April 29 2008, No.342
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NLW ■ *** http://scousehouse.net/ *** ―――――――――――――――――――――――――――――― ▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」 ―――――――――――――――――――――――――─ NLW □ 「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン 〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜 ― 第127号 / 北リヴァプールのコミュニティー・イベント2つ ― ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish127_photo.html ≫ 今週は、シティーセンターから離れて、北リヴァプールで開催された異 なるコミュニティー文化イベント2つを紹介します。 まずはフットボール・コミュニティーのイベントから。 木曜日の晩に開催された舞台《The Shankly Show》のプレミア公演。 シティーセンターより北のWest Derby Roadにある古い劇場Liverpool Olympiaには多くのレッズ・サポーターが詰め掛けました。テーマはもち ろんリヴァプールFCの名将だったビル・シャンクリー。そうです、アン フィールド・スタジアムの正面入り口で、両腕を空に向かって大きく広 げた銅像の人物です。 ビル・シャンクリーは、スコットランドの小さな炭鉱の村グレンバック出 身。厳しい生活環境で少年時代を送りますが、貧しいながらも互いに 助け合いながら暮らす村の人々の中で育ち、自然にコミュニティ精神 と社会派の視点を身につけます。 68歳で第二の故郷リヴァプールに骨をうずめましたが、リヴァプール監 督就任時からずっとウェストダービーのテラスハウス(長屋)で暮らし、 最期まで派手な生活スタイルを嫌ったとも言われています。 没後27年の今でも歴代のリヴァプールFCの監督の中で絶大なリスペ クトを得ているビル・シャンクリーは、絶望的な状況であった選手達と の密接なコミュニケーションを通じて強い絆を結び、プライドを植え付 けて奮い立たせ、チームを育てあげてドン底から栄光へと導きました。 自他共に認める「ピープルズ・マン」で、アンフィールド・スタジアムに漂 うエネルギッシュな雰囲気を愛し、リヴァプールという土地を愛し、フッ トボールを通じてファンと市民に希望と幸せをもたらすことに努めたこ とで、選手とサポーター両方のハートをがっちり掴みました。 現在のリヴァプールの選手とファンの強さの基盤は、シャンクリーに よって形成されたといっても過言ではないですね。 ショーの始まる前に、脚本家のアンドリュー・シャーロックが挨拶をし、 出席していた元プレストン選手/イングランド代表選手のトム・フィ ニーを紹介すると、ハーフタイムには彼のもとにファンが殺到し、サイ ン攻めに遭っていました。 観客の中には他にも元リヴァプール選手のブライアン・ホールとイア ン・キャラガンの姿も見られました。 この舞台はサッカーと同様、前半45分、ハーフタイム15分の休憩をは さんで、後半45分という構成。 当時の貴重な映像もふんだんに使われていて、前半に白黒、後半に カラーに分かれていました。 シャンクリーがリヴァプールの監督時代に遺したウィットに富んだパワ フルな名言や、強烈なエピソードで綴ったライフストーリーを、役者が シャンクリー自身となってモノローグ形式で進行するドキュメンタリー舞 台です。 ところどころで、シャンクリーが選手やファンなどに告げた金言が飛び 出すたびに、観客から拍手や歓声が上がりました。 <前半> 大好きだったブラジリアン・ブラックティーを飲みながら、1959年にリ ヴァプールFCの監督就任したころのことを回顧します。 子供達に「海辺の町に引っ越すからね」と約束して説得したものの、落 ち着いた先は海辺から程遠い、かつてのエヴァトンFCの元練習所の 真向かいだったとのことで家族をがっかりさせたとのこと。当時は、リ ヴァプールはセカンド・ディヴィジョンで低迷し、エヴァトンがファースト・ ディヴィジョンで黄金時代を謳歌していた時期でもありましたので、エ ヴァトンに追いつき追い越すことを最初のターゲットにしたのも理解で きます。 2番手に甘んじることに慣れきった当時のマネージメント陣は、優秀な 選手を獲得するための資金も出し惜しんでいたため、経営体質から改 善を呼びかけます。運よくシャンクリーの考えに共感する会計士が役 員となって資金調達に走り、シャンクリーは選手獲得に専念し、本格 的なチーム編成に乗り出します。 その甲斐あって徐々に流れが変わり、1962年にはファースト・ディヴィ ジョンに昇格し、1963/64年のシーズンではリーグ優勝を飾りました。 <後半> これまでのキットが赤のシャツに白のショーツが定番だったところを、 ショーツもソックスまで真っ赤で統一して、選手の情熱を高めてますま す強さを増して他チームを威嚇します。 ピッチに出るまでの通路に "THIS IS ANFIELD" のサインを掲げること を決めたのもシャンクリーだったんですね。今やスポーツ心理学や哲 学などの専門家が関与しているのでしょうが、当時鋭い洞察力をもっ て人の心を察知し、本能的にアクションに移したシャンクリーはやはり ただものではありません。 64年にFAカップ優勝。タウンホール前での凱旋パレードの様子は、 2005年のパレードも顔負けの凄さでした! 66年には再びリーグ優勝。70年代に入り、ケヴィン・キーガンを中心と した第2次チーム再編成を経て1973年にはリーグ優勝だけでなく、初 のUEFAカップを勝ち取りヨーロッパを制覇。1974年にリヴァプールが 再びFAカップの優勝を果たすと、シャンクリーはこの絶頂期に引退を 表明し、60歳でサッカー界を去ります。 