September 28 2021, No.798
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NLW ■ *** http://scousehouse.net/ *** □■ INDEX ■□ ▽フロム・エディター ▼リヴァプール・ニュース <9月20&27日> ▽NLWアーカイヴ:#22「NLWが伝えた9.11」(2001) ▼スカウスハウス・ニュース ▽今週のフォト ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ▽フロム・エディター ――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □ 9.11アメリカ同時多発テロから、20年が経ちました。 あまりにも常軌を逸した恐ろしい事件でしたが、それがまたさらに常軌を逸した 戦争につながって行ったということを考えると、やりきれない気持ちになってし まいます。今月、ようやくアフガニスタンから米軍が撤退しました。 事件発生当時、当然ながら世界のメディアはテロ関係の報道一色といった感じに なりました。リヴァプールの新聞「Liverpool Echo」も例外ではなく、ローカル・ ペーパーならではの身近でリアルな記事がたくさん掲載されていました。「これ は日本語に訳して伝えなければ」と一所懸命、辞書を引きひき、翻訳したことを 憶えています。 「NLWアーカイヴ」第22回として今号に再録します。かなりのヴォリュームに なってしまいましたが、ぜひ読んでみてください。 ピース! ● ● ● 「今週のフォト・アルバム」では、ニューヨークの写真を紹介します。2014年 2月に撮影したものです。 http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo798.html ― Kaz(28/09/2021) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ▼リヴァプール・ニュース <9月20&27日> ――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □ *** 9月20日(月) ******************************* 【イングランド・プレミアリーグ 2021/2022 第5節】 9月18日土曜日、ホームにクリスタル・パレスを迎えたリヴァプールは、3- 0(前半:1-0)で勝ちました。ゴール・スコアラーは、モハメド・サラー (43分)、サディオ・マネ(78分)、ナビー・ケイタ(89分)です。 リヴァプールのユルゲン・クロップ監督は試合後、こうコメントしています。 「今日のうちはブリリアントではなかったが、グッドではあった。なんとかやり 遂げたというか。望まない変更をいくつか加えなければならなかったから。ミ リー(ジェイムズ・ミルナー)はライト・バックの仕事を非常にうまくこなして くれた。実にすばらしかったね」 「パレスは強敵で、タフなゲームだった。モー(モハメド・サラー)が点を決め たのはサプライズではないし、マネはLFCでの100ゴールを達成した。さらには ナビー(・ケイタ)のワンダフルなゴール。ハード・ファイトをした結果の3- 0だった」 「(マネについて)人々は忘れがちなんだが、彼が信じられないくらいハードに 働いたからこその100ゴールなんだよ。点を獲るだけではなく、ハイ・プレスや チャンスのお膳立て、そういうのがあっての100ゴールだ。ゴール以外に非常に 多くの貢献があるし、それが重要なんだ。このクラブの輝かしい歴史の中でも最 大級に称賛されてしかるべきだと思うよ」 ● ● ● 同じく18日土曜日にアストン・ヴィラとアウェイで対戦したエヴァトンは、3 -0(前半:0-0)で負けました。今シーズン初黒星です。 エヴァトンの監督ラファエル・ベニテスは試合後にこう話しています。 「ファースト・ハーフ、そしてセカンド・ハーフの最初は、チームとして非常に 良いパフォーマンスが出来ていた」 「ファイナル・サードで正しいデシジョンが導き出せなかったのが残念だった。 ただ、全体としてはいい戦いが出来ていたと思う。チャンスを作り出せていたか らね。最後の詰めだけが問題だった」 「最初の失点があって、そのあとすぐに2点目を取られてしまったのが痛かった ね。ああなると流れを変えるのは難しい。(怪我で中心選手を何人も欠く現状で) もしベンチに彼らがそろっていたら選手交代で仕掛けて行くこともできたんだが」 *** 9月27日(月) ******************************* 【イングランド・プレミアリーグ 2021/2022 第6節】 9月25日土曜日、ホームにノリッジ・シティを迎えたエヴァトンは、2-0 (前半:1-0)で勝ちました。 