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BEA-MAIL 『フロムUK』 バックナンバー・ライブラリー

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フロム・ビー発行のメールマガジンBEA-MAILに連載中のコラム「フロムUK」のバックナンバーです。
ロンドンでの生活で遭遇した出来事や日々感じたことなどを綴るこの連載の第一回は2000年8月。早いものでもうすぐ7年です。思えば最初の頃はPCがなくて、ワープロ原稿をファックスで送信していました。で、掲載されたビーメールを友だちに頼んでプリントアウトしてもらって・・・懐かしいです。
何らかの形として残したいと思っていたので、こうしてまとまった形で掲載していただけて嬉しいです。転載をご快諾くださったフロム・ビーさんにも感謝いたします。 (えつぜんこずえ)

『フロムUK』 2001年

No.6 <冬はホットで>

ロンドンは、シベリアからの寒気のため、とても寒いクリスマスと正月になりました。そんな時のパーティ・ドリンクは「ムルド・ワイン」という暖かいワインに限ります。西洋版甘酒といったものですが、まだまだ寒い日が続くこの季節に、ぜひ試してみませんか?
年末年始と深酒が続いて・・・という人は、休肝日明けをこれで祝うというのはいかがなものでしょう。

MULLED WINE(10杯分)
<材料>
  赤ワイン1本(フル・ボディであれば、安いものでよい)
100%オレンジ・ジュース 300ml
水 300ml
グラニュー糖 テーブルスプーン3杯
ブランデー テーブルスプーン2杯(好みで加える)
オレンジ 1個
クローブ 8本
シナモンスティック 1本
ナツメグ ティースプーン1杯
レモン 半個(スライスする)
<作り方>
1. 赤ワイン、水、オレンジ・ジュース、グラニュー糖、ブランデーを鍋に入れて、弱火にかける。
2. オレンジを半分に切り、その1つにクローブをさして、鍋に加える。シナモンとナツメグも同時に鍋に入れる。
3. グラニュー糖がとけるまで、ゆっくりと液体をかきまぜる。グラニュー糖が溶けたら、 さらに15分弱火で煮る。決して煮立たせないよう、注意すること。
4. 火を止めたら、オレンジとシナモンを取りだし、2で切ったオレンジのもう半分とスライスしたレモンを鍋に加える。

(『BEA-MAIL』2001年1月に掲載)


No.7 <イギリス結婚式場事情1>

「私ミーハーだから、ここで結婚式したんですよ!」と言ったのは、ビートルズ・ウオーキング・ツアーに参加した知人である。場所は、ロンドン マリルボーン登記所前。言わずと知れた、ポールとリンゴがそれぞれ結婚式を挙げた場所である。

登記所とは日本でいう区役所で、婚姻、死亡、出産届けなどは全てここへ提出する。だから、イギリスでは届けを出すついでに式を挙げることができることになる。こう言ってしまうと簡単すぎるが、宗教を排した結婚式を執り行なう場所と言えばわかりやすいだろうか。イギリスで結婚式、というと教会のイメージが強いものの、実際4割の人が登記所を利用する。新郎新婦の宗教がそれぞれ異なる場合そのほうが都合が良いし、教会によっては再婚の結婚式を執り行なわないところもある。

登記所での式は20分程で、係官の立ち会いのもと誓いの言葉を述べて、婚姻届けに署名する。教会と同じように、招待客も中に入ることができ、メリルボーンの場合、正面入り口の階段で記念写真を撮る人が多い。リンゴとバーバラ・バックもそうしている。そして、その後レストランやホテルで披露宴を行なう、というパターンがかなり一般的だ。

ポールの場合、リンダが再婚だったことが登記所を選んだ最大の理由であろうが、後に自宅近くのセント・ジョンズ・ウッド教会で祝福の儀を行なっている。ポールは伝統を重んじるようなタイプだからであろうか。この儀については、次回に解説しよう。

ビートルズ・ファンにとっての「夢の結婚式場」と言えば、リバプールのセント・ピータース教会があるが、前述の知人のようにぜひメリルボーンでと思う人もいるだろう。それには、一つ条件がある。配偶者がイギリス人ということだ。この条件をクリアした人は、ぜひ式を挙げて、様子を教えて下さい。

