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Vol.12 UEFA Champions League; Liverpool VS Arsenal, Anfield 08.04.2008

from NLW No.340 - April 15, 2008  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 Introduction:はじめに 】
リバプールでは先週末(4月5日土曜日)、毎年恒例の《グランドナショナル》がエイントリー競馬場で開催されました。
最高の小春日和の中、40頭中14頭が完走するという素晴らしいレースでした。ちなみに、わたしの賭けたお馬ちゃんも見事に入賞。しっかし、スペンディングが£5で、戻ってきたのは£5.50。ほとんど損得なし…。
ん〜、やはりギャンブルは楽しむためのオプションで、儲けることは考えないほうがよさそうですね!(笑)

FA Cupも同じくこの週末に準決勝を無事終え、新ウェンブリーでの5月17日決勝を待つのみとなりました。
勝ち残ったのは、プレミアリーグのポーツマスと、1リーグ下のチャンピオンシップのチーム、カーディフ。今年は準決勝に残った4チームうち、プレミアリーグはたった1チームだけというビッグサプライズ! 
その唯一のプレミアチームであるハリー・レッドナップ率いるポーツマスは、FA Cupの決勝に進むのは1939年以来のことで、なんとほとんど70年ぶりの快挙。
決勝もまたまた熱戦が予想されます。

さて、そんな中で行われたリバプールとアーセナルのチャンピオンズ・リーグ(CL)準々決勝戦。私自身、久しぶりのアンフィールドそしてチャンピオンズ・リーグのレポートに心躍っています。どうぞしばらくの間、スーさんの素晴らしい写真と共にお付き合いください。

【 Anfield:アンフィールド 】
スカウスハウスで最初にレビューを担当したのが、3年前のこのアンフィールドでしかもチャンピオンズ・リーグだった。
あの時は大雨で最高に寒かったのを覚えている。
今日も朝はあいにくの雨だったが、早いうちに上がり、夕刻にはすがすがしい晴天となった。この時期にしては多少寒さは気になるものの、フットボール観戦には最高の日和になった。

試合は19時45分始まりで、わたしが到着してから1時間の余裕があった。いつものようにアンフィールの周囲を探索してみよう。
先々週末に夏時間になったイギリスは、7時近くというのにまだまだ明るい。何時もに増しての人ごみ、パブの出入りも忙しく、チップス屋さんも商売繁盛。そしてスチュワート(警備員)、ポリース(警察官)の姿も多く目立つ。
人々は陽気で、スペインの国旗を体に巻きつけた人たちや、北ロンドンからやってきたと見えるArsenalのサポーター達もビル・シャンクリーの銅像前で記念撮影。…とみると、いかにもイギリス人、シャッター押しを警察官にお願いしている。思わず「おいおい」とツッコミたくなったが、当の警察官は快く応じていた。やはりこちらもイギリス人…。

新スタジアムは来年中には着工になるだろう。すぐ近くの引っ越しとはいえ、100年以上の歴史を持ち、長年の汗と涙がしみ込んだ舞台アンフィールドを去ることは、やはりスカウサー達にとっては複雑な心境に違いない。

スタジアムの中に入る。わたしの席はなんとパドックの前方2列目。今までとは又違った感覚を味わえるのではないかと、胸もはずむ。
前の通路には、ちびっ子や若者達が、選手達のウォーミングアップをカメラに収めようと集まっている。スチュワートの警備員の注意などこ吹く風。わたしも負けじとカメラを向けるが、シャッターチャンスのタイミングがなかなか難しい。まあ今回はスーさんが素晴らしい写真を撮って下さるので、私としてはリラックスして観戦出来そうである。
さて、試合に入る前に第1戦の模様を簡単に振り返り、両監督の今回の試合に臨む意気込みをレポートしよう。

【 Preview:第1戦を終えて&今回の見所 】
リーグ戦を含めて、この1週間で3度もArsenalと対戦することになったLiverpoolだが、2戦を終えて共に引き分けに終わっている。
Liverpoolとしてはどちらのドローゲームもまずまずの結果で、決して悪くはない。特にリーグ戦の引き分けは、辛うじて優勝争いに可能性を残していたArsenalの望みを打ち砕く結果となった。
ロンドンでのCL準々決勝第1戦においては、攻め続けるArsenalに対して、ほとんどチャンスを作れなかったにも拘わらず、結局アウェイでのKuytの1ゴールを奪い、やや優位に立つことになった。

