トップ・ページ>フットボール>エッセイ「Footballの旅」

   



Vol.9 Premiership; Everton VS Aston Villa, Goodison Park, 11.11.2006

from NLW No.274 - November 21, 2006  
バックナンバー

 
下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 まえがき 】
NLWを御覧の皆様こんにちは。
今日は11月11日、朝からイギリス全国で、第一次と第二次の両世界大戦の戦没者を追悼する式典が行われ、(第一次世界大戦が11月11日午前11時に終戦となった為)午前11時には一斉に2分間の黙祷がなされました。
この時期のイギリスでは、胸元に赤いポピーの花を付けている人を多くみかけますが、これも戦没者追悼の意味を持つものです。
しかしこうしている間にも、イラクやイスラエルを初めとして世界のあちこちで戦争が続き、意味も無く多くの人が殺されていってると思うと、本当に胸が痛みます。
こういう機会に改めて戦争の意味、命の尊さをよく考えてみたいと心から思います。

さて、同じ争いごとといってもこちらプレミアリーグの争いは、毎週美しい火花を散らし、クリスマスへ向けて更に勢いづいています。
今日のレヴューは、地元エバトン対ミッドランド代表のアストンビラ。私にとって、今シーズン初めてのグディソン・パークでの観戦となりました。

【 グディソン・パーク 】
天気予報が外れてくれ、どうやら雨は凌げたのだが、この強風はどうにかならないものか? 今シーズン初のグディソンなのに、ちょっとガッカリなお天気。
ともあれスタジアムの周りは何時もにも増しての人ごみ、相変わらず親しみやすいローカル色漂うこの地域、ブルー一色のサポーター達が埋め尽くしている。
今日は戦没者追悼記念日ということもあって、あちこちで水兵さんの格好をした子供達がポピーの花を持って募金を募っていた。
強風の中、何処で時間を潰そうかとグディソンの周りをブラついていると、グディソン・パークに隣接している聖ドミニコ教会が眼に入った。沢山の人たちが出入りしている。いつも"中には一体何があるんだろう?"と気にはなっていたので、入ってみる事にした。

中には小さなホールがあり、幾つかの机が並べられ、昔ながらのカップとソーサー、手作りのケーキやパイ等が次々に目に入ってきた。ここでは、沢山の教会ボランティアの人たちによるカフェが営業されていたのである。
右横には何組かのテーブルと椅子が用意されているのだが、ぜんぜん足りない。ホール全体が人でごった返していて、身動きがとれないほどだ。きっと、グディソンでゲームがある日はかき入れ時なんだろうな〜。
教会を出ると、強風に煽られた怪しげな雲が、頭上を覆っていた。試合が終わるまで持ちこたえてくれるといいのだが。

【 今回の見どころ 】
前の2試合(カーリング・カップを含む)を1−0で落としたホームのエバトンだが、モイーズ監督のインタビューなどから伺う限り、チームスピリットは上昇気流のようだ。

ミッドウィークに行われたカーリング・カップ、対アーセナル戦(0−1)で、ストライカー James Mc Fadden がレッドカードを貰って3試合の出場停止となってしまった。
今日は前線に Andrew Johnson 、Victor Anichebe を起用し、攻めのエバトンで動いてくるのだろうか。それとも Simon Davies をMFへ呼び戻し、James Beattie らで固め、半攻撃的な守りと柔軟な体制に持っていくのか。
彼らがその上昇ムードのスピリットを使ってどの様に立ち直りを見せてくれるのか、見ものである。

一方のアストン・ビラは、今シーズン、前セルティック監督のマーティン・オニールが就任。
現在ランク6位で、7位のエーバトンをゴール差でわずか上回って、なかなかのスタートをみせてくれている。
FWの顔ぶれは、これまたセルティックで活躍をしていたへダーの上手い Chris Sutton や Angel(コロンビア代表)。その他にもバラエティーでインターナショナルな選手が揃っている。
私情を挟むと、このチームには一人私の大好きな選手がいる。彼は長い事怪我で休場し、もしかしたらこれが彼の選手生活最後のチームになるかもしれないわけで…。
前ゲームからやっとサブ(補欠)に戻ってきた、元リバプールのMF Patrick Berger(元チェコ代表)である。さて、今日は彼の出番があるのだろうか。