ところで、ビートルズにあやかってここで式を挙げたといえば、オアシスのリアム・ギャラガーがいるが、息子にレノンと命名した末、残念ながら離婚してしまった。現在のガールフレンドとの間の子どもには、リンゴとつけたい、と言っているそうだが、個人的には女の子が生まれてくれることを切に祈っている。かつてレノン君の名前についてコメントを求められたポール・マッカートニーは「へえ、面白いね。でも、僕の息子が結婚して男の子が生まれたら、レノンってつけるともっと面白いよね。『レノン・マッカートニー』って名前になるんだから」と答えている。ああ、悪い冗談であってほしい。

(『BEA-MAIL』2001年4月に掲載)


No.8 <イギリス結婚式場事情2>

さて、前回では結婚式の話をしたが、ポールが「式」と「祝福の儀」を別に執り行なったことにちらりと触れたのを覚えているだろうか。英語では、結婚式をwedding、祝福の儀をblessingと言う(キリスト教にのっとったものであることに注意。宗教によって習慣や呼称が変わってくるが、ここではキリスト教のみをとりあげる)。

日本では結婚式と結婚届は別個のものだが、イギリスでは基本的に結婚式イコール結婚届に署名することになる。例えば、教会で式をする場合、神父の前で「誓います、誓いません(笑)」と言った後に、新郎新婦、両親、立ち会い人が別室へ行き、そこで書類にサインする。この場合神父が法的手続執行人の代理を務めることになる。

90年代半ばまで、イギリスでは基本的に宗教の場所もしくは登記所においてしか、結婚式が認められていなかった(この場合の式とは、宣誓および書類提出をさす)。つまり、イギリスには「平安閣」は存在しないのだ。ところが法律改正により、認可制によってそれ以外の場所でも式を挙げられるようになり、主に貴族の館やお城が認可を受けている。

その際、宣誓を含めた式の内容は教会と登記所の半々といった感じになり、花嫁の衣装も、本来は宗教的な意味合いの白いウエディング・ドレスが多くなる。何となく中途半端な印象が否めないが、宗教離れの進んだ最近の若い人に人気だそうだ。ちなみに、ビデオ撮影もかなり一般的であるし、式の予算も年々上昇中である。

従ってポールの場合、祝福の儀を執り行なった、というのは、この「誓います」うんぬんを改めて教会で行なった、という意味になる。いわゆる「式」を登記所で行ない、さらに神の前で結婚の宣誓をし、祝福をうけた、ということである。ちなみに、ジョンとヨーコのジブラルタルでの挙式も、その場で書類にサインしていることから、これも正式な「結婚式」になる。

海外挙式には、事実上「結婚式」にはあたらないものが多く、ミック・ジャガーがジェリ―・ホールとの離婚において、バリで行なった結婚は法的に無効である、と主張したのも同じ事情だ。ただし、近年は海外挙式でもその場で手続きを行なうことも増えているそうなので、かならずしも「無効」ではないので注意したい。

ところで、日本では「寿貧乏」との言葉もあるとおり、出席者に大きな負担があったりするが、こちらの場合「招待」されるだけなので、ただ酒・ただ料理を心行くまで楽しむことができ、力一杯祝福したい気分になる。もちろん、お祝いの習慣は存在するが、招待状に添えられた「ウエディング・リスト」に従って、指定された店やデパートで予算に合ったものを選べば良い。金額も1000円程度からと、心はあるが金はないフリーランスの貧乏人には、ありがたい習慣である。
ジューン・ブライドの季節も近く、そろそろまた招待状が来ないかと、何気なく楽しみな今日この頃である。

(『BEA-MAIL』2001年4月に掲載)


No.9 <百薬の長>

春は久々の帰国で日本酒を浴びまくり、そして帰ってみると、こちらは夏の陽気で夏のエールが出揃ういい季節。夏になると、多くのパブが外にテーブルを出すので、ついついビールも進んでしまうのが、酒飲みにとって「つらうれしい(辛くてうれしい!)」ところであります。日暮れが10時近いので、明るいうちからビールが飲めるのも、夏のいいところでもあるのだ・・・。

が、しかし、酒飲みの大敵といえば「二日酔い」。先日、友人と二日酔いの治療方法の話を肴に、飲む機会があった(不毛だ)。何よりも翌朝の罪悪感が耐えがたいのであるが、こちらのほうはどうにもならないとのことで意見が一致した。それは自己反省に任せるとして、ここでとりあげたいのは、頭痛、胃痛、だるさなど身体的症状の緩和の話である。

