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Vol.30 Premiership; Everton VS Sunderland, Goodison Park 10.11.2012

from NLW No.530 - November 20 2012  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 Introduction:はじめに 】
「秋深き 隣は 何をする人ぞ」と一句歌いたくなる今日この頃ですが、皆さんお元気でしょうか。
この句のついでにと言ってはなんですが、リバプールのお隣チームといえば、Everton FCとLiverpool FC。スタンリーパークを挟んで、Goodison ParkとAnfieldというホーム・スタジアムを持っています。
1世紀以上にもわたる宿敵同士のこの2チーム、老朽化が目立つ本拠地を新調しようとそれぞれ計画をスタートさせたものの、ここ数年のご時勢もあってか移転計画は仲良く保留状態となっています。「2つのクラブで1つのスタジアムをシェアしては?」というアイデアもありましたが、どちらもあっさりと拒否しました。

Liverpool FCの一番新しい情報では、スタンリーパークでの新設計画は中止し、水面下では平衡してずっと話が出ていた、現在地での増設計画に持って行く方針に落ち着いたらしいです。
個人的には、この歴史の古い両チームにAnfieldやGoodison Parkを去って欲しくない。お互いに良きライバルとしてスタンリーパークと向かい合い、永遠に留まって欲しいと思うのですが、こう願うのは私だけではないですよね?

今日は「Footballの旅」を連載させて頂いて30回目、大好きなGoodison Parkのマッチ・レポートです。
私のお気に入りAdam JohnsonがMan Cityから移籍したSunderlandを迎えての一戦です。どうぞお付き合い下さい。

【 Goodison Park+本日の見所 】
穏やかな秋晴れに恵まれた今日のリバプール、Goodison Parkも賑やかなムードに包まれていた。それもそう、ここ4ゲームdrawが続くEvertonではあるが、決して悔いの残るゲームではなく、勝ち星をあげていてもおかしくないクオリティ。シーズンの初めにEvertonの監督Moyesはこう語っている。

「我々をジャッジするのはシーズンが始まって10ゲームからにしてくれ」

そして10ゲーム終わった今、リーグ4位につけるとは! 今年は期待できそうなポジティブムードである。
先日はFulhamの監督Martin Jolから‘long ball team’(長い縦パスをダイレクトにストライカーに送ってゴールを狙うことしか戦術のないチーム)と皮肉られたが、Moyesはそんな言葉に動揺するどころか、「何と言われようが要するに結果をだせればよいのだ」と胸を張る。
今日の試合は故障者Tony Hibbert、Darron GibsonそしてVictor Anichebeを欠くゲームになりそうだが、果たして彼の戦略はいかに?

方やSunderlandは不調のど真ん中。今シーズンPremier Leagueにおいては、計6ゴールのうち5ゴールはSteven Fletcherによるもので、残りの1ゴールは相手のオンゴール。Fletcherへの依存症は深刻で、新しく加わったメンバーのチームへのブレンドの答えも出ないままである。

ましてやMoyesがEvertonの指揮を執ってからのこの10年では、17回の対戦でなんと勝ち星ゼロ。敵地Goodison Parkにおいては、3−1で勝った1996年を最後に白星から見放されているらしい。さて、この辺りでそろそろ風向きは変わるのだろうか。
今回は、初のフットボール観戦となる留学中の友人と一緒のGoodison Parkである。界隈の周遊を楽しんだあと、キックオフ40分前にスタジアムの中に入ることにした。
バックスタンドにあるLower Bullensの席はSunderlandのアウェイサポーターの真横、一部ゴールの視界が柱で遮られていたが、ピッチとの距離も余りなく、試合との一体感が感じられそう。両チームのウォーミングアップも始っていて、慌てて、今日のお目当てのAdam Johnsonにカメラを向ける。彼の笑顔は眩しすぎる(笑)。

【 Kick Off:試合開始 】
明日11月11日は戦没者追悼記念日(Remembrance Sunday)。そのため、キックオフ前に1分間の黙祷。今日の選手全員の胸に貼り付けられている、真っ赤なポピーの花はそれを象徴するアイテムだ。軍服を着た兵隊さんらとスタジアムで遭遇するのもいつもこの時期である。

<前半>
試合は定刻の午後3時に始まった。開始と同時にアウェイSunderlandが積極的に前に出る。最初のチャンスもSunderland。3〜4分、中央でボールを受けたFW Fletcherが左前方を走るFW Sessegnonにスルーパス。SessegnonはDF Colemanをすり抜けてゴール前でシュートを打つが、GK Howardが素早い反応でセーブ。Goodisonに最初のため息がひびく。

次のチャンスも又もやSunderland。7分、今度はSessegnonからFletcherに素晴らしいスルーパス。Fletcherはピッチ左からスライディングシュート。しかしゴールの右にわずかに逸れた。またもやヒヤッとする場面にホームのファンも不安を隠しきれない様子。逆に我々の左に陣取るSunderlandファンの応援は勢いを増す。

