第9話 <いざ、最終戦へ!>
いよいよ Aston Villa とのリーグ最終戦の日。
朝方はやや雲が多めでしたが、予報では晴れてくるとのこと。今回は本当にお天気に感謝です。
朝食のテーブルでは、マンチェスターから来たというイギリス人のカップルと一緒でした。リズさんと、レッズの試合を観にいくと話していたら、男性のほうに
『フーン、日本から来たの、さぞかし高くついたでしょう。チケット代よりも』
と冷たく笑われてしまいました。アホな金持ち日本人と思われたのかも…。(とんでもない、何年も必死で働いてきたご褒美なのに)と心のなかで言い返しました。その人はマンUファンだったので、レッズへの対抗意識もあったのかも知れません。
リズさんに『好きな選手は誰?』と聞かれたので、ジェラードの名前を挙げると、『彼はこの近くに住んでいるのよ。あと、ジェイミー・キャラガーも近く』だそうです! この発言にはちょっとグラッときました。
(スティーヴィーのお宅、見てみたいかも…)
さすがに気が引けて言えませんでしたけど。
リズさんに『ラファはとても優秀な監督だと思う。レッズをCL決勝まで導いたから』と言うと、
『そうね、でも彼は監督としてはあまりハッピーではないのかも』
え? どうしてですか?
『彼はあまり笑わないもの』
うーん。そうですか。メディアに対応するときは気を張っているのかな…。確かに、リーグ戦では情けない試合もあったりして、笑ってる場合じゃなかったですね。今日はぜひいい笑顔で締めくくって欲しいものです。
午前中の空き時間に、Cathedral まで足を伸ばしてみることにしました。
リズさんに何度か『 Cathedral には行った?』と聞かれたので、かなりお勧めの場所なのでしょう。ライムストリートの駅からだと少し距離があり、坂道を上っていく感じですが、ヘビーな朝ごはんの腹ごなしにはちょうといい距離です。
外観は地味ですが、内側から見たステンドグラスは見事なものでした。ゴシックスタイルの聖堂は音響効果抜群。ちょうどミサの真っ最中で、天使のような歌声と、荘厳なオルガンが高い天井に響き渡ります。
ツーリストにも賛美歌集と聖書を渡してくれて、ミサに加わるように促されます。結構、東洋系やヒスパニック系の方も参加しているようです。私も、このときばかりは手を合わせて心の中で必勝を祈願、もっともらしい顔で賛美歌に口パクして『なんちゃってクリスチャン』していました(ごめんなさい)。
Sさんとの待ち合わせがあるため、途中でミサを切り上げて(本当にごめんなさい)、バスターミナルへ向かいます。
今日のバスは、ひと目でそれと分かる集団で埋まっていました。しかも8割方は男性。
東洋系らしき男子もいるけど、日本人なのか中国、韓国系なのかわからず、話しかける勇気がありませんでした。なんとなく浮いている私…。
照れくさいのもあって、ユニはまだバッグの中です。
今日のバスは違うルートで、広々した公園のそばを通っていきます。こんな場所が近くにあったら、子どものうちから色々なスポーツに親しめそう。いっそリバプールに住めたらいいのに…。
スタジアムに近づくにつれて、窓の外には赤い集団が目立ち始めました。今日の Anfield 界隈のにぎわいは、昨日の比じゃないです。
チケットオフィスには長蛇の列。当日券を求める人でしょうか、それともCLの決勝に行けるラッキーな人たちでしょうか。ショップも混み合っています。シャンクリーさまの銅像の前には記念撮影の人だかりができていました。
Sさんと待ち合わせたパブに移動すると、なぜかここは水色軍団、ビラ族の姿ばかり。どうやらアウェーチームのたまり場のようです。居心地が悪くなった私たちは、正門に近いパブに場所を変えました。おそらく有名な『
The Park 』だったと思います。こちらはレッズサポーターでごったがえしていました。
店内があまりにも混んでいたので、裏手の庭に出て乾杯しました。ここも赤い集団で埋まるのは時間の問題でしょう。
