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Vol.13 Premiership; Manchester City VS Arsenal, City of Manchester 22.11.2008

from NLW No.366 - November 25 2008  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 Introduction:はじめに 】
わたしにとって今シーズン初のレビューとなる今回、久しぶりにマージーサイドを出て、東隣のマンチェスターにて、<Manchester City vs Arsenal>を観戦しました。
長年マンUのサポーターであり、マンチェスターへ足を運ぶ事は度々ですが、マン・シティのグランドへは初めてのこと。しかもそのCity of Manchesterスタジアムは新しく、見るからに素晴らしい造りのスタジアムです。今から楽しみでなりません。

【 History of Manchester City:マンチェスターシティーの歴史 】
マンチェスター市にある二大プレミアリーグ・チームの中でも“真のマンチェスター市民のクラブ”(?)と言われているマンチェスター・シティFCの歴史に触れてみる事にしよう。

マン・シティの始まりは、1880年に創設されたゴートン・アスレティックという地元のチームだった。
そのチームが1887年にウエスト・ゴートンと合併し、アーディックFCと新たに名乗りプロとしての道をスタートする。
現在のマンチェスター・シティFCへの改称は1894年である。

前スタジアムのMain Road(1923-2003)には、80年という長い年月をかけて、マンシティ・ファンの情熱が刻まれていた。
2度のリーグ優勝(1936-37, 1967-68)を始めとし、FAカップ4回(1903-04, 1933-34, 1955-56, 1968-69)、リーグカップ2回(1969-70, 1975-76)、UEFAカップ・ウイナーズ・カップ1回(1969-70)と、60年代を中心にまずまずの成績を残す。

そして2003年より、現在のこのCity of Manchesterに舞台を移すことになった。

【 Mark Hughes監督と新オーナー 】
『フットボールの旅』で監督としてMark Hughesを紹介するのは今回二度目である。
前回はBlackburn Roversの監督として紹介した記憶があるが、Premier Leagueファンならば嫌でも耳に入ってくる監督の移動、新たな就任のニュース。すでにご存知の方も多いだろうが、今年夏、元イングランド代表監督スウェーデン人のSven Goran Erikssonに代り、彼がマンチェスター・シ
ティの監督に就任した。

ヒューズは元ウェールズ代表でもあり、ウェールズのナショナル・チームを指揮した経験も残す。
現役時代は数々のリーグ、カップ優勝を経験し、殆どの時をマンチェスター・ユナイテッドのFWとして活躍、ユナイテッド黄金世代を自ら引っ張っていったキープレイヤー、立役者と言っても過言ではない。
そんな彼が今現在、ライバルチームであるマン・シティの監督としてスタートを切ったのだから人生は判らないものである。

マン・シティのオーナーも、この夏に交代した。
ヒューズ監督就任直前、タイの汚職疑惑で揺れる前首相のタクシン・チナワット氏が、オーナーの権利をUAEの投資グループADUG(アブダビ・ユナイテッド・グループ・フォー・デベロップメント・アンド・インベストメント)へ売却。Sheikh Mansour bin Zayed Al Nahyanがマン・シティーの代表者となった。
これにより、マン・シティFCは世界一のリッチクラブとなり、ヒューズ監督就任後は、選手獲得のデッドラインぎりぎりに、チェルシーへの移籍が決定的とされていたレアル・マドリッドのロビーニョを強奪した話は有名である。

ここ数年監督がころころと代わり、リーグの真ん中あたりの順位を行ったり来たりだったマン・シティだが、今回監督に就任したヒューズが潤沢な資金を活用し、何処まで盛り上げて行くかが注目である。

【 今回の見所 】
シーズン始まって早くも約3ヶ月が過ぎようとしている。
マン・シティはヒューズ新監督の下でまずまずのスタートを切ったものの、最近4試合は3連敗の後で引き分けという結果で、監督のポジションも危ういとの噂が流れている。

方やArsene Wenger率いるアーセナルも上位テーブルを保持しつつも、10月下旬にHarry Redknappを監督に据えたばかりの新生Tottenham Hotspurにホームで喫したドロー(4-4)を皮切りに、翌週はアウェイでStoke Cityに2-1で敗れるなど、不本意な結果が続いた。
11月8日にホームでマンチェスターユナイテッドに2-1で勝利し、一度は浮上するかと思いきや、先週末はホームでAston Villaに0-2で敗れてしまうといった、かなり不安定な状態である。

ピッチの外においても、キャプテンGallasが今年出版した自伝でフランス代表のチームメイトJerome Rothenを批判したことが問題となり、キャプテンの座を下ろされる羽目となった。
もちろん今日の試合も欠場、加えてアーセナルは、Walcott、Adebayor、Sagna、Toureといったスーパースターを怪我で、先週のレッドカードでFabregasまでもを欠いた布陣で今日の試合に臨む。

実力はあるものの現時点では調子を落としているチーム同士の対戦となった今日の一番。
ピッチ上でどの様な試合展開が観られるか、ニュートラルなフットボールファンにとっては面白い見所だと思う。

