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BEA-MAIL 『フロムUK』 バックナンバー・ライブラリー

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フロム・ビー発行のメールマガジンBEA-MAILに連載中のコラム「フロムUK」のバックナンバーです。
ロンドンでの生活で遭遇した出来事や日々感じたことなどを綴るこの連載の第一回は2000年8月。早いものでもうすぐ7年です。思えば最初の頃はPCがなくて、ワープロ原稿をファックスで送信していました。で、掲載されたビーメールを友だちに頼んでプリントアウトしてもらって・・・懐かしいです。
何らかの形として残したいと思っていたので、こうしてまとまった形で掲載していただけて嬉しいです。転載をご快諾くださったフロム・ビーさんにも感謝いたします。 (えつぜんこずえ)

『フロムUK』 2000年

No.1 <夢の酒・ブラック・ベルベット>

Black Velvet: 黒ビールであるギネスとシャンペンのハーフ&ハーフで作られるシンプルなカクテル。その名の通り、ベルベットのごとく柔らかく滑らかな舌触りと味を持つ。初めて作られたのは1861年のこと。アルバート公崩御の際、ブラウンズのバーマンがその日にパーティを企画していた客のために作ったのが起こり。シャンペンに喪服を着せたというわけだ。ロンドンで、気軽に入ってブラック・ベルベットを飲めるパブは、The French HouseとThe Toucanで、いずれもソーホーにある。

「学生時代のジョン・レノンは、イー・クラックに入り浸っては、ブラック・ベルベットを飲んでいた」 ビートルズの伝記本で何度も読んだ文章である。ロンドンに来たばかりの頃、パブへ行ってはこの憧れの飲物を探していたのだが、どこへ行っても見あたらない。やはり、ジョンが好きだった酒だ。この機会にぜひ飲んでみたいのだが。

リバプールだけでしか飲むことのできないものなのだろうか、と半ばあきらめていたある日のことだ。ソーホーにある一軒のアイリッシュ・パブに立ち寄った。そのパブは、ギネスの宣伝キャラクターが壁一面に描いてあり、アイリッシュ音楽の流れる、小さいながらもとても落ち着く場所であった。バーマンは、素晴らしいタイミングでギネスを注いでくれる。その後数多くのパブへ入っているが、ここはロンドンで一番おいしいギネスを出すパブであろう。

とにかく、初めてそのパブを訪れた時のことだ。バーでギネスを注文し、壁を眺めながら黒い液体の落ち着くのを待っていると「ギネス・カクテル」と書かれたボードが目に入った。そこには、ギネス・ベースのカクテルが8つほど書かれており、何とその一番上にさんぜんと輝いている(ように見えた)のは”Black Velvet”の文字ではないか! その横には”Guinness and champagne £7.50”と書かれている。ついにあの夢の酒がここに。そうか、カクテルだったのか。普通のパブにはないはずだ。

それにしても、ギネスとシャンペンとはものすごい組み合わせだ。純米酒に赤玉ポートワインを混ぜるようなものではないか。こんなすごいものを、ジョンは飲んでいたのか。さすが大物だ。私はギネスもシャンペンも大好きだが、できれば別々に飲みたいものだ。しかも高い(ギネスは当時1パイント£2が相場だった)。財布と相談した結果、その日は後ろ髪を引かれる思いで夢の酒を見送ることとした。

数ヶ月後、好奇心にかられた私は、友人とそのパブを訪れ、清水の舞台から飛び降る気分で、ブラック・ベルベットを注文した。バーマンは一瞬驚いた顔で、シャンペンを空けた。値段が値段だけに普段は余り出ないうえ、この1杯のためにシャンペン1本を空けなければいけないからだ。彼は静かにギネスを半分ほど注ぎ、しばらく待って、グラスの残り半分をゆっくりシャンペンで満たした。この待ち時間がギネスの味を決定するのだ。急いては事をし損じる。ギネスも味がまずくなる。

できあがったカクテルは、一見したところ普通のギネスと変わりのない色だが、泡が多くクリーミーな感じだ。そして、運命の瞬間だ−この値段でまずかったら、殺人ものだ。グラスを傾け口を付けてみる。うまい! 滑らかな舌触りが、まさにベルベットだ。ギネスのほろ苦さがシャンペンの甘さとうまく調和して、まさに天国の味である。余りのおいしさとシャンペンの酔いも手伝って財布の緩んだ我々は「せっかく空けたシャンペンを無駄にさせるのも悪いし」と言いながら、もう1パイントを注文し、ジョン・レノンをさかなに「夢の酒」を楽しんだ。

