April 08 2025, No.884
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NLW ■ *** http://scousehouse.net/ *** □■ INDEX ■□ ▽フロム・エディター ▼エコーのエコー:ジョディ・カマーお気に入りのパブに行って飲んでみた ▽エコーのエコー:リヴァプールの歴史的パブ「イー・クラック」が売却に ▼NLWアーカイヴ:#28「ザ・ディセンターズ」(2003) ▽スカウスハウス・ニュース ▼今週のフォト ------------------------------------------------------------------------ ▽フロム・エディター ---------------------------------------------------------------- NLW □ NLW No.884です。 今号の「エコーのエコー」では、リヴァプールのパブ「イー・クラック」の記 事を2本、紹介しています。と言っても、2本目は1本目からの転用文章が半 分以上あるので、1本半、という感じ。かな。 (いつも思うんだけど、イギリスのニュース記事には、転用とか転載はわりに 多いです。執筆者が同じなら理解できるんだけど、そうではなかったり、ある いは別のニュース媒体でまったく同じ文章が掲載されたり...) イー・クラック。ご存じのビートルズ・ファンは多いんじゃないかと思います。 「ジョン・レノンのパブ」として有名ですよね。ジョンが通っていたアート・ スクールにいちばん近いパブで、学生や講師たちの行きつけの酒場であり、社 交場でした。ジョンがスチュアート・サトクリフと初めて会ったのもこのパブ だと言われていて、ビル・ハリーやロッド・マレーら同志たちと夢を語り合っ たり、のちに妻となるシンシアと親密な時間を過ごした場所でもありました。 シンシアによると、ジョンに飲み方を教えたのはアート・スクールの講師であ り有名な画家でもあったアーサー・バラードで、彼はジョンに大きな影響を与 えたそうです。学校そっちのけでクラックに入り浸るジョンのために、このパ ブで出張授業を行なったりもしたとか。そこまでする先生もすごいけど、そこ まで先生にさせるジョンもすごい。まさに理想的な関係だったんじゃないかな。 刺激的な人間関係のうえに文学とアートと音楽が濃密に混じり合った、まさに ジョンにとっての「大学」がこのザ・クラックだったのかもしれません。 150年の歴史を持つ「イー・クラック」は、あらゆるものが古風で、なんだか タイムスリップしたような気分にさせてくれます。街の中心からは少し離れた エリアの裏通りにあって、小さくて、おしゃれでも豪華でもない、飾り気も まったくないローカル・パブ。「入りにくい居酒屋」ランキングにリストアッ プしたくなるような佇まいなんだけど、一度入ってみると妙にリラックスでき る、落ち着いた雰囲気のパブです。ビールも美味しい。裏庭のビアガーデンも 最高に気持ちいいです(暖かい晴れの日限定)。 僕が初めて入ったのはたしか1997年だったと思うんだけど、それから30年近 くが経ったとは信じられないくらいに同じ雰囲気をキープしている「ザ・ク ラック」。きっと、ジョンが通っていた時代からもそんなに変わってしないん じゃないかな。 スカウス・ハウスではむかし、夏のビートルウィークの際に「スカウス・ラン チョン」というのをよく企画していました。リヴァプール伝統料理の「スカウ ス」をみんなに味わってもらおうというランチ・パーティーです。このパブを 会場にしたことも何度かあって、いつも本格的なスカウスをたくさん用意して くれていたっけ。もちろんお客さんにも大好評でした。 現在のマネージャーのゼイディアさんは陽気で豪快な性格のおばちゃんで、行 くたびに明るく迎えてくれました。ある時、「写真撮るんだったらこっちに 入っていいわよ。ほら、グラス持って、サーバー握って、さあポーズとって」 と言ってくれたので、遠慮なくバーカウンターの中に立ったことがあります。 ツアーのお客さんにカメラを構えてもらって、僕は左手にパイントグラス、右 手はギネスのサーバーに。そして...決してわざとではないんだけど、写真を 撮ってもらいながら知らず知らず握ったハンドルを倒していて、ビールがグラ スの中に...ジョロジョロジョロと。ゼイディアさんに「こら! 誰がほんと にビール注いでいいって言ったのよ!」と怒られて手元に視線を落とすと、す でにグラスの半分くらいに。にゃはは。その場でみんな大笑い。 