【 マーティン・オニール監督 】
今シーズンよりビラのマネージャーに就任したマーティン・オニール監督は、北アイルランド出身、今年で54歳(1952年3月1日生まれ)。
選手時代は地元北アイルランドのクラブ Lisburn Distillery でミッドフィルダーを勤め、その後イングランドへ渡り、Nottingham Forest, Norwich City, Manchester City, Notts County と選手生活を送る。
中でも、Brian Clough 監督の指揮した Nottingham Forest に在籍中は、European Cup 等の獲得にも大きく貢献した。又彼は北アイルランド代表チームのキャプテンでもあり、1982年の World Cup においては、小さい国でありながら、出場権を手に入れた。

監督としてのキャリアも、熟年のサラブレットとでも言えようか、Leicester City, Norwich City, Wycombe Wanderers を経て、先シーズンまで Glasgow Celtic のマネージャーを務め、多くのキャリアを積んだ。
フットボールに対する真面目な姿勢や、選手達への信頼の強さ、コツコツと積み上げていく努力と辛抱強さが、今、一つづつ彼を成功の道へと導いている。

【 アストン・ビラの歴史 】
ここで、ビラの歴史にも触れてみる事にしよう。
ロンドンに次ぐイングランド第二の都市、バーミンガムのビラ・パークを本拠地とするアストン・ビラFCは、1874年、後にフットボール・リーグの会長にもなるウィリアム・マクレガー等が中心となり、地元ガス灯会社の協力を得て設立された。
アストン・ビラも、エバトンと同じく、1888年最初に創立されたフットボール・リーグ・メンバー12チームの一つである。

リーグ優勝は、1890年から1910年にかけての6回と、1981年の1回を合わせて計7回。FAカップも7回獲得している。
1896-97シーズンには、初めてFAカップとリーグの2冠を達成した。
19世紀に最も多くイングランド・リーグを制したクラブとなったが、しかしその後は徐々に失速していき、1930年代頃から本格的に低迷することとなる。

クラブ創立100周年を迎えた1974年頃を境に、長い低迷からの転換期を迎える。
ロン・サンダース監督を迎え、強豪の一角に返り咲いたアストン・ビラは、1975、1977年に国内カップ優勝を遂げる。そればかりか、1981年には実に71年ぶりとなる念願のリーグ優勝を果たし、翌年の1982年にはヨーロピアン・カップ(現在のチャンピオンズ・リーグ)優勝も達成したのであった。

ミッドランドことイングランド中部に位置するバーミンガムは、古くからの交通の要所であり、産業革命により18世紀からは工業都市として発展した。
現在は英国随一のアジア人街があることで有名で、アジア人の人口が全体の15%にも上るといわれている。
アストン・ビラ以外にも、バーミンガムには幾つもの有名フットボール・クラブ(バーミンガム・シティーやウエスト・ブロムなど)が存在する。
その中でもアストンビラは国内有数の名門クラブだが、タイトルのほとんどが約1世紀前の栄光で、総合的には80年代の降格、昇進、リーグ優勝を除くと、最近はリーグテーブル(順位表)の真ん中辺りを行ったりきたりの存在である。

クラブオーナーは、1982年からアストンビラの根強いファンでもあったエリス氏が務めていたが、昨年アメリカの富豪ラーナー氏の株買収によって退くことになった。

【 試合開始 】
今日の試合は午後3時開始。全国の他会場と同様グディソンにおいても、キックオフの前に、戦没者の追悼ための1分間の黙祷が行われた。

<前半>
エバトンのキックで試合が始まった。
試合開始数分でビラの動きが活発になり、ビラMF Isaiah Osbourne のボレーキックがゴール上を大きくそれる。又その数分後にはビラMF Stilian Petrov の鋭いシュートをエバトンGK Tim Howard が上手くセーブする。
負けじとエバトンサイドも開始14分ほどからFW Andy Johnson がストライカーの意地を見せ、前方へとゴールを目指すが、上手く結びつかない。
前半20分過ぎ、エバトンMF Tim Cahill がボールを追っている最中にチームメイトの Lee Carsley と衝突した。
どうも膝を痛めたらしく、担架で運び出されて、James Beattie と交代になる。最近特に活躍していた彼だけに、エバトンサポーターもとても心配気に、拍手で送り出していた。
22分にはビラMF Osbourne の中盤からの切り込む様な上手いボール運び、そして弾丸シュート。しかしわずかにゴールを反れる。エバトンファンの大きなため息がグディソン中に充満した。

