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「遠くて近い Anfield − The Long and Winding Road To Liverpool」 / earlybird 

   第9話 いざ、最終戦へ!

第9話 <いざ、最終戦へ!>

いよいよ Aston Villa とのリーグ最終戦の日。
朝方はやや雲が多めでしたが、予報では晴れてくるとのこと。今回は本当にお天気に感謝です。

Breakfast at Blundellsands Guesthouse; Copyright(C) 2005 scousehouse朝食のテーブルでは、マンチェスターから来たというイギリス人のカップルと一緒でした。リズさんと、レッズの試合を観にいくと話していたら、男性のほうに

『フーン、日本から来たの、さぞかし高くついたでしょう。チケット代よりも』

と冷たく笑われてしまいました。アホな金持ち日本人と思われたのかも…。(とんでもない、何年も必死で働いてきたご褒美なのに)と心のなかで言い返しました。その人はマンUファンだったので、レッズへの対抗意識もあったのかも知れません。

リズさんに『好きな選手は誰?』と聞かれたので、ジェラードの名前を挙げると、『彼はこの近くに住んでいるのよ。あと、ジェイミー・キャラガーも近く』だそうです! この発言にはちょっとグラッときました。
(スティーヴィーのお宅、見てみたいかも…)
さすがに気が引けて言えませんでしたけど。

リズさんに『ラファはとても優秀な監督だと思う。レッズをCL決勝まで導いたから』と言うと、

『そうね、でも彼は監督としてはあまりハッピーではないのかも』

え? どうしてですか? 

『彼はあまり笑わないもの』

うーん。そうですか。メディアに対応するときは気を張っているのかな…。確かに、リーグ戦では情けない試合もあったりして、笑ってる場合じゃなかったですね。今日はぜひいい笑顔で締めくくって欲しいものです。

Anglican (Liverpool) Cathedral; Copyright(C) 2005 scousehouse午前中の空き時間に、Cathedral まで足を伸ばしてみることにしました。
リズさんに何度か『 Cathedral には行った?』と聞かれたので、かなりお勧めの場所なのでしょう。ライムストリートの駅からだと少し距離があり、坂道を上っていく感じですが、ヘビーな朝ごはんの腹ごなしにはちょうといい距離です。

外観は地味ですが、内側から見たステンドグラスは見事なものでした。ゴシックスタイルの聖堂は音響効果抜群。ちょうどミサの真っ最中で、天使のような歌声と、荘厳なオルガンが高い天井に響き渡ります。Anglican (Liverpool) Cathedral; Copyright(C) 2005 scousehouse
ツーリストにも賛美歌集と聖書を渡してくれて、ミサに加わるように促されます。結構、東洋系やヒスパニック系の方も参加しているようです。私も、このときばかりは手を合わせて心の中で必勝を祈願、もっともらしい顔で賛美歌に口パクして『なんちゃってクリスチャン』していました(ごめんなさい)。

Sさんとの待ち合わせがあるため、途中でミサを切り上げて(本当にごめんなさい)、バスターミナルへ向かいます。
今日のバスは、ひと目でそれと分かる集団で埋まっていました。しかも8割方は男性。
東洋系らしき男子もいるけど、日本人なのか中国、韓国系なのかわからず、話しかける勇気がありませんでした。なんとなく浮いている私…。
照れくさいのもあって、ユニはまだバッグの中です。

今日のバスは違うルートで、広々した公園のそばを通っていきます。こんな場所が近くにあったら、子どものうちから色々なスポーツに親しめそう。いっそリバプールに住めたらいいのに…。

スタジアムに近づくにつれて、窓の外には赤い集団が目立ち始めました。今日の Anfield 界隈のにぎわいは、昨日の比じゃないです。
チケットオフィスには長蛇の列。当日券を求める人でしょうか、それともCLの決勝に行けるラッキーな人たちでしょうか。ショップも混み合っています。シャンクリーさまの銅像の前には記念撮影の人だかりができていました。

Sさんと待ち合わせたパブに移動すると、なぜかここは水色軍団、ビラ族の姿ばかり。どうやらアウェーチームのたまり場のようです。居心地が悪くなった私たちは、正門に近いパブに場所を変えました。おそらく有名な『 The Park 』だったと思います。こちらはレッズサポーターでごったがえしていました。
店内があまりにも混んでいたので、裏手の庭に出て乾杯しました。ここも赤い集団で埋まるのは時間の問題でしょう。