まず日英共通するのが、迎え酒−英語ではdog's hairと言うのだが、こちらは確かに効く気がするのは本当に気のせいで、数時間後にはまた頭痛が復活するのは、ご存知の方も多いことだろう。

飲んでいるときは「薬」なのに、なぜ翌日には「毒」になってしまうのか、酒よ。とにかく二日酔いを乗り切るには、体の代謝を高めて体内の毒素を排出することで、水分をとって、シャワーを浴びて、と、ジントニックなど飲みつつ、話に花を咲かせていた。

すると、友人は「そうそう、あとイングリッシュブレックファストね」と言った。イングリッシュブレックファスト!? ベーコンと卵とソーセージ、ベイクト・ビーンズに焼きトマト、そしてトーストで構成される、激しく高たんぱく高脂肪なメニューは、フォアグラな肝臓と胃腸にとって耐えがたい仕打ちではないだろうか。梅干にお茶漬けが基本だろう。ところが、友人はしたり顔で「どうしても飲むときは食べるのを忘れてしまうから、その空っぽの胃にエネルギーを補給して、全身の代謝を活発にする」と言うのである。

私はよほど納得できないような顔をしていたに違いない。「じゃあ、二日酔いの朝に遊びにいらっしゃい。証明してあげるから」の誘いを受け、翌週だるい体を引きずって、朝(といっても昼近く)から徒歩20分の友人宅を訪れることとなった。(翌週に続く)

(『BEA-MAIL』2001年7月19日号(第75号)に掲載)


No.10 <二日酔いの特効薬>

「何もしたくない、いやこんなときは何かしなくては自己嫌悪の王者になってしまう」と一人でさんざん葛藤した末、普段より眩しい朝(午前11時)の光の中、ゾンビ状態の私はようやく友人宅に辿り着いた。

彼女はさわやかに微笑み、早速イングリッシュブレックファストを用意してくれた。どーんと皿にのった、いかにもカロリーの高い料理を見た瞬間、アルコール漬けの私の胃はキュッと縮まった。しかし、これが不思議なもので食べ始めると入るのだ。塩分大目のベーコンも、つなぎが多くてかなりシュールな味のイギリス風ソーセージも、うまい、うまいぞ!

普段より少し時間をかけて食べ終わり、食後の紅茶など飲む頃には、体が温まり、血液の循環がよくなった気がするではないか。みなぎる活力でラジオ体操でも、とまではいかないものの、かなり体力が復活している。さすが、大英帝国が生んだ唯一のまともな食事である。あなどれない。これでどんな二日酔いも大丈夫、とほくそえむ私に友人は、「朝起きて吐いているような状態ではまずいと思うけれど、人道的なレベルの二日酔いには絶対に効くわよ」と付け加えるのを忘れなかった。

そうなのだ、このような事態を避けるべく正しい酒飲みになろうと常日頃心がけているのに、なぜだろう、激しく反省してもすぐに忘れてしまう。深酒とはよく言ったもので、本当に私はいつのまにか深ーいところにいるのである。ああ・・・。心がけよく飲んでいれば、二日酔いにはならず、当然治療法について語らずともよいはずなのに。

自分の反省は一人でこっそりするとして、ところで、二日酔いの朝には栄養、とくにたんぱく質と糖分をとるのが一番だ。ベジタリアンでベーコンはどうしても、という方には、もしくは人道的レベルを超えてしまってベーコンはとても無理との方には、バナナとチョコレートがおすすめである。ちなみに私は後者である。

二日酔いの経験、もしくは酔ったときの体験を共有したい方、編集部までご一報ください。

(『BEA-MAIL』2001年7月26日号(第76号)に掲載)


No.11 <飲んだらカレー>

イギリスのパブは法律により、11時ラスト・オーダー、11時30分閉店だ。終電に間に合うので、前回述べたとおり、飲むと「深いところ」まで行ってしまいがちな私には、ある意味ありがたい法律である。

しかし、人はなぜ飲んだ後にはラーメンが食べたくなるのだろう。胃の中のアルコールを炭水化物が吸収するから、と言い訳をしてみるものの、あの塩分と油分を考えると決して体によいわけはない。
ロンドンにもうまいラーメン屋があり、よく訪れるのだが、いずれも都心部にしかなく、近所のパブで飲んだ後にちょっと寄ることはできないのが難点だ。ところで、こちらの人は飲んだ後に何か食べたくなったりしないのだろうか? 特にパブでは夜に食事を出すところが少ないので、かねてから疑問に思っていた。

