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「遠くて近い Anfield − The Long and Winding Road To Liverpool」 / earlybird 

   第8話 もう一度、ビートルズと向き合う

第8話 <もう一度、ビートルズと向き合う>

その後、階下のショップでグッズを見て回り、ユニフォームと LFC Magazine を購入しました。
ユニフォームのネーム&ナンバーは誰かって? …それはですね、私にとって一番思い入れの深い選手です。来季はもっと爆発してくれるといいな…という期待をこめて入れてもらいました。

明日の試合に臨む準備ができたところで、スタジアムを後にしました。
まだ時間はたっぷりあります。クイーン・スクウェアまで戻って、図書館や博物館、ウォーカー美術館が立ち並ぶあたりを、ゆっくり回ってみることにしました。

お散歩日よりの土曜日 Copyright(C) 2005 earlybird空の青さも新緑も、目にしみいるよう。寒くも暑くもない、おだやかな陽気です。芝生の上でくつろいだり、寝転んだりして、日光浴を楽しむ人々。ゆったりした午後の時間が流れていきます。私もベンチに腰を下ろして、思い思いに過ごす人たちの様子をしばし眺めていました。

今頃職場のみんなはどうしているやら…。
普段の土曜日は休めないばかりか、いつもあわただしく過ぎてしまうだけに、仕事のことを考えなくてもいい、何をやっても自由な時間というのが、ことのほかありがたく感じられるのでした。

しかしイギリスなのに(?)、こんなに快晴でいいんでしょうか。日焼けが気になりはじめたので、ウォーカー美術館に入ってみることにしました。Walker Art Gallery; Copyright(C) 2005 scousehouse
グランドフロアの右手の一角に、イギリスの生活スタイルの変遷に関する展示があって、これがなかなか面白かった。例えば18世紀、19世紀、20世紀と時代を経て、生活様式がどう変遷してきたかを、服装や生活雑貨や食器などの実物と、再現ビデオで見られるようになっているんです。この国の昔の人がどんなものを着て、どんな食器を使って、どんな食事をしていたのか、21世紀の日本人の目には結構新鮮に映りました。

期待していた絵画のコレクションは、ナショナル・ギャラリー(ロンドン)に比べて規模が小さいのと、閉鎖中の部屋が多くて、少し残念でした。ナショナル・ギャラリーよりも英国出身の画家の展示が多かったようです。
幾つか印象に残ったのは、芝居の一場面を描いた肖像画で(リチャード3世とレ・ミゼラブル)、心のひだを写しとったような描写が印象的でした。

世間の喧騒をしばし忘れて、いつもと違う時間にひたれる美術館は、私の大好きな場所です。
もしかして、絵を見るのが好きというアロンソも、ここでゆっくり過ごすことがあるのでしょうか…。
館内のカフェも、自然採光のもとで展示を見ながらひと息いれられるので、なかなか居心地のいい空間でした。

まだ午後の時間はたっぷり残っています。本日3つめの目的地、アルバード・ドックのビートルズ・ストーリーに向かいました。ビートルズの4人の出会いから下積み時代、大ブレイクを経て解散に至るまでの歴史を辿れるミュージアムです。ここでは、各自に渡される音声ガイドに従って、自分のペースで展示を観られるようになっています。生身のガイドさんと違って、何度も繰り返し聴けるのはありがたかった(苦笑)。

入り口を通ると、左手のウインドウにいきなりジョージ愛用のギターが登場! ここで一気に、ビートルズがアイドルだった中学生の頃の感覚が蘇ります。当時読んだビートルズの伝記を思い出しながら、展示をたどっていきます。

エネルギーに溢れていたハンブルグ時代、キャバーン・クラブでのライブ、ブライアンに見出され、成功の階段を駆け上る4人、アメリカ進出の大成功、これまでのポピュラー音楽が踏み入れたことのない領域へのチャレンジ、ブライアンの早すぎる死。4人はやがて別々の方向へ…。

