October 07 2008, No.359
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  リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World   
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▽特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」
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「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン
       〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜

 ― 第139号 / 第5回リヴァプール・バイエニアル開幕! ―

 ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish139_photo.html ≫

こんにちは。
まずは、この場をお借りして、カズさんの赤ちゃん誕生を心からお祝い
します! 親子でレッズのユニフォームを着て歩く姿をすでに想像して
います。とにかく健康で明るくやさしい子に育つことを祈っています!

さて、このところお休みがちなゴールドフィッシュだよりでしたが、お陰
さまで忙しさのピークを何とか乗り越え、ようやく呼吸を整えてたところ
です。
私はリヴァプールのアート団体<ジャンプ・シップ・ラット>がコミッションし
た《POP UP》プロジェクトで、3人の日本人アーティストのコーディネー
ターとして、構想段階から制作、発表まで密着していました。
ジャンプ・シップ・ラット主催《POP UP》については、後ほど触れます。

前回号から今までの間に、9月20日に第5回リヴァプール・バイエニア
ルがスタートしました。
9月21日には秋晴れの空のもと《ホープ・ストリート・フィースト》が盛大
に行われ、フード、ドリンク、マーケットストール、パフォーマンスであふ
れました。
10月1日にはショッピング・センター<Liverpool One>のフルオープン。
2008年後半もまだまだ元気なリヴァプールです。

♪ ♪ ♪

まずは、リヴァプール・バイエニアルから。
今年のバイエニアルのテーマは“MADE UP”。
'made up' とは、
 1)何かを作り上げる、発明する、話をでっちあげる
 2)化粧などで変貌、扮装されること
 3)決意を固める
 4)まとめあげる
といった辞書に載っている和訳に加えて、リヴァプール訛り特有の意
味として、「満足する、喜ぶ」といった意味があります。

私は、バイエニアルの公式オープニングやパーティーには出席したも
のの、まだメインの展示は回りきっていません。
社交目的も含めてやってくる多くの人々でごった返したプライベート
ビューよりも、ほとぼりがさめたころにじっくりと鑑賞するのもいいもの
だなあ、と少しずつ楽しみはじめたところです。

見た範囲でのお勧めは、北京オリンピックの「鳥の巣」型のメイン会場
を設計した建築デザイナー、アイ・ウェイウェイの蜘蛛の作品<Web of
Light>。
はじめ昼間に見たときは正直言って良さが分かりませんでしたし、モ
チーフが<La Machine>とかぶっていたので、今ひとつどうかと思ってい
ましたが、夜に改めて行ってみるとこれが違うんです。暗闇のエクス
チェンジ・フラッグス(タウンホール裏)の空を覆う稲妻のような蜘蛛の
巣と毒々しく輝き、赤、青、白のラメラメに変色する蜘蛛はとってもマジ
カルです。

もうひとつのマジカルな作品としては、ショッピング・センターLiverpool
Oneから南に徒歩5分に位置するピルキントンズ・ウェアハウスにて、
日本が誇る草間弥生の<Gleaming Lights of Souls>。
靴を脱いで白いボックスに入ると、中は四方が鏡、鑑賞用のプラット
ホームの周りは水で囲まれていて、万華鏡のような世界です。
その世界に引き込まれすぎて、足を踏み外して水浸しにならないよう
にご注意!

このほか、ピルキントンズ・ウェアハウスでは、レアンドロ・エルリッヒの
お家の形のメリーゴーラウンド作品<Carousel>や、トマス・サラセーノの
インフレータブル作品<Air-Port-City>も見ものです。

Renshaw Streetを上がっていくと壁の穴からリビングルームが!
マンフレディ・ベニナティ<To Think of Something>。現実と非現実が同
居しています。

FACTのグランド・フロアに現れた巨大な生物、ウラム・チェの<Opertus
Lunula Umbra>は、一見メカニカルでイカついのですが、ゆったりと開
いたり閉じたりを繰り返し、どこか癒されるものがあります。

今年のバイエニアルのインフォメーション・センターは、セント・ジョン
ズ・ショッピングセンター向かいの元シネマだった建物ですが、ここにも
作品が一つ。
アネット・メサジェの<La Derniere Seance>は、スクリーンのあった映画
館のスペースに棲みついた幽霊が呼吸をするような、怖いけど美しい、
シュールな雰囲気を持っています。