完全にSunderlandペース。振り回され気味だったEvertonだが、少しづつ主導権を掴み、ペナルティエリアへ侵入する回数も増える。30分台に入るとMF Osmanからのボールを上手く受けたMF Pienaarが切れの良いショット。しかしSunderland GKの正面。

チャンスは生み出すものの、ゴールにはつなげられないEverton。
そしてロスタイムに入ると、Evertonファンの悪い予感が的中するかのように、Sunderlandに先制を許してしまう。

DF Cuellarのコーナーキックをインサイドボックス内でEverton FW Jelavicが跳ね返す。しかし後方で待機していたMF Gardnerがボールに追いつき、ダイレクトでゴール前にフィード。山なりのパスに追いついたのはMF Johnson。スライディングしながらバウンドした瞬間を捉えると、ボールはHowardの右をすり抜けてゴールに吸い込まれて行った。0−1!
気分的にはAdamのゴールに飛び上がりたい心境だったが、やはりここはEverton陣地、しかもEvertonには勝ってほしくもあり、グッと我慢。
ゴールは遠く見えにくかったのだが、私のカメラは幸運にもその瞬間をバッチリ捕えた。ラッキー。

前半は完全にSunderlandリードの試合展開で、Evertonの勢いも堅い守りで封じ込められていた。

<後半>
開始直後からEvertonの反撃が一気に始まった。
48分、PienaarのコーナーキックをDF Heitingaがヘディングシュート。ゴール右角を狙い打つが、ゴールポストに陣取っていたJohnsonが見事にクリア。またもやAdamのビッグプレーで左アウェイ陣のボルテージが上がる。Evertonファンにしては惜しい一撃であったが、後半はまだ始ったばかり。良いスタートであることには間違いなく、サポーターたちも期待感を募らせる。

それからもボールを支配しながら得点に結びつけられないEvertonだったが、選手にもサポーターにも焦燥感は全く感じられない。

そんな前向きなEvertonに77分、同点のチャンスが訪れた。センターラインからOsman、Colemanとパスで繋がれたボールを、今シーズン絶好調のFW Fellainiがゴール前中央で受ける。立ちはだかるディフェンダーたちの隙間から放たれたシュートはクールにネットに収まった。1−1! Goodison Parkが一気に熱くなる。

続く79分、勢いづくEvertonにまたもやチャンス。前線を張るFellainiとJelavicの2人によるエンターテイメント・ショウともいえそうな、見事な演出。
左サイドのOsmanがペナルティアークのFellainiにパス。Fellainiはバックフリックしてゴール前にボールを流し、左サイドより飛込んできたJelavicにピタリと合わせる。JelavicはディフェンダーとGKに挟まれながらも落ち着いてゴール右隅に蹴り込んだ。2−1。
Fellainiのクールな足技とJelavicの確実なフィニッシング。美しすぎる。

【 Ending:試合終了 】
結果、前半とは全く違う動きを見せたホームEvertonに勝利の女神は微笑み、Sunderlandはゴールスコアラーの数は2人に増えたものの、Goodisonでの勝利の野望は来シーズンに持ち越された。
試合内容は称賛を受けたEvertonの4ドローではあったが、その壁を破る為には、チャンスを確実にものにする決定力と、ディフェンスの集中力強化が必要だった。
その過去の教訓が生かされた今日の試合であったように思う。
幾人かの故障者を抱えながらも今シーズンのEvertonは、頗る調子の良いFW2人(Fellaini、Jelavic)に加え、他のポジションからも得点出来ているのがトップ4をキープしている理由だろう。「ロングボール・チーム」と皮肉を言われようが、前進あるのみである。
ただ個人的には「ロングボール・チーム」だとは思わない、もしそうだとしても最近のEvertonの試合展開を退屈だと思ったことは一度もない。ワールドクラス、高給取りの選手無しで、よく守りよく攻める、チームワークとバランスの取れた魅力的なチームだと私は思っている。Moyes監督の手腕は見事というほかない。
これからのシーズン後半も益々期待したい。

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Premiership 12-13
 Everton VS Sunderland
 Goodison Park Stadium
 10 November, 2012  15:00 Kick Off
 Attendance: 35,999
  エバートン サンダーランド
スコア
(Fellaini76, Jelavic79)

(Johnson45+1)
ターゲットショット
コーナーキック
ファール 14 15
オフサイド
イエローカード
(Heitinga58)

(Gardner69,
Vaughan93, Rose95)
レッドカード
ポゼッション 62% 38%

 Everton
  Howard, Baines, Heitinga, Jagielka, Neville(Vellios73), Coleman,
  Osman, Pienaar, Fellaini, Jelavic(Hitzlsperger),
  Mirallas(Naismith30).
  Subs Not Used: Mucha, Distin, Oviedo, Gueye.
  Goals: Fellaini, Jelavic.
  Booked: Heitinga.

 Sunderland
  Mignolet, O'Shea, Cuellar, Rose, Larsson, Gardner,
  Colback(Wickham88), Johnson(Vaughan84), McClean,
  Sessegnon, Fletcher(Saha69).
  Subs Not Used: Westwood, Kilgallon, Bramble, McFadden.
  Goal: Johnson.
  Booked: Gardner, Vaughan, Rose.

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