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Vol.3 Premiership; Everton VS Chelsea, Goodison Park, 23.10.2005

from NLW No.223 - November 01, 2005  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 まえがき 】
プレミアリーグ、今シーズンが始まって、早くも3ヶ月が経ちました。
今回のレポートは、エバトン対チェルシー戦です。
昨シーズンからの波に乗ってダントツ首位のチェルシーが、またもやマージーサイドへ乗り込み、今度は現在最下位のエバトンとの試合に臨みます。

先シーズンまで、
『チェルシーの試合タクティクスは面白くない!』
“Boring Boring Chelsea!”
とアンチ応援歌でも歌われていましたが、最近のチェルシーはその言葉を全く忘れさせてくれる様な、素晴らしい攻撃力を見せ付けています。開幕から9連勝。一体誰が、どのチームが、彼らの笑みを止められるのか?
最下位のエバトンではありますが、昨年の勢いを考えると、(ひょっとすると…)という期待も持てそうなのですが…。

【 グディソンパーク 】
先々週に観戦した、CLのリバプール対チェルシー戦とはうってかわって、秋晴れのお天気に恵まれたこの日、グディソンパークは3万6千の観戦者で賑わった。
足取りが重かろうと思われたエバトンファンも、トップを独走するチャンピオンを相手に、胸を借りるかの如く、とてもリラックスした雰囲気が漂っていた。
エバトンのグディソンパーク・スタジアムも、リバプールのアンフィールド・スタジアム同様、リバプール北部の住宅街の中心部に位置する(住宅地のど真ん中というのは、イギリスでは典型的なスタジアムのポジションでもある)。
又グディソンとアンフィールドは、大きな道路と公園を挟んで、向かい合わせになっている。ロンドンで言うならば、テムズ河沿いのチェルシーとフルハムといったところだろうか。

今回で3度目のグディソンだが、個人的な印象ではアンフィールドよりも周りの商店街に活気があり、家庭的なホンワカムードが漂っている。
かき入れ時のチッピー( Fish &Chips のテイクアウト店)には、店の表までKew(行列)が出来ていた。
グディソンを囲むこの商店街は全てエバトンカラーのロイヤルブルーで、これには私も思わず微笑んでしまった。

【 Everton FCの歴史 】
エバトンのスタジアムは、珍しい事に、メインゲートの左側に教会が隣接している。
これはエバトンの誕生とも深く関係するもので、1878年、この教会“聖ドミンゴ教会”の有志達により、エバトンFCが創立される。
しかしエバトンFCがスタートしたのはこの場所ではない。最初の拠点地はなんとあのアンフィールド(現在リバプールFCが使用)。創設から14年後の1892年に現在のグディソンパークに移るまで、エバトンはアンフィールドをホーム・グラウンドとしてプレイした。
クラブの名前は、この教会がある地区の名にちなんで、最初からエバトンと名乗ったらしい。
1982年に完成したグディソンパーク・スタジアムは、当時としては最先端のスタジアムだった。しかしここへ移って初めての試合では、4−2でボルトンとの試合を落としている。

忘れてならないのは、フットボール史において、エバトンFCは最初のリーグの輝かしい一員である事だ。
世界初のフットボールリーグは、ここイギリスで1888年に創設された。
12チームという小規模なリーグではあったが、その1つがエバトンで
あった。

設立から125年の間にエバトンは、リーグ優勝9回、FAカップ優勝5回、カップウイナーズカップ1回という堂々たる成績を残している。また、イングランド・リーグの歴史において、合計4シーズンしかトップリーグから落ちた事がないという、最小の記録も持っている。

先シーズンは、2003年より指揮してきたスコットランド人のデイビッド・モイーズ監督が手腕を発揮し、リーグ4位という成績を残す。
これは、ライバルのリバプールFC(6位)を引き離しての上位浮上だった。
しかし残念な事に、今シーズンは未だに1勝のみ。現在なんと最下位に位置しており、チームは過酷なジレンマに立たされている。今後いかにしてこの過渡期を切り抜けるかが、モイーズ監督の腕の見せ所かもしれない。