「しょうがないからこれあんた飲みなさい」 「わーい、ラッキー!」 「なーに喜んでるのよ!」 なんて会話を交わしたおぼえがあります。 オーナーが代わるということで、これからクラックがどうなるのか、一抹の不 安も無きにしもあらず。ですがとにかく、ゼイディアさんの時代があったこと に感謝したいです。お疲れさまでした。どうもありがとう! ● ● ● 「エコーのエコー」の記事中、イー・クラック店内に飾ってある記念プラーク について、触れられています。リヴァプールをアートや文学や音楽の世界の中 心にしようという野心を燃やした、ジョンとその仲間たちを記念するもので、 22年前の2003年に設置されました。そういえばその時のことをこのNLWに書 いてたよなーと思って発掘してみたところ、無事に発見。せっかくなので、今 号で紹介しますね。「NLWアーカイヴ」の#28、タイトルを「ザ・ディセンター ズ」として掲載します。 この「ディセンターズ」、当時は「反逆者たち」と訳していました。今回の 「エコーのエコー」記事中では「異端者たち」としています。どっちがいいの かな。あるいはほかにいい言葉があるかも。関係ないけど、1967年のフラン ス映画「冒険者たち」、いいですよねえ。 ● ● ● 「今週のフォト」は、イー・クラックの写真を。できるだけ最近のアルバムの 中から探してみようと思います。ゼイディアさんが写ってるのもあるかも?? http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo884.html ● ● ● 毎年恒例、リヴァプールで開催されるビートルズの祭典「インターナショナル・ ビートルウィーク」。その観賞パッケージ「スカウスハウス・ツアー2025」の 参加者募集中です! http://scousehouse.net/beatleweek/scousetour2025.html --- Kaz(08/04/2025) ------------------------------------------------------------------------ ▼エコーのエコー:ジョディ・カマーお気に入りのパブに行って飲んでみた ---------------------------------------------------------------- NLW □ 2025年3月15日付「リヴァプール・エコー」に掲載された記事を翻訳して紹 介します。 ----------------------------------------------------------------- ジョディ・カマーのお気に入りのパブに行って飲んでみた ライアン・パットン&エミリア・ボナ 2025年3月15日 もしあなたがリヴァプールのジョージアン・クォーター地区で、気持ちのよい 午後に(あるいは夜更けに)飲み歩いたことがあるなら、きっとイー・クラッ クこのとはすでにご存じだろう。ライス・ストリートにあるこのパブは、ロー カルたちに愛されているが、ツーリストにも愛されている。ジョン・レノンの お気に入りのパブだったことで、多くの観光客が訪れている。 そして、この裏通りにある小さなパブには、セレブリティのファンが他にもい ることが判明した。リヴァプール出身の俳優ジョディ・カマーだ。「ヴォーグ」 英国版でジョディは、最新作映画「ザ・バイクライダーズ」の共演者と一緒に、 有意義な24時間をリヴァプールで過ごすプランについて語った。その候補の 中に、イー・クラックが含まれている。 この映画にはオースティン・バトラーとトム・ハーディも出演している。故郷 の街で彼らとどのように1日を過ごすかについて、ジョディはこう語っている。 「まず彼らを私のママのところに連れて行くわ。ママは最高のローストディ ナーを作るから」 「それから、そうね、アルバート・ドックを散歩するかな。ホープ・ストリー トのそばのクラックに行くのもいいわね。あそこにはかわいいジュークボック スがあるのよ。昔ながらの」 インタヴューの後半で、ナイトクラブ「ザ・ブルー・エンジェル」で夜を締め くくるのはどうかと訊かれたジョディは、笑いながらこう答えている。 「ラズ(ブルー・エンジェルの愛称)にはもう11年以上も行ってないわ。ラ ズにまた行きたいかどうかも微妙かな。あの蛍光色のドリンクとか、ベタベタ の床とか。でもあの頃はそれがすっごく輝いてたのよ。ほんとよ」 舞台や映画で活躍するスターからの賞賛を受けて、我々はこのパブに一杯やり に行くことにした。その雰囲気にひたって、ジョディがそんなにもファンであ る理由を確かめてみようと思ったのだ。