その答えはカレーだ。住宅街では、パブ閉店後にテイク・アウェイのカレー屋に行列ができるのだ(歩きながら食べられるケバブも人気)。うむ、確かにカレー・ライスなら炭水化物がアルコールを吸収してくれる。しかし、カレー? 胸焼けしないか? 飲んだ後には、のどごしなめらかな麺類に限るだろう・・・やはり二日酔いにイングリッシュ・ブレックファストの国だ。

イングリッシュ・ブレックファストで学んだ私は、郷にいれば郷にしたがってみようと、ある晩チキン・カレーをテイク・アウェイ(アウトではない! これはアメリカ英語)して千鳥足で帰宅した。アルコールに含まれる糖分を分解しようと20分歩いたかいがあったもの。五臓六腑に染み渡る。日本のカレーほど小麦粉が多くなく、さらっとしているので、思ったより胃にずっしり来ない。さすが、本格インド・カレー、サプライズ、ハレ・クリシュナ・・・とわけのわからないことをつぶやきつつ、これを食して寝た。そして翌日。ああ、予想通りの胸焼け。おまけにあまりの胸やけに、イングリッシュ・ブレックファストで二日酔いを治そうなどもってのほかだ。お茶漬け、お茶漬け。

だが、思えば、日本にいたときもそうだった。飲んだ後のラーメンで、翌朝胸やけに苦しんだことは一度だけではなかったはずだ。なぜ、酒飲みは反省すれど、その反省が長続きしないのだろう。

(『BEA-MAIL』2001年9月27日号(第84号)に掲載)


No.12 <「9・11」>

アメリカのテロ事件、アフガニスタンへの爆撃と非常に不穏な毎日が続いています。ロンドンは平常通り機能しているものの、街の中には目に見えて警官の姿が増えています。英国は積極的にアメリカに協力の体制をとっていることから、次のターゲットはロンドンではないかとの危惧が、市民にかなり大きな不安材料を与えています。しかし、新聞などでの「市民が慌ててガスマスクを購入」との報道には、かなりの誇張を感じます。実際購入している人もいるのでしょうが、一部であるのは事実です。ただ、誤作動や過剰反応が多い地下鉄駅の火災報知機の音には慣れっこになっている人々も、この事件の後はかなり敏感になっており、大事はないと思いながらもみな駆け足で駅を退去しています。金融街の高層ビルでも、似たような状況が起きています。人々が日々危機感を感じて生活しているのは、明らかです。

読者の方の中には、紅葉がきれいなこの時期に旅行を計画していた人も多いことと思います。
先週ケン・リビングストン市長が「現時点でロンドンがテロのターゲットになっているという外交的情報はない」と発表し、市民にはできるだけ平常時の生活を続けるよう促していました。観光地や劇場は、入り口での警備や荷物チェックが厳しいものの、通常通りオープンしています。空港の警備体制はかなり厳重で、チェック・インにも通常より時間がかかるものの、そのため逆にかなり安全と解釈することもできます。

ただ、現在のところ戦局が読めないことから、滞在中に何かが起こる可能性も否定できません。直接巻き込まれなくとも、帰国の飛行機が飛ばないなどの事態も想定できます。私も個人的な友人、知人より旅行について質問を受けるのですが、正直なところ明確なアドバイスをすることができません。ただ、こちらに着いてから、自分が不安になる、もしくは家族が心配していることを考えて、旅行を楽しめないと思うなら中止した方がいいように思います。
もし来英を決めたのなら、十分に情報を収集してぎりぎりまで検討を重ね、たとえば英米の飛行機会社は避けるなど、できる限りの対応をしてください。

アビイ・ロードの木々も紅葉が始まりました。秋晴れの空を見ていると、今の状況がうそのようです。

(『BEA-MAIL』2001年10月18日号(第87号)に掲載)

No.13 <なぜギネスなのか>

私はギネスが大好きだ。あの滑らかな泡がのどを滑ってゆく感触。コクのある味わい。考えただけでもうっとりしてしまう。
しかし、もともと私はギネスが嫌いだった。日本にいた頃、初めてボトル入りのギネスを飲んだとき、激しく薬くさい味に驚いたものだ。その後何度かギネスを飲む機会があったものの、どうしても好きになれなかった。

