May 06 2008, No.343
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
       〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

 ― 第128号 / バルティック、エッジ・ヒル&ディングル ―
 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish128_photo.html ≫

こんにちは。
この週末は、再開発されたアルバート・ドックとTate Liverpoolのオープ
ンから20周年のバースデーを迎えました。
今や、世界遺産のステータスを誇るウォーターフロントの景観の中でも
中心的なポジションにあるアルバート・ドックですが、現在ある姿に再
開発される前の80年代は、完全に見放された廃墟の元倉庫街で、寄
りつく人もなかったとのことです。

今週は、次なるアルバート・ドックになるかは分かりませんが、現在音
楽やアートを通じて生命力を盛り返している地域の文化施設2つを紹
介します。

まず水曜日、アルバート・ドックから程近いバルティック・トライアングル
(Baltic Triangle)地域に所在するライブハウス<The New Picket>に行っ
てきました。
リヴァプール出身のエレポップ・グループ、Ladytronの新譜
《Velocifero》発表&ワールドツアー前のウォーミングアップ・ギグが開
催されたのです。

バルティック地域は、パブ<Baltic Fleet>や地ビール<Cains>の醸造所
などが古くからあるほかは、こちらも倉庫跡地や自動車整備工場など
インダストリアルなエリアです。
プラス、市の中心街から少し外れていることもあって、よっぽどのこと
がない限り一般の人々が足を運ぶ理由のある場所ではありませんで
した。

注目を浴び始めたのはバイエニアルでアート会場として使用された
2004年で、その後2006年にNew Picketがオープンし、財閥系アート団
体<A Foundation>が本格的にギャラリー展開を始めました。
昨年はバイエニアルの本部とアーティストのアトリエ<Arena>がこのエリ
アに拠点を移し、今年に入ってからはチャリティー団体<Novas>が巨大
文化施設<Contemporary Urban Centre>の運営を開始しました。
交通の便などまだまだパーフェクトとは言えませんが、ここ数年徐々
に、しかし確実に熱さを増している地域です。

さて、The New Picketですが、「ニュー」と言っているからには、
旧Picketがあるのでは…?
そのとおり。元祖PicketはシティーセンターはHardman Streetにありま
した。
1980年代に、現Picketを運営しているフィル・ヘイズが中心となって、
失業者センターの敷地内にライブハウスとレコーディングスタジオを設
立しました。
オノ・ヨーコ、エルヴィス・コステロ、ポール・マッカートニー、オアシス、
ポール・ウェラー、マッドネスのサグス、ピーター・ガブリエル、ニュー
オーダー、トラヴィス、フーのピート・タウンゼント、そして今は亡きク
ラッシュのジョー・ストラマーらから機材が寄付されて誕生したこのライ
ブハウス&スタジオは、リヴァプールのバンド・シーンをサポートし、地
元の音楽好きやミュージシャンからも愛され、多くのバンドが巣立ちま
した。

The La'sもデモをレコーディングし、ライブも行ったバンドのひとつです。
私も10年ほど前に、リヴァプール出身の無名バンドのショーケース・イ
ベントなどによく足を運びました。

皮肉にもリヴァプールが2008年の欧州文化首都に選ばれた2003年に
失業者センターの建物そのものが売却されることになり、The Picketは
閉鎖を迫られました。
フィル・ヘイズや地元のプロのミュージシャン達が主体となって "Save
the Picket" キャンペーンを展開したにもかかわらず、元の場所は救え
ませんでしたが、2006年にバルティック地域に新しい巣を見つけて再
開したというのがThe Picketの歴史です。

現在も、有名無名のローカルバンドのライブ、チャリティー・ギグ、そし
て若い音楽タレントの育成などを積極的に行っていて、リヴァプールが
今後もミュージック・シティとして君臨するための縁の下の力持ち的な
存在です。

 <The New Picket>
  61 Jordan Street, Liverpool, L1 OBW
  Save the Picketホームページ: www.savethepicket.com
  ライブ・イベント情報はこちらから。
  New Picketマイスペース: http://www.myspace.com/picketliverpool

余談になりますが、ミュージックシティーといえば、英国の公的文化機
関アーツ・カウンシルが主催で、「イギリスで最も音楽的な都市はどこ
か?」を競う一般投票がネット上で行われています。
マンチェスターとの一騎打ちとも言われていますが、やっぱりリヴァプ
ールでしょ? Vote For Liverpool!
http://www.artscouncil.org.uk/takeitaway/stories/cities_liverpool.php

♪ ♪ ♪

先週のロタンダ・パヴィリオンに続いて、今週末はケンジントン地域の
エッジ・ヒル・パヴィリオンがオープンしました。
場所は、マージーレイルのEdge Hill駅です。
この駅、実は1830年に開通した世界で最初の旅客鉄道(リヴァプー
ル―マンチェスター)の始発駅で、現役で使用されている駅舎としては
世界最古のものと言われています。

