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Vol.20 Premiership; Everton VS Manchester United, Goodison Park 20.02.2010

from NLW No.410 - March 16 2010  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 Introduction:はじめに 】
皆様こんにちは。
冬季オリンピックが始まったかと思ったらもう閉会式。イギリスとカナダでは8時間の時差があり、なかなか全試合を集中してライブでは観戦することは出来なかったのですが、翌日のハイライトでスキー、スノーボード、ジャンプ、スケート、アイスホッケーなどなど、結構楽しめました。

イギリスは北国でありながらも山が少ない国なので、冬季オリンピックとは縁が薄いようです。しかし期待されてたカーリングではメダルは獲得出来なかったものの、スケルトン女子でAmy Williamsが30年ぶり(フィギュアのロビン・カズンズ以来)に個人で金メダルを獲り、話題になりました。

やはり、長い間、全てを犠牲にして努力を重ねオリンピックに臨んで来た人たちの演技は、何にしろ観る価値がありますね。

今日はオリンピックに負けない熱戦を繰り広げているプレミアリーグ、エバートンホームでのマンチェスターユナイテッド戦の模様をお届けします。最後までお付き合いください。

【 Everton vs Manchester Utd 】
今日のエバートンの対戦相手は、先シーズンのチャンピオン、マンチェスターユナイテッド。
リバプールとマンチェスターはお隣同士であり、フットボールの歴史を遡ってみても長年ライバルとしてしのぎを削ってきた。
とは言っても、マンUファンの立場から言わせてもらうと、ここ数シーズン、ポイントとなる幾つかの場面でエバートンにピンチを救ってもらったのは事実。先日もしかり。現在トップを走るチェルシーにエバートンが黒星をつけ、マンUとチェルシーのポイント差は一気に2ポイントに縮まった。

モイーズ氏がエーバトンの監督の座に就いてかれこれ8シーズン目である。
その前は下のディビジョンでプレストンを4年間指揮し、ディビジョン2から1に昇格させた。惜しまれながらプレストンを去ったあと、モイーズは、マンチェスターシティー、ウエストハムその他のオファーを断ってここリバプールのエバートンを選んだのだ。
長い年月の中で一歩一歩ではあるが、彼は確実に、エバートンをプレミアリーグでも一目置かれる、存在感のあるポジションに育てているのは間違いない。

前にも述べたことがあるが、エバートンは世界最古であるイングランドのフットボール・リーグ創設時の8チームのうちの1つである。ただし、歴史はあるがお金はない。
リッチな他のクラブとは違って、地元の根強いファンに支えられながら地味に、粘り強くプレミアリーグに根を下ろしている。
チェルシーやマンシティーの様に大金をはたいて即戦力を獲得できるわけではないので、モイーズ氏としては、無名であるが潜在能力のある選手をゲットし、使いながら育てていくしかない。
その結果として、技術的にトップクラスとは言えないかもしれないが、時として100%以上の能力を発揮する、そんな選手たちがエバートンの戦力として名を連ねる。これはある種特殊ともいえ、対戦相手として考えると、展開を予想しにくく、やりにくいチームであると思う。

目だったスター選手はいないが、チームがまとまったら『あ、うん』のプレイを見せてくれる。
フットボールは所詮チームプレイが基盤だ。1〜2人スター選手がいても、チームとして1つにまとまらない限りは良い結果は決して出ない。エバートンの良い試合を観ると何時もそのことを感じる。
ただ、残念なことにエバートンのそんなチームプレイはコンスタントには続かない。落とすべきではない試合も落としてしまうところが今一つ上位へ食い込めない弱みであろうか。

モイーズ監督のタクティクスは攻撃中心、いかなる状況であれ戦力を緩めることはない。また、最後まで試合を諦めない。
そんな強い精神力はマンチェスターユナイテッドのファーガソン監督に似ているところがある。同じスコットランド出身である彼らは交友関係にあり、監督としても尊敬しあっているそうだ。

一方のマンチェスターユナイテッドは、先日行われたチャンピオンズリーグで、ベッカム属するACミランに3−2で白星を決めたばかり。グッドムードにある。
そのユナイテッドを、どこまでエバートンが揺さぶることが出来るか。それが今日のみどころであろう。

【 Goodison Park:グディソンパーク 】
グディソンは今日も晴天なり...嬉しいことにまたもや素晴らしい青空に恵まれた。
未だに寒さは和らがず、日没は氷点下となるリバプールであるが、暖かい陽光とグッドムードのエバートンファンに囲まれて、とても気持ちの良いグディソン日和だ。