このパブには時代を超えた魅力がある。 シティ・センターのトラディショナルなパブの典型でもある。 ホープ・ストリートから少し入ったところにあるこのパブは、元々は「ザ・ ルーシン・キャッスル」と呼ばれていた。歴史は長く、この場所に150年以上 も留まり続けている。「リヴァプール・パブズ」という著書でケン・パイは、 1862年にルーシン・キャッスルの経営者は隣のコッテージを買って敷地を拡張 したと書いている。当時は「イー・クラック」というのは単なるニックネーム に過ぎなかった。由来はおそらく、店の横にあるエントランスにつながる隙間 のようなアプローチだろう。 クラックとは、混み合ったパブの客同士の生き生きしたおしゃべりを表す言葉 である、という指摘もある。アイリッシュの言葉に、陽気な会話を表す「クラ イク」という言葉があるからだ。パイの本「リヴァプール・パブズ」によると、 「イー・クラック」という店名が公式に登録されたのは1892年のことだ。 パブの名前の「クラック」の部分についての由来はやや不明といったところだ が、「イー」の部分についてはお手上げである。スカンジナヴィアの方言によ く見られる綴りであるが、パブの歴史が19世紀にまで遡ることを考えると、 このケースでは昔風の言い回しを気まぐれに付け加えただけなのかもしれない。 いずれにせよ、ほとんどの人々には、このパブはシンプルに「ザ・クラック」 として知られている。 パッと見では、ザ・クラックはどこにでもあるような地元の酒場だ。昔ながら のバー・エリアに木の羽目板、壁に沿って長いベンチシートが渡してある。仕 切られた小部屋がいくつかあり、音楽やおしゃべりの声から離れて静かに過ご すこともできる。しかし入口でない方のドアを通り抜けると、あなたは自分が この街の中心部における最も貴重なビアガーデンに佇んでいることに気がつく はずだ。街の喧騒から隔絶された、アウトドアのオアシスである。初めて体験 する誰もが驚くこと請け合いだ。 ツーリストにとっては、ザ・クラックといえばジョン・レノンのお気に入りの 水飲み場として最もよく知られているはずだ。美術学生時代のレノンは、ブ ラック・ヴェルヴェットをよく飲んでいたと当時のバーテンダーは証言してい る。スパークリングワインにギネスを注ぎ足したカクテルだ。ここはまた、レ ノンと最初の妻シンシアにとって、ファースト・デイトの場所でもある。彼ら はカレッジ・ダンスで出会った。 店の壁には、ファブ・フォーとのコネクションを記念したプラークが飾ってあ る。1950年代の終盤、ジョン、ジョンの友人でビートルズのオリジナル・メ ンバーのスチュアート・サトクリフ、アーティスト仲間のロッド・マレー、そ してライターのビル・ハリーは、「ザ・ディセンターズ(異端者たち)」をこの パブで結成した。それぞれのやり方でリヴァプールを地図に刻むと誓った美術 学生たちのグループだ。 元従業員が残した手紙があり、それには、当時のレノンには何度も嫌な思いを させられたとある。曰く、 「あいつは僕らがテーブルをきれいに拭き上げるのを待って、足を乗せたりす る。テーブルの上にあるきれいなビアマット(コースター)はたびたび半分に ちぎられた。彼はそこに詩を書いてたな」 「今はそのあとどうなるかを知っているわけだけど、それが当時も分かってた らって思う。ごみ箱に放ったりぜずに、そういう紙切れは全部大事に取ってお くよねそりゃあ」 ビートルズのコネクションを別にしても、いろいろと見るべきものがこの店に はある。メインバーのほかに、白漆喰の建物のフロント部分には小ぶりのバー がある。シーティング・エリアにはベンチ、そして壁画。ワーテルローの戦い を描いたものも。前述した素晴らしいビアガーデンがあり、当時の酒場で定番 だったダーツエリアもそのまま残されている。 この19世紀のパブのユニークな特徴をもうひとつ。「ウォー・オフィス(戦争 省)」と呼ばれる、赤い革張りのベンチが設られた小部屋だ。常連客やボーア 戦争から帰還した兵士たちのための個室で、他の客に迷惑をかけずに戦いの功 績について議論することができた。 この愛すべきジョージ王朝時代のパブに伝わる歴史と神話に浸ることは、リ ヴァプールの午後を有意義なものにするには完璧なやり方だろう。ヴォーグ誌 に語った理想のツアールートで、ジョディがこの店をチョイスしたのも頷ける。 彼女はよく分かっているのだ。そう、イー・クラックが特別なパブであること を。 