突然の引退のニュースをきいたサポーターは信じられず、動揺を隠し 切れなかったようですが映像にも表れていました。 「栄光の日々よ、栄光の日々よ」 と懐かしみながらステージを去ります。 芝居のフィナーレにゴスペル合唱団が "You'll Never Walk Alone" を歌 い出しましたが、これは不要だったかもしれません。あの流れでいけ ば、必ず観客の誰かがこの曲を歌い出し、自然発生的に会場全体が 大合唱の渦で包まれること必至だったことでしょう。 《The Shankly Show》の主人公シャンクリー役には、アレキサンダー・ ウェスト(愛称サンディー)を起用。このキャスティングが決定するまで の道のりはこれまた厳しかったようです。 シャンクリーの訛りが話せて、風貌が似ていて、しかも有能な俳優、と いう全条件を満たす人はそうそういません。 スコットランドと言えども広大で、地域によってアクセントも異なります。 3月の終わりに、一度は俳優ジョナサン・ワトソンに決定して、アン フィールドのプレス・ルームで派手な記者会見まで行ったにもかかわら ず、本番10日前にあっさり降板。 サンディーはたったの1週間のリハーサルで本番に臨み、見事に大役 を全うしました。 大合唱の後、主人公が再びステージに戻ってきました。観客はスタン ディングオーベーションで「シャンクリー! シャンクリー!」と叫びなが ら何分ものあいだ拍手を送りました。 これは、シャンクリーへの尊敬の念ももちろんですが、役をこなしきっ たサンディーへの賞賛でもあるともとれます。 一晩限りのパフォーマンスでしたが、再公演も検討してほしいもので す。 Liverpool Olympia: http://www.liverpoololympia.com/event.php?eid=6983 ショーが終わって会場を出るときに、廊下や階段は混雑してなかなか 進みませんでした。そんなときにもシャンクリー・コールが湧き起こり、 素晴らしい雰囲気でした。 先週の火曜日のチャンピオンズ・リーグ準決勝のファーストレッグは、 リヴァプールが最後の最後でまさかのオウン・ゴールをやってしまって、 引き分けに終わりました。 でも、きっと、この芝居を観に来たレッズ・サポーターは、セカンドレッ グに向けて更にやる気を高めたのではないでしょうか。 水曜日は、私もスカーフを振り回しながらテレビ観戦しようと思います。 この舞台はキャピタル・オブ・カルチャーの公式プログラムのイベントで すが、実はエヴァトン版の舞台は含まれいないんです。これは、市を 二分する問題になりかねませんよね。。。 と心配していたら、さすがはリヴァプール人です。市の助成を受けよう が受けまいが、赤がやるなら青も負けられぬ! と言わんばかりに、 エヴァトン・チームも企画を用意しています。 ディキシー・ディーンがワン・シーズンで60ものゴールを決めるという記 録を打ち立てた年から今年が80周年にあたるのを記念して、《The Dixie Dean Story》のプレミア公演が5月5日に開催される予定だそう です。 ♪ ♪ ♪ もうひとつは、地域コミュニティーのイベント。 通常はシティーセンターで展開している《Liverpool Biennial》ですが、 ヨーロピアン・キャピタル・オブ・カルチャーの協力を得て、近郊地域を 巻き込んだ3つのパヴィリオンを展開しています。 カークデイルの<Rotunda>、ケンジントンはEdge Hill Stationに拠点を 置く<METAL>、そしてガーストンの<Garston Cultural Village>。 この土曜日は、Rotunda(ロタンダ)のパヴィリオンがオープンしました。 地元のコミュニティーカレッジRotunda Collegeが中心になって、ランド スケープ建築家のグロス・マックスと地域住民が相談し合いの場を持 ち、これまで空き地同然だったロタンダ広場を、コミュニティーガーデン に変身させることに決定。 半分には芝生を植えてその真ん中に大きなタワーを作り、もう半分の スペースにはイレギュラーな縞状に異なる植物を植えて、「バーコード ガーデン」を作りました。 タワーの内側にもプラントが飾られていて、それらが育つのを見るの が楽しみです。 今後も、演劇、コンサート、ワークショップ、太極拳、バーベキュー大会 などのイベントやLiving Market(アート&クラフトマーケット)、そしてイタ リアはナポリとの国際交流プログラムなども計画されているようです。 道を渡ったところにあるコーナーショップのおばちゃんも、 「パヴィリオンが地域を明るくしたので素晴らしいことだわ、今まで何に もなかったからね」 と喜んでいました。 次の週末は、ケンジントンのEdge Hill駅のパヴィリオンがオープンしま す。 Liverpool Biennial: http://www.biennial.com/content/Programme/InternationalPlus11.aspx Metal: http://www.metalculture.com/Pavilion ♪ ♪ ♪ 【今週の告知】 この週末は、バンクホリデーで連休です。アルバート・ドックでは、アル バート・ドックとTate Liverpoolの20周年バースデー記念のイベントが行 われます。 Albert Dock: http://www.albertdock.com/index.php?page_id=1535 Tate Liverpool: http://www.tate.org.uk/liverpool/eventseducation/birthday/tltwentiethbirthdaycelebrations.htm それではまた! ミナコ・ジャクソン♪ ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish127_photo.html ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無断での転載を禁じます。 Copyright(C) 2001-2008 Scouse House |