October 20 2009, No.396
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NLW ■ *** http://scousehouse.net/ *** ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ▼特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」 ――――――――――――――――――――――――――――――――― NLW □ 「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン 〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜 ― 第165号 / 読書の秋なリヴァプール ― ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish165_photo.html ≫ こんにちは。 10月25日(日)の早朝に夏時間から冬時間に切り替わります。秋が深まり(また は通り越し?)、最高気温15度を割る寒い日が続いています。 秋といえば、食、芸術といろいろありますが、読書の秋でもあります。今回号で は、「本」にちなんだイベント2つについてお伝えします。 ともに金曜日の晩で、秋の夜長を楽しみました。 ひとつめは、前回号でカバーしきれなかったホープ・ストリートで行われたイベ ントです。 9月18日(金)、Hope Street Hotelに最近できた増築部分の最上階のスペース で、Club Geekchic主催の《In Conversation With...》イベントに行ってきまし た。 Club Geekchicは、Gemma AldcroftとKaren Podestaの2人が企画運営する、ち ょっと大人のクラッシーなカルチャー・イベント。 会場はプライベートパーティーのようなこじんまりとした設定で、マージー川か らぐるっとメトロポリタン大聖堂まで見渡せる、バルコニーからのパノラミック な眺めも最高です。 《In Conversation With...》は、タイトルのとおり対談シリーズのイヴェント です。第一弾となる今回は、ゲストに音楽ジャーナリストでライターのPaul Du Noyer氏を迎え、聞き手は地元の俳優・ミュージシャンのMike Neary氏が担当し ました。 Paul Du Noyer(ポール・デュノイヤー)は、リヴァプールはアンフィールド生 まれ。現在はロンドンとリヴァプール両方をベースに活動しています。 彼の30年に及ぶキャリアは音楽紙<NME>のライターからスタート、音楽雑誌<Q> マガジンのスターティング・チームに属し、1990年から1992年まで同雑誌の編 集長を務めた後、<Mojo>を創刊し初代編集長に就任。その後、ゴシップ雑誌 <heat>の立ち上げに携わり多少脱線しましたが、ふたたび音楽雑誌<The Word> に戻り、その後も<Q4music><Mojo4Music><Kerrang!>といった音楽サイトを監修。 現在はフリーランス・ライター及びコンサルタントとして活躍しています。 また、雑誌の記事や編集のほかに単行本の執筆も行っています。 著書としては、リヴァプールの音楽について書いた"Liverpool: Wondrous Place"、ロンドン版の“In The City: A Celebration of London Music”、そし てJohn Lennonの曲をテーマにした、"We All Shine On"。こちらはシンコー ミュージックから日本語版(邦題『ジョン・レノン・ソングス』 http://www.shinko-music.co.jp/main/ProductDetail.do?pid=0615964 )が出版 されています。 Du Noyer氏は、長いロンドン生活でリヴァプール訛りはほとんどなく、一見気難 しいイギリス紳士といった第一印象でしたが、実際は、物腰が柔らかく気さくな 人でした。 一旦トークで話に熱が入ると、ウィットに富んだコメントが炸裂して、リヴァ プール人の血が見え隠れしているのが伺われます。 一癖、二癖あるミュージシャンや音楽業界の興味深い裏話を聞くことができまし た。 Paul McCartneyとは、Wingsのコンサート・ツアーで観客に無料で配布するマガ ジンの制作のために、3ヶ月間、週一ペースで本人と会ってインタビューを行っ たそうですが、サー・ポールのビートルズ時代の記憶が思いのほか非常に曖昧。 細かい史実については、逆に質問されたりして、あまりの記憶のバラつきに驚い たそうです。あたかもサー・ポールにとって、音楽ジャーナリスト達は外付け ハードディスクなのかもしれない、と笑っていました。 イギリス人ミュージシャンに比べて、アメリカ人ミュージシャンは、ジャーナリ ストに対して、ガードの固いところがあるようです。 Madonnaの場合、本人にたどりつくまでに、事前ミーティングで戦略PR担当者ら しきスタッフからいろいろと指示説明を受け、最後には数枚の写真を見せられ、 「好きな写真を一枚差し上げるので、Madonnaにサインしてもらってもいいんで すよ」と言われ、ジャーナリストに対する奇妙な扱いに唖然としたそうです。 そのときののインタビューは、彼にとってはあくまでも仕事の範疇という認識で しかなかったそうです。 Madonnaよりも、むしろDusty Springfieldをインタビューしたときのほうが、心 が躍るものがあったようです。5歳のころに、リヴァプールのエンパイア・シア ターでの彼女の舞台を見たときの記憶が蘇った、と語っていました。 