ラファエル・ベニテス監督も勝負はまだ未だ判らないとは話すものの、第1戦の後、
「プレミアリーグの試合結果は全く別もので、その結果が次の試合に影響するとは思わない。アーセナルは優れたインターナショナルな選手を揃えているし、スピードとカウンターアタックを得意とする素晴らしいチームなので、次回の試合もとても厳しいものになるだろう。だが、次はホームAnfieldでの試合。サポーターを見方につけることができる。そういう意味では、好位置につけたと言えるだろう」
と、やや満足そうなインタビューを残している。
またLiverpoolとしては、UEFAチャンピオンズリーグにおいて、これまで準々決勝に11度進出し、8勝をマークするという素晴らしい記録を保持している。
今回もイタリアン・チャンピオン、FCインテル・ミラノを下してベスト8に残ったリバプール は、イングランド勢を特別意識する必要もないようだ。

方や、対戦相手のArsenalだが、2日の試合前は、
「何の大会であろうと、自分達に倒せないチームなどないと信じている」
と強気で語ってたアーセン・ベンゲル監督だったが、試合後のインタビューでは、
「今日の試合は内容に見合う結果ではなかった」
と、ドローの結果に失望したコメントを残していた。

確かに、終始押し気味でチャンスも多く作ったArsenalだったが、点に結びついたのは試合開始23分のエマニュエル・アデバヨルによる先制ゴールのみ。
Liverpoolにチャンスを殆ど与えなかったが、たった1回のチャンスを得点につなげられてしまったのだから、悔しさはつのるはずだ。
4年前のCL準々決勝では、同じくイングランド勢対決となったチェルシーFC戦に敗れ、苦い経験を味わったArsenal。
第1戦での屈辱を挽回する為、どの様な戦術でCLの強者でもあるLiverpoolに向かうのだろうか。今日こそは想像も付かない結果が待ち受けてる気がしてならない。

【 Kick Off:試合開始 】
両選手達が入場しいよいよ試合という時、何時もの儀式がLiverpoolサポーターによって始まった。応援歌<You'll Never Walk Alone>だ。スカーフを両手で掲げて、国歌でも賛唱するかの如くスタジアム中に響き渡る。いつ聞いても、心に響くものがあり、ここはAnfieldなんだと改めて思う。
<前半>
試合は1分間の黙祷のあと、定時にArsenalのキックに始まった。
第1戦を1−1とし、多少有利に立つリバプールだが、最初から硬さがみられる。序盤はArsenalが好調なスタートを切った。
Arsenalならではの美しく早いテンポのパスワークが披露され、Liverpoolファンに見せ付けてるかの様。Adebayor(FW)を中心に前に出ようとするが、オフサイドで上手く繋がらない。
Liverpoolはミッドフィールドでのミスパスが目立ち、自分たちのボールにすることさえままならない。

そして試合開始13分、マイペースで常に押しぎみだったArsenalにチャンスがやってきた。Hleb(MF)からのパスを受けたAbou Diaby(FW)がゴール前を横切り、右サイドでいきなりシュート。
Pepe Reina(GK)によって止められたかの様に見えたが、Reinaの足元に当り、跳ねたボールはネットに収まった。0−1。
あれだけ湧いていた歓声が一瞬静まり、反対にアンフィールド・ロード(アウェイ)側は興奮の渦となった。

この先制点はArsenalに更にエネルギーを与え、Liverpool陣営は疲れてきたかのようにみえたが、Kop Standを中心にAnfieldの歓声はボルテージを上げ、自分たちのチームを後押しした。
そして前半30分を終えたところで、Liverpoolに同点のチャンスが訪れる。
LiverpoolのHyypia(DF)がArsenalのSenderos(DF)のマークを外した瞬間、Gerrard(MF)がコーナーキック。Hyypiaが上手く頭で合わせたシュートは、GKの後ろに控えていたArsenalのFabregas(MF)のジャンプも及ばず、ゴールポストを叩いてネットに突き刺さった。1−1。
Anfieldはさらなる歓声に沸く。Liverpoolは水を得た魚のように自信を取り戻し、1−1で前半を終了。希望を持って後半へ望む。

<後半>
勢いづいたLiverpoolは、Rafa Benitez監督の起用に応えるように、珍しく併用されたフォワードの2人CrouchとTorresが良いコンビネーションを見せ、前へ前へと展開されていく。
40〜50分台にはCrouchの弾丸ショットが何度かArsenalゴールを襲うが、キーパーやディフェンダーにより上手くセーブされる。
62分にはArsenalがコーナーからEmmanuel Eboue(MF)がシュートを打つがサイドネットに嵌ってゴールにはならなかった。

試合開始69分、Liverpoolにチャンスが巡って来た。
Pepe ReinaからのロングボールをCrouchが頭で上手く受けて、Torresにパス。パスを受けたTorresは美しく身を翻し、シュート。Redsの2点目が入る。2−1。
Torresならではの素晴らしいフィニッシュ! 彼のゴールは、何時見ても気持ちがいい。

