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「遠くて近い Anfield − The Long and Winding Road To Liverpool」 / earlybird 

   第3話 チャレンジ、またチャレンジ

第3話 <チャレンジ、またチャレンジ>

Anfield に行けることで、あまりにも舞い上がっていた私は、当たり前の事実を忘れて(?)いました。どこかで現実的な判断力がゆるんでいたのでしょう。あるいはレッズへの想い入れが強くなりすぎて、心理的な距離感がなくなり、Anfield が身近にあるような錯覚を起こしていたのかも知れません。

実際には、成田から11時間半かけてやっとヒースロー空港に着き(家を出たのはその4時間前)、そこからロンドン市内に入るまでがまた1時間あまり。リバプールへは、さらに列車で3時間の行程です。
あらためて、Anfield は遠いなあ…と実感しました。

そして、飛行機を降りたらそこは外国なんですよね(当たり前だ!)。
言葉だけでなく、人びとの振る舞い、街のたたずまいまで、すべてが全然違う。10年前にも来て、頭ではわかっていたはずなのに、いざその場に行ってみるまで、スッポリ抜けていたように思います。

まず入国審査が最初の関門です。前に並んでいた茶髪の若い兄ちゃんは審査官2人に延々と質問され、なにやら持ち物も見られているし、その次の中国系の2人連れも突っ込まれて、あたふた会話集を広げている。お願いだから突っ込まないで…と祈るような気持ちで進みます。

ああ、よかった、日数と目的だけ、ふたことで終わりました。短期滞在の人はひっかからないようです。トラベラーズチェックの換金も難なく終わりました。うっかりパスポートを忘れそうになり、係員さんに呼び止められる始末。危ない危ない。気持ちを抑えつつ、ヒースローエキスプレスの乗り場へ急ぎます。

入国審査までは団体さんと一緒でしたが、エキスプレスに乗り込んだら日本人は私だけ。周りはみんな外国人ばかり(いや、外国人は私だ)。車中では耳慣れない英語がガンガン飛び交い、心なしかジャップという単語も聞こえてくるような…。いちいち動揺してはいられないので、毅然と無視を決め込みました。車窓の眺めは、もう東京とは全然違う街なみです。ホントに、イギリスに来たんだ…としみじみ。

あっという間に列車はバディントン駅に到着しました。そこから地下鉄に乗り換えて、ホテルの最寄りのマーブルアーチへ移動です。ロンドンの地下鉄は表示が分かりやすいので、路線と行き先さえ間違えなければ、ツーリストにも比較的便利に乗りこなせると思います。そこまでは順調だったのですが…。

いざ肝心のホテルがどうしても見つかりません。なぜか、住居表示の番地の順番が飛び飛びになっていて(19、20、21ときて14のように)、目指す番地がいくら探しても見つけられないのです。仕方なく道行く人を捉まえて、なりふり構わずブロークンな英語で聞いてみたのですが、不案内だから知らないといわれたり、大きなホテルのドアマンに聞いてみろといわれたり。そのドアマンに尋ねても分からないといわれ、スーツケースを引いて30分あまり歩き回ったあげく、途方に暮れてしまいました。そうだ、電話をかけてみようと思い、公衆電話でトライしてみたのですが、自動音声は無情にも番号が違うとのお答え。そんなバカな! ちゃんとしたクーポンに出ている番号なのに…。

時間はどんどん過ぎて、夕暮れが近づいてくるし、あまり到着が遅くなったら、予約をキャンセルされかねない。この時ばかりは、やっぱりツアーにすればよかった、えらいことを始めちゃったと、さすがに心細くなりました。
しかたなく、私は少し離れた通りでタクシーを呼びとめ、この住所に行って欲しいと頼みました。運ちゃんには近いからどうのこうの…といわれたものの、いかにも不慣れな様子を察してくれたのか、乗っけてくれました。

結局、ホテルはすぐ見つかりました。何のことはない、番地の並びが変則的で、通りの反対側を探せばよかっただけのこと。一気に力が抜けました…。日本の住居表示が頭にあったために、思いつかなかったんですね。一過性で視野狭窄になっちゃったというか。なんでもないことですが、やっぱりここは外国なんだと痛感しました。
ロンドンのエコノミーなホテル Copyright(C) 2005 earlybird 骨董品のような天蓋つきベッド Copyright(C) 2005 earlybird

普段の私は、リハビリの一貫として『必要なとき、言いたいことを上手く言えるように、チャレンジしてみようね』などと言っては、患者さんを励ます立場にいます。ところが、今や自分がそのチャレンジする当事者になっているのでした。
とにかく、個人旅行なので、自分が主張しないことには何も始まりません。ホテル探しから始まって、バスツアーの申し込み、チケットの手配、列車の予約、カフェやレストランでの注文まで、全てが英語で伝えるというチャレンジでした。

リフレッシュ休暇のはずが、なんだか仕事の延長線上のような気になってきました。もちろん、世の中にはその程度の会話なんか朝飯前という人もいるでしょうね。凡人にはうらやましい限りです。
それくらい練習して行けよ、と言われるかも知れません。おっしゃるとおりです。日頃からNovaにでも行っておけばいいんでしょうが、英語を使う環境にいないと、勉強することもないですよね…時間もないし。
じゃあ会話集くらい持っていけよ、と言われるかも知れません。そう、それを忘れてしまったのです。気づいたときにはもう空の上、後の祭りでした。とにかく、手がかりがないので、自分で何とかするしかありません。英語を喋るのは実に8年ぶりで、最初は口が回らず、ハフハフしてしまいました。なるべく簡単な単語で、必要なことを伝えていこうと腹をくくりました。

今にして思えば、もう少し英会話に慣れておいて、もっとボキャブラリーが広ければ、向こうで会った人と話を楽しむ余裕が生まれたかもしれません。例えば、コッツウォルズを巡るツアーに参加したときは、50代とおぼしきイギリス人のバイリンガルおじさんがガイドをつとめてくれました。
この人はどういう経緯で日本語を勉強したんだろう? どうやったらこんなにスラスラと日本語を喋れるようになるもんだろう?コッツウォルズのボートン・オン・ザ・ウォーター Copyright(C) 2005 earlybird
色々聞いてみたいことがありました。でも、そのときには聞いてみる度胸がありませんでした。他にもツアーで一緒になったツーリストの人、ロンドン・アイに乗り合わせたアジア系のツーリストの人、レッズサポーターのおっちゃんなど、いろんな場面で話すチャンスはあったのですが、会話をもたせる自信がなくて、聞きたいことが聞けなかったり、そそくさと話を切りあげてしまったりしました。せっかくのチャンスだったのに、勿体ないことをしました。

(人に勧めるほどに、自分はチャレンジできないじゃないか…)
そんな思いが、心のなかに棘のように残ってしまったのは事実です。

(つづく)

お久しぶり!のピカデリー・サーカス Copyright(C) 2005 earlybird ロンドン・アイで空中散歩 Copyright(C) 2005 earlybird

   
バックナンバー

第1話
思い立ったが Anfield

第2話
思い立ってからが
また大変…


第3話
チャレンジ、またチャレンジ


第4話
憧れのマージーサイドへ


第5話
マジカル・ミステリー・ツアー


第6話
ブランデルサンズの
ステキなゲストハウス


第7話
身近な Anfield


第8話
もう一度、
ビートルズと向き合う


第9話
いざ、最終戦へ!


第10話
なごやかなエンディング

第11話
いつかまた、訪れる日まで


from NLW No.209 - July 05, 2005     

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