まだまだ見どころが沢山ありますが、今年のバイエニアルもとっても良
い感触です。
メインのバイエニアルに加えて、地元のアーティストが中心となってい
るインディペンデンツ部門も170もの展覧会やイベントが企画されてい
て、気が遠くなりそうな展覧会の数ですが、この10週間ゆっくりと楽し
んでいこうと思います。

日本の美術雑誌に数多く執筆しているロンドン在住の美術ライター&
アート専門ウェブサイト「フォグレス」主宰の伊東豊子さんが今年もリ
ヴァプール入りし、素晴らしいレポートを書き上げています。
既にサイトにアップされていますので、是非是非チェックしてみてくださ
い!
フォグレス: http://www.fogless.net/artreview/080925_lb2008/lb2008.htm

そして、バイエニアルとインディペンデンツの詳細は、こちらから。
Liverpool Biennial: http://www.biennial.com
Independents Biennial: http://www.independentsbiennial.org
Artinliverpool: http://www.artinliverpool.com

♪ ♪ ♪

さて、私の関わっていたジャンプ・シップ・ラット(JSR)のPOP UPプロ
ジェクトです。
リヴァプール・バイエニアル傘下の公式イベントであるこのプロジェクト
について最初の話があったのが約一年前。JSR主宰のベン・パリーと
ミリアム・タヒアが2度日本を訪問し、選りすぐった3人の日本人アー
ティストがこの度参加しました。
それぞれの作家さんは事前にリヴァプールにて視察を行い、ピンとき
たパブリックスペースを選んで作品のコンセプトを発展させていきまし
た。

開発好明さん(《39アートデー》の創始者!)は、タウンホールの横に2
つ並んだ赤い電話ボックス<K2>のうちのひとつに小さな金閣寺を作り
ました。
その名も<K2: Mini Kinkakuji>。
この電話ボックスは、イギリスで最も小さな重要建造物。設計は、
サー・ジャイルズ・ギルバート・スコット、なんとイギリスで一番大きい大
聖堂である、リヴァプール大聖堂を手掛けた建築家でもあります。

シティセンター近郊を歩きながら、キリスト教の様々な宗派の教会、ユ
ダヤ教のシナゴーグ、イスラム教のモスクなど多様な信仰が共存して
いるリヴァプールにインスパイアされて、リヴァプールで最初のジャパ
ニーズ・テンプルを作ることに決定。
外壁、内壁ともに一枚一枚丁寧に金箔を貼り、仏像と仏花とリヴァ
プールの信仰スポットマップを添えたこの作品。しかし、設置した翌日
になんと仏陀が消える?!という事件に見舞われ、ひやりとさせられま
したが、無事にタウンホールのスタッフが保護していてくれてニュース
になりました。

地元紙<Echo>のレポーターとカメラマンも駆けつけました。オンライン
で記事とビデオインタビューがご覧になれます。
しかも、この電話ボックスの電話番号が0151 236 4649で、末尾が「ヨ
ロシク」というダジャレのような偶然つき。
見た目がポップで楽しめるだけでなく、何層にもいろいろなゆるーいつ
ながりが見えくる奥の深い作品です。

Echo記事:
 http://www.liverpoolecho.co.uk/liverpool-news/local-news/2008/09/23/karma-down-karma-down-i-ve-found-your-buddha-100252-21879541/
ビデオ・インタビュー:
 http://www.liverpoolecho.co.uk/videos-pictures/videos/videos-news/2008/09/23/happy-ending-after-yobs-trash-buddha-art-100252-21881002/
開発好明: http://www.yoshiakikaihatsu.com/

タムラ・サトルさんは、メカニカルな作品を多く制作している作家さんで
す。
この展覧会では、リヴァプール大聖堂に隣接した墓地公園、セント・
ジェームス・ガーデンに位置するハスキソン・モニュメントの中に光の
作品を制作。
このモニュメントは、19世紀初頭の国会議員で、悲劇的にも鉄道史上
初の人身事故で命を落としたウィリアム・ハスキソン氏の霊廟です。
後で調べていくうちに、鉄道に轢かれた日に、ハスキソンの背広のポ
ケットには、蒸気機関を進歩させてその後の産業革命の発展に貢献し
た発明家でありエンジニアであったジェームス・ワット(電力の単位に
なったワットです!)への功績を称賛するスピーチの原稿が収められ
ていたというエピソードもあり興味深かったです。