Liverpoolにリードを奪われ、冷静だったArsenalにも焦りが見えてきた。
Eboueのクロスを受けて、Adebayorがゴールを目指すが、わずかにオフサイドの旗が揚がる。
73分にはWenger監督が動いた。Eboueをイングランド若手代表Theo Walcott(MF)に、DiabyをRobin van Persie(MF)に交代。切り札を投入して、何としても1点をもぎ取る執念を見せる。
そしてLiverpoolが2−1で逃げ切れるかと思った終盤残り6分、イングランドのホープWalcottが、風を切るかのような俊足ドリブルでピッチの端から端へと駆け上がった。Liverpoolのディフェンス陣は、次から次へと振り切られる。4人を抜いてあっという間にペナルティエリアに達したWalcottから、ゴール前で待ち受けるAdebayorにパスへと渡ると、素晴らしいゴールが決まった。2−2。
一瞬一体何が起きたのか…。とにかく、鮮やか過ぎるカウンターアタックでのゴールに、私も、Liverpoolのファンも空いた口が塞がらない状態。

これで合計スコアは3−3。しかしアウェイゴール・ルールにより、準決勝に進むのはArsenalとなる。
Anfieldの観衆もさすがにショックは隠せない様子だったが、直ぐに気を取り直して、更なる応援に身を投じた。素晴らしい…。これが、Benitez監督の賞賛する「Liverpool FCの最大の武器」なんだと、あらためて実感した。
これは、Anfieldでこのバックグラウンドの凄さを体験したものにだけしか判らない、凄さなのだ。普通の応援団とはスケールが違う。まさに驚異的な、ソウルフルなものを感じるのは私だけだろうか。

そして、それに答えるかの様に、Anfieldにまたしても奇跡が起きる。しかも、Arsenalのファンタスティックなゴールのわずか1分後(85分)のことだった。
Liverpoolのペナルティーエリアで、LiverpoolのBabel(FW)にArsenalのToure(DF)が不器用な形で重なり合ったと思うと、Babelがバランスを崩し、ピッチに倒れた。
「ペナルティー!」
Anfieldは狂喜に沸きあがり、ゴール前に立つLiverpool主将Steven Gerrard(MF)に全観衆が注目する。
Kopを前に、ゴール左隅を目掛けて思いきり蹴ったボールは、キーパーAlmuniaの伸ばす手をすり抜けてネットに収まった。3−2。お見事! 
これでGerrardは、Liverpoolの選手としてチャンピオンズリーグにおいてPKで4度もゴールを決めた選手となる。

その後のロスタイムにも、今日のLucky Boyとも言えるBabelがArsenalディフェンダーのクリアボールを上手く拾って爽快にドリブルシュート。
4−2。決定的なダメ押しが加算された。

【 Ending:試合終了 】
ブレスレスとも言える速い展開。実にドラマティックな準々決勝2戦目となった。
序盤あまり良い動きの無かったLiverpoolが、30分のHyypiaの同点ゴールから自信をとり戻し、勢いに乗った。更にAnfieldの不思議なオーラも加担して、気が付くと4−2で勝利を掴んでいたという感じがする。

帰りの電車の中では、Liverpoolサポーター達が自慢話に花を咲かせていた。皆最後には決まって、
「決勝はマンチェスターUtdとやってコテンパンに叩きたい」
と言う。でも、そんな話はまだ早いのではなかろうか? 
Liverpoolの準決勝の相手は好調なChelsea。
今度はAnfieldでの試合が先で、2試合目を敵地Stanford Bridgeで戦うことになる。いったい、どんな試合が展開されるのか。厳しい戦いであることは間違いないだろう。

しかし今日のような試合を見せられると、熱狂的サポーターならずとも、決勝の地・モスクワのスタジアムは、もうそんなに遠くないような気がしてくる。


下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 UEFA Champions League 07-08
 Quarter Final, Second Leg
 Liverpool VS Arsenal
 Anfield
 08 April, 2008  19:45 Kick Off
 Attendance: 41,985
  リバプール アーセナル
スコア
(Hyypia30, Torres69,
Gerrard85(Pen), Babel90+2)

(Diaby13,
Adebayor84)
ターゲットショット
オフターゲットショット 12
コーナーキック
オフサイド
イエローカード
レッドカード
ポゼッション 51% 49%

 Liverpool
  Reina, Carragher, Skrtel, Hyypia, Aurelio, Gerrard, Alonso,
  Mascherano, Kuyt (Arbeloa 90), Torres (Riise 87),
  Crouch (Babel 78).
  Subs Not Used: Itandje, Voronin, Benayoun, Lucas.

 Arsenal
  Almunia, Toure, Gallas, Senderos, Clichy,
  Eboue (Walcott 72), Flamini (Silva 42), Fabregas,
  Diaby (Van Persie 72), Hleb, Adebayor.
  Subs Not Used: Lehmann, Song Billong, Bendtner,
  Justin Hoyte.

from NLW No.340 - April 15, 2008     

Copyright(C) 2008 Eri Shimomura & scousehouse

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