30分のエバトンMF Leon Osman のゴールへの試みも、ビラDF Liam Ridgewell に遮られ、デンマーク代表GK Thomas Sorensen までにも到らずに終わった。続いて36分には、元エバトンプレイヤーであったビラMF Gavin McCann が挑戦的なシュートを放つが、エバトンGK Howard にセーブされる。

前半終盤の42分、ビラにチャンスがやってきた。
MF Osborne の素晴らしいクロスが、ゴール前で待ち構えていたFW Sutton に渡るやいなや、上手く頭で合わせてゴールとなる。
1−0。丁度ハーフタイム前の良いタイミングでビラがリードを奪った。
ハーフタイム数分前には、負けじとエバトンサイドもプッシュ!
Beattie のフリックボールを受けたFW Johnson がゴールを目掛けてシュートを打つが、惜しくもポストを叩く。

前半はこのまま終わり、ハーフタイムブレイクを迎えた。
どちらのチームにもこの強風が仇となり、ロングボールやパスワークに悪い影響が出ていて、余り良い動きが見られない。
更にエバトンは、MFの要 Cahill を失って、益々アイデアを失ったかの様な不安定な展開である。ホームにおいてリードを許してしまった今、モイーズ監督は、後半は攻めの一手で同点、逆転を狙って来るだろう。

<後半>
後半開始直後の48分、ビラのディフェンスを脅かすかのようなエバトンMF Carsley のドリブルとインサイドボックスからのシュートは、ゴール上に舞い上がった。残念、同点のチャンスを惜しくも逃がしてしまった。
続けて54分にもFW Johnson からのボールを Carsley がへダーシュートするが、枠を捉えられず。
エバトンはさらに押しまくる。
Mikel Arteta からのフリーキックを、前線で待ち構える Beattie がへダーで合わせるが、バーの上に跳ね返る。どうも今日のエバトンにはツキが無いらしい。

70分には今回はビラにチャンスが回ってくる。ビラMF McCann のハーフウェイからの素晴らしいロングシュートがエバトンGK Howard の左を襲うが、全身を使ってセーブ。

その後もビラMF Gabriel Agbonlahor のクロスバーを越えるシュート、その2分後にはエバトン Carsley のシュート、ビラ Petrov のドリブルショットと交互に続く。

最後まで諦めたくないエバトンサイドは Osman に交代して投入された Anichebe が食い込むようなシュートを打つが、ビラDF Ridgewell にブロックされた。

【 試合終了 】
アストンビラは、Sutton の得意のへダーによる1点を守り通し、勝利の3ポイントを獲得。これでビラは、暫定とはいえ、マンU、チェルシーに続くリーグテーブルの、なんと3位に躍り出た(翌12日の試合結果で4位となる、ちなみに3位はアーセナル)。

地元トフィーズはちょっとツキもなかったか、今日はいい所が見せられずに終わり、渋い結果となった。モイーズ監督も、
『とにかく言い訳無用、決してビラは我々より良い試合をしたとは思わないが、彼らは得点し、我々はチャンスを逃がした』
と苦いコメントを残した。

ビラの監督マーティン・オニールは、
『 Sutton を起用して正解だった。彼はセルティックに居た時から、何時も私の期待に応えてくれた、素晴らしい選手である』
とサットンを讃える喜びのコメントだった。

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 06-07
 Everton VS Aston Villa
 Goodison Park
 11 November, 2006  15:00 Kick Off
 Attendance: 36,376
  エバトン アストン・ビラ
スコア
ターゲットショット
オフターゲットショット
コーナーキック
オフサイド
イエローカード
レッドカード
ポゼッション 49% 51%

 Everton
  Howard, Neville, Yobo, Stubbs, Lescott, Osman (Anichebe 68),
  Carsley, Davies, Arteta, Cahill (Beattie 22), Johnson.
  Subs Not Used: Turner, Weir, Hughes.

 Aston Villa
  Sorensen, Mellberg, Cahill, Ridgewell, Bouma, Agbonlahor, McCann,
  Osbourne, Petrov, Angel (Agathe 76), Sutton (Davis 90).
  Subs Not Used: Taylor, Baros, Berger.

from NLW No.274 - November 21, 2006     

Copyright(C) 2007 Eri Shimomura & scousehouse

トップ・ページ>フットボール>エッセイ「Footballの旅」