ハレルヤ洋子。東京在住。旅人兼歌い手。通称「流しのハレルヤ」。

2005年2月、ついにあこがれの聖地・リヴァプールへ、巡礼流し旅に出発!


「僕のリヴァ日記」 / ハレルヤ洋子
第5話 〜 GOLDEN SLUMBERS 〜

イギリスに旅立つ前、私は東京の自分の部屋の玄関に、赤とピンクの春らしいチューリップを飾って家を出てきました。留守の間も、家が明るくあるように、ってね。

私はお花が大好きです。
見た目は「ロックにお酒に夜遊び大好き!!」な私。
お花好きだなんてきっと誰も思わないだろうなあ…、でもロックは大好きだけどね、もちろん!

それは、家の中や庭に花を絶やす事がなかった母と、祖母の影響。
私の祖父は神主をやっていました。
太鼓が上手だった祖父が身を粉にして守り続けた神社に、祖母は木や花を植え、いつもいつも水と笑い声を与えていました。
私は子供の頃、いつも笑いと太鼓の音が響く、深い緑の木々や花が生い茂った神社で遊んでいました。
そして祖父が亡くなってからも、神社に咲き誇る花たちを見ていると、どこからか祖父の太鼓の音が聞こえてくる・・・そんな気がするのです。

祖母は、幼い私にいつもこう言っていました。

「ヨーコが外国のお城のような、花に溢れた庭で歌を歌っているのを家族で見て笑っている。その時のヨーコはお姫様みたいで…ばあちゃんはいつもそんな夢を見るんだよ。いつかお姫様になってね」

今は祖母も亡くなり、神社からはもう、太鼓の音も、あの大きな笑い声も聞こえなくなりました。

リヴァプールセントラルステイションから、私が泊まるB&Bの最寄駅までは、マージーレイルで20分程です。
ブランデルサンズというその街に到着した時、まるでおとぎ話の国へ来たのかと思ったほど素敵で、とてもびっくりしました。赤レンガの屋根に白い壁にステンドグラス。メンディップスのような家が立ち並び、時々現れる豪邸。それぞれが素晴らしい庭に囲まれています。何故か懐かしいにおいのする通りは、人さえ歩いていないかのように、風の音だけ聞こえるのです。

「Elton Avenue」という通りに入り、少し歩いた先の左側の「9番地」の門に足を止めました。
ここが、リズさんのお家、「ブランデルサンズB&B」です。

「Hello!! Yoko!!」

リズさんが飛び出して来ました。
とても明るくて笑顔の素敵な人です。
リズさんは私を連れて、リビング、キッチン、二階のバスルーム、そして

「ここがヨーコの部屋よ!」

と、ピンクの模様の壁にベルベットのカーテンとベッド、白いゴージャスなドレッサーのあるシングルルームへと案内しました。

「素敵!!」

私は思わず叫んで、大はしゃぎをしてしまいました。
そんな私を見たリズさんは、記念写真を撮ろう、と、キッチンから中庭へと案内してくれました。

「ヨーコはこれから何処へ出かけるの? リヴァプールの Saturday Night は楽しいわよ!」
「いえ、ここが気に入ったから今日はのんびりします。少しだけギターの練習してもいいですか?」
「もちろん、いいわよ!」

私は本当にこのゲストハウスが気に入ってしまって、出かけたくありませんでした。一人で海外に居ると、ホテルに戻っても気が張りっぱなしで、疲れも取れません。でも、疲れたなんて感じないけどね、実際は。
だけど観葉植物や花や、母好みの家具に溢れたこの家に着いた時、本当に安らげて、ギターを背負ってた重い肩が、すうっと軽くなりました。まるで、自分の家のように。

リヴァプール一日目の夜、「お姫様気分」になった私は、ピンクのお部屋でチョコレートスナックをかじりながら、ギターを小さな音で弾き始めました。
空腹感も忘れギターで遊んでいると、リズさんが部屋にブラウンブレッドのハムサンドとチョコレートケーキを差し入れしてくれました。リヴァプール最初の食事は、家族での日曜のブランチを思い出す、リズの愛情こもった味。ありがとう、何度もリズにそう言いました。

翌日、リヴァプールのマシューストリートへ一年ぶりに足を運んだ私は、行く先々で

「君はもしかしてヨーコか?」

とあたたかい歓迎の声を受けました。
Kaz さんがリヴァプールの友人たちに、私の話を伝えてくれていたのでしょう。
本当にありがとうございます!
去年は観光客としてのリヴァプールの人たちとの会話、それが今は、まるで以前から友人だったかのよう。

「ヨーコのパフォーマンスは、確か明日ね?! 何時から?」
「何か欲しいレコードあるなら探しておくよ!」
「楽しんでね、ヨーコ!!」

優しい言葉に、溢れそうな涙をこらえて皆さんに挨拶をしながら、街の観光を楽しみました。
そして、最後に訪れたライヴァービルディングで…やっぱり泣いちゃったんだな、これが。

ブランデルサンズに帰り、リズのお家の素敵なバスルームでミルクの香りのバブルバスを楽しみ、いい気分でベッドへ横になった私。
その夜は家族の夢を見ました。
リズのお姫様の家のような庭で家族で笑っていると、何かを心配しているかのように父と母が泣き始め、つられて私と弟も泣いていました。

「愛しい人よ、泣いてはいけない」

子守唄が聞こえてきて、その歌声を聞いた家族はまた笑顔をとり戻します。その夢はまるで、祖母が昔よく私に話していた夢によく似ていました。
だだその歌を歌っているのは、ビートルズでも、私でもなく、祖母なのです。

(つづく)

from NLW No.195 - March 29, 2005

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The Blundellsands Guesthouse

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