なのになぜギネス・ファンになったのか。それは、私のええかっこしいな性格に端を発する。
ロンドンに来て、初めてパブなる場所に足を踏み入れたときのことだ。注文すべくバーに行った私は、何にするか悩んでいた。ガイド・ブックには「イギリスにはラガー、ビター、スタウトと主に3種類のビールがあり、土地の人はそれを銘柄で注文する」とあった。「銘柄、銘柄」とあわあわしつつ、カウンターにある生ビールの種類を読んでいる私の前に、バーマンがやって来て「何にしますか?」と訊ねた。まずい!外人なのだから、素直に「ビター」とか「スタウト」とか言えばいいものの、持ち前の自意識過剰がそれを邪魔した。とっさに私の口から出たのは、唯一知っているイギリスのビール「ギネス」であった。パイント(568ml)ではなくハーフ・パイント(その半分)を頼んだのが、唯一の心の救い。

しかし、なぜ嫌いなものを。「サンキュー」とグラスを受け取る余裕の微笑みの裏側で、私は「ああえつぜんこずえのばかばかばか!」と叫んでいた。

席に戻り、「わー、ギネス。さすが酒飲み」と感嘆する友人の手前、間違えたとも言えず、そのまま乾杯、グラスに口をつけた。初めての生ギネスはボトル入りに比べ飲めない味ではないように感じられたが、やはり美味くはない。そして話も盛り上がり、もう一杯飲もう、となった。そして私はまたギネスを頼んでしまった。しかも何を思ったのかパイントを。バーに着くとまたええかっこしいが顔を出してしまったのだ。「次こそは素直に普通にラガーでも」と思っていたにもかかわらず。クイーン・オブ・マヌケの称号を自分に与えつつ、とにかく飲んだ。

そして、パイント・グラスが半分空になった頃、私の中で何かが変わった。これは美味いかも……。その感想は、30分後、パブ閉店の鐘がなったときには「いや、これは美味い」に変わっていた。

嫌い嫌いも好きのうち。その後私は、ギネスはイギリスではなくアイルランドのビールであることを発見し、正しいギネスの注ぎ方を学び、聖地であるダブリンを訪れることになるのである。そのあたりのエピソードについては、次回以降に。

(『BEA-MAIL』2001年11月15日号(第91号)に掲載)


No.14 <ジョージ・ハリスン・トリビュート・レポート>

BBC1が11月30日に、急遽ジョージのトリビュート番組を放映しました。
ジョナサン・ロス(映画評論番組などで有名なテレビ・プレゼンター)の紹介で始まった30分番組は、余計なナレーションを一切はさまない、完全に過去の映像だけで構成された記録映像集でした。ジョージ・ハリスンの功績を、映像と本人のコメントだけで綴った、彼の簡素な人生にふさわしいトリビュートとなりました。映像的には目新しいものはないものの、彼のプライバシーにはまったく触れない、ビートルズのデビュー以降の歴史を綴る内容であったことも、「クワイ
エット・ビートル」にふさわしい、そして彼の人生哲学を反映したものであったと言えるでしょう。
ジョージ本人の一般的には地味なイメージに配慮してということもあると思いますが、決してその静かで地味な活動を軽視することなく、敬意を表した報道が全体的になされているように感じられます。

BBCのトリビュート番組の最後は、「FAB」のプロモーション・ビデオで終わるのですが、こちらの報道では彼がいかに名声を嫌ったか、しかし彼の音楽に対する愛情は絶えることがなく、名声に動かされることなく自分の人生を貫いたことを強調していることから、その英国的ユーモアのセンスを称えるようなエンディングになったのではないかと感じられました。この点については、番組中エリック・アイドルのコメディ番組から「マイ・スウィード・ロード」をカントリー/ロカビリー調に歌うジョージの映像が抜粋されたことからもわかります。決して派手ではないが、非常にある意味において英国らしいアーティストであったことに、敬意を表していることが随所に現れているようです。

また、夜のニュースからは過去のビートルズの映像に加え、ジュールズ・ホランドとの共演曲のレコーディング映像の一部が放映されています。完全版の放映については、現在のところ不明です。
テレビのニュースを見る限りでは、ジョージの「無常観」を反映するようなコメントが抜粋されており、ビートルズ時代のものでは「この人気が長続きするとは思えない」というもの、そしてソロ時代でもアルバート・ホールでの自然法党のチャリティ・コンサートに参加したときのインタビューから「今問題なのは、自分が何者か、今ここで何をしているか、が大切なんだ」というコメントが、どこのチャンネルでも引用されています。いずれも彼の人生哲学を反映したものであるといえるでしょう。音楽的な貢献については、今後のコメントが待たれます。

