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Vol.22 Premiership; Everton VS Man United, Goodison Park 11.09.2010

from NLW No.431 - September 21 2010  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 Introduction:はじめに 】
NLWをご覧の皆様こんにちは。
あのExcitingなビートルウイークからすでに数週間も過ぎてしまいました。未だに興奮がさめやらない感じはしますが、すでに暦は9月の後半に突入、リバプールの路上にも枯葉が舞い散る季節になってしまいました。

“しっとりと秋の雰囲気を味わいながらジックリ読書でも…”と言いたい所ですが、私的には“どうしてこんなに時間がないの!”と叫びたくなる今日この頃です(笑)。
皆様もお忙しいとは思いますが、グディソンパークでの熱狂ライブの模様、少しの時間お付き合い下さい。

【 Goodison Park:グディソンパーク 】
秋晴れの素晴らしい...と言いたい所だが、なんとも気まぐれな天気に見舞われた今日のGoodison Parkである。
朝からどんよりとした雲に覆われたリバプールの空が、今また数分毎に明るくなったり暗くなったり。
実はこの試合、観戦チケットにも記されてあるとおり、元々は日曜日(12日)の13時キックオフの予定だった。
それがいつの間にか、本日土曜日(11日)の12時45分キックオフに変更になっていた。
そのことに私が気が付いたのがなんと試合開始約1時間前。偶然インターネットで見つけたのだ...

もう間に合わないかと念のためグディソンにも電話を入れたところ、あちらの言い分は、“プレミアリーグとスカイTVの都合による変更であり、チケットの注意書きにもあるとおり、エバートン側の理由での変更ではないため、払い戻しには応じられない”とのこと。
仕方がない。それなら1分でも試合を見逃さないようにと、慌ててカメラをもぎ取り、電車に飛び乗った。

いつものようにマージーレイルのSandhillで下車し、Soccer Busに乗り換える。
ぎりぎりのこの時間でもたくさんの人がスタジアムに向かっていて、少し安心した。バスの中で聞き耳を立てると、“友達から知らされて駆けつけた”などの会話がちらほら。やはり私と同じように、日時が変わったことを知らずに慌てた人たちも多かった様子である。

試合開始が12時45分なので昼食をゆっくりとる時間は無く、チッピー屋に飛び込む。たっぷりのビネガーにお塩を振りかけて、チップスの立ち食い。
急いでスタジアムに駆け込み、スタンドへの階段を上ると、試合は丁度キックオフになったばかり。1分も見逃さずにすんだ。

【 Everton vs Manchester Utd 2010-2011 】
今年2度目のエバートン対マンチェスターユナイテッドのレビューである。
前シーズンとなる2月20日の対戦は、3−1でエバートンがマンUを抑えて勝利を飾った。

ここの所マージーサイドだけではなく全国のスポーツタブロイドを騒がせているWayne Rooney。
ワールドカップでの不調がきっかけでイギリスのメディアから叩きに叩かれた彼だが、プライベートにおいてもターゲットになっているようである。
Alex Ferguson監督だけではなく、エバートン監督のDavid Moyesにまで、ルーニーのプライベートに関してのコメントが求められたが、もちろん両監督とも選手を尊重し、一切ノーコメントで通している。

今日のルーニーの起用について、ファーガソンは慎重に考えてるとのことである。
元チームメイトのエバートンDF Jagielkaからは、エールのメッセージがメディアを通じてルーニーに届けられたようだ。

“今回のGoodison Parkに帰っての試合は(ルーニーはリバプール出身でありエバートンでプロデビュー)、エバートンサポーター(スカウサー)からのブーイングは避けられないだろう。しかし彼はそれに対応出来る器を持っている”

というような内容だった。
さて本日、リバプールのナショナルヒーローは生まれ故郷のグランドで存在感を見せることができるだろうか。

本日のアウェーチーム、マンチェスターUtd。
昨シーズンは惜しくも逃げるチェルシーをキャッチ出来ず、リーグテーブル2位に終わった。
フォワードからミッドフィールドの得点力の低下と言うよりも、守備力が衰えていると言うのが事実かもしれない。
主力のディフェンダーでは、Rio Ferdinandや引退の声も聞かれるGarry Nevilleの怪我が絶えず、VidicやEvraさえもう若いとは言えないし、移籍の噂もある。
新シーズンを迎えるにあたって大きな補強は無かったものの、ファーガソンは将来のチーム作りに向けて、何らかのビジョンを持っているはずだ。これからのチーム編成に更に注目したい。

