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Vol.29 Premiership; Liverpool VS Man Utd, Anfield 23.09.2012

from NLW No.523 - October 02 2012  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 Introduction:はじめに 】
皆さんこんにちは。
夏のLiverpoolは、バンクホリデー(国の祝日)を挟んで行われた恒例のビートルウイーク(今年はビートルズ誕生50週記念) &マシューストリート祭りに今年も大賑わいでした。
すでに暦は10月。リバプールは嵐が去ったかの様に元の姿に戻って、日没も早くなりました。つくづく秋を実感する今日この頃です。

今日は信じられない事実が。
この『Footballの旅』は、2005年から不定期連載をスタートしたのですが、なんと7年目にして初めての、Anfiledでの「Liverpool vs Manchester Utd」観戦記であります!

しかし「ヒルズバラの悲劇」の真実が23年目にして明らかにされた直後というタイミングで、リバプールFCは再び喪に服し、静粛な雰囲気の中にあります。
私もこの試合を観戦できる喜びと緊張感とが複雑に交差しながらのAnfiled入りとなりました。どうぞ、最後までお付き合い下さい。

【 Hillsborough Disaster:ヒルズバラの悲劇 】
今日のアンフィールドは賑やかな中にも幾分何時もとは違った雰囲気が漂う。それは無論、23年前に起きた惨事「ヒルズバラの悲劇」の真実が裁判で明らかにされたばかりだからだ。
ここで、読者の方々に判り易く、簡単に23年前の悲劇をご説明したい。

1989年4月15日、FA Cupの準決勝「リバプール対ノッティンガムフォレスト」がイングランドのSheffield Wednesday FCのホーム、ヒルズバラ・スタジアムで行われた。
その際、ゴール裏の立見席(テラス)に収容人数を上回る大勢のサポーターが押し寄せ、将棋倒しになった結果、死者96人、重軽傷者766人を出す大惨事となったのがこの事件である。
この事件は、国際的にもスポーツ史上最悪の事故とされたばかりでなく、イングランドのフーリガニズムにも結びつけられて解釈され、犠牲となったファンらに責任が押し付けられる状態になった。

そして23年後の今年9月12日、独立調査委員会による再調査報告書が公表され、ヒルズバラの悲劇の秘匿文書が初めて公開された。
それにより、悲劇が発生した直接の原因および発生後の措置の両方において、スタジアム警備に重大な瑕疵があった事、また、主任警視の虚偽の証言、警察の隠ぺい、などを含め、体制側にとっての「不都合な真実」が暴露されることとなった。

英国の全ての朝刊紙はヘッドラインでこのニュースを取り上げ、その日のうちに、英国首相、サウスヨークシャー警察、FAオフィシャルによる、ヒルズバラ遺族グループへの謝罪が続いた。
デビッド・キャメロン首相の謝罪は、「ヒルズバラの過ちに関して心から謝罪します。1989年4月15日にリバプール・ファンは全く非がなかったことを確信しました。ヒルズバラ遺族は、警察の不当な捜査や不当な報道により、二重の不当な苦しみを受け、被害者なのに逆に不当な疑いをかけられたこと等全てを含めて、英国の首相として、正式に、心からヒルズバラ遺族の方々に謝罪したい。政府を代表して、そして国を代表して、心からお詫びします」というものだった。

この当時英国のスタジアムは殆ど全てのスタジアムに置いて立見席があった。そこは大抵KOPみたいな熱狂的なファンが陣取る傾向があったのも事実である。
私も何度か立見席でフットボールを観戦した事があったが、背の低い日本人にとっては非常に苦痛である(笑)。しかし寒さの厳しい冬には、そこには熱狂と一体感があって、暖かく観戦出来るのはよかった。
またその頃のフットボールクラブにとっては、立見席は椅子席よりもり多くの観客を収容することができるため、大きな収入源となっていたのは確かである。
だが、ヒルズバラの惨事があったことをきっかけにイギリス政府は法律を改正、すべてのフットボールクラブはスタジアムの立見席を椅子席に改修することを義務付けられた。それは1994年までに達成され、現在は立見席はどこに行ってもみられない。