ちなみに、イギリスでは飲みながら食べることをあまりしないのだが、このブラック・ベルベットと合うのがオイスターである。ギネスはアイルランドのビールで、オイスターもアイルランドが名産地である。オイスター・バーでは、よくシャンペン&オイスターやギネス&オイスターというメニューを見かける。秋はオイスターの季節だ。こちらを訪れる際は、ぜひブラック・ベルベット&オイスターを試してみてはいかがだろうか。最近は日本でも缶入りの生ギネス(中に特殊加工がしてあり、クリーミーな泡が出るようになっているもの)が売られているので、ブラック・ベルベット&オイスターで月見というのも悪くないかもしれない。

(『BEA-MAIL』2000年8〜9月に掲載)


No.2 <ブラック・ベルベットもどき>

ところで、前回ブラック・ベルベットの話を書いたが、学生時代のジョン・レノンがこんな高い酒を毎日飲んでいたとは考えにくい。しかも、当時のイギリスのパブで、常にシャンペンを置いている所はそれほどなかったはずだ。

そんなことを考えながら、前回紹介したThe Toucanで私はギネスを飲んでいた。何気なく、壁にかけられたギネス・カクテルのメニューを見ていると、あった。「Poor Man's Black Velvet」の文字が。ジョンが飲んでいたのはこれに違いない。

この「貧乏人のブラック・ベルベット」は、シャンペンの代わりにサイダーとギネスを混ぜるのだが、本物のブラック・ベルベットが天国の味であるとするならば、どうも地獄の組み合わせだ。こちらの「サイダ―」は、アルコール度数が高いリンゴの発砲酒である。バーマンに訊いたところ、アイルランドや北イングランドのパブではわりと普通に売られているそうで、味のほうは「うわ〜、という感じ」だということだ。

そのバーマンに、ジョンとブラック・ベルベットの話をすると、彼もジョンが飲んでいたのはおそらく「貧乏人」の方だろう、もしくは、レッド・ベルベットの方かも知れない、と言った。これは、ギネスとサイダー、ブラックベリー・ジュースのカクテルで、貧乏人ベルベットより甘くて飲みやすいとか。ジョンは、チョコレート・ケーキが好きな甘党だったそうだから、これもありえる話である。

ちなみに「うわ〜、という味」と言われひるんだ私は、£3というそこそこの値段にもかかわらず(本物ベルベットは£8に値上がりしていた)、貧乏人ブラック・ベルベットを未だに試していない。しかしここまで来たならば、近日中に挑戦し、報告したいと思う次第だ。ところで、有名になって懐が豊かになったジョンは、果たして本物のブラック・ベルベットを飲んだのだろうか。

(『BEA-MAIL』2000年9〜10月に掲載)


No.3 <「ジョン・レノン・ナイト」評>

チャンネル4の「ジョン・レノン・ナイト」は、製作意図不明の非常に残念な特別番組であった。ドキュメンタリーThe Real John Lennon、ノエル・ギャラガー、ポール・ウエラーら豪華アーティストによるトリビュート・ライブ、アンドリュー・ソルト監督の映画Imagineで構成された、一見素晴らしい企画ではあるのだが。

まず、ドキュメンタリーは「関係者」の話で構成した、ジョン・レノンの「素顔」に迫るというテーマでありながら、最もジョンと親しかった関係者は一切出演しないという実に矛盾した内容に終わっている。出演者は、シンシア・レノン、アラン・ウイリアムズ、ビル・ハリー、ピート・ベスト、ジュリア・ベアード、ポーリーン・サトクリフ、ジョンのいとこ、元クオリーメンのメンバーなど。

シンシア・レノンは30年以上前の離婚からまだ立ち直れないでいる様子で、わざわざリバプールを訪ねて恨みがましい昔話を語り、アラン・ウイリアムズは何百万回も話したであろうエピソードを披露し(それでもリバプールらしいユーモアがあるのが救いだが)、極めつけにジョンの日記を盗んだフレッド・シーマンが、したり顔で自分はいかにもジョンと親しかったかのように冗舌に話す。彼は自分はジョンから生前に「万が一の場合にはジュリアンに渡してほしい」と頼まれた、とあくまで自分の窃盗行為を正当化する。日記がジュリアンの手に渡らず、ニューヨークの三流ジャーナリストの手に渡ったことを、渡した本人が知らないとでも言うのだろうか。

また、「関係者」の証言にはポール・マッカートニーと特にヨーコ・オノに対する悪意が感じられるのも気にかかる。実際、彼らは嫌な言い方をあえてするならば、ジョンとこの2人との関係において得をしなかったわけだから、それに関して理不尽な不平を述べているとしか思えない。証言が妬みからくる愚痴のようなものばかりなのは、観ていて気分の良いものではない。

