選手、いきなり先発でデビュー!?
すぐに場内アナウンスとスクリーンでの選手紹介が始まった。エヴァトンの選手
ひとりひとりの名前がコールされるたびに、大きな雄たけびがスタジアムに響く。
グッディソン・パークは、4万人入るというのが信じられないくらいにコンパク
トなスタジアムである。それだけにピッチの選手たちとサポーターとの密着度が
高く、まさに「一緒に戦う」という感じがある。


<ゲームが始まった>

注目のカガワは、なんとトップ下にポジションをとっている。彼の前にはストラ
イカーで大黒柱であるルーニーだけ。つまりユナイテッドの得点源にどれだけい
い状態でボールを供給できるか。それがカガワのミッションということになる。

しかし、ゲームは完全にエヴァトンのペースで進む。全員がものすごい気迫でプ
レッシャーをかけて、ユナイテッドの選手を追いつめている。全力でボールを奪
い、奪われたらもっと全力で奪い返す。僕の好きなベインズとジャギエルカのイ
ングランド代表コンビも、いつものようにアグレッシブにプレイしている。

目の前を、両軍選手の鋼のような筋肉が躍動し、おそろしいスピードで駆け抜け
て行く。タックルなんかしようものなら、5~6メートルは離れているというの
に、恐怖を感じるほどの迫力。
フィジカルだけではない。誰もがひとつのボールに集中し、脳みそをフル回転さ
せながら全力でプレイしていることが、びりびりと伝わってくる。

ハーフタイム。
エヴァトンは惜しいシュートがあったもののゴールは決まらず、0-0で前半を
終了した。
しかし主導権は我々にある。このまま攻め続ければきっとリードを奪うことがで
きるだろう、そういう手ごたえを感じながら、売店の列に並んだ。まわりはもち
ろんエヴァトン・サポーターでごったがえしている。みんな僕と同じくポジティ
ヴな気持ちなのだろう、誰の表情も明るく晴れやかだ。

カガワには、思ったよりボールが回って来なかった。しかし彼は45分間ずっと、
相手のパスコースを消す、味方のパスコースに入る、ボールを持ったらシンプル
にパスを出す、ということに集中しているように見えた。ひいき目かもしれない
けれど、もう少しボールが回って来るようになれば、ユナイテッドの攻撃の起点
になるはずだ。うん、そうなってほしい…でも点は入れないでくれよ。

やっと順番が回ってきた。すかさずビールを注文。しかし…ビールはたった今売
り切れてしまったとのこと。が~ん!


<激しい攻防>

セカンド・ハーフが始まった。
前半よりはユナイテッドのパスがつながる、つながる。さすがである。カガワに
もボールが渡りだした。
しかしゲームを支配しているのはやはり我々のほうだ。何度も何度もビッグチャ
ンスを作りだす。スタジアムはそのたびに大きく沸き、大きなため息に包まれた。

特に印象に残っているのは、オズマンが放った強烈なボレーシュートだ。
ゴール正面。まったくのフリー。誰もが先制点を確信して思わず立ち上がった。
しかし無情にもボールはゴールバーを直撃。

「なんでやねーん!」

みんなで頭を抱えている間にボールはユナイテッドに渡り、そのままあれよあれ
よとゴール前へ。カガワのスルーパスが通って「うわあやられた~!」となった
瞬間、ジャギエルカが執念のチャージでクリア!
…ふう~、やれやれ。みんな一緒になって胸をなでおろす。

なんだかちょっとイヤな予感…。
入りそうで入らないときって、カウンター喰らって簡単に点を取られたりするん
だよナ…。
いやいや、だいじょうぶ。そんなマヌケなことは断じて許されない緊張感が今日
のスタジアムにはある。そのうち、必ず、入る。そう誰もが信じている。

そして57分。ついに、ついに、入った!
コーナーキックのボールをアフロヘアのベルギー人、フェライニがヘディングで
ユナイテッド・ゴールに叩き込んだのだ。1-0!
スタジアム全体が揺れる、揺れる。あちこちでハグ。おそろしいほどの盛り上が
りである。僕も絶叫してしまった。

ユナイテッドもさすがに黙っていない。
中央からもサイドからも攻撃を仕掛けてくる。カガワもしっかり絡んでいる。惜
しいラストパスがあり、シュートがあった。しかしエヴァトンの選手たちの集中
力は素晴らしい。体を張ったディフェンスでブロックする。あまりの激しさに、
「うわあPKか?」と客席が凍りついた場面もいくつかあった。


<サポーターも戦う>

得点より前だったか後だったか…おそらく後だったはずだ。面白いシーンがあっ
た。
僕の10mほど右の客席にボールが入り、最前列の兄ちゃんがキャッチした。ユナ
イテッドのスローインとなる場面である。
ディフェンダーのエヴラがボールを受け取ろうと手を広げると、その兄ちゃんは
彼に罵声を浴びせながら思い切りボールをぶっつけたのだ。ダイレクトで。

エヴラ呆然。
そしてエヴラをヒットしたボールは正面に跳ね返って、そのままさっきの兄ちゃ
んの隣にいた別の兄ちゃんの手に渡った。
するとその第二の兄ちゃんは、さっきの兄ちゃんとまったく同じことを繰り返し
た。これも見事に命中。これじゃまるでドッジボールである。