エヴァトンのゴール・スコアラーは、アンドロス・タウンゼント(29分・PK)、 アブドゥライエ・ドゥクレ(77分)でした。 エヴァトンが開幕からホームゲームを3連勝したのは、1989-1990シーズン以来 32年ぶりのことでした。それについて監督のラファエル・ベニテスはこうコメ ントしています。 「私自身は知らなかったんだが、試合前に聞かされていた。勝てて嬉しく思う。 昨年の徹を踏まないようにしなければと思っている。ホームではもちろんだが、 アウェイでも勝って行きたい。(次節の)マンチェスター・ユナイテッドが相手 であっても連勝を目指すつもりだよ」 「(6節を終えて4勝1分1敗の好成績。このスタートを予想していたか)ト レーニングで選手たちを見て、いい戦いができるとは思っていた。だがプレミ アリーグでは何がどうなるかは誰にもわからないからね、この結果には少しば かり驚いている。でももちろんハッピーだし、うちのチームはもっと良くなる と信じている」 ● ● ● 同じく25日土曜日、今季プレミアリーグに昇格したブレントフォードとアウェ イで対戦したリヴァプールは、3-3(前半:1-1)で引き分けました。 リヴァプールのゴール・スコアラーは、ディオゴ・ジョタ(31分)、モハメド・ サラー(54分)、カーティス・ジョーンズ(67分)でした。 27分にブレントフォードに先制を許したあと逆転に成功したリヴァプールでし たが、その後2度にわたって追いつかれ、3ポイントを持ち帰ることはかない ませんでした。ブレントフォードの選手、監督、ファンたちのパッショネイトな 戦いぶりも見事でした。「ヨーロッパのベストチームのひとつを相手に、対等に 渡り合った」とブレントフォードのトーマス・フランク監督が試合後に語ったと おりのエキサイティングな試合でした。リヴァプールのユルゲン・クロップ監督 も、「これぞフットボールだ」と納得の様子です。クロップは続けます。 「楽しめたと言うのは変かもしれないが、とにかく目まぐるしい展開だったね。 ブレントフォードはポイントを得るにふさわしい闘いをした。私はそれを喜んで 認めよう。こんなに素晴らしいフットボールを見せてくれたんだからね」 7年前、ブレントフォードはリーグ1(イングランド3部リーグ)に属していま した。 先制点を決めたセンター・バックのイーザン・ピノックは、ノンプロ・リーグの チームでキャリアをスタートさせています。 クロップが「10番のシャツが似合いそう」とコメントするほど好プレイを連発 したゴールキーパーのダビド・ラヤは、6年前にはノンプロ・リーグのサウス ポートに貸し出された経験を持っています。ラヤの話です。 「クレイジーなゲームだったね。真っ向勝負出来たのがよかった」 「リヴァプールはさすがだったけど、うちのチームもすごく良かった。まとまっ ていた。ニュートラルの人が観てもグレイトなゲームだったと思う」 2点目を決めたヴィタリー・ヤネルトはこう話しています。 「リヴァプールを相手に3-3のドロー。子供の頃の夢って感じ。相手は世界有 数のベストチームなんだからとにかく自分たちのベストを出し尽くそう、ってこ とで試合に臨んだんだけど。それがこんなことになるなんて」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ▽NLWアーカイヴ:#22「NLWが伝えた9.11」(2001) ――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □ 過去のNLWからピックアップしてお届けするアーカイヴ・コーナーです。 第22回は、「9.11 アメリカ同時多発テロ」。あれから20年が経ちました。 NLWでは、テロ後最初の発行となったNLW No.21(2001年9月25日発行)で4本、 次のNLW No.22(2001年10月2日発行)でも1本、9.11に関連した記事を掲載 していました(すべて地元紙「Liverpool Echo」の記事を翻訳したものです)。 ここに再録します。 「NLWが伝えた9.11」(2001年)----------------------- ≪≪≪ NLW No.21 - September 25, 2001 ≫≫≫ *** リヴァプール・ニュース 2001年9月16日(日) ********************* 【シャワーのおかげで】 ニュー・ヨークに住むリヴァプール出身の女性が、夫を死から救った。シャワー を長く浴びたことで。 コンピューター・プログラマーの Nicky Tsoros は、最初の旅客機がワールド・ トレード・センターに突っ込もうとしている時、まさにそのタワーのエレヴェー ターに乗るところだった。 数分早ければ、彼は確実にエレヴェーターに乗って81階にあるオフィスのデス クに向っていたことだろう。 しかしそうはならず、ビルディングは爆発と火災に見舞われ、彼は頭上から降っ てくる残骸の中を命からがら走り抜けた。 