Lou Reedとのインタビューでは、気がつくとギターのテクや、アンプについての うんちくに話題が流れてしまうため、ミュージシャン自身のストーリーを聞き出す のに一苦労したとのこと。 Dead Or AliveのPete Burnsは、一度目は自宅に招かれたのですが、薄気味悪い 奇行が垣間見られたとのこと。 NMEオフィスで行われた2度目のインタビューでは、Peteがに現れたとき、オ フィスのスタッフが彼の風貌を目にした途端怖がって、視線を合わせまいと Spandau Balletのレコードのジャケットで顔を覆って隠れてしまったという話な ど、その光景が想像がつくので笑えます。 この日の対談の中で、ロンドンとリヴァプールの音楽性についても述べていまし た。 「ロンドンとリヴァプールの音楽は共通して、ストーリー・テリング(物語)的 ですが、リヴァプールの音楽は、どちらかというとよりロマンティックで、 シュールで、サイケデリックともいえる。一方、ロンドンの音楽は、昔から街頭 でその日のニュースを歌う風習があったことが影響してか、歌詞の内容はよりダ イレクトだと思う」 この日の対談は、20分ほどのおしゃべりの合間に、Ragz、Carrie Hayden&Dave O'Gradyといった地元で活躍する若手のミュージシャンによるアコースティック・ ライブが一曲ずつ挿入されていて、飽きがこないバランスのいい構成でした。 またニクイことに、ここで演奏された曲はすべて、著書"Liverpool: Wondrous Place" の最後のチャプターに記載されている、Du Noyer氏による独断と偏見の リヴァプール・ソング、トップ100選の中からセレクトされた楽曲のカバー・ ヴァージョン。 こうした形で、若いミュージシャンに歌い継がれて曲に新しい息が吹き込まれる のは新鮮でいいものです。 演奏された曲は以下のとおり。 Dead Or Alive <You Spin Me Round>, Echo & The Bunnymen <Killing Moon>, Billy Furry <Wondrous Place>, Suzanne Vega <In Liverpool>, Black <Wonderful Life>。 そしてイベントの最後に、元Icicle WorksのIan McNabbが<Working Class Hero> を歌い上げ、締めくくられました。 Carrie Hayden: http://www.myspace.com/carriehaydenmusic Ragz: http://www.myspace.com/ragzmusic Ian McNabb: http://www.myspace.com/ianmcnabbtheicicleworks このイベントには、ビートルズ世代から20代までの若い音楽ファン、音楽業界関 係者やミュージシャンが集まり、幕間やイベントが終わった後も、ドリンクを片 手に参加者や観客が立ち話をするチャンスがありました。 Dead Or Aliveの<You Spin Me Round>を歌い終えたCarrie Haydenに、たまたま 隣に座っていた写真家のFrancesco Mellina(ゴールドフィッシュ155号参照)を 紹介して、「この人むかしPete Burnsのマネージャーだったのよ」と伝えると、 その世間の狭さに驚いたようで、そこからジェネレーションを超えた会話が弾ん でいました。 イベントが終わった後、私と旦那がPaul Du Noyer氏に話しかけ、自己紹介をし ようとすると、どうやら私達のことを知っていたのでびっくりしました。 しかも、スカウスハウスのことも知ってたんです! キンチョーしてしまいまし た。 写真を撮らせてもらおうと思ったら、あいにく電池が切れてしまいましたので、 近くにいたFrancescoに代わりに撮ってもらいました。素晴らしい記念写真とな りました。 Many thanks to Francesco Mellina for the wonderful photos! Francesco's myspace: http://www.myspace.com/francescomellina こうして、またもう1人素晴らしいスカウサーと出会うことができ、本当にエキ サイティングな金曜の晩となりました。 Paul Du Noyer: http://www.pauldunoyer.com/ Club Geekchic: http://www.clubgeekchic.co.uk/ ♪ ♪ ♪ Paul Du Noyer氏の著書、"Liverpool: Wondrous Place"を購入して読み始めたと ころですが、ものすごく面白くて、本が手放せません。 それぞれのバンドの紹介というよりはむしろ、リヴァプールという場所とその歴 史がどのようにリヴァプールの人々やバンドを特徴づけたか、そしてリヴァプー ルのバンドが、どのようにリヴァプールの音楽の歴史を形成してきたかに着目し ています。 リヴァプールという街の歴史、地理、人々の特性やメンタリティー、スカウス訛 りの音声学、そして音楽史をカバーした、まさに「リバプール文化人類学」とい った濃いい内容です。というと、アカデミックで頭デッカチな本かと思われるか もしれませんが、とんでもない。難しいナンセンス抜きに読者をこの本の世界に 引き込み、辞書を引きながらも次々と読み進めさせるのは、リズム感とウィット に富んだDu Noyer氏の文章が織り成すマジックです。 著書のなかで「スカウス訛りそのものに、すでにメロディーとリズムが潜んでい る。あとは、ギター2〜3本とドラムキットの登場を待って、解き放つのみなの だ」と説明していますが、まさにそのような感じです。 また、躍動感と臨場感があり、読みながら情景が視覚的に思い描けるほど、映画 の一コマ一コマを見ているような錯覚にとらわれます。 