I went for a pint at Jodie Comer's favourite pub and she's got great taste This cosy little backstreet pub has a colourful history and it was singled out by the star as the best in the city By Ryan Paton SEO Writer and Emilia Bona Content Editor 15 March 2025, Liverpool Echo https://www.liverpoolecho.co.uk/whats-on/whats-on-news/went-pint-jodie-comers-favourite-31205685 ------------------------------------------------------------------------ ▽エコーのエコー:リヴァプールの歴史的パブ「イー・クラック」が売却に ---------------------------------------------------------------- NLW □ 2025年4月3日付「リヴァプール・エコー」に掲載された記事を翻訳して紹 介します。 ----------------------------------------------------------------- リヴァプールの歴史的パブ「イー・クラック」が売却に ダン・ヘイガース 2025年4月3日 リヴァプールで人々に愛されているパブ「イー・クラック」が売却されること を、「エコー」紙が確認した。ジョージアン・クォーターのライス・ストリー トに佇むこの歴史のあるパブのマネージャーが、売却が決まっているとエコー に語った。 彼女によると、6名のスタッフともどもこの職場を離れる模様で、最後の出勤 日は4月27日になるとのこと。エコーは現在のオーナーにもコメントを求め たが、この記事の執筆時までに回答は得られなかった。このパブの購入者は現 在のところ明らかになっておらず、このリヴァプールの名物が今後どうなるか についても不明である。 150年以上もライス・ストリートに立っているこのパブの元々の店名は、「ザ・ ルーシン・キャッスル」。名前が「イー・クラック」になったのは1862年で、 ルーシン・キャッスルの当時の店主が隣のコッテージを購入して敷地を広げた 際、店名も変更された。 歴史家ケン・パイの本「リヴァプール・パブズ」によると、「イー・クラック」 というのはこの店につけられたニックネームだったということだ。由来はおそ らく、店の横にある狭いエントランスだろう。 このパブを有名にしている最も大きな理由は、美術学生時代のジョン・レノン のお気に入りの酒場だったという事実だろう。のちのビートルズは、ギネスと スパークリングワインのカクテル「ブラック・ヴェルヴェット」を好んで飲ん でいた。カレッジ・ダンスで出会った最初の妻シンシアとの最初のデートの場 所でもある。 店の壁には、ファブ・フォーとのコネクションを記念したプラークが飾ってあ る。1950年代の終盤、ジョン、ジョンの友人でビートルズのオリジナル・メン バーのスチュアート・サトクリフ、アーティスト仲間のロッド・マレー、そし てライターのビル・ハリーは、「ザ・ディセンターズ(異端者たち)」をこのパ ブで結成した。それぞれのやり方でリヴァプールを地図に刻むと誓った美術学 生たちのグループだ。 元従業員が残した手紙があり、それには、当時のレノンには何度も嫌な思いを させられたとある。曰く、 「あいつは僕らがテーブルをきれいに拭き上げるのを待って、足を乗せたりす る。テーブルの上にあるきれいなビアマット(コースター)はたびたび半分に ちぎられた。彼はそこに詩を書いてたな」 「今はそのあとどうなるかを知っているわけだけど、それが当時も分かってた らって思う。ごみ箱に放ったりぜずに、そういう紙切れは全部大事に取ってお くよねそりゃあ」 現在のイー・クラックは、ジョージアン・クォーター地区でも最も人気のある パブのひとつである。トラディショナルなバー・エリアやウッドパネルが人々 を惹きつけている。サイド・ルームのひとつは「ウォー・オフィス(戦争省)」 と呼ばれ、赤い革張りのベンチが設られている。ここはパブで最も古い部分だ。 ウォー・オフィスは、常連客やボーア戦争から帰還した兵士たちのための小さ な個室で、他の客に迷惑をかけずに戦いの功績について議論することができた。 イー・クラックのファンには、もうひとりセレブリティがいる。リヴァプール 出身の俳優ジョディ・カマーだ。「ヴォーグ」誌の英国版のインタヴューで彼 女は、最新作映画「ザ・バイクライダーズ」の共演者と一緒に、有意義な24 時間をリヴァプールで過ごすプランについて語った。