後になって、彼は妻の Paula (34歳、ベル・ヴェール生まれ)と共に、リ ヴァプールの親戚に連絡をして、無事だと伝えた。「もし仕事に遅れて行かな かったら、ニッキーは死んでいただろう」と。 シティ・センターに住むポーラの叔母 Sylvia McMurty は、こう言っている。 「彼は仕事に遅れて行ったんだそうですわ。ポーラがシャワーに入っている間、 子供たちに食事をさせなければならなかったからって」 「最初に旅客機が突っ込んで来た時、彼はエレヴェーター・ホールでエレヴェー ターを待っていたの」 「すぐにTVで流されたその様子を見て、ポーラは恐怖に襲われたそうです。 ニッキーが殺されてしまったんじゃないかと思って。そして死に物狂いで彼に電 話をかけ続けたけれど、繋がらなかったそうです」 息が詰まるほどの不安に苛まれながら待っていると、突然ニッキーから電話がか かってきた。彼は混乱しているようだったが、自分はOKだと妻に伝えた。 そして彼は、クィーンズとロング・アイランドを結ぶノースエンド・ブリッジを 走って渡ったのだと言った。 それを聞いたポーラは、いてもたっても居られず、子供たちを連れて、橋のたも とで待つ夫のところへ走って駆けつけた。 そしてその夜、ニッキーとポーラは、リヴァプールの親戚に宛ててEメールを書 いた。 マクマーティー夫人は続ける。 「Eメールには、ロング・アイランドにある彼らの家のベッドルームからの景色 がどんなふうだかが書いてありました。大きな煙や、あのツイン・タワーが建っ ていた場所の空白のことなんかが」 「今回の事には、親戚中のみんなが心をかき乱されることになりました。それで、 何か少しでも手助けできないかと考えて、みんなで献血をすることにしたんです。 でも基本的には、先のことはお天道様にしかわからないことですよね」 「ニッキーには職場が無くなってしまったし、この先何が起こるかなんて本当に 誰にもわからないわね」 *** リヴァプール・ニュース 2001年9月19日(水) ********************* 【平和の聖地に】 ニュー・ヨークのセントラル・パークの一角にある John Lennon を記念した庭 Strawberry Fields が、今、ワールド・トレード・センターの惨劇の犠牲になっ た人のための聖地となっている。 16日の日曜日、レノンの未亡人 Yoko Ono によって造られたこの「ピース・ ガーデン」には、何百人もの人々が集まってきた。 ニューヨーカーも海外からのツーリストもみな同じように、広大な公園の中のこ の静かなコーナーに集まってきた。 ある者はキャンドルに火を灯し、またある者は花束を供えていた。 「私たちは平和を実現することが出来るの?」 これはそこに書かれていたメッセージのひとつだ。その下に、誰かが答えている。 「イエス、出来るさ」 こんなものもある。ニュー・ヨーク・シティの Lauren からのメッセージだ。 「これだけは言わせて。アフガニスタンは、この場所への立ち入りが許される国 のリストの最初にランクされるべきよ」 ジョン・レノンが撃たれる銃声を聞いたという、車椅子に乗った年配の女性は、 こう話す。 「本当に平和を祈る中心地になったわね。この場所は」 「ジョンが Sean を抱いてこの公園を散歩する時には、よく彼とおしゃべりした ものよ。『ここに来るといつもピースフルな気分になるんだ』ってジョンは言っ ていたわね」 Fred Gurner は、攻撃や戦争を訴える見出しが躍る新聞を片付けていた。怒りを あらわにして。 「ここは平和の庭であるはずだろ? 憎しみや戦争じゃなくて。もし、みんなが こういうふうに考えているのだとしたら、ここにジョンの魂を見つけに来ても無 駄だね。きっと愛想をつかしてリヴァプールに帰ってしまうだろうよ」 臨時のピース・ガーデンとなった「ストロベリー・フィールズ」だが、ヨーコ・ オノはまだここに姿を現していない。しかし年配の彼女の友人は言う。 「その時が来れば、ヨーコは降りて来ますよ。平和で静かな社会のために」 「彼女はよくわかっていますよ。ジョンなら、この恐ろしいバイオレンスが広 がって行かないかと、ひどく心配しているはずだということを」 *** リヴァプール・ニュース 2001年9月20日(木) ******************** 【マージーサイドの祈り】 マージーサイドでは、これまでに1万人以上の人が、米国でのテロリストの暴挙 によって起こった悲劇への哀悼の気持ちを表している。 事件から1週間が経った今でも、哀悼のメッセージは次から次へと寄せられてお り、途切れる様子は見られない。 ハイ・ジャックされた旅客機がニュー・ヨークやワシントン、ピッツバーグでク ラッシュして20時間後の水曜日の朝9時、リヴァプールのタウン・ホールには 弔意の言葉を記すためのノートが置かれた。そしてそれ以来タウン・ホールには 続々と市民が訪れ、それぞれに思い思いの言葉を記している。 