ホームのエバートンであるが、先シーズンは8位とサポーターにとっては少々残念な成績で終わった。
モイーズ監督がAston Villaへ移籍するのでは、という憶測も高まって、一時は大いに心配されたが、噂は噂で収まったようだ。弱小とは言えないまでも、資金力の乏しいクラブを率いて毎年それなりの結果を残しているモイーズの手腕は、今年も頼りにされている。
怪我で長いことご無沙汰だったYakubuがベンチ入りするという、うれしいニュースも入っている。

今イギリス全体で注目されているのが、エバートンのMF Artetaだろう。
彼は北スペイン、バスク地方の出身である。ホームタウンはXabier Alonso(元リバプール、現レアル・マドリー)と同じTolosaで、同じストリートに住んでいたという。
最近彼がイギリスのレシデンス(市民権)を手に入れた事で、彼がイングランド代表でプレイするのではないかとの噂が昇り始めたのである。

しかし彼がこの市民権を持つ前にU-21スペイン代表でプレーした経験があることが判明。このことがFIFAの規約に触れるため、イングランド代表入りの話は現実味がなくなった。もっとも彼自身、スペイン代表としてプレイする夢も未だ捨て切れていないだろう。

【 Kick Off:試合開始 】
キックオフはわずかに見逃したものの、無事にグディソンLower Bullensの後方の席に落ち着いた。
グディソンパークは典型的なオールドファッションのスタジアムである。
他のプレミアリーグのスタジアムと比べるとかなり老朽化が進み、屋根が低く、柱も多い。そのため、人の頭や柱の影で視野が遮られる事がしばしばあり、決して観戦しやすいスタジアムとはいえない。
今日のグディソンは空席も幾らか見られるが、やはり試合日程の変更が影響したものと考えられる。


<前半>
今日のエバートンは4−4−1−1システムで、Sahaの怪我離脱によりCFにはCahillが入った。
序盤ペースを握ったのはそのエバートン。Arteta、Fellaini、Pienaar、Cahillの中盤がボールをホールドし、素晴らしい長短のパスを前線に送りだす。

開始5分に、そのエバートンに最初のチャンスが巡ってくる。
ユナイテッド主将Garry NevilleによるエバートンMF Pienaarへのファールで、ゴール前30ヤードでフリーキックを得る。Artetaのスウィングショットはユナイテッド守護神Van der Sarのハンドをかわし、バーを鋭く叩いた。場内に大きなため息と拍手が響き渡る。

Rooneyを欠いたユナイテッドは15分、MF O'Sheaの左ウイングからの豪快なショットがゴールをかすめる。エバートンサポーターにとって、最初のヒヤッとする場面であった。

流れをつかんできたユナイテッドは30分過ぎ、最初のコーナーキックのチャンスをつかむ。
ゴール左サイドに流れたボールをキープしたGiggsに、エバートンHibbertがスライディング。このプレイに笛が高らかに鳴り、Hibbertはイエローカード。ユナイテッドは最高のポジションでフリーキックを得た。
Naniがボールを転がし、中央で待ち構えたScholesが強烈なシュート。ディフェンスに当たりコースが変わった難しいボールを、GK Tim Howardが素晴らしいセーブ!!! GKの本能だろうか、見事な反射神経で右足を伸ばし、ゴールを守った。

この後も決定的なピンチが何度かあったが、Howardがことごとく跳ね返してユナイテッドにゴールを許さない。
そして再びエバートンに先制のチャンスが巡ってきた。
39分、エバートンが見事なカウンターアタック。Cahillの見事なロングパスを中央で受けたArtetaは、DF Evraを振り切ってボールをドライブし、ゴール前に飛び出すGK Van der Sarと向かい合う。Artetaの蹴ったボールをVan der Sarは見事に弾いたが、ユナイテッドの危機は終わっていなかった。こぼれ球を拾ったOsmanがゴール左に待ち構えるPienaarへパス。Pienaarの美しいシュートがネットに収まった。1−0。エバートン先制!