その候補の中に、イー・ クラックが含まれている。 この映画にはオースティン・バトラーとトム・ハーディも出演していて、故郷 の街で彼らとどのように1日を過ごすかについて、ジョディはこう語っている。 「まず彼らを私のママのところに連れて行くわ。ママは最高のローストディ ナーを作るから」 「それから、そうね、アルバート・ドックを散歩するかな。ホープ・ストリー トのそばのクラックに行くのもいいわね。あそこにはかわいいジュークボック スがあるのよ。昔ながらの」 Historic Liverpool pub Ye Cracke 'sold to new owners' A pub has stood on the site on Rice Street since the 19th century By Dan Haygarth, Liverpool Daily Post Editor and Regeneration Reporter 03 April 2025, Liverpool Echo https://www.liverpoolecho.co.uk/whats-on/food-drink-news/historic-liverpool-pub-ye-cracke-31337630 ------------------------------------------------------------------------ ▼NLWアーカイヴ:#28「ザ・ディセンターズ」(2003) ---------------------------------------------------------------- NLW □ 過去のNLWからピックアップしてお届けするアーカイヴ・コーナーです。 第28回は、22年前のNLW No.117(2003年9月30日発行)から、「『ビートル・ ウィーク 2003』レポート(その4)」を掲載します。タイトルは「ザ・ディ センターズ」にしました。 「ザ・ディセンターズ」 / Kaz(2003)----------------------- ≪≪≪ NLW No.117 - September 30, 2003 ≫≫≫ 「インターナショナル・ビートル・ウィーク」期間中には、毎年、フェスティ ヴァルのプログラム以外にもビートルズにちなんだイヴェントがいろいろと企 画される。 何しろ何万人ものビートルズ・ファンがつめかけるフェスティヴァルだから、 「どうせやるのならこの時期に」ということになるのだろう。もちろん我々 ファンにとっては、嬉しい特別プレゼントのようなものだ。目が回るほど忙し いフェスティヴァルではあるけれど、きちんとアンテナをはっていれば、そう いったチャンスを逃さずに済むし、予期せぬ幸運が舞い込んで来ることもある。 今年(2003年)は、マイク・マッカートニーの写真展(ミュージアム・オブ・ リヴァプール・ライフ)と写真集出版記念サイン会(ヴァージン・メガストア)、 そしてスチュアート・サトクリフのエキシビション(ミュージアム・オブ・リ ヴァプール・ライフ)などがファンを喜ばせていたが、もうひとつ、あまり目 立たなかったけれどとても印象的なセレモニーが「イー・クラック」で行われ た。 8月23日の昼ごろ、僕は「ブルー・エンジェル」の前にいた。 朝からお客さんと一緒にLIPAで行われた「ビートルズ・オークション」を見 に行き、それを適当なところで切り上げて街中に戻る道すがら、即席のガイド・ ツアーをしているところだった。 ビートルズ・ファンにはおなじみだが、「ブルー・エンジェル」とは、ビート ルズの初代マネージャー、アラン・ウィリアムズが経営していたナイト・クラ ブで、シルバー・ビートルズがビリー・フューリーのバック・バンドのオー ディションを受けたところだ。キャヴァーン時代のビートルズの、行きつけの クラブでもあった。 その前で写真を撮っている我々の前を、1台の車が通り過ぎたと思うと少し向 こうで止まり、がっしりした初老のおじさんが降りてこちらに歩いて来た。 「やあ、君たちはビートルズが好きなんだね。明日もリヴァプールにいるのか な」とおじさん。 「ええ、そうです。明日ですか、もちろんいますよ」と僕。 「そうか、実は『イー・クラック』というパブでちょっとしたセレモニーがあ るんだ。ぜひ行ってみるといい。ほら、これをあげよう」 おじさんはそう言って1枚の紙を差し出した。