そこに来ることが出来ない人からは、市長あてに電話がかかってきた。何十件も。 それらの人々の名前やメッセージは、市のスタッフによってリストに書き加えら れた。 リストの名前はどこまでも増えつづけている。 タウン・ホールの外側の手すりや階段には、一輪のバラの花から豪華な花束まで、 あらゆる種類の花が供えられている。人々がそれぞれに持ち寄った花だ。 哀悼のメッセージは、あらゆる年代や国籍に渡る人々から寄せられている。ある 人は個人で、またある人は家族や組織を代表して。 置かれた花々のうちのいくつかは、秋の冷たい風のために早くも枯れ始めつつあ るが、しかし人々の心の温もりや愛情は、まったく変わらず溢れ続けている。 あるひとつの花束には、3文字の言葉が添えられていた。 「WHY?」 市長 Gerard Scott は、ノートにこう記している。 「わたしたちの祈りや思いは、あなたがたすべてと共にあります」 カウンシル・リーダーの Mike Storey はこう記している。 「愛と祈りを」 警察署長の Norman Bettison は、6200人の署員を代表してサインした。 「我々は特に、我々の兄弟や姉妹たちのことを思っている。殉職したニュー ヨーク市警の署員のことを。我々全員は、あなたがたの素晴らしい街で起こった 悲しみや恐怖の体験を分かち合いたいと思う。もちろんワシントンやピッツバー グも同様に」 ビートルズ・フェスティバルのオーガナイザー Bill Hackle は、こう記してい る。 「言葉を失った。アメリカにたくさんいる私の友人たちのことを思うばかりだ」 署名やメッセージは、ひとつにまとめて皮の装丁を施し、ロンドンのアメリカ大 使館を通じて米国に送られることになっている。 *** リヴァプール・ニュース 2001年9月22日(土) ******************** 【決死のエスケイプ】 ワールド・トレード・センターが攻撃を受けて破壊された時、John Ritchie は、 妻の Dot と結婚1周年を祝うためにニュー・ヨークに旅行中だった。 リヴァプールのヘイルウッドに住む46歳のビジネスマンは、彼と妻がいかに して生き延びたかを語った。 最初の轟音を耳にした時、私たちはホテルの部屋にいたんだ。それは8時45分 頃で、私はシャワーを浴びていた。いつもの如く早起きをしていたから、その時 間は私たちにとっちゃ昼間みたいなもんだ。 泊まっていたホテルは「ホリディ・イン」で、ワールド・トレード・センターか ら2ブロックしか離れていなかった。私たちは、お祝いのホリディを過ごしてい るところだった。10日が妻の46歳の誕生日で、9日が私たちの結婚記念日 だったから。 轟音と爆発音が聴こえた時、自分たちの建物が揺れているのを確かに感じた。そ れで私はシャワールームから飛び出て、妻のいたベッドルームへ行った。妻は ちょうどTVを点けたところだった。 ニュース・チャンネルの画面で、タワーに旅客機らしきものが突っ込んだんだと いうことがわかった。 それから慌てて準備をして、まさにドアの外に出ようとした時に、次の航空機が ぶつかった。ホテルのロケーションの具合で、ブロードウェイに出るには一旦 ワールド・トレード・センターの方へ1ブロックほど下がらなければならなかっ た。それで私たちは、そこで何が起こっているのかを目にすることになった。 トリニティ・チャーチのところで見上げてみると、2つのビルディングが両方と も燃えていた。自分たちが目にしている光景が信じられなかった。それはまさに 超現実的だった ― ほとんど映画のシーンのように思えて、自分たちがそこにい ることが奇妙に感じられた。 落ちてくる人や、ビルからジャンプする人たちがいたんだ。98階から落ちてき たある男は、ダーク・スーツ姿だった。またある男は、コートをビルの外に突き 出して懸命に振っていた。これらのイメージを、私は決して忘れないだろう。彼 らを助けられずに、ただそこに立っていることしか出来なかったどうしようもな い気持ちを、決して忘れないだろう。 救急車がやって来たので、私たちは邪魔にならないように群集の中に入ることに した。そこには、ピン・ストライプのスーツを着て頭を抱えている男がいた。 彼はあまりの出来事に取り乱していた。彼は、彼の秘書が2番目のビルの47階 にいるのだと言った。本当ならミーティングをしている時間なのだが、遅刻した せいで今ここにいるのだと言った。 彼はまた、ボストンでハイ・ジャックがあったらしいと教えてくれた。私たちが 「これはテロリストの仕業に違いない」と気づいたのは、この時だった。 私は妻に、急いでここを離れるべきだと言った。「トリニティ・チャーチの反対 側の、ウォール・ストリートのエリアまで走ろう」と。 突然、ひとつのタワーが崩れ始めた。マッシュルームのような煙が上がり、そし てビル全体が崩れた。そこにいた全員がいっせいに逃げ始めた。ラッシュの中で は倒れる人もたくさんいたが、他の人に踏みつけられていた。 