そして、最終的には彼が選んだパートナーを悪く言うことによって、ジョン本人をもこきおろす結果となっているのだから、この番組の意図は全くわからない。ジョンの「伝説」を打ち壊すのが目的ならば、それでも構わないが、ならば「生誕60年記念」のプログラムで放映することはなかっただろう。いずれにしても、もっと証言者を選ぶべきであった。

しかし、ピート・ベストとポーリーン・サトクリフが思慮深い発言をしているのが、唯一印象的であった。ピートはビートルズとしてジョンの直接の「仲間」であったわけで、ポーリーンはジョンと本当に親しかったスチュのスポークスマン的存在である。そして、クオリーメンのメンバーから、彼の親友であったピート・ショットンのインタビューをとらなかったのも、ある意味この番組を象徴していると言えよう。

続くトリビュート・ライブも散々なものだった。ステレオフォニックスによるHow?とルー・リードによるMotherを除いては、ファンが集まって酒を飲んで盛り上がっているだけ、という番組であった。その行為自体は全く正当だ。しかしこの場合、このファンが有名ミュージシャンであり、酒は当然スポンサーの提供で、しかもその様子が生中継されたというのが問題なのだ。

ロン・ウッドはあからさまに酔っ払っていて(もしくはドラッグだろう)、まるで自分のパロディを演じているかのようであり、彼が歌ったJealous Guyの歌詞を考えると、こんなろくでもない奴は捨てられて当然と言う気になる。モロコのリード・ボーカルにしてもただ酒をここぞとばかりに飲んできたのは、その表情から一目瞭然だ。彼女が歌ったのはA Day In The Lifeだったが、I'd like to turn you onというフレーズに新しい意味を与えてくれた。

ポール・ウエラーのInstant Karma!はパワーと思い入れが感じられるものの、それしかないようなひねりのない演奏で、ノエル・ギャラガーも同様で思い入れだけで表現力に欠けるボーカルを披露してくれた。生中継とは言え構成もかなり散漫で、客席にカメラが振られると、そこには出演者と同じように酔っ払った有名人が写っているという、芸能人のホームパーティを中継してしまったような感である。

この夜の唯一の救いは、ジョンのドキュメンタリーの究極と呼ばれるImagineであったが、ハイライトが旧作映画であるというのはファンをなめているにもほどがある。

(『BEA-MAIL』2000年10〜11月に掲載)


No.4 < House/Garden >

●アラン・アイクボーン監督「House/Garden」(ジェーン・アッシャー主演・ナショナル・シアターにて)レビュー

アラン・アイクボーンの最新作House/Gardenは、ほぼ1カ月に及ぶ公演のほぼ全てが完売で大成功のうちに幕を閉じた。これは、HouseとGardenという2つの独立した芝居でありながら、同一のキャストが全く同時に2つの芝居を成立させる、英国演劇界初の試みであった。
Houseはナショナル・シアターのリトルトン・シアターで、Gardenは同劇場のオリヴィエ・シアターで同じ時間に幕を開け、キャストは2つの会場を行き来しながら、同時進行で同じ物語を違う側面から演じるのだ。

南イングランドのペンドンにあるテディ・プラットの邸宅の庭では、毎年恒例の村祭りが行なわれる。テディは、今回の地方選挙に出馬しようと考えていた。そこへ総理大臣の使いの者がやってくるのだが、それまでに彼は個人的に片ずけなければならない「関係」があった。一方、庭では村祭りの準備が進んでいるのだが・・・というのが物語の概要で、題名通りHouseは邸宅の中が、Gardenは庭が舞台となる。

ストーリーとしては、風刺がきいた政治がらみのプロットのHouseのほうが充実しており、Gardenはむしろ単純な人間模様を描いた、ある意味で典型的なアイクボーンのコメディだ。それぞれ独立した物語/芝居として成立するものの、一方だけではどうしても人物描写の深みに欠けてしまう。両方を観なければ納得できない台詞やプロットがあるという事実は否めない。出演者はいずれも素晴らしく、特に主演のパディ役デイヴィッド・ヘイグは、名家の情けない3代目当主を説得力あふれる演技(情けなさ)で見せてくれた。妻役を演じたジェーン・アッシャーは、普段のケーキ作りのイメージとは違った、意志の強い女性役を見事にこなしている。

カーテンコールの時に「では、皆さんこの後はぜひ村祭りへどうぞ!」とのアナウンスがあり、今度は場所をロビーに移し、物語が継続する形で実際に村祭りが開催された。劇中ではキャストが移動したが、今度は観客が移動する番だ。キャストの一部が司会や出店の店員として参加する中、くじ引きや輪投げ、生バンドによるフォーク・ダンスなどが行なわれ、観客はビール片手に楽しんでいた。