そこには、こう書かれていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――― NEWS RELEASE・NEWS RELEASE・NEWS RELEASE・NEWS RELEASE At 1pm on Sunday 24 August, a Plaque to commemorate John Lennon's "other band"(the one which never played a note) will be unveiled at Ye Cracke, Rice Street, off Hope Street, Liverpool. The plaque commemorates THE DISSENTERS- John Lennon (1940-80) musician Bill Harry (1939-) writer (founder/editor Mersey Beat) Stuart Sutcliffe (1940-62) artist (and "5th Beatle") Rod Murray (1937-) artist/holographer The plaque will be unveiled by Bill Harry and Rod Murray. ―――――――――――――――――――――――――――――― ディセンターズ。 反逆者たち、ということだろうか。「ジョン・レノンのもうひとつのバンド (音楽を演奏しなかったほう)」、という表現が洒落ている。つまり、このパブ から生まれた4つの偉大な才能を記念するプラークを作って、その除幕式が明 日行われるということらしい。まったく知らなかったけれど、面白そうだ。そ れに、最後に「除幕をするのはビル・ハリーとロッド・マーレー」と書いてあ る。ロッド・マーレーについては、ジョンとスチュと一緒のフラットに住んで いたということ以外はよく知らないが、ビル・ハリーには前々からどうしても 一度会ってみたいと願っていた。ブライアン・エプスタインとビートルズを引 き合わせたのも、マージービートが世界的なムーヴメントになったのも、この 人がいてこそ、だったのだから。 「こりゃすごいですね。ビル・ハリーとロッド・マーレーが来るなんて」 「そうなんだよ。ええとそのパブはだね、そっちの坂を上がって行って…」 「だいじょうぶですよ、『イー・クラック』でしょ? よく知ってますから。 明日行ってみます。どうもありがとう」 翌日、1時ちょっと前に「イー・クラック」に着いて外で写真を撮っていると、 ホープ・ストリートから折れて、2組の中年のカップルがこちらに歩いて来る のが見えた。その中の1人は、間違いなくビル・ハリーさんだった。写真で見 た昔の風貌とはずいぶん変わっているが、ひと目でわかった。紺のジャケット にブルーのシャツ、白のカジュアル・パンツ姿のビルさんには、確かに知的で 繊細なムードが漂っていた。 談笑のタイミングを見計らって、挨拶をした。 「こんにちは、ビル・ハリーさん。お会いできてとてもとても嬉しいです。今 日はセレモニーがあると聞いて、ここに来たんです」 「やあ、そうかい、それはありがとう。そう、1時からだ。もうすぐだな。中 でやるんだよ」 「イー・クラック」は、こじんまりとしていてとても古く、いかにも「ローカ ル」という雰囲気がある。外観も内装もシンプルな造りで、ディスプレイも質 素この上ない。おそらく、ジョンやスチュやシンシアやビルやロッドたちが毎 日のようにここで議論したり騒いだりしていた頃と、あんまり変わっていない んじゃないかと思う。妙に落ち着けるパブで、僕のお気に入りのひとつだ。特 に、よく晴れた暖かい日の午後に、バック・ガーデンに出て小鳥のさえずりを 聞きながら呑むビールは、とても美味い。まさに至福のひとときである。 セレモニーのために集まった人数は、関係者と取材スタッフを入れても、ざっ と20人くらいのものだった。店のサイズを考えても、やはりとても少ない。 除幕式が始まった。 簡単な挨拶があって、ロッドとビルが幕に繋がっている紐を引っぱる、プラー クが現れる、みんなが拍手をする、それだけだった。 プラークには、4人の反逆者たちの名前と顔が掘り込まれている。なかなか カッコいいデザインだ。 ロッドとビルがテーブル席に移る。新聞社のカメラマンが、もう1人のおじさ んを加えて写真を撮る。よく見ると、ロッドとビルに挟まれているそのおじさ んは、昨日「ブルー・エンジェル」の前で声を掛けてくれたおじさんだ。なん とこの人、プラークのデザイナーだったのだ。 公式の撮影が終わると、次は一般のファンの番だ。順番に並んで、サインをも らったり一緒に写真を撮らせてもらったりする。ビルもロッドも、快く応じて いる。 