こんなに立派な歴史のある駅ですが、現状は駅周辺は寂れて閑散とし
ていて、電車も各駅列車が止まる程度。どう見ても乗降者率は低そう
です。
エッジ・ヒルの地域で生まれ育った友人のジョージ曰く、子供時代に政
府によるスラム化対策の名目で、地域住民は全員立ち退きに遭い、
古い住宅はことごとく壊されてコミュニティーは散り散りになったとのこ
とです。
現在でもケンジントン地域は統計的にイギリスの中でも貧窮地域の一
つと見なされていますが、近年はさまざまな角度からの再開発が進ん
でいます。

このパヴィリオンをリードしているのは、アート団体<Metal>。
ケンジントン地域の再開発団体<Community Seven>からの要請を受
けて、2004年からケンジントンに拠点を置き、アートを通じた地域住民
とのコミュニケーションを構築してきました。
Edge Hillのプロジェクトでは、コロンビア人アーティスト&建築家親子の
ルイス・フェルナンドとフアン・マニュエル・パラエスとのチームアップで
進められました。

3番&4番線のプラットホームに通じる、現在は使われなくなった通路
には複数の白い立体の楔形のボックスで構成されたオブジェが作ら
れ、駅舎の一階にはAL and AL(ゴールドフィッシュ126号参照)がアー
ティスト・イン・レジデンスをして特撮映画を作ったブルースクリーン・ス
タジオ<The Lost Ark> が(踏みつけられたジョン・レノンのCDもありま
した!)、そして上の階にはAL and ALが影響を受けた漫画が壁中に
展示された<The Invisible Reading Room>があります。

ブルールームには、作品《Eternal Youth》のラッパーWinston Gloryを
演じたフィリップ・マキューがいたので、ウィンストン顔をしてもらって写
真を撮りました!(でも素の顔は穏やかでにこやかな人でしたよ)

金曜日の夕方のプレヴューと土曜日の昼間のオープニング両方に出
席しましたが、プレヴューの日は雨上がりで虹が出ていて、コーネリア
ス・マッカーシーが歌う 《What a Wonderful World》 がとてもしっくりきて
いました。

パヴィリオンのオープニングの映像がLiverpool Storiesから見られま
す(他にもたくさんいい映像があるので必見です!)。
http://liverpoolstories.blogspot.com/2008/05/edge-hill-pavilion.html

土曜日の一般公開は、沢山のアクティビティーが満載でした。
無料のバッジ作り、ドラミング・ワークショップやフェイスペインティング
のほかに、シアターグループ<Bootworks Theatre Collective>による映
画仕立てのパフォーマンスは最高に面白くて人気がありました。
このパフォーマンスですが、観客は一回につき一人のみで、ブラック
ボックスの中から鑑賞します。ボックスの外では役者がいそがしく演技
をしていますが、中からはあたかも3面スクリーンの映画をみているよ
うで、非常に賢くできてました。こんな感じでみえます。↓
http://www.bootworkstheatre.co.uk/pages/bootworks/unboiteandalou.php

今後は、アーティストと住民が共同で考えた様々なプログラムがこの場
所を拠点にして行われます。毎週金曜日の映画上映会が興味深いで
す。
http://www.metalculture.com/Edge-Hill+Events+Programme

空洞化してしまったEdge Hill駅周辺ですが、このパヴィリオンができる
ことで、ケンジントン地域各地の住民やリヴァプールの人々が集まる
センターとなることを願っています。

 <エッジ・ヒル・パヴィリオン(Edge Hill Pavilion)>
  水〜土 11.00am〜4.00pm(その他の時間は要予約)
  アクセス:(電車)Lime Street 駅から各駅列車で1駅
       (バス)86番でUpper Parliament Street下車
           又は、79番でWavertree Road下車。

エッジ・ヒル・パヴィリオンの詳細は、Metalホームページから。
http://www.metalculture.com/News-Edge-Hill-Station

♪ ♪ ♪

最後に、次なるエッジ・ヒルの危機に瀕しているディングルのウェル
シュ・ストリーツ地域の静かなプロテストの写真を送ります。
このエリアは、リンゴ・スターの生家があることでも有名な地域ですが、
すでに多くの住民が立ち退いています。

このプロテストは、<The Unknown Poets>による匿名プロジェクトです。
強引な再開発によってエッジ・ヒルの二の舞にならないようにとのメッ
セージや、今も残ってこの地域での生活を守るために闘っている住民
に送るエールを代弁するような曲の歌詞や文学からの引用句をポス
ターにして、空き家のドアひとつひとつに貼り付けたものです。
ビートルズからシェイクスピアまでさまざまで、考えさせられます。

それではまた来週!

ミナコ・ジャクソン♪

≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish128_photo.html ≫


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