【 Match Review:マッチ・レヴュー 】
今日のアンフィールドは独特な雰囲気が漂う。
緊張感や高揚感もあるが、どこか感傷的で厳かなムードも満員御礼のアンフィールドの中にミックスしていて、本当に不思議な趣である。

メディアのもう一つの話題は、リバプールのSuarezとユナイテッドのEvraである。彼らが握手を交わすかどうかに注目が集まっていた。
Suarezは昨シーズン、Evraに対して人種差別的な発言をしたとして8試合の出場停止を受け、その復帰後の試合でEvraとの握手を拒否していた為である。
人種差別はフットボール界に限らず許せないことであり、取り上げるべき事柄だと思う。しかし選手が握手をするかどうかといったどうでもいいことが、最近のメディアではフットボールの内容より大事に扱われて本当に馬鹿馬鹿しくも感じられる。

さてその結果はというと…。
彼らも成長したのか、ヒルズバラのジャスティスのためか、普通に握手を交わした。めでたし、めでたし、である。
(まあ私もこうして取り上げて書いてるってことは、やはり、世の中の人間はどうでもいいことがとても気になっているという事なのだろうか…)
恒例の儀式“You'll Never Walk Alone”は、ヒルズバラの「Justice」「The Truth」「96」の紅白の人文字がスタンドに美しく描かれる中、いつにも増して高らかな声で合唱される。
またもやAnfield全体が感傷的な雰囲気に飲み込まれる。マンUを代表してSir Bobby Charltonが96本の真紅の薔薇の花束をリバプールレジェンドIan Rushへと手渡し、宿命のライバルとしての哀悼の気持ちが示された。


<前半>
定試合は定刻13時半にユナイテッドのキックで始まった。開始直後からリバプールは今日のAnfiledを味方につけたかの様に積極的に前へ出る。
ミッドフィールド・エリアでの鋭いタックルにボールも弾け飛ぶ。
ナショナル・ダービーとでも言えそうな、永遠のライバル対決。両チームとも最初から本気モードだ。

Gerrardの正確なパスが前方を走るSuarezに渡るが、彼は上手くコントロールすることが出来なかった。ボールはターゲットを大きく外し、観客のため息を誘う。
ユナイテッドサイドも中盤から前線のVan Persieに繋げようとするものの、なかなか良いボールが行き渡らない。

そして前半も終わりに近い39分、試合をコントロールしながらも決定的チャンスを作れなかったLiverpoolに最初の危機が訪れる。
ShelveyがEvansにスライディング・タックル。Evansは倒れ、両チームの選手に囲まれる中で主審がポケットから取り出したカードの色はレッド。Shelveyは退場を命じられた。
試合後TVで確認したところ、両者とも片足は確かにボールにフィットしていて、Shelveyの足は最終的にはEvansに達しているが、レッドカードに相当するものではなかったと思われる。ただしこれは、スローモーションで確認しての見解であるので、主審の判断を一概に否定することはできないのだが。
41分にはお返しのようにユナイテッドDF Ferdinandが空中戦でSuarezと衝突。
Suarezは肘鉄を喰らったかのように(しかしいつものように)、ドラマチックに地に伏せる。
スタジアムのリバプールファンの野次が爆発する中、レフリーはファールを取ったものの、カードは出さない。益々ファンの不満を募らせることとなった。
Suarezがフリーキックを蹴るが、マンUキーパーLindegaardによってセーブされる。

前半は0−0で終了。レッドカードはあったもののホストが完璧に主導権を握り、ユナイテッドの攻撃も硬い守りで封じ込めた印象。

<後半>
両チームとも後半のスタートに選手を代えてきた。
リバプールはフォワードをBoriniからSusoに、マンUは中盤をNaniからScholesにチェンジ。どちらも攻撃のギアを入れたということだろう。

10人になったリバプールは、後半に入っても前がかりにゲームを進める。
その勢いのまま、開始直後にゴール左端のJohnsonからボールを受けた主将Gerrardが胸で合わせて、抜群のボレーシュート。先制点が決まった。1−0。
Anfieldが大揺れに揺れる。