【 City of Manchester Stadium 】
マンチェスター市の西に位置するOld Trafford(マンUのホーム)とは反対に、City of Manchesterはマンチェスター市の東側にある。
最大で4万8000人を収容するブラン・ニューのスーパー近代スタジアムだ。
旧スタジアムのMain Roadより移ったのはつい最近2003年の事、イギリスで4年に一度行われる《Commonwealth Games》(英連邦の国や地域のみで争われる陸上の大会。2002年にマンチェスターで開催)のために建設されたスタジアムに、マン・シティFCが3,500万ポンドの大金を導入、北ウイングのスタンドを新たに設置するなどの改修を施し、現在の輝かしいCity of Manchesterに仕上がった。
 
Liverpool Lime Street駅から鉄道で約50分、Manchester Piccadilly駅へ到着。
駅を出て道を下ると、すぐにCity of Manchester行きのバス停(216番)が見えてくる。バス代は片道1ポンド、5分もしないうちにスタジアムに到着。シティー・センターから徒歩でも20分、一本道なのでとてもわかりやすい。

ブラン・ニューのスタジアムは息を呑むような素晴らしい建物。螺旋状道路がマンシティ・カラー(水色)でとても可愛らしく、建物全体をキュートに演出している。
スタジアムの直ぐ傍には『B Of Bang』というアートの物体が目の中に飛び込んできて、訪れる人の目も楽しませてくれる。

スタジアムの写真撮影に気をとられていると、人ごみの中に、家族連れの元Birmingham、DerbyのMFとして活躍していた、ウェールズ代表選手でもあるRobby Savegeが現れた。
ヒューズ監督とは元ウェールズのチームメイトでもあって親しいに違いない。Robbyが手をとる2人のエンジェル達はしっかりマン・シティのスカーフを身に着けている。きっと彼女達のお気に入りチームなのだろう。

本日は晴天なり…ではあるのだが、気温は最低を記録、なんと最低マイナス2度、最高が3度と予報されていた。
厚着を重ね、ダウンジャケットを羽織ってもこの寒さは体の芯まで到達する。日中とはいえ、かなり寒い!

【 Kick Off:試合開始 】
スタジアムの中に入ると、人々の群れとカフェの暖かさの中で一時的にホッとする。
席に付くが今回はチケットの購入が遅かったのと、お相手がリーグ上位チームのアーセナルとあって最上階のPier 3しか取れなかった。
かなり急な斜面で、高層恐怖症の方にはちょっとお勧め出来ないだろう。選手達の姿も豆粒ほど。選手達を見分けるのにも、ひと仕事である。しかし、試合全体の流れはパーフェクトに把握でき、最高の眺めかもしれない。

大きなサイドスクリーンに選手達の顔が映し出された。いよいよ、選手入場だ。選手達は握手を交わし、試合は定刻の15時に始まった。


<前半>
最初のチャンスはわずか開始2分、アーセナル前線のミスボールをもぎ取ったMF IrelandがMF Vassellにパス。ゴール前のVassellにサポーターから「シュート!」の声がかかるが、出遅れたVassellは慌ててチームメイトのブラジリアンDF Zabaletaへパス。しかしZabaletaのキックはアーセナルGK Almuniaの左を大きく反れた。

その後は両チームの中盤でのパスが乱れがちで、サポーター達の苛立ちの叫びが響く中、展開されていく。

16分、アーセナルDF HoyteがFW Robinhoを押し倒し、シティは左ウイングにてフリーキックを与えられるがGK Almuniaによってブロックされた。

33分、初めてアーセナルにチャンスらしいチャンスが訪れた。
MF Van Persieがフリーキックを獲得そ、チームメイトのMF Nasriがボールを蹴る。ボールはマン・シティGK Hartの正面へ。跳ね返されたボールがアーセナルMF Songの前に落ち、すかさずシュートを放つが、大きくゴールを逸れる。アーセナルは大きなチャンスを逃してしまった。

その数分後、シティMF Irelandがボールを上手く扱い、ゴール前のFW Benjaniへとつなげるが、直後にラインズマンの旗が挙がる。
オフサイド。ほぼ一直線だった感じがするのだが…惜しい。

前半終盤にかけてシティのIrelandが際立って良い動きを見せ、アーセナル・ディフェンス陣の動きを揺さぶるが、最後のクロスがどうしても繋がらない。
そんなジレンマが続く中、試合は前半のロスタイムに突入した。

アーセナルDF SilvestreからDF Clichyへのパスが乱れ、目の前に転がったボールをIrelandがネット目掛けて打つ。ゴール!! 1−0。
ちょっとラッキーだった気もするが、これも今までの素晴らしい働きの見返りとも言えよう。彼の今シーズン6ゴール目となった。

<後半>
前半はIrelandのゴールに沸いたCity of Manchesterだが、このままリードを続けられるのだろうか。
今日はいつもの美しいパスワークの見られないアーセナルがリズムを取り戻し、反撃してくるのか。後半は面白くなりそうだ。