こういうシチュエーションあるある! と納得してしまうものから、その鋭い洞 察力に目からウロコが落ちるものまで、ページをめくれば必ずリヴァプールの 人々やバンドを描写する名言、金言が散りばめられています。 訳本が出たら本当に最高です。ビートルズが何故ビートルズだったのか、そして 他のリヴァプールのバンドやこの街の人々の行動、言動、気質などに興味深々な 方には、真相をさぐる手がかりとなることと思います。リバプール学の一般教養 の教材としてマスト・アイテムです。 "Liverpool: Wondrous Place" - From the Cavern to the Capital of Culture - http://www.pauldunoyer.com/pages/books/liverpool-wondrous-place/intro.asp 追記:また、Paul McCartneyによる、パーソナルなタッチで書かれた前書きも見 逃せません! ♪ ♪ ♪ ホープ・ストリートからゆるい坂を下って、こちらはこの週末にThe Bluecoatに て行われたトークイベントの話題です。 今年で2回目を迎える文学イベント《Chapter and Verse Festival》の一環とし て、10月16日、ゲストにコメディアンのVic Reevesを迎えて行われました。 トークの題名は"The World According to Vic" with Vic Reeves"。「ヴィック の言うところによる世界観」といった感じでしょうか。聞き手、進行役は作家 Tim Clareが担当しました。 Vic Reevesは、相方のBob Mortimerとのコンビでイギリスが誇る大御所のコメ ディアンとして活躍していますが、そのほかにもミュージシャン、アーティスト、 著者として幅広い活動を展開しています。 私がこの人物に注目するようになったきっかけは、1995年にEMF And Reeves & Mortimer名義でリリースされた、モンキーズのカバー<I'm A Believer>のビデオ クリップです。これですっかりノックアウトされ、旦那には趣味を疑われながら も、この曲の7インチシングルを何よりも宝物にしています。 <I'm A Believer> Youtube: http://www.youtube.com/watch?v=oJs9M9eaqIk そのVic Reevesがリヴァプールでトークをするというのでコレは外せないと、即 チケットを確保し、観にいきました。 今回のトークは、著書"Vast Book of World Knowledge"の発売と合わせたタイ アップのイベントです。 『世界知識の膨大な本』とでも訳せるでしょうか。普通ならきっと、「膨大な世 界知識についての本」となるところを、タイトルからすでに言葉遊びをしてると ころが、さすがです。この本では、世の中で起こっている全てを、著者自らのイ ラストやコラージュを交えて解き明かしています。 デッキブラシとBluecoatの外で撮影されたCaptain Beefheartの写真を大事そう に抱えて、ハリス・ツイードの3ピーススーツ姿で登場。 本の中からセレクトした数ページをスクリーンに映し出し、ポインターの代わり にデッキブラシの柄で重要な点を指しながら解説してました。 Vic Reevesの色眼鏡をかけて見る世界は、とてつもなくシュールです。モチーフ は、田舎の風景からポップ・スター、オーディション系番組Xファクターの司会 者、スーパーヒーローのX-men、キュービズム、ツェッペリン型飛行船、リ チャード3世、デニム素材、キングコングにいたるまで、ランダムで漫才のネタ をその本にしたような爆笑ワールドが繰り広げられていました。 本人いわく、描きながら独りでケタケタ笑いだすことも少なくないとのことです。 トークを聞きながら、Vic Reevesのコメディーは、広漠とした空想の世界とアー ティスティックなセンスから生まれているんだな、という印象を受けました。 笑いすぎでお腹が痛く、あっという間の1時間でした。 トークの後には本のサイン会がありました。残念ながら本が売り切れてしまって いましたが、予約をしたのでサインだけはOKとのこと。 せっかくなのでバッグに忍ばせていた<I'm A Believer>の7インチシングルに しっかりサインを頂きました! 本が入荷し、Vicの世界に浸るのが楽しみです。 Atlantic Books "Vast book of World Knowledge" by Vic Reeves: http://www.atlantic-books.co.uk/vic/default.asp Chapter and Verse Festival at the Bluecoat: http://www.chapterverse.org.uk/ ♪ ♪ ♪ 【今週の告知】 1) 今年も《Liverpool Music Week》がやってきます。現時点で発表されてい るラインアップはこちらから( http://www.liverpoolmusicweek.com/ )。 2)11月26日までの毎週木曜日(11月5日を除く)、リヴァプール大聖堂の展望 台は午後8時までオープン。チケット販売とラスト入場時間は午後7時半まで。 夕暮れ時や夜景を楽しみたい方には絶好のチャンスです。 リヴァプール大聖堂: http://www.liverpoolcathedral.org.uk/ それではまた再来週! ミナコ・ジャクソン♪ ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish165_photo.html ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無断での転載を禁じます。 Copyright(C) 2001-2009 Scouse House |