March 08 2011, No.451
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ リヴァプール・ニュース / News of the Liverpool World ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ NLW ■ *** http://scousehouse.net/ *** ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ▽特派員レポート:「ゴールドフィッシュだより」 ――――――――――――――――――――――――――――――――― NLW □ 「ゴールドフィッシュだより」 / ミナコ・ジャクソン 〜 Goldfish Liverpool Update / Minako Jackson 〜 ― 第192号 / Nam June Paik at Tate Liverpool & FACT ― ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish192_photo.html ≫ こんにちは。 長かった1月に比べて、2月はあっという間に過ぎていきました。 まだまだ10℃を割る日々が続いていますが、徐々に日照時間も延びて、過ごしや すい季節になりつつあります。 会期は残すところ一週間となってしまいましたが、昨年12月17日から開催中の 大型展覧会《ナム・ジュン・パイク展》についてお伝えします。 ナム・ジュン・パイクは、20世紀に活躍したヴィデオ・アートおよびメディア・ アートにおけるパイオニア的存在で、21世紀のヴィジョンを見通す鋭い先見性を 持った韓国人前衛アーティストです。 テクノロジーを駆使した作品がトレードマークとなっていますが、作曲や音楽か らキャリアをスタートし、パフォーマンス、絵画、立体作品など、多岐におよん でその奇才ぶりを発揮し、常に時代の先端を走り続けたまさに「マルチメディ ア」なアーティストです。 詳細な経歴については、Wikipediaをご参考下さい。 http://ja.wikipedia.org/wiki/ナム・ジュン・パイク この展覧会は、ナム・ジュン・パイク没後初の大回顧展で、しかもイギリスでの 展覧会は1988年以来とのことで、英国初公開の作品がほとんどです。 ナム・ジュン・パイクの音楽、美学、哲学、スピリチュアリティ、実験的、革新 的なアプローチにスポットライトを当て、初期のパフォーマンス映像や楽譜、写 真、禅、テレビ作品、ロボットの彫刻や、大型ビデオ・インスタレーションまで、 90点ものライフワークがリヴァプールに集結し、テート・リヴァプールとFACT の二ヶ所で同時開催されています。 ビデオアート、アートとテクノロジー、そしてコミュニケーションのネットワー クがごく一般的なものとなっている現代ですが、どの作品にも、今見ても視覚、 聴覚、感性をビリビリと刺激するものがあります。リアルタイムだったら、本当 にぶっ飛びものだったに違いありません。 テート・リヴァプールのグラウンドフロアのスペースで目に入るのが、52個のテ レビと3つのチャンネルが交錯する大型インスタレーションの1994年の「イン ターネット・ドリーム」、そして1984年に東京の草月会館でフルクサス運動を共 にしたヨーゼフ・ボイスとの共演パフォーマンス『2台のピアノのためのパ フォーマンス(コヨーテ)』の映像、また12台の小型テレビとカラフルなネオン が光る1991年の『マーキュリー」などが鑑賞できます。 4階のスペースでは、以下のようにカテゴリー分けされています。 ルーム1:ポスト・ミュージック ルーム2:フラクサス、パフォーマンス、パティシペーション ルーム3:マニュピレーション&メディテーション ルーム4:オペラ・セクストロニク ルーム5:ボイス・ヴォイス ルーム6:エレクトロニック・ネイチャー ルーム7:ロボット・ファミリー ナムジュンパイクは、朝鮮戦争の戦禍を逃れ香港、そして東京へと移住し、東京 大学で美学・美術史を専攻し卒業した後、ドイツのミュンヘン大学で20世紀音 楽を学びます。 その後、ケルンの電子音楽スタジオで勤務した頃から実験音楽やパフォーマンス 活動を開始し、前衛芸術集団フルクサスに参加します。 1963年にドイツヴッパータールのパルナス画廊で行った初の個展『音楽の展覧 会―エレクトロニック・テレビジョン』では、テレビモニターを使った世界初の ビデオ作品を発表。