ひとしきり、Sさんご夫妻と今シーズンのレッズのよもやま話で盛り上がります。久々の日本語、しかもレッズのことを喋れるお仲間なので、ホントに肩の力がぬけました。
Sさんご夫妻はお2人とも熱心なレッズファン。もう5回くらい Anfield のゲームを観戦されていて、それが全て勝ち試合になったという縁起のいいカップルなのです。
オリンピアコス戦のときはゴール裏で、スティーヴィーの火の出るようなシュートを見届けています。CL準決勝2レグのチェルシー戦もしっかり観戦されていました。スカパーの中継でも伝わってきた当日の熱狂ぶりですが、なんとキックオフの40分くらい前から割れんばかりの歓声で、スタジアム全体が揺れているような感じだったそうです。半端じゃないですね…その場に立ち会えて、しかも劇的な勝利を目のあたりにされたなんて、本当にうらやましい。2人で喜びを共有できるのがまたいいんですよね〜(私もレッズファンのパートナーを見つけたい!)。
ところで、第2戦後の記者会見で、ジェラードが『今日のジェイミー(カラガー)はホントによく守ってくれた』と話す傍らで、当のジェイミーが号泣したという話が某新聞に出ていたのですが、私がその話をしたら、Sさんの奥さんいわく、
『ええ〜号泣? そんなことなかったわよ。目が潤んでいたかもしれないけど』
結構マスコミに作られた話ってあるんですね。
私:
『そういえばN誌に、ジェラードが貧しいスラムの出で、彼の負けん気も、厳しい環境で育ったからだ、みたいに書いてあったんでですよね』
Sさん:
『そうかな…? 郊外の出身とは聞いたけど、そんなに貧しいところじゃないみたいですけどね』
そうなんですか?
巷に流布しているエピソードのどこまでが事実なんでしょう。確かに、ジェラードという存在は書き手の興味をそそるのでしょうし、スラム出の青年が逆境をバネにして、タフなメンタリティを獲得していく、みたいなストーリーはいかにも受けそうですよね。
でもホントのところは彼自身のみが知ること。
私たちは、あくまで書き手の主観として受けとっておくのが、いいようですね…。
『そういえば、こっちの人って表情に憂いがあるわね』
と奥さん。
『ジェラードも、あまり笑ったところを見ないし』
『確かに思いきり笑っているところはあまり見ないよね』
『いつもどこか表情に憂いがある感じよね…』
なるほどね。言われてみれば、昨日のガイドのお兄さんも、シニカルなジョークの合間に、憂いをおびた表情を見せていかも。それがこの街の気風なのか、生まれ育った環境ゆえなのか、確かなことは分かりませんが、私たちとの違いを感じさせる<何か>があるのでしょうね。
他にも、来期のCL出場をめぐって、お偉いさんと委員の間で意見が違って揉めているようだとか、アロンソがKOPのハートをガッチリ掴んでいて、出ていない試合なのにアロンソコールが起こったこととか、妙に派手なモリエンテスの私服(スティーヴィーは絶対着ないような服!)の話とか、シセのひときわ派手なジープとか、現地でレッズを追っているSさんご夫妻ならではの面白いお話は尽きませんでした。イスタンブール行きも狙っているそうですが、何しろ凄い競争率なので、厳しいようです。ぜひ日本人サポを代表して、見届けてきてほしいものです。
そろそろキックオフの時間が近づいてきました。もうその頃には、庭ですら立錐の余地なしになってきました。トルコ風の帽子を被ったヒトもたくさんいます。心はすでにイスタンブールのようですね。まずは今日のゲームをいいかたちで終えないと。
Sさんにシャンクリーとヒルズボロの記念碑の前で写真を撮っていただき、スタジアムのゲートでお別れしました。イスタンブールに行けますようにお祈りしてます! グッドラック!
(つづく)
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