僕は、まずビルにサインをもらった。やっぱり緊張した。それからロッドにも お願いした。ロッドは、ビルよりもかなり大柄だった。声も大きく、なかなか 豪快な性格の持ち主のようだ。ベージュのカジュアル・スーツの下には、グ リーンのTシャツを着ていて、その下のお腹はまんまるにふくらんでいる。 「ロッドさん、こんにちは。お会いできて嬉しいです。ええと、ここにサイン をもらえますか?」 僕は、「 Beatles' Liverpool 」というビートルズ・ガイド・ブックの、ガン ビア・テラスを紹介したページを広げて差し出したのだが、それがロッドに受 けたようだった。 「ん? おおー、これこれ、ここだここだ、俺たちが住んでたガンビア・テラ ス! おいビリー、ちょっと見てみろ、ほら。いやあ、懐かしいなあ。この本 は何なんだ? どこに売ってるの? へえ、そうかあ」 そう言いながらロッドは、ページの上の余白に、ささっとサインをして、ガン ビア・テラスの写真の下に「 our old home 」と書き、ジョンとスチュと一緒 に暮らしていた頃のフラットの様子を説明しだした。とても嬉しそうに。 「ええとな、ほらここに3つ窓があるだろ。この真ん中が俺の部屋だったんだ よね。それでさ、中はこうなってて(と言って表紙の裏の白いページに、フ ラット内部の見取り図を書く)、ほら、ここが俺の部屋だろ、それでこれが階 段で、その裏っかわの部屋にジョンとスチュが一緒に住んでたんだ。キッチン はここで、バスルームはここ。え? そうなんだよ、俺の部屋がいちばん広い んだ。ははは。いやあ、懐かしいなあほんと…」 嬉しくてしょうがないという表情で、ロッドはしゃべり続ける。 ロッドもビルも2人とも、リラックスして、心底楽しそうに40数年前を懐か しんでいた。 40年後の「反逆者たち」。 ふと、「今ここにジョンやスチュもいたらどんなだろうな」と考えてしまった。 ≪≪≪ NLW No.117 - September 30, 2003 ≫≫≫ ------------------------------------------------------------------------ ▽スカウスハウス・ニュース ---------------------------------------------------------------- NLW □ *** Beatleweek 2025 スカウスハウス・ツアー:参加者募集中! ****** 今年8月にリヴァプールで行われるインターナショナル・ビートルウィーク観 賞パッケージスカウスハウス・ツアー2025の参加者募集をスタートしました。 おなじみのビートルズ・コンヴェンションやアデルフィでのオールナイト・ パーティー、キャヴァーン・クラブでのライヴはもちろん、ホープ・ストリー ト・フェスティヴァルや豪華なフィルハーモニック・ホールでのハイ・クォ リティなコンサートやマージー河向こうのポート・サンライトでの大きなイ ヴェント、さらにはあの伝説の「マシュー・ストリート・フェスティヴァル」 プチ復活の野外イヴェントなどなど、これでもかというくらい盛りだくさんの 企画が用意されています。 もちろんスカウス・ハウスのオプショナル企画も充実。リヴァプールとフェス ティヴァルを満喫していただけるラインナップと自負しています。 初めてのかたもリピーターも大歓迎。聖地リヴァプールで開催される世界最大 のビートルズ・フェスティヴァルに、あなたもぜひ! この夏、ぜひリヴァ プールでお会いしましょう! http://scousehouse.net/beatleweek/scousetour2025.html *** スカウスハウス通販:英国盤レコード ****** スカウスハウス通販「英国盤レコード」です! スカウスハウス通販の英国盤レコードを更新しました。 昨年12月に「2024 The Beatles (LP)」というコーナーをリリースしてから早 いもので3ヶ月。今回は「Singles & EPs」コーナーの登場です。昨年夏にリ ヴァプールで買い付けてきたアイテムを中心に61枚。オーダーをいただける とうれしいです! <通販トップページ> https://scousehouse.net/shop/records2024.html <通販商品ページ> The Beatles (LP) https://scousehouse.net/shop/record_single2024.html Singles & EPs https://scousehouse.net/shop/record_beatles2024.html <オーダー・フォーム> https://scousehouse.net/shop/orderform_ukrecords2024.html *** 現地ビートルズ・ツアー ****** スカウス・ハウスでは、ビートルズ・ファンの「聖地巡礼」の旅をサポート しています。