モニュメントの中には、現在銅像はなく、台座だけが残っています。
<Point of Contact>と題したこの作品では、台座の上に本物の鉄道の
レール(Thanks to Merseyrail!)と独自のメカニズムを設置し、レール上
にニードルが往復しながら火花がスパークし、床に這うように敷き詰め
た電球が激しく瞬くというもの。
これまで忘れられていたスペースに生命力が甦るような本能的な輝き
がありながら、同時に純粋に美しい作品です。
タムラ・サトル: http://www.lares.dti.ne.jp/~mm25/tamura/home/main/main_j.html

中村政人さんは、《Zproject/Liverpool 08 'Save the Florrie!'》と題した
コミュニティープロジェクトを敢行し、スカウスハウスではクレイジーな
サッカー兄としてお馴染みのトミー・カルダーバンクとタッグを組んで
「フロリー再生のためのアートワークショップ」を9月20日に行いました。
トミーは、歴史のある重要な建築を救ってコミュニティーに還元する活
動家というもう一つの顔を持っているんですよ。

地元住民からの通称“フロリー”の名で親しまれているフローレンス・イ
ンスティチュートは、その昔<フェリー・クロス・ザ・マージー>や<ユール・
ネヴァー・ウォーク・アローン>などのヒットを生み出したジェリー&ザ・
ペースメーカーズのジェリー・マースデンも通っていて、音楽デビューを
飾ったのもこの場所だったことでも有名です。

この建物は、19世紀に裕福な商人であり、リヴァプール市長だった
バーナード・ホール氏が実の娘を22歳の若さで失い、悲しみを乗り越
えて娘へのトリビュートを込めて、貧しい青少年のために文化やス
ポーツを奨励するボーイズ・クラブを設立したことに始まります。
残念ながら80年代から使用されることなく、朽ちる一方で廃墟となって
いますが、近年<フレンズ・オブ・ザ・フロリー>というコミュニティーの手
で資金調達を働きかけ、コミュニティーセンターとして復活させようとい
うチャリティー団体が組織され、現時点で400万ポンドもの資金が集
まっており、残りの170万ポンドを達成すべく運動を続けています。

一方、アーティストの中村政人さんは、東京は神田にてアーティスト・イ
ニシアチブ<コマンドN>を主宰する傍ら、近年は金沢、大館、氷見、沖
縄、水戸で《Zプロジェクト( http://www.z-project.jp/ )》を展開してい
ます。
特に中村さんご自身のホームタウンである大館市にも6〜7年廃墟と
なっている巨大なデパート跡地があり、市内の商店街はシャッター街と
化しているという絶望的な状況を打破するために、単に経済的にお金
で解決するのではなく、コミュニティーの力で自分達の街を良くしていこ
うというアートプロジェクトを推進しています。

今回の《Zproject/Liverpool 'Save the Florrie!'》では、大館のデパート
でかつて使われていた包装紙の柄だったカーネーションの花のグラ
フィックをロゴに用いて、リヴァプールのフロリーや大館の市内で起こっ
ている状況を、単なる地域の問題として片付けるのではなく、大館とリ
ヴァプールを繋げることで、世界レベルで起こっている問題としての共
通意識を持とうという試みです。

フロリーの建物自体には一般の人々の立ち入りは危険なため、建物
に隣接した空き地を使ってワークショップが行われました。
施錠しているにもかかわらず、草はボーボーでゴミだらけのスペースだ
ったのですが、よくよく見るとここには、歩道の縁石があり、街灯があり
、木が植わっていて、実は空き地ではなく、一本のストリートだったこと
が分かります。
午前10時に集合し、地元の保護観察所のスタッフの協力を得て一斉
にゴミ広い、芝刈りを始めました。秋晴れに恵まれて、ガーデニング用
の頑丈な手袋を着用して取り掛かりましたが、素手では絶対掴まなそ
うなものでも、手袋をしてしまうと何でも触れてしまうのが不思議です。

大小のかなりの量のゴミがあり、その後のパフォーマンス用のものと
廃棄用とより分けます。なぜかレッドカーペットまでありました。木々を
燃やしたため、消防車が出動するというハプニングもありましたが、2
時前に無事清掃終了。見違えるようなスペースに変身しました。

<リヴァプール・ランタン・カンパニー>のアーティストが主導で、かつて
フロリーのてっぺんにあったものの今は焼失してしまったドームを、参
加者と一緒に柳の枝を使って作り始めます。
一方では、ベルファストからやってきたパフォーマー集団<Cuboid>のメ
ンバーが廃材を使ってドラミング。子供達も楽しんでいました。

フロリーのヒストリアンであるジョージは、<Mr.Ask me a Question Man>
となってフロリーのお話を語ります。
地元の美術の先生でもあるオジーは、写真やビデオを撮る代わりに鉛
筆でワークショップの様子を見事にスケッチしていきます。