ジョンが着用したミリタリー・ジャケットや『 All You Need Is Love 』の直筆の歌詞には思わず目が釘付けになってしまいました。
彼が身にまとったもの、記したものは確かに残っているのに、彼自身はもういない…。

4人はついに決別のときを迎え、新たな道を歩み始めます。この辺りまではよかったのですが、展示が終りに近づき、ジョンのメガネと白いピアノを目のあたりにして、こらえきれなくなりました。彼にもっと時間があたえられていたら、見たいこと、表現したいことがたくさんあっただろうに…なんて思ってしまったから、もうダメです。人前なのにマズイ、と思ったけど、こみあげてくる感情をおさえられません…。
他にも、ピアノの前で立ち尽くしている人が何人かいました。誰もが、ビートルズに寄せてきた思いを、かみしめているように見えました。

私がビートルズを知ったとき、彼らは既に解散していました。再結成の可能性はほとんどなく、それぞれが精力的にソロ活動を展開していました。
そんな矢先、ジョンの射殺という悲報が飛び込んできました。例え家族や友人ではなくても、自分の愛するものが暴力によって失われるというのは、あまりに理不尽なことに思えました。

立ち直るのに相当時間がかかりましたが、3人の存在と未来への期待が、喪失感を埋めてくれたような気がします。それから10数年が過ぎ、今度は大好きだったジョージが病に倒れ、帰らぬ人になりました。このときには、いずれそういうこともあるだろうと覚悟をしていました。それでも、大きな穴が開いた感じはなかなか埋められませんでした。

その後の私は、ビートルズから距離を置き、日常生活の忙しさに埋没することで、彼らの不在と直面することを避けていたように思います。でも、この時ばかりは、彼らが4人ではなくなってしまった、もう二度とジョンとジョージに会うことはできない、その事実を、もう一度つきつけられた感じでした。

ピアノの部屋でグシャグシャになってしまいましたが、閉館の時間が現実に引き戻してくれました。
6時というのに、外はまだ明るい日差しにみちています。川べりまで歩いて、ベンチに腰をおろし、キラキラ光る川面を眺めながらひと息つきました。
思えば不思議なもので、ビートルズとは暫く遠ざかっていたのに、全然違う流れから、レッズが私をここへ導いてくれたのでした。時がひとめぐりして、新しいものとの出会いが、かつて愛したものと、もう一度引き合わせてくれたようなものです。

彼らはこの街に確かな足跡を残して、世界に飛び立っていった。
そして、永遠に語り継がれる存在となった。
はるか遠い異国に住む1人の中学生にも、少なからず影響を与えてくれた。

けれども、もう元のビートルズは存在しない。
ジョンとジョージには、もう永遠に会えない。
それも現実。

今日あらためて、彼らの不在の大きさを実感しましたが、彼らがかけがえのない存在であることにかわりはありません。
そして、レッズを好きにならなければ、リバプールまで来て、もういちど彼らの不在と向き合うこともなかったでしょう。

新しいものとの出会いがあるから、別れとも向き合える。別れは、また新しいものとの出会いを連れてくる。そんな不思議な繋がりを感じさせられたのでした。

ようやく陽が傾きかけて、のんびりできた土曜の午後も、終わりに近づいてきました。
お腹も空いてきたことだし、チャイナ・タウンで気のきいたお店でも探してみることにしましょう。

(つづく)

   
バックナンバー

第1話
思い立ったが Anfield

第2話
思い立ってからが
また大変…


第3話
チャレンジ、またチャレンジ


第4話
憧れのマージーサイドへ


第5話
マジカル・ミステリー・ツアー


第6話
ブランデルサンズの
ステキなゲストハウス


第7話
身近な Anfield


第8話
もう一度、
ビートルズと向き合う


第9話
いざ、最終戦へ!


第10話
なごやかなエンディング

第11話
いつかまた、訪れる日まで


from NLW No.214 - August 09, 2005     

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