ハレルヤ洋子。東京在住。旅人兼歌い手。通称「流しのハレルヤ」。

2005年2月、ついにあこがれの聖地・リヴァプールへ、巡礼流し旅に出発!


「僕のリヴァ日記」 / ハレルヤ洋子
第4話 〜 BITTER SWEET SYMPHONY 〜

苦しみと優しさの交響曲、それが人生
帳尻を合わせるために君はお金の奴隷となる
僕が道へと君を連れて行ってあげよう
(省略)
変わらない僕は変わることができる、僕は変わることができる…
( "Bitter Sweet Symphony" より)

ヴァージンアトランティックに乗り込んだ2月10日、機内に足を踏み込むと、the verve の「 Bitter Sweet Symphony 」が流れていました。私の好きな曲です。

(うん、出だし好調!! 気分いい!)

だんだん低くなっていく雲を見下ろしながらうとうとしていく瞳…。
そして、眠りにつきながら思いました。

(上手く演奏できる?)

たくさんの人を巻き込んで私はリヴァプールへ旅立ったわけです。プレッシャーや不安…。少し怖い気持ちが、この時は強くなっていました。
でも、

(いいのいいの、出来なくて当然! 私はラッキーなんだから、ただ楽しめばいいんだ!)

そう言い聞かせてる内に本当に楽しくなってくる自分に気づいて、私は本当に単純で馬鹿なんだな、と、少し可笑しくなりました。

一年前に旅立った時、私は本当にひとりぼっちでした。
愛する人を失って、夢にも見放され、生きる気力を失くしていました。
それまでの私は、人生において優先すべきものは自分の目標であり、夢だと信じ、愛する人を犠牲にしてもやるべき事がある、と思ってました。
でもそれは違っていました。
愛を失った瞬間に、私は心の目を失い、夢を見失い、すべてがモノクロの世界になりました。
感動することも、気力も、食べることも、泣くことも、笑うことも、そして歌うことも出来なくなりました。

そんな私が夕暮れどきの銀座の街を歩いていると、どこからかサックスの音色が聞こえてきたんです。心に少しあたたかい風が吹いてきて、聞き覚えのあるそのメロディが「 Yesterday 」である事にしばらく経って気づき、その時、

(逃げる場所はビートルズしかない)

と思いました。

無感情のまま飛行機に乗り込み、到着間近に窓から街を見下ろすと、イギリスの家の明かりで創られた無数の星空が広がっていました。
その星空へと吸い込まれていく時、ぼろぼろと音をたてて涙が溢れ出しました。

(私はきっと、変わることができる)

停止していた感情が動きはじめました。そして、強くなって生きていこうと思いました。

これから生きていく上で何かひとつを選ぶとしたら、私は愛を選びます。
愛の形は、特定の恋人だけじゃない。
遥々海を越えて連絡を取り合ってくれた人たちがいる、休暇を与えてくれた人がいる、お守りをくれた人がいる、激励してくれた人がいる。夢が叶ったり、奇跡が起こるのはすぐそばにある沢山の愛に支えられているから…。

そう、今回の私はひとりぼっちじゃない!
そして、もうすぐたどり着くリヴァプールでも、たくさんの人たちが待ってくれてるんだ!!

ロンドンの街に降りた私は、ギターを背負って、地下鉄を乗り換え、ユーストンステイションに向かって子供のように走っていました。
おや、レベルアップしたのかな? ってくらいぴかぴかのヴァージントレインは終着駅リヴァプールへと休むことなく走ります。切符を切りにきたおじさんが、あまりに楽しそうにギターを抱えて座っている私を見て、

「いいギターだ!」

と、笑っていました。ケースの中は見えない筈なのに。

(もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ…)

「 HELLO!! LIVERPOOOOOOOL!! 」

リヴァプールライムストリートステイション到着後、リズさんの待つブランデルサンズB&Bへ向かうため、徒歩三分ほどのリヴァプールセントラルステイションへと移動しました。
少し休憩、と、駅前にあるお洒落なカフェでコーヒーを持ち帰り用で頼むと、あたたかいキャップの上に一粒のチョコレートがのせてありました。

「これは?」
「もうすぐバレンタインだからサービスよ!」

青いアイシャドウに、ブロンドヘアをひとつに束ねた綺麗なお姉さんが、私にウインクしてそう言いました。

「 Thank You!! 」

大好きな海の色したアイシャドウ、素敵だな、なんて思いながら表のテーブルに座り、私は苦い苦いコーヒーを飲みながら、甘い甘いチョコレートを口に入れるのでした。
目の前を行き交うリヴァプールの人たちは、ステイション入口の新聞売り場のおじさんから、新聞を買っては何処かへと出かけて行きます。
のどかな日常の風景を、三日月のような目になって微笑みながら眺める私。

苦い苦いコーヒーはいつの間にかなくなっていました。

(つづく)

from NLW No.194 - March 22, 2005

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