【 Chelsea FCの歴史 】
一方、チェルシーと言えば、ご存知のとおり先シーズンは50年ぶりのリーグ優勝を果たし、長年待ち続けたチェルシー・ファンを狂喜させた。
今シーズンも只今猛進中という感じで、抜群の守備力に加え、集中力と瞬発力を備えた見事な前線プレイに、どのチームもお手上げ状態。未だ彼らは、黒星どころか引き分けすらつけられていない。

“いったい誰がチェルシーの暴走を止められるのか?”
これが、今シーズンのプレミアリーグの見所と言えようか。

ここで、簡単にチェルシーFCの歴史にも触れてみることにしよう。
彼らの誕生は1905年。当時陸上競技場だったスタンフォード・ブリッジのオーナーによってスタートした。
リーグ優勝は昨シーズンを入れて2回、そしてFAカップ優勝3回、リーグカップ優勝3回、カップウイナーズカップ2回の成績を収めている。
2003年にロシア人の富豪ロマン・アブラモビッチがオーナーに就いて以来、世界のあらゆる国より選りすぐった選手を大補強し、一軍チームが2つ作れるのではないかと言われる程の、万全なサブの顔ぶれとなった。むろんこれは大きな反感もかっているのだが。

マネーマーケットの大きな支配下にある現在のフットボールも、それに反発して良き伝統を頑なに守り続けようとする、イギリス人達のある意味では保守的な見方も、どちらもとても理解は出来る。
しかし実際の所、今のチェルシーの強さはお金だけでは語れないだろう。
事実、アブラモビッチ・オーナーから莫大な資金を貰い、イタリアを始め世界のあちこちから選手をかき集めてきた前監督ラニエリは、チェルシーファンの夢を叶えることはできなかったのだから。

やはり、監督の持つ力は大きい。いかに上手くバランスの取れた良いチームを作り上げるか。それを一番よく理解しているのが、モウリーニョ監督なのではないだろうか。
彼は簡単な3つの言葉で、チェルシーのチームをこう表現する。
効率、団結、そして華麗! 
チェルシーの一人一人の選手を愛し、プライベートも充実している脂の乗り切った42歳。彼の勢いは、チェルシーFCと共に何処まで続くのだろうか?

【 今回の見所 】
先ほどチェルシーの金銭的な面に触れたのだが、先シーズンのエバトンは対照的だった。
攻撃の中心で一番のスタープレーヤー Wayne Rooney をマンチェスターユナイティッドに取られたあげく、守備的MFとしてチームの要の役割を果たしていた Thomas Gravesen までもがレアル・マドリッドに移籍してしまった。その後、最小限の金額で James Beattie をサウサンプトンより獲得したものの、彼は怪我で殆ど出場できずにシーズンは終わってしまう。
しかしこの最悪の状態がエバトンの選手達には精神的にプラスに動いたのだろうか、プレミアリーグ4位という、この数年間の彼らとしては素晴らしい成績を残したのである。
昨シーズンのエバトンは、リーグでの38試合のうち、4分の1は1−0のスコアで3ポイントを確保して来た。
それが今シーズンは、反対にほとんどの試合を1−0で落としている。

昨シーズンは、何も無い所からのハングリーな挑戦が、エバトンの選手たちに不思議な力を与えたのかもしれない。
今は逆に、前シーズン4位のプレッシャーに押され気味のエバトンなんだろうか。

スター選手を揃えた富豪チームと、スター選手を全て手放したどん底チームの戦いと言ったら、言いすぎだろうか。
正直な所、チェルシーを下す力は、今のエバトンの勢いからすると期待薄だが、少しでも、希望の見えるプレーをして私達の前で披露してくれる事を願いたい。

【 試合開始 】
試合は午後4時のキックオフで始まった。
エバトンは4−4−2のポジションをとり、前線に大柄の Ferguson と俊足の Beattie を持ってきた。大抵今までの試合だと Ferguson は終了前の10分間に起用される切り札だが、これは最初から勝負に出たのか。