さすがにエヴラも頭にきたようで、両手をひろげて線審を見る。しかし線審は彼
を無視。兄ちゃん2人はますますエヴラに罵声を浴びせ、周りの観客たちもそれ
に加勢している。

断っておくが、エヴラはなんにも悪いことはしていない。ただ赤いユニフォーム
を着ているだけだ。赤いユニフォームを着て、スローインのボールを受け取ろう
としただけだ。
プレミアのアウェイというのは過酷な環境なんだなあと、つくづく思った。カガ
ワはこういう場所でこれから戦って行くのだ。

その前だったか後だったか…もう記憶もかなりあやふやだが、僕にもパスが回っ
てきた。そう、ピッチからのボールが、僕のところに飛んで来たのだ。まっすぐ
に。
カメラを持っていたので万が一を考えてキャッチはせず、右手のこぶしでガツン
とパンチング。ボールは高く弾んでピッチに戻って行った。ふう、オッケー。ス
タジアムじゅう注目している中で空振りしなくてよかった…。


<勝った!>

試合はそのまま1-0で終わった。
エヴァトンの見事な開幕戦勝利である。印象としては3-0くらいの快勝だ。勝
ち点3じゃなくて4くらいもらえないかな。
スタンドでは凱歌が延々と繰り返されている。そりゃあうれしいだろう。内容も
結果も申し分ない。しかも相手はユナイテッドである。痛快を絵に描いたような
ゲームだ。

外に出る。もう10時をまわっているので空は暗いし、夜風が寒い。
アンフィールドもそうだが、グッディソン・パークも、帰り道はなかなか簡単で
はない。
スタジアム周辺は交通規制があり(とても車はスムーズに通行できない)、バス
は少し離れたところから発車する。
しかしこれが数が少ないうえにぎゅうぎゅうに詰め込むので、利用するには
ちょっと勇気がいる。
今停まっているバスはすでに満員で、それでもまだ乗せようとしている。ほかの
場所にも列ができているが、ほんとうにそこにバスが来るのかどうかはわからな
い。もちろんすぐに来る保証もないし、座れる保証もない。

混雑がなくなるまでパブでビールを飲むという選択肢も魅力的なのだが、さすが
に疲れている。眠い。それに寒い。早くホテルに帰りたい。
とりあえず広い道まで歩いて、そこで路線バスなりタクシーなりをつかまえるこ
とにした。なに、もしもつかまらなくても、30分も歩けばシティ・センターに到
着する。歩きたくはないけれど…。


<長い帰り道、そしてパブで>

…で、結局全部歩くことになった。
でも、途中からアムステルダムから来たという大柄な兄ちゃんと一緒になり、話
しながら歩いたので退屈はしなかった。
彼は定期的にイングランドに観戦に来るフットボール・マニアで、この旅行中に
2つのスタジアム・ツアーと2つのリーグ戦を観るという。オランダやドイツの
リーグにも詳しく、ヨーロッパでプレイする新旧の日本人プレイヤーの名前がす
らすら出てきたのにはびっくりした。僕よりはるかによく知っている。

その彼がこう言った。
「これまで国内外でいろんなゲームを観てきたけれど、今日のグッディソン・
パークの雰囲気は、間違いなくベストだ。最高に素晴らしかった」
これには僕も同感である。
エヴァトンの選手とサポーターとスタジアムが、ほんとうにひとつになっていた。
微力ながら、僕もその一部になれた(と信じたい)ことがやっぱりうれしい。

ホテルの部屋に帰る前、リヴァプール・ライム・ストリート駅の横にあるパブ
「マ・エガートンズ」に立ち寄った。
パイント・オブ・ビターを持ってテーブルにつく。ひとりでぼんやりと今日のこ
とを振り返っていると、向こう側で呑んでいたおじさん2人が帰りがけにこちら
にやってきた。

「おい、今日のマッチはよかったよな! むちゃくちゃよかったよな!」
「ええ、ほんとに! サイコーでしたね!」
「あんなゲーム、なかなかないぜ!」

がっちりと抱擁を交わして、別れた。
もちろん面識はない。僕が青いユニフォームを着て、今日の試合のプログラムを
持っていたからだ。おじさんたちも、ユニフォームは着てないけれど、プログラ
ムを持っていた。
なんだかほんとうにエヴァトンのサポーターになっちゃったような気分だな…。
僕の右手には、パンチングのときのずしりとした感触がまだ残っている。

愚直なまでに真っすぐで、どんな大きな相手に対してもひるまず、逃げずに正面
からチャレンジする。それがエヴァトンというチームの伝統であり、魅力なのだ
と思う。そのスピリットを、クラブもファンも誇りにしているのだ。そしてそれ
は、世代を超えて受け継がれている。

グッディソン・パーク・スタジアムのオープンは、1892年8月24日だそうだ。
あと4日で、ちょうど120年である。

(おわり)

≪ http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo522.html ≫ 


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▽今週のフォト
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*** 今週のフォト・アルバム ******

「今週のフォト・アルバム」は、「リヴァプールの青空」シリーズ第4弾として、
2016年撮影の写真を紹介します(NLW No.747にも2016年の青空を掲載してい
るので、これはパート2。すべて違う写真です)。
 http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo759.html 


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       *** 隔週火曜日発行 ***


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