日本に戻り、技術者の阿部修也と共に「ロボットK-456」を 制作し、その後も「ビデオシンセサイザー」などで制作活動を共にします。 この時期の代表的な作品として、磁石で画像を操作する1965年の「マグネット TV」、12台のテレビモニターとシンセサイザーの積まれたインスタレーション 「ビデオシンセサイザー」、テレビの前に座る仏をビデオカメラで映した「TV 仏陀」など7点が見られます。 ニューヨークへ渡り、女性チェリストのシャーロット・モーマンとのパフォーマ ンス『ロボット・オペラ』を披露し、その後もコラボレーションは続きます。 小型モニターのブラをつけてチェロを演奏するシャーロット・モーマンの映像の 流れる「TVチェロ」や、数々のパフォーマンス映像が展示されています。 一旦足を踏み入れるとなかなか出られないほど印象的なのが、「TVガーデン」。 120本もの植物と60台のテレビモニターから延々とループでビデオ作品が流れて います。ガーデンから抜け出すと、ビデオ作品の前で魚が泳いでいる「TVフィッ シュ」。ちなみに、魚の健康衛生は、動物愛護協会から安全だと承認済みだそう です。 その奥には、テレビモニターで組み立てられたロボット達がいます。ナム・ジュ ン・パイクは、1985年からロボットという無機質なメディアムで、非常に人間的 な「家族」を制作しました。祖父母、両親、伯父・伯母、赤ちゃんといった典型 的な韓国人家族構成のこのシリーズのなかから、ここでは古風なテレビとラジオ などで造られた伯父さんと伯母さん、1986年の「アンクル・アンド・アント」 が見られます。 一方FACTでは、入口を入ってすぐのところに、1973年作のヴィデオ作品、「グ ローバル・グルーヴ」が流れており、グラウンドフロアのギャラリー1では、 1998年の「レーザーコーン」が再現され、円錐型の傘の下に寝転んで、色とりど りのレーザーが飛び交い織り成す様々なパターンが刺激的なインスタレーション があります。そして上の階のギャラリー2には、3つのセクションに分かれ、複 数のヴィデオ作品が上映されています。ここには、ニューヨークとパリを繋いだ 革新的な衛生中継番組、1984年の「グットモーニング・ミスター・オーウェル」、 そして1986年にニューヨーク、東京、ソウルを結んだ「バイ・バイ・キップリ ング」も含まれています。 尽きない創造性とテクノロジー、古今東西の価値観と人間味が入り混じったナ ム・ジュン・パイク回顧展は、3月13日まで。 <Tate Liverpool> 住所:Albert Dock, Liverpool L3 4BB 電話:0151 702 7400 入場料:大人5ポンド、各種割引4ポンド。 ウェブサイト: http://www.tate.org.uk/liverpool/exhibitions/namjunepaik/ <FACT> 住所: FACT, 88 Wood Street, Liverpool, L1 4DQ 電話: 0151 707 4444 入場無料 ウェブサイト: http://www.fact.co.uk/whats-on/nam-june-paik?listing_id=1421 ※会期中毎日、夕方になると、FACTからテートを繋ぐ800mの緑色のレーザー 光線が見られます。 ナム・ジュン・パイク展 詳細: http://www.tate.org.uk/liverpool/exhibitions/namjunepaik/default.shtm ナム・ジュン・パイク展トレーラー: http://www.youtube.com/watch?v=5i6rxy-x618 ♪ ♪ ♪ 【今週の告知】 4月末に大々的なイベントとして予定されていた《インターナショナル・ボー ト・ショー》が急遽キャンセルとなりました。これに代わって、《スプリング・ オン・ザ・ウォーターフロント》と名称を変更し、4月29日から5月8日までの 期間、プリンセス・ドックからピアヘッド、アルバートドック、そしてリヴァ プール・マリーナのウォーターフロント一帯では、海洋にまつわるイベントが企 画される模様です。詳細が入り次第またお知らせします。 それではまた! ミナコ・ジャクソン♪ ≪ http://scousehouse.net/goldfish/goldfish192_photo.html ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 無断での転載を禁じます。 Copyright(C) 2001-2011 Scouse House |