ドームが出来上がった後は、参加者がそれぞれ折り紙に願い事をした
ためてドームの骨組みに結び、ミッシング・ドームがウィッシング・ドー
ムに変わります。
このスペースにあった粗大ゴミを器用に組み立てて小屋が作られま
す。Cuboidのメンバーによるパフォーマンス用のセットです。1804年に
ディングルで一対一の射撃対決があったというお話に基づいたパ
フォーマンスを披露しました。

トミーの最後のスピーチによると、フロリーの歴史の中で、廃墟となっ
た20年間で初めてこうした文化的な活動が行われたことを嬉しく思うと
のこと。
中村さんは、この一回のイベントで解決する問題ではないけれども、
参加者の中に自分達の街のために何か起こそうという気持ちが喚起
されること、そしてこの道を歩く人たちがこのワークショップの前と後を
見てその変化に気づくこと、そしてそこから何かが始まることをして期
待すると語っていました。
今回のこのイベントが、ディングルと大館の交流の最初の一ページと
なり、今後も長期的に続いていくことを期待します。

Save the Florrie: http://www.savetheflorrie.org.uk/
ゼロダテ: http://www.zero-date.com/

最後に、上記の3名の日本人アーティストをコミッションした<Jump
Ship Rat>自身の作品もご紹介しておきます。
リヴァプールの欧州文化首都の公式プログラムとして制作し、この週
末にお披露目したばかりの、<JSR U-51>ボート。
2006年のミルクフロートを制作した、ベン・パリーとジャック・シューシャ
のコンビによる、全長40mで4つのポンプで川の水を吸い上げて、滝の
ように水が流れるファウンテン・ボートです。
アルバート・ドックを旋回する様子は、どこかウェディング・ベールのよ
うにも見えました。
こちらは、木曜日の午後5〜7時、土日の午後2〜4時まで、アルバー
ト・ドックにてご覧になれます。
ビデオ・クリップはアート・イン・リヴァプールのサイトから。
http://www.artinliverpool.com/blog/blogarch/2008/09/jsr_u51_boat_launches_at_alber.php

Jump Ship Rat: http://www.jumpshiprat.org/

♪ ♪ ♪

アート以外のイベントをひとつ。少し前になりますが、9月22日にエヴリ
マン・シアターにて行われた《Erics The Musical》を観に行きました。
Ericsとは、マシューストリートのキャヴァーン・クラブの向かいに位置し、
70〜80年代にリヴァプールでのパンク・ニューウェーブ・シーンを創り
上げた伝説のクラブ。
単なる当時のクレイジーなクラブシーンのリプロダクションではなく、
Ericsの常連だった青年が、その後白血病を患い死に直面したときに
Ericsで謳歌した青春時代を回顧して、見事に克服したというライフス
トーリーで、脚本家 Mark Davies Markham自身のオートバイオグラ
フィーでもあります。心を揺るがせる場面もありました。

ジュリアン・コープ、イアン・マッカロック、ジェーン・ケイシー、ホリー・
ジョンソン、ピート・バーンズ、ピート・ワイリーなどの当時のミュージ
シャンの役作りが的を得ていて、面白ろく描写されていて、音楽もク
ラッシュ、ロータス・イーターズ、エコー&ザ・バニーメン、エルビス・コス
テロ、トーキング・ヘッズなどの楽曲がストーリーや台詞に効果的に織
り交ぜられています。
日本でもやったらウケるのではないかと思いますが、でも35歳以上対
象?!
Everyman Theatre: http://www.everymanplayhouse.com/whats-on/show-detail.asp?id=217

♪ ♪ ♪

【今週の告知】
その1:
大好評だった舞台《The Shankly Show》(ゴールドフィッシュ127号参照)
が帰ってきました!
10月3日から18日まで、今回はシティ・センターのRoyal Court Theatre
にて。チケット発売中。リヴァプールFCファンは必見です!
http://www.royalcourtliverpool.co.uk/royalcourt/october/Fri3.htm

その2:
メトロポリタン大聖堂クリプト(地下)にて、世界が誇る建築家、ル・コル
ビジエ展がスタートしました。過去20年でUK最大のコレクションで非常
に充実しています!
10月2日〜1月18日まで(入場料:一般£6、割引£4)。
http://www.architecture.com/WhatsOn/Exhibitions/lecorbusier/lecorbusier.aspx

それではまた来週!

ミナコ・ジャクソン♪

≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish139_photo.html ≫


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