しかし、グディソンの歓喜も束の間、ユナイテッドの反撃が始まった。
左コーナーからのNaniの模範的ともいえる正確なクロスがディフェンダーとゴーリーの間に。MF Fletcherが右足で上手くあわせて、簡単に同点ゴールが決まる。
エバートンにとっては、ほころびを突かれたかのような、あっけない失点だった。1−1。

<後半>
エバートンサイドから振り返れば、内容的には上出来ではあったが、リードを保てなかったことで不満が残る前半になってしまった。内容に相応しい結果をどうにかして導きたい後半である。
ユナイテッドはエバートンのペースに巻き込まれながらも自分達のバランスを決して崩さない。デフェンス層の厚さとカウンター攻撃、パスの充実ぶりには元チャンピオンの貫禄を感じる。

後半に入るや否や、グディソンに恐怖の稲妻が走る。
1分を過ぎたところで、またもやNaniの美しいクロスがゴール前へ。待ち構えるVidicが得意のへダー。なんとエバートンサイドは誰も彼をマークしていない。
1−2。ユナイテッドリード!
動揺を隠しきれないエバートンを、更にカウンターアタックでユナイテッドが襲う。
Scholesからの見事なロングボールをオンサイドのBerbatovがスキルフルな足さばきでボールを落とし、シュート。1−3。グディソンは失望のため息に深く沈む。

この時点で誰もが、“ここまでか...”との思いが頭をよぎったに違いない。
実際、何人ものエバートンサポーターが席を立ち始めたのを見た。しかし、Moyes陣営は決して試合を投げなかった。
失点後、エバートンはHeitingaに代えて、怪我から戻ったYakubuを前線に配置。
Hibbertをより攻撃力のあるColemanに交代した。
このサブの投入は機能し、Yakubuはボディーを生かしポストプレーでチャンスをつくる。しかし、なかなか得点には結びつかない。

そしてロスタイムに突入した直後に試合が動いた。
91分、Bainesのクロスをゴール前でCahillが頭であわせる。決して長身とは言えない彼だが、ゴール前の動きにはまったく無駄がなく、得意のへダーではプレミアリーグの誰よりも高く舞い上がる。まるでボールのほうが頭に吸い寄せられて行くようだった。2−3。グディソンが息を吹き返した。

しかし残り時間はあとわずか。ゴールのセレブレーションを省略して、エバートンは急いで自軍に戻る。まだ彼らはあきらめていない。

そんな彼らに、まさかの奇跡が再び起きた。
92分、今度もBainesがゴール前に上げたボールをCahillが競り勝ち、Artetaに渡す。Artetaの豪快なショットはゴール前に立ちはだかったユナイテッドのScholesをかすめ、左ネットに突き刺さる。3−3! グディソンは興奮の渦に包まれた。

【 Ending:試合終了 】
アンダードッグ(弱者)エバートンが先制し、マンUが追いつき、さらにリードを奪う展開。
Cahillのへダーが決まったロスタイム91分でさえも、誰もが“a little bit too late”と思ったはずだ。しかし、軍配がユナイテッドに上がりかけた土壇場に、再びドラマが起きた。
そのドラマは決して幸運に依るものではない。元チャンピオンと互角以上にわたり合い、あきらめずにチャレンジを繰り返し、決定機を数多く演出したからこその結果であった。

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 10-11
 Everton VS Manchester United
 Goodison Park Stadium
 11 September, 2010  12:45 Kick Off
 Attendance: 36,556
  エバートン マンU
スコア
(Pienaar39, Arteta90,
Cahill90)

(Fletcher43, Vidic47,
Berbatov66)
ターゲットショット
コーナーキック
ファール 12 19
オフサイド
イエローカード
レッドカード
ポゼッション 46% 64%

 Everton
  Howard, Hibbert, Jagielka, Distin, Baines, Osman, Heitinga,
  Arteta, Pienaar, Fellaini, Cahill.
  Subs Not Used: Mucha, Bilyaletdinov, Beckford, Neville, Gueye.
  Goals: Pienaar39, Arteta90, Cahill90.
  Booked: Heitinga51.

 Man UTD
  Van der Sar, Neville, Vidic, Jonathan Evans, Evra, Scholes,
  O'Shea, Fletcher, Nani, Berbatov, Giggs.
  Subs Not Used: Kuszczak, Owen, Smalling, Rafael Da Silva,
  Macheda, Gibson.
  Goals: Fletcher43, Vidic47, Berbatov66.
  Booked: Giggs45.

from NLW No.431 - September 21 2010     

Copyright(C) 2014 Eri Shimomura & scousehouse

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