アラン・アイクボーンは、自分の60歳の誕生日プレゼントとして、この作品を楽しんで製作したという。プログラムに封入された架空の地方新聞やロビーの村祭りといい、まさにその気持ちが伝わる作品であった。

(『BEA-MAIL』2000年10〜11月に掲載)


No.5 <ギネス・カクテル7種>

8月から、友人の来英が続き、ワイルドに宴会を繰り広げているうちに、肝臓がフォアグラ状態に・・・。休肝中につき、手抜きではありますが、ブラック・ベルベット以外のギネス・カクテルを紹介します。私の代わりに、皆さんぜひ楽しんでください。ご感想をお待ちしております。ベースは全て生ギネスです。

 Red Witch:ぺルノー、サイダー、ブラックベリー・ジュース
 Black Russian:ウオッカ、ティア・マリア、コーラ
 Velvet Pussy:ポート
 Black & Tan:インディア・ペール・エール
 Black Maria:ティア・マリア
 Ross Special:ネイビー・ラム、テイア・マリア
 Red Velvet:サイダー、ブラックベリー・ジュース

ところで、「あわ」さんご指摘の通り、生ギネスの缶/瓶はグラスを傾けて内側に向けて注ぐときれいに入ります。缶などは一気に注ぐのですが、本物の生をパブで注ぐときは半分ほど注いでから泡が落ち着くのを待って、残りを注ぎます。ギネスのコマーシャルでは、この「待ち時間」が強調されていて「Good things will come to those who wait」なるコピーが使われたこともありました。

(『BEA-MAIL』2000年10〜11月に掲載)


No.― <『BEA-MAIL』未掲載原稿>

先週の週末の新聞でずいぶん報じられていたので、ご存じと思いますが、22日ITV放映のStars And Their Livesにヘザー・ミルズが出演しました。番組の最後にサプライズ・ゲストとしてポール・マッカートニーが登場し、お互いに相手への愛を公言して、キスを交わしたことは、大きな話題となりました。番組は40分で、ヘザーのこれまでの人生とその功績を、家族や友人、医師らの証言で綴るもので、幼少期のことを語りながら彼女が涙ぐむ一瞬もありました。

ポールが登場した瞬間、ヘザーは驚いたのでしょうがあまり表情を変えず−彼女は比較的表情に乏しいようです−椅子から立ち上がって、抱擁を交わしました。ポールは、彼女と初めてあったときのことから、チャリティを通じて活動するうちに彼女に魅かれていったことを語り、「ヘザーは素晴らしい女性で、始めてあったときから魅力的だと思っていた」と述べました。

ヘザーが、去年のハロウインにサセックスのポールの家に招待された時の話をすると−ポールは何十個もの大きなかぼちゃをくりぬいて、一つ一つにろうそくを点して部屋中に並べてヘザーを迎えたそうです。彼女は感激のあまり涙ぐんでしまったそう−ポールは「僕はロマンチックな性格で、そういうことをするのが好きだし、そうしないと生きていけないんだ。だから、彼女のような素晴らしい女性に巡り会って、新たなロマンスを見つけることができて、本当に嬉しいと思っている」と歯の浮くような答を返していました。

司会者の女性が、ポールはこのように彼女をべたぼめしているけれど、果たして彼女は彼を同思っているか、と質問するとヘザーは一言「I love you」と答え「だってあなたが来るなんて思わなかったから・・・」と北部の女性らしいダイレクトな発言をしました。すると、ポールは「おいおい、全国放送だぜ!yeah, I love her too」と返し、初めてテレビでヘザ―との関係を公言しました。

ポールは終始リラックスした様子で、いつもの鼻の横をかく仕種でユーモアを交えて新たな愛について語っていました。番組の趣旨からして、「知ってるつもり」のような「この人はなんて素晴らしいんでしょう」的な内容になってしまい、私個人としては胡散くさい、と感じてしまいましたが。ヘザーは地味な服装で、メークも落ち着いていて、しっかりした口調で話をしていました。番組中では二人とも、将来については「まだわからない」と言っていたものの、再婚の可能性も踏まえた上で、その経歴や過去に疑問の持たれる彼女のイメージを高めるためのパブリシティととることもできなくもない、番組内容でした。

この番組以降、ローマで映画祭に出席した際、オフで2人でデートしているところを雑誌に撮られたり、ヘザーのチャリティ活動における賞の受賞式に一緒に出席したりと、2人の露出度が高まっています。

(2000年10月執筆・『BEA-MAIL』未掲載)


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