走りながら振り返ってみると、迫ってくる大きな煙と、落ちてくるたくさんの破 片が見えた。 そして私は、ドットを2つの車の間の隙間に放り出し、その上に覆い被さった。 彼女を守るために。 真っ暗闇になる前で私が憶えていることは、逃げる途中に私を踏んで倒れ、そこ にあった足場にぶつかった男がいたことだ。その後彼の姿は見ていない。 そして、この世の終わりのような轟音が鳴り響いて、空からいろんな物が降って 来た。そして崩れたビルディングを追いかけるような風が吹いた後は、気味の悪 い静寂がやって来た。あたり一面がまっ黒になったが、なぜ黒くなったのかがわ からなかった。おそらく煙のせいなのだろうが。 最初は火から生まれた普通の煙だったが、じきに粉塵や残骸の煙になっていた。 それはまるで皆既日食のようだった。真っ暗闇で、ガスや塗料やファイバーグラ スなどがぐちゃぐちゃに入り混じった中に私たちはいた。そして私は思った。 「もうだめだ…これで死ぬんだな」と。 完全な暗闇だった。顔の前の自分の手も見えなかった。そのうちに少しずつ光が 射しだして、白い粉が空気中を満たすようになった。しかしそれでも、まだまだ 視界は開けなかった。 私は、「またいろんなものが降って来るかもしれないからゆっくり起き上がろう」 と妻に言った。そして空気が澄み始めて明るくなるのを待って、再び避難を開始 した。 私たちは、脱ぎ捨てられた多くの靴や、何千もの書類で出来たシーツの上を歩い た。書類は、空気中にもひらひらと漂っていた。服や、靴や、ありとあらゆるも のがそこらじゅうにあった。 私たちはホテルに戻って、服を脱いでビニール袋に詰めて捨てた。ファイバーダ ストにすっかり覆われていて、使い物にならなかったから。 私たちがホテルに戻った頃、2つめのタワーが崩れた。その時点で、私たちのホ テルはすでにホテルとしての機能を停止していた。 私たちはトーチを持ってさまよい歩いた。ろうそくはそこらじゅうにあった。そ の晩はそのホテルで過ごし、翌日「クラウン・プラザ・ホテル」に移った。そし てそれから38時間も経った後、やっと最初の電話を家にかけることが出来た。 エリアの外に出ることを禁じられていたせいで、電話をかけることすら出来な かったのだ。 しかし電話をかけるためには、40ブロックほども歩かなくてはならなかった。 正常に動いているものは何もなく、依然として修羅場がそこにはあった。 私は、まずベルファストに住んでいる私の母 Maureen と父の Alan に電話をか けた。父は叫び声をあげた。「ジョン、お前なのか?」彼はドットの声も聞きた がった。 そして私たち2人ともがちゃんと生きていることを確かめた。それから私は、 ドットの子供に電話をかけた。20歳の Gary と、16歳の Alexandra だ。彼 らもまた、私たちが死んでしまったものと信じていた。 それから私たちは、何マイルも何マイルも歩いた。何のあてもなく。歩きながら、 これはいったいどういうことなのかを理解しようとした。しかしそれは全く無意 味なことのように思われた。こんな無茶苦茶なことを、いったい誰がどうやって 理解できるというのだ。 ≪≪≪ NLW No.22 - October 02, 2001 ≫≫≫ *** リヴァプール・ニュース 2001年9月29日(土) ********************* 【サーのトリビュート】 Sir Paul McCartney は28日、ワールド・トレード・センターで生存者の救出 のために働くレスキュー隊員は、彼に父親を思い出させると語りました。 サー・ポールは、テロ事件が起こった時、フィアンセの Heather Mills と一緒 にニューヨークにいました。JFK空港の滑走路で、飛行機の離陸を待っていた そうです。 現在サー・ポールは、追悼のためのコンサートを計画しているところです。それ はかなり大掛りなものになる予定で、「ライヴ・エイド」以来最大のチャリティ・ ロック・イヴェントとなりそうです。 彼は、レスキュー隊の勇気や意志に触れて、第2時大戦の時にヴォランティアの 消防士として活躍した彼の父親を思い出したと話しました。 「あの悲劇が起こった時、私はちょうどそこにいたんだ。トレード・センターの 最後の瞬間を見たんだ」 「JFK空港の滑走路で、『離陸を見合わせます』という機長からのアナウンス があった。そこで起きていることが、まるで信じられなかった」 「とても悲しかったけれど、ニューヨークに居合わせてよかったとも思った。街 じゅうに広がっていった素晴らしいヒロイズムを目の当たりにすることができた し、ささやかながらその証人になれたのだから」 「消防士を含め、犠牲になった人の家族のために、私にも何か役に立つようなこ とができるのなら、とても光栄に思う」 「父親が関わっていたせいで、消防士には特別な感情を持っているんだ。