ひとしきり、Sさんご夫妻と今シーズンのレッズのよもやま話で盛り上がります。久々の日本語、しかもレッズのことを喋れるお仲間なので、ホントに肩の力がぬけました。

Sさんご夫妻はお2人とも熱心なレッズファン。もう5回くらい Anfield のゲームを観戦されていて、それが全て勝ち試合になったという縁起のいいカップルなのです。
オリンピアコス戦のときはゴール裏で、スティーヴィーの火の出るようなシュートを見届けています。CL準決勝2レグのチェルシー戦もしっかり観戦されていました。スカパーの中継でも伝わってきた当日の熱狂ぶりですが、なんとキックオフの40分くらい前から割れんばかりの歓声で、スタジアム全体が揺れているような感じだったそうです。半端じゃないですね…その場に立ち会えて、しかも劇的な勝利を目のあたりにされたなんて、本当にうらやましい。2人で喜びを共有できるのがまたいいんですよね〜(私もレッズファンのパートナーを見つけたい!)。

ところで、第2戦後の記者会見で、ジェラードが『今日のジェイミー(カラガー)はホントによく守ってくれた』と話す傍らで、当のジェイミーが号泣したという話が某新聞に出ていたのですが、私がその話をしたら、Sさんの奥さんいわく、

『ええ〜号泣? そんなことなかったわよ。目が潤んでいたかもしれないけど』

結構マスコミに作られた話ってあるんですね。

私:
 『そういえばN誌に、ジェラードが貧しいスラムの出で、彼の負けん気も、厳しい環境で育ったからだ、みたいに書いてあったんでですよね』

Sさん:
 『そうかな…? 郊外の出身とは聞いたけど、そんなに貧しいところじゃないみたいですけどね』

そうなんですか?
巷に流布しているエピソードのどこまでが事実なんでしょう。確かに、ジェラードという存在は書き手の興味をそそるのでしょうし、スラム出の青年が逆境をバネにして、タフなメンタリティを獲得していく、みたいなストーリーはいかにも受けそうですよね。

でもホントのところは彼自身のみが知ること。
私たちは、あくまで書き手の主観として受けとっておくのが、いいようですね…。

『そういえば、こっちの人って表情に憂いがあるわね』
と奥さん。
『ジェラードも、あまり笑ったところを見ないし』
『確かに思いきり笑っているところはあまり見ないよね』
『いつもどこか表情に憂いがある感じよね…』

なるほどね。言われてみれば、昨日のガイドのお兄さんも、シニカルなジョークの合間に、憂いをおびた表情を見せていかも。それがこの街の気風なのか、生まれ育った環境ゆえなのか、確かなことは分かりませんが、私たちとの違いを感じさせる<何か>があるのでしょうね。

他にも、来期のCL出場をめぐって、お偉いさんと委員の間で意見が違って揉めているようだとか、アロンソがKOPのハートをガッチリ掴んでいて、出ていない試合なのにアロンソコールが起こったこととか、妙に派手なモリエンテスの私服(スティーヴィーは絶対着ないような服!)の話とか、シセのひときわ派手なジープとか、現地でレッズを追っているSさんご夫妻ならではの面白いお話は尽きませんでした。イスタンブール行きも狙っているそうですが、何しろ凄い競争率なので、厳しいようです。ぜひ日本人サポを代表して、見届けてきてほしいものです。

そろそろキックオフの時間が近づいてきました。もうその頃には、庭ですら立錐の余地なしになってきました。トルコ風の帽子を被ったヒトもたくさんいます。心はすでにイスタンブールのようですね。まずは今日のゲームをいいかたちで終えないと。ヒルズボロの記念碑には花束が絶えない Copyright(C) 2005 earlybird

Sさんにシャンクリーとヒルズボロの記念碑の前で写真を撮っていただき、スタジアムのゲートでお別れしました。イスタンブールに行けますようにお祈りしてます! グッドラック! 

(つづく)

   
バックナンバー

第1話
思い立ったが Anfield

第2話
思い立ってからが
また大変…


第3話
チャレンジ、またチャレンジ


第4話
憧れのマージーサイドへ


第5話
マジカル・ミステリー・ツアー


第6話
ブランデルサンズの
ステキなゲストハウス


第7話
身近な Anfield


第8話
もう一度、
ビートルズと向き合う


第9話
いざ、最終戦へ!


第10話
なごやかなエンディング

第11話
いつかまた、訪れる日まで


from NLW No.215 - August 16, 2005     

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