リヴァプールでは、22年目となった「リヴァプール・ビートル ズ・ツアー」、名所観光とランチがプラスされたお得な「ビートルズツアー+ ランチ&名所観光」、「伝説のカスバクラブ・ツアー」をご用意。「現地英語ツ アー(Magical Mystery Tour, Mendips & 20 Forthlin Road Tour)」の代行予 約も承ります。 ロンドンのビートルズ名所を訪ねる「ロンドン・ビートルズ・ツアー」も大好 評。イギリス旅行の際にはぜひご利用ください。 http://scousehouse.net/beatles/beatlestour_liverpool01.html http://scousehouse.net/beatles/guide_london.htm *** PLAY AT THE CAVERN! ****** スカウス・ハウスでは、リヴァプールのキャヴァーン・クラブでのライヴをア レンジしています。もちろん現地コーディネートつきです。 ウェブサイトの「for ビートルズ・バンド - PLAY AT THE CAVERN!」ページを ご覧ください。 ビートルズ・バンドのみなさん、「リヴァプールのキャヴァーン・クラブで演 奏する」という夢をぜひかなえてください! http://scousehouse.net/beatles/playatthecavern.html *** スカウスハウス通販:シルバー・アクセサリー ****** スカウスハウス通販「シルバー・アクセサリー」のアイテムは、すべてスカウ スハウス・オリジナルです。いちばんのおすすめは「Lennon-NYペンダント」 が入荷しています。ジョン・レノンがニューヨーク時代に愛用していたペンダ ントをイメージしたアクセサリー。チェーンの太さ&長さはお選びいただけま す。オーダーをいただけるとうれしいです! https://scousehouse.net/shop/silver.html *** 原稿募集中 ****** NLWでは、読者のみなさんからの投稿を募集しています。 旅行記、レポート、研究、エッセイ、写真などなど、リヴァプール、あるいは 英国に関するものなら何でも歓迎です。 お気軽にお寄せください。楽しい作品をお待ちしています。 ------------------------------------------------------------------------ ▼今週のフォト ---------------------------------------------------------------- NLW □ 「今週のフォト」は、イー・クラックの写真を。できるだけ最近のアルバムの 中から探してみようと思います。ゼイディアさんが写ってるのもあるかも?? http://scousehouse.net/magazine/nlw_photo884.html ■ NLW ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *** 隔週火曜日発行 *** □■ 第884号 ■□ ◆発行 SCOUSE HOUSE (スカウス・ハウス) ◇編集 山本 和雄 ◆Eメール info@scousehouse.net ◇ウェブサイト http://scousehouse.net/ ◆Facebook http://www.facebook.com/scousehouse.net ◇お問い合わせフォーム http://scousehouse.net/liverpool/form.html ご意見・ご感想・ご質問など、お気軽にお聞かせください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ このメールマガジンは、以下の配信サーヴィスを利用して発行しています。 配信の解除やメールアドレスの変更は、それぞれのウェブサイトからどうぞ。 ◆まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000065878.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無断での転載を禁じます。 Copyright(C) 2001-2025 Scouse House |