彼らが 示してくれた勇気は、本当に見事だったと思う」 「コンサートをやったらどうだいって、友人に言われたんだ。で、そうだなって 思った。消防士としては役に立たないが、ギグならできるからね」 ショウは、ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで、女優の Gwyneth Paltrow と、コメディアンの Jerry Seinfeld のホストで行われる予定です。 Mick Jagger、Bruce Springsteen、Sting、そして David Bowie などのロック・ スターの参加が見込まれています。 サー・ポールは、その晩ステージで “Let It Be” を歌うつもりだそうです。 「みんなが感情を込めることのできる歌だから」 一方、事件のために延期されていた「ジョン・レノン・トリビュート・コンサー ト」は、10月2日火曜日にマンハッタンで行われます。そこでは、今回の事件 の被害者への寄付が集められるということです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ▼スカウスハウス・ニュース ――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □ *** スカウスハウス通販(1) ****** 英国盤レコードの通販です。「ビートルズ」「ビートルズ(ソロ)」「ビートル ズ関連」「ブリティッシュ・ロック」「シングル&EP」の5カテゴリー。リヴァ プールで仕入れたアイテムばかりです。オーダーいただけるとうれしいです! http://scousehouse.net/shop/records2021.html *** スカウスハウス通販(2) ****** スカウスハウス通販「シルバー・アクセサリー」を更新しました。永らく品切れ になっていたLennon-NYペンダントが入荷しています。チェーンの太さ&長さ にいくつかのヴァリエーションがあって、お好みのタイプをお選びいただけます。 現在、アクセサリー全アイテムを対象に、お手入れ用磨き布(研磨剤入り)をプ レゼント中。オーダーをいただけるとうれしいです! https://scousehouse.net/shop/silver.html *** スカウスハウス通販(3) ****** 「Beatleweekグッズ」の通販です。品ぞろえはこじんまりとしていますが、オ フィシャル・プログラムやTシャツなど、これまでのビートルウィーク会場で仕 入れたアイテムばかりです。 ほとんど1点ものの限定販売。オーダーいただけるとうれしいです! http://scousehouse.net/shop/bwgoods.html *** 原稿募集中 ****** NLWでは、読者のみなさんからの投稿を募集しています。 旅行記、レポート、研究、エッセイ、写真などなど、リヴァプール、あるいは英 国に関するものなら何でも歓迎です。 お気軽にお寄せください。楽しい作品をお待ちしています。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ▽今週のフォト ――――――――――――――――――――――――――――――――─ NLW □ 「今週のフォト・アルバム」では、ニューヨークの写真を紹介します。2014年 2月に撮影したものです。 http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo798.html ■ NLW ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *** 隔週火曜日発行 *** □■ 第798号 ■□ ◆発行 SCOUSE HOUSE (スカウス・ハウス) ◇編集 山本 和雄 ◆Eメール info@scousehouse.net ◇ウェブサイト http://scousehouse.net/ ◆Facebook http://www.facebook.com/scousehouse.net ◇お問い合わせフォーム http://scousehouse.net/liverpool/form.html ご意見・ご感想・ご質問など、お気軽にお聞かせください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ このメールマガジンは、以下の配信サーヴィスを利用して発行しています。配信 の解除やメールアドレスの変更は、それぞれのウェブサイトからどうぞ。 ◆まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000065878.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無断での転載を禁じます。 Copyright(C) 2001-2021 Scouse House |