さて、今日のチームだが、エバートンは、先日のチェルシー戦で信じられないスライディングアタックを足首に受けたFellainiは残念ながら手術を要し、今期は絶望とのニュースが入ってきた。加えてミッドフィールドのキープレイヤーTim Cahillもふくらはぎの怪我でフィットネスの結果待ち。今日はベンチ入りできるのだろうか。
ユナイテッドサイドは、引き続きRio FerdinandそしてNaniが累積警告でサスペンション。デフェンダーVidicが復帰とのことだが、さてどうだろうか。

【 Kick Off:試合開始 】
本日の試合は12時45分キックオフ。ほぼ満員の観客で埋まった場内に御礼のアナウンスが流れてきた。

<前半>
ユナイテッドのキックでスタート。
開始後数分は両チームとも積極的にボールを走らせ、敵陣ボックス内に進入しようとする。
エバートンMF Osmanがボールを受けるとタイミングよくディフェンダーをすり抜けてドリブル、そしてFW Sahaパス。
フルハムからローン移籍したFW Donovan(アメリカ代表)のカウンターアタックもユナイテッドにとっては油断できない。

ユナイテッドも負けじとボールを奪い、パスワークを進めるが、MF Valenciaで何度もパスが乱れ、ボールがFW Rooneyになかなか繋がらない。
押し気味のエバートンは14分、Sahaの30ヤードロングシュートでユナイテッドGK Van der Sarに揺さぶりを掛けるが、素早くセーブ。場内一斉にため息が漏れる。

そして16分、足音も無く、チャンピオン・ユナイテッドの見事なチームプレイで先制点が入った。
Van der Sarからのボールを拾ったMF Fletcherから前線右を走るMF Valenciaにパスが渡ると、彼の完璧なクロスはゴール前で待ち構えるFW Berbatovの利き足に吸い込まれた。
0−1。美しいチームプレイでユナイテッドがリード。

リードを許したエバートンだが、動揺はみせず、冷静に黙々とゴールを目指す。
そして数分後、前向きなエバートンに加担するかのように同点のチャンスがもたらされた。
19分、エバートンDFからロングボールが前線右で待つSahaへ渡る。30ヤード中央で待ち構えるMF Bilyaletdinovに頭でパスすると、彼はポジションを選びながらいきなり鋭いシュート。ディフェンダーで視界を遮られたVan der Sarは一歩も動けず。テリフィックな同点ゴールが右コーナーに収まった。1−1!

グディソンは大いに湧いた。こんなに早く同点に追いつくとは...エネルギッシュなエバートンの勢いを感じた。
そんなエバートンは引き続き20分台にも逆転のチャンスを掴む。

25分過ぎ、ピッチ中盤からDF Bainesが走りこみ、パスでボールを左コーナーサイドまで運び込むと、鋭いクロスがゴール前インサイドボックスに渡る。Sahaが飛び込みワンタッチを試みるが、僅かに届かず。
その直後に中央からBilyaletdinovが最高のタイミングで再度シュートを打った。
しかし、ボールは大きくゴールの頭上に舞い上がった。惜しい...場内にざわめきと拍手が響き渡った。

しかしユナイテッドもその直後、Van der Sarからのボールが前線のRooneyに渡ると、スムーズなドリブルでゴール左脇までボールを運ぶ。しかし元チームメイト、エバートンDF Phil Nevilleの力強いデフェンスでバランスを崩し、ボールはラインを割ってしまった。観衆からはPhilに向けて惜しみない拍手が送られた。
ハーフタイムになる直前、再度エバートンにチャンスがやってきた。
中盤でMF Osmanが勝ち取ったボールがDF Bainesに渡ると、上手くインサイドボックスへクロス。ユナイテッドDF Brownが頭で跳ね返すが、最悪にもそのボールは敵ストライカーDonovanの前に落ちる。Donovanはすかさずゴール目掛けてシュートを放つが、なんとミスキック。会場内に大きなため息が充満した。

常にアップテンポの、充実した前半の攻防だった。このペースの展開だと後半もかなりExcitingなドラマが待ち受けていそうだ。

<後半>
1−1で振り出しに戻った後半、どちらのチームもメンバーチェンジの様子はない。

47分、今日最初のイエローカードがユナイテッドFletcherに突きつけられた。
ペナルティーボックスのわずか外、エバートンの突破を許したBrownをカバーしようとしてFletcher仕掛けた無理なスライディングタックルにジャッジが下されたのだ。ユナイテッドのディフェンスの甘さがあからさまになったプレイだった。