しかしマンUも負けていない。Ferguson監督の思惑通り、サブの起用は魔法のように作用した。
リバプールの先制から5分も経たない51分、右サイドValenciaからのパスを新人香川が胸で受け、Rafaelへパス。Rafaelの左足が起用にボールをカーブさせゴールネットへ! 1−1。
私の着席シートより左斜め下のアウェー席では全員が総立ちで喝采を送る。

後半に入っていきなり双方連打、1得点ずつ。
58分にはリバプールボックス内でEvansのタックルを受けた役者Suarezが倒れこむと同時に、こちらも典型的ともいえるScholesのミスタックルがリバプールSterlingを襲い、イエローカードがScholesに。

61分にはSuarezがゴール前20ヤードからの低いシュートを放つが、本日好調のキーパーLindegaardの素晴らしい守りで得点に結びつかない。

そして試合開始75分、ゲームは大きく動いた。Valenciaの右サイドからのドリブル単独突破を阻止しようとJohnsonがペナルティー内でタックル。Valenciaは倒れこむ。Johnsonのチャレンジを主審はペナルティーと判断、Anfieldは騒然となる。

このところマンUは、Nani、Herandez、Van Persieと連続でPKを外しており、異様な緊張感が漂う。蹴るのはエースVan Persie。
右ゴールを狙ったシュートはReinaの指先を掠ったものの、ネットを揺らした。
Reinaは地面を叩いて悔しがる。
ゲームを支配していたホームのリバプールが、逆に1−2とユナイテッドにリードを許してしまった。

その後5分のロスタイムが追加されるが、リバプールの反撃もさることながらユナイテッドの守りも堅く、アンフィールドには徐々に絶望的なムードが漂う。

【 Ending:試合終了 】
結果はそのまま1−2。どう見ても、リバプールが圧倒した試合であったが、審判の不運な(不当な?)判定によって、ユナイテッドが逃げ切る結果となった。
ユナイテッドにとっては2007年以来、なんと5年ぶりとなるアンフィールドでの勝利である。
私自身にとっても、レビューを書き始めて初のAnfieldでのユナイテッド戦を観戦出来た喜びは大きいのだが、ビデオでファールを確認した後ではやはり後味が悪い。ギルティーな気持ちである。
しかしながら、審判は肉眼であのスピードと戦い、瞬時にジャッジしなければならないわけで、完璧を求めるのは無理というものだろう。まあ、どっちに転ぶも運の内。最近のユナイテッドはやはりツイている。決して良いパフォーマンスとは言えない試合が多い中でも、ソコソコの成績を残せているのには、ビックリする。これもSir Alex Ferguson のダークフォースなのだろうか。

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 12-13
 Liverpool VS Manchester United
 Anfield Stadium
 23 September, 2012  13:30 Kick Off
 Attendance: 44,263
  リバプール マンU
スコア
(Gerrard46)

(Rafael51,
Van Persie(Pen)81)
ターゲットショット
コーナーキック
ファール 14
オフサイド
イエローカード
(Reina 77)

(Scholes58,
Van Persie84)
レッドカード 1(Shelvey39)
ポゼッション 52% 48%

 Liverpool
  Reina, Johnson, Skrtel, Kelly, Agger(Carragher80), Gerrard,
  Sterling(Henderson66), Shelvey, Suarez, Borini(Suso45).
  Subs Not Used: Jones, Enrique, Sahin, Assaidi.
  Goal: Gerrard.
  Booked: Reina.
  Sent Off: Shelvey.

 Man Utd
  Lindegaard, Rafael(Welbeck89), Evra, Ferdinand, Evans, Valencia,
  Giggs, Carrick, Nani(Scholes46), Kagawa(Hernandez81),
  Van Persie.
  Subs Not Used: De Gea, Buttner, Anderson, Cleverley.
  Goals: Rafael, Van Persie(Pen).
  Booked: Scholes, Van Persie.

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