ニュースが出たのが朝だったことから、11月30日の時点では「イブニング・スタンダード」紙のみがこのニュースを扱うという状況です。「スタンダード」は第一面から5ページにわたって、ジョージの記事が全面に載っており、内容はこれまで発表された声明やジョージの功績を伝えるものです。

ラジオではビートルズやジョージの曲が流れ、特にBBC2は各方面からのコメントを含めた特別プログラムが放送されています。テレビでは、ビートルズからソロのキャリアについて触れ、音楽のみならず映画プロデューサーとしての功績を称えています。BBC朝のニュースでは8時30分にニュース・フラッシュが流れ、続いて公式コメント、マイケル・ペイリンとカーラ・レインの電話コメントが放送されました。

12月3日の黙とうには、アビイ・ロードに多くのファンが集まり、こちらでも翌朝のニュースでとりあげられました。スタジオの建物入り口には関係者や有名人からの献花が、外の壁のところには世界中のファンからのメッセージや献花が捧げられています。 

(『BEA-MAIL』2001年12月6日号(第97号)に掲載)


No.15 <クリスマス・プディング>

ロンドンはクリスマス一色だ。色とりどりのイルミネーションを眺めながら歩いているだけで、心も華やぐシーズンである。が、中心部の道を歩くときにそんな余裕はない。人々はプレゼント用の買い物袋をいくつもさげ、しかも季節柄厚着
のせいで一人あたまの体積が1.5倍に膨れている。クリスマス前のオックスフォード・ストリートやピカデリー・サーカスは、さながら「泥のないグラストンベリー」である。

さて、日本ではなぜか恋人たちのためにあるクリスマスだが、こちらは家族と過ごす時期である。日本のお正月にかなり近く、実家に帰って伝統的なクリスマス・ディナーを食べて、テレビを見て、ゲームをして、そして朝からシャンペンなどを飲んで過ごすのだ。ロースト・ターキーの残りが、サンドイッチやパイ、カレーと向こう1週間姿を変えて出てくるのも、御節料理の末路と一緒で、日本の正月を思わせる。

クリスマス・ディナーの主役と言えばターキーだが、忘れてはいけないのがデザートに登場する「クリスマス・プディング」だ。単純に言えば、ものすごくヘビーなフルーツ・ケーキで、自宅で作る人は半年から1か月前から仕込みに入る。この仕込みと言うのがまた気合が入っていて、簡単に説明すると次のようなものだ。小麦粉とスエット(ラードのようなもの)、酒に卵、ドライフルーツ、砂糖などの材料を混ぜ、一晩寝かせる。混ぜるときには、家族がそれぞれ1回ずつ参加してお祈りをするのが、伝統とか。

そして、翌日8時間蒸して、さらに寝かせておき、クリスマス当日に2時間蒸してできあがり。食べるときには、ブランデーまたはラム・バター&クリームをかける。飲んだらカレー、二日酔いにイングリッシュ・ブレックファストと、イギリス人は胸焼け系が好きなのか? またもや胸にぐっと来るデザートだ。以前下宿していた家で、私は何度か挑戦してみたが、本当にぐっと来る。できれば食べたくない代物であった。それを「イングリッシュ・ブレックファスト」で私を改心させた友人クリスティーンに話すと、「それは店で売っているのだからよ。家に食べにいらっしゃい」とまたもや禁断のお誘いが。実際、手間のかかるプディングは店で買ってくる人がかなり多く、毎年雑誌に有名店のランキングが出るほどだ。

そして、当日。フルコース・ディナーを食べ、クリスティーンは気分を盛り上げるべく、プディングにブランデーをかけて火までつけてくれた。しかしそれは逆効果で、私の胸焼けモードを逆噴射させるばかり。皿にプディングが盛られ、力いっぱいブランデー・クリームをかけ…家族の目が集まる中、私は食べた。この瞬間、納豆を食べさせられる外国人の気持ちがよく分かった。結果は悪くない…確かにヘビーだが、リッチな味わいがけっこういけるかも。また改心させられてしまった私であった。それとも、乾杯のシャンペンとそれに続く食事時のワインの効果であろうか…。メリー・クリスマス!

(『BEA-MAIL』2001年12月20日号(第99号)に掲載)


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