51分にはそのFletcherが25ヤードの距離からシュート。見事に決まるかにみえたが、残念ながらゴール左にわずかに外れた。グディソンに安堵のため息が響く。

さらに50分台、Rooney、Berbatovの連携プレーでユナイテッドの攻めが続く。

66分、本日最初のサブ投入がユナイテッドサイドから。
BerbatovとMF Parkがピッチを降りて、MF Scholesと、MF Obertanが入る。

ユナイテッドに続き70分、エバートンも最初のメンバーチェンジ。
同点ゴールを決めたBilyaletdinovを下げて、MF Goslingが投入される。

その直後に試合は動く。75分、ホームサイド・エバートンの素晴らしいチームプレイだった。
中盤から左ピッチぎりぎりをMF PienaarのスムーズなドリブルとチームメイトSahaとの連携でゴールの左サイドまで持ってくる。Pienaarのクロスを待ち受けていたのは、たった今サブで投入されたGosling。右足で放ったシュートがゴールネットを叩いた。2−1。エバートン逆転! グディソンは大きく揺れた。
81分には再度ユナイテッドの交代が言い渡される。Valenciaに替わってストライカーOwenの登場である。

ユナイテッドはフォワードを強化し前へと押してはくるが、ゴールネットはまだ遠かった。
そんなユナイテッドに88分、チャンスが巡ってくる。
エバートンOsmanのファールで取ったフリーキックを中央ペナルティーボックス20ヤードからエースRooneyが蹴る。しかし、蹴ったボールはインチ差でゴール右を僅かに逸れる。惜しい!
89分、エバートンの2度目のメンバーチェンジ。
今日のマンオブザマッチをあげたいくらい素晴らしい動きをみせてくれていた中盤のPienaarを下げてMF Rodwellを投入。

そしてまたもやそのジャッジの正しさを証明するかの様に、エバートンに美しい追加点が入る。
90分、ピッチ中央MF Artetaからのボールを、投入されたばかりのRodwellが受け、素晴らしいドリブルでユナイテッドのディフェンス陣を交わして右サイドに回りこみ、シュート。ゴーリーVan der Sarも手を一杯に広げて倒れこむが、ボールは左コーナーに綺麗に収まった。3−1!

【 Ending:試合終了 】
試合はエバートンが逆転し、しかも追加点を加えて3−1で幕を閉じた。
先週に続きエバートンの底力が発揮された素晴らしいホームでのパフォーマンスだった。Moyes監督の的確な采配やサブの投入、そしてそれに応えることの出来る選手達のエナジェティックで聡明な攻撃力。中盤の鍵になる主力選手CahillやFellainiを欠いてのゲームにもかかわらず、素晴らしい試合だった。

【 監督インタビュー 】
Everton:David Moyes監督
『キープレイヤーを欠きながらも、素晴らしいパフォーマンスでトップチームを破れたのは本当に嬉しい。しかも今日はサブが見事に期待に応えてくれた』

Manchester United:Mike Phelan監督補佐
『真にがっかりさせられる結果だ。全体的にクリエイティビティに乏しく、全くよい所が見せられぬまま試合が終わった。エバートンが勝ってもっともな試合だったと思う』

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 09-10
 Everton VS Manchester United
 Goodison Park Stadium
 20 February, 2010  12:45 Kick Off
 Attendance: 39,448
  エバートン マンU
スコア
(Bilyaletdinov 19, Gosling 76,
Rodwell 90)

(Berbatov 15)
ターゲットショット
コーナーキック 12
ファール 12 11
オフサイド
イエローカード
レッドカード
ポゼッション 45.9% 54.1%

 Everton
  Howard, Baines, Heitinga, Distin, Neville,
  Bilyaletdinov(Gosling 70), Donovan, Arteta, Pienaar(Rodwell 88),
  Osman, Saha.
  Subs Not Used: Nash, Yobo, Coleman, Vaughan, Yakubu.
  Goals: Bilyaletdinov, Gosling, Rodwell.
  Booked: Arteta, Pienaar, Saha, Osman, Rodwell.

 Man Utd
  Van der Sar, Neville, Evra, Brown, Evans, Park(Obertan 66),
  Carrick, Fletcher, Valencia(Owen 81), Berbatov(Scholes 66),
  Rooney.
  Subs Not Used: Foster, Vidic, Rafael Da Silva, Gibson.
  Goal: Berbatov.
  Booked: Fletcher.

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Copyright(C) 2014 Eri Shimomura & scousehouse

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