これが、前半のエバトンの総攻撃に、大きくプラスに働いた。
試合開始2,3分はチェルシーがゴール前でシュートを放つが、それ以降はエバトンの攻撃が続いていった。

エバトンの Cahill にボールを奪われたチェルシー Wright-Phillips は、それを取り返そうと後方よりペナルティーエリアまで食い込んでくるが、それが仇となった。
Cahill が足をとられて倒れる。左後方から見ていたレフリーの目にも明らかで、即PKの指示が出される。

この37分のペナルティのキッカーに、エバトンはストライカー Beattie を送る。Beattie の鋭い右足シュートが見事に決まると、グディソン全体が歓声の渦に包み込まれる。Beattie にとっては、今シーズン2つ目のゴールとなる。

ブレイクを終え、後半が始まるや否や、待ち構えていたかのようにチェルシーの反撃が始まった。
開始5分、チェルシーの Lampard が、ゴール前24ヤード(22m)から矢のようなシュートをゴールに突き刺す。1−1。
チェルシー側スタンドは一斉に湧き上がり、エバトン側からはため息がもれる。『やはり、こーなってしまったかー』と言う、なんとも無念なため息に聞こえた。
それからは、精神的な動揺からかエバトンは攻撃を作ることが出来なくなり、パスミスも多くなる。
反対に勢いにのって逆転したいチェルシーは、チャンピオンの意地を見せるかの様に、じりじりと攻め寄って来る。

後半62分、チェルシー Drogba がインサイドボックスでボールを受け取り、豪快なシュートを放つが、オフサイドの判定。しかしこれは、チームメイトの Gudjhonsen は確かにオフサイドエリアだったが、ボールを受けた Drobga 自身はオンサイドだった。2−1になったかと思われたが、今回はチャンピオンにツキがなかったとみえる。

チェルシーのモリーニョ監督は、後半はパワープレーを選択した。
10分過ぎに Wright-Phillips を下げて Gudjhonsen 、その10分後にはCole に代えて Robben を起用。そして72分、Drogba に代わって切り札ストライカー Crespo が登場。万全の攻撃態勢をとってきた。

一方のエバトンも79分、足を引きずる Ferguson を下げて Bent を起用し、持ち直す。
その Bent のペナルティーエリア右前でのシュートが、両腕を大きく広げたチェルシーの Terry の腕に当たりボールが跳ね返る。
選手たちは大きな声で『ハンドボール、ペナルティー!』とアピールするが、レフリーは首を横に振る。
結果、1−1の Draw に終わった。
チェルシーとしては今シーズン初のドローゲームで、彼らにしてみれば、取れるべき2ポイントを失う結果となった。又エバトンとしては1−1に追いつかれたものの、チャンピオンを相手にドローで納まったのは、まずまずのリゾートだったか、これは良い転機になるかもしれない。
未だにリーグのボトムを脱してはいないのだが、これを期にポジティブムードになって欲しいグディソンの一日だった。

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 05-06
 Everton VS Chelsea
 Goodison Park
 23 October, 2005  16:00 Kick Off
 Attendance: 36,042
  エバトン チェルシー
スコア
ターゲットショット
オフターゲットショット 15
コーナーキック 11
ファウル 14 15
オフサイド
イエローカード
レッドカード
ポゼッション 37.5% 62.5%

 Everton
  Martyn, Hibbert, Yobo, Weir, Valente (Ferrari 45), Arteta,
  Cahill (Davies 70), Neville, Kilbane, Ferguson (Bent 79), Beattie

 Chelsea
  Cech, Gallas, Huth, Terry, Del Horno,
  Wright-Phillips (Gudjohnsen 58), Essien, Makelele, Lampard,
  Cole (Robben 68), Drogba (Crespo 72)

from NLW No.223 - November 01, 2005     

Copyright(C) 2007 Eri Shimomura & scousehouse

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