予想通り、後半はアーセナルが攻めてきた。
MF Diabyがボックス内になだれ込み、いきなりシュートを放つがゴールは決まらない。
続いてFW Bendtnerのクロスもゴール前を襲うがシティDF Dunneにブロックされ、ゴールには届かない。

50分にはアーセナルMF Van Persieがフリーキックを奪う。蹴ったボールはシティの壁を上手く抜け、ゴールへ突き刺さるかと思われたが、僅かに右ポストを叩く。スタジアムが大きくどよめいた。

1−0でリードするシティも負けじと動き出し、56分に追加点のチャンスが巡ってくる。
ピッチ中央からMF(FW) Wright-Phillipsの素晴らしい縦パスが3,000万ポンドで勝ち取ったブラジリアンFW Robinhoに渡る。Robinhoは魔術とも言える足技でボールをフリップ、近寄って来たGK Almuniaの頭上をすり抜け、ボールはネットに収まった。2−0。素晴らしいゴール!

さらにその後もVassellとIrelandのパスワークが上手く繋がり、Robinhoに届くとゴールに的確なシュート。しかし、ラインズマンの旗が挙がった。またしてもオフサイド! 追加得点はならなかった。

アーセナル側もMF Songの鋭いシュートがゴールを襲うが、シティGK Hartによってさえぎられる。

残り12分に達した所でRobinhoが中央からボックス内に入り、左に回りこんでシュート。ボールはゴールを大きく外れ、Robinhoはゴールの左サイドに倒れこんだ。足首を痛めたらしい。
Robinhoはシティ・ファンの不安げな拍手の中、82分に退場した。
Robinhoの代わりにMF Hamannが入り、その6分後にもヒューズ監督はFW Mwaruwariに代わってFW Sturridgeを投入した。

ロスタイムを迎える前後には2−0で安心しきったのか、席を立ち始める観客もいたが、試合は未だ終わってなかった。
サブで起用されたSturidgeが左アウトサイドからボールをインサイドボックスに運ぶ途中、アーセナルDF Djourouに足をかけられてボックス内で倒れた。ペナルティー!
Sturidge自身が蹴ったボールは見事にゴールに突き刺さり、ダメ押しの3点目がシティに入った。

【 Ending:試合終了 】
City of Manchesterに響き渡る歓声の渦の中、試合は3−0で幕を閉じた。

いいところが全くなかった今日のアーセナル、きっとベンゲルも心の中で怒りに燃えているだろう。
わたしも何時ものアーセナルの美しいフォームを観る事が出来ず少し落胆したが、マン・シティのフットボールは見事だったと思う。
前半ロスタイムの1点が引き金となって、Irelandを中心にまとまった。
ヒューズの新生マン・シティもここに来てようやく、クオリティーの高い選手達が上手くブレンドされ、1つのチームになって来た気がする。アーセナルとしては悪夢を引きずらず、故障続きの苦しい状況の中、ベンゲルがどの様にチームを立て直して行くかが今後の大きな課題だろう。

今週末のプレミアリーグは、全試合が終わっての結果、リーグテーブル上位につけるチェルシー、リバプール、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドは、どこも勝利を収めることができなかった。
かなり珍しい現象ではないだろうか。不思議な週末だった。

【 監督インタビュー 】
マン・シティのヒューズ監督は、
「プレミアシップでアーセナルを破ったのはこれで2度目で、素晴らしい勝利だと思う。もちろん、我々もあの美しいアーセナルの試合運びやリズムを崩すために苦心してプランを立てた。勝ちに行く精神とプレーの質の高さで、我々が圧倒したゲームだったと思う」
と、非常に満足げなコメントを残した。

一方でアーセナルのベンゲル監督は、
「前半の最後と試合終了間近に点を入れられたということは、集中力に欠けていたということ。選手の選択肢が限られていたとはいえ、それは理由にはならない。次の試合に向けて白紙に戻し、気持ちを入れ替えて頑張るつもりだ」
と、やや力なさげで、キャプテンGallasの将来に付いては触れたがらなかった。

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 08-09
 Manchester City VS Arsenal
 City of Manchester Stadium
 22 November, 2008  15:00 Kick Off
 Attendance: 44,878
  マン・シティ アーセナル
スコア
(Ireland 45,Robino 56,Sturridge90)

ターゲットショット 10
コーナーキック
ファール 17
オフサイド
イエローカード 1(Song)
レッドカード
ポゼッション 59% 41%

 Man City
  Hart, Zabaleta, Richards, Dunne, Garrido, Wright-Phillips, Ireland,
  Kompany, Vassell (Elano 73), Robinho (Hamann 82),
  Mwaruwari (Sturridge 88).
  Subs Not Used: Schmeichel, Onuoha, Evans, Ben-Haim.
  Goals: Ireland 45, Robinho 56, Sturridge 90 pen.

 Arsenal
  Almunia, Hoyte (Ramsey 60), Djourou, Silvestre, Clichy, Nasri,
  Denilson, Song Billong, Diaby (Vela 69), Van Persie, Bendtner.
  Subs Not Used: Fabianski, Wilshere, Gibbs, Lansbury, Simpson